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日本発 新規放射性治療薬の有効性を確認

26 Jun 2024

保科俊彦

©️QST

国立がん研究センターや神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター、量子科学技術研究開発機構(QST)等は6月24日、希少かつ難治性のがんである悪性の脳腫瘍に対し、日本で開発された新規放射性治療薬(64Cu-Atsm)の有効性を確認したことを発表した。安全性と有効性にメドを得たもの。この治療薬を投与することで、これまでの標準治療と比較して患者の生存期間を延長するかどうかを検証するための試験(ランダム化比較第3相医師主導治験)を、今月から開始した。試験は2029年3月までを予定、良好な結果を得て日本発の放射性治療薬としての承認をめざす。

これまでの試験では、患者に対する投与法を含めて治療薬の安全性にメドを得た。また有効性については18人の患者に投与して生存期間の延長が認められた。例えば膠芽腫(こうがしゅ)の患者は、再発すると一般的に1年以上生存できるのは30~40%とされるが、投与した患者9人のうち5人が1年以上生存し、有効な治療効果が期待される可能性があるという。

脳から発生する原発性脳腫瘍は国内の年間発生数が約3万人で、そのうち約7,000人程度が悪性脳腫瘍(がん)の患者だ。脳腫瘍は分類が複雑だが、悪性脳腫瘍の中でも、最も多い膠芽腫や星細胞腫(せいさいぼうしゅ)などは悪性神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれる。膠芽腫の年間発生数は約2,100人で、5年生存割合は約15%程度と、最も治療が難しいとされるがんのひとつ。膠芽腫を含む悪性脳腫瘍は代表的な希少がんかつ難治性がんで、有効かつ安全な治療開発が課題になっている。

悪性脳腫瘍の治療においては、既存の治療法(外科手術、放射線治療、化学療法等)で十分な効果が得られず再発した場合の治療法は確立していない。これは、悪性腫瘍は活発に増殖するため血管新生が追い付かず、酸素の供給が乏しい低酸素環境になるため、既存治療法の効果が弱まってしまうことが一つの重要な要因になっている。

今回の「64Cu-Atsm」は、既存の放射性治療薬の効果に加え、がん細胞 DNA を効果的に損傷する特殊な電子(オージェ電子)を放出する特長があり、低酸素化した治療抵抗性腫瘍を攻撃する治療において、既存治療法で十分な効果が得られず再発した悪性脳腫瘍の治療に対し、効果を発揮することが期待されるとしている。

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