原子力産業新聞

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学術会議シンポ 福島第一の安全確保も取り上げる

02 Jul 2024

石川公一

「安全工学シンポジウム2024」が6月26~28日、日本学術会議講堂(東京・港区)で開催された。同シンポは学術会議主催のもと、毎年、「国民安全の日」(7月1日)の実施時期に合わせ、多分野の学協会が共催し行われているもの。今回は、能登半島地震にも鑑み、大地震への備えや災害避難に係るセッションが多く設定されるとともに、AI導入や労働環境に対する関心の高まりなど、昨今の社会変化から、会期中を通じ、ソフト技術の信頼性や「安全とリスク」の考え方も広く議論された。

27日には、「福島第一原子力発電所の安全確保」と題するパネルディスカッションが行われ、山本章夫氏(名古屋大学教授大学院工学研究科教授、進行役)、阿部守康氏(東京電力福島第一廃炉推進カンパニーバイスプレジデント)、岩永宏平氏(原子力規制庁東京電力福島第一原子力発電所事故対策室長)、高田孝氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、斉藤拓巳氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、更田豊志氏(元原子力規制委員会委員長)らが登壇した。

現在、福島第一原子力発電所は、事故炉としての特性から原子炉等規制法上、「特定原子力施設」と位置付けられ、運転中の原子力発電所とは異なる規制対応がなされている。両者を比較したリスクの違いについて、事業者の立場から、阿部氏が整理。運転中の発電所については「運転に伴うリスク。つまり、運転しなければリスクはない」、その一方で、福島第一原子力発電所については「既に存在するリスク」と大別。設計で対処されていない様々なリスク、公衆・作業員へのリスクなど、「錯綜したリスク状況」にあるとした上で、長期にわたる廃炉作業に向け「このような状況をどのようにマネジメントしていくか」と、問題意識を示した。これに関し、原子力規制委員会は「中長期リスクの低減目標マップ」を策定し、随時、東京電力と意見を交わしているが、岩永氏は、将来的に燃料デブリを取り出し、発生する廃棄物を安定的に管理することなどを見据え、「技術的に経験のない領域において、求められる規制活動はどうあるべきか」と、課題を提起。さらに、「現在の技術水準で達成できるリスク低減の姿は、いかなるものか」と述べ、技術的課題と安全規制の適切なあり方については、模索中であることを示唆した。

アカデミアの立場から、高田氏は、福島第一原子力発電所のリスク源の特徴として、「運転中の原子力発電所に比べ、安定な状態でエネルギー源も小さい」とした上で、「大規模な事故が発生しても、放射性物質の放出量はかなり少ない」、その一方で、「小規模な事故でも微量の放射性物質の放出があり得る」と説明。低頻度事象には緩和策、高頻度事象には防止策を、それぞれ充実させ、両側面について、「バランスを踏まえ、着実にリスクを減らす取組が重要」などと指摘した。また、斉藤氏は、廃棄物管理について発言。発生、前処理、保管、処分といった一般的な流れをあらためて整理した上で、福島第一原子力発電所由来の廃棄物の特徴として、多様な素性、発生量・時期が不透明、放射性核種の総量は限定的なことなどをあげた。

原子力損害賠償・廃炉等支援機構の技術委員を務める更田氏は、使用済み燃料の取り出しや、燃料デブリ取り出しに関する課題・技術戦略の動向について説明。リスク管理に関しては、サイト周辺への影響は殆ど考えられず、むしろ現場に携わる作業員の安全管理を問題視した。また、燃料デブリなどの廃棄物処分に関し「地層処分しかないのでは」との見通しも述べた。

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