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イタリア 原子力発電再開の検討が本格化

12 Jul 2024

桜井久子

イタリア NECP 2021-2030最終文書  ©European Commission

イタリア政府は7月1日、欧州委員会(EC)に「国家エネルギー・気候計画」(NECP)の最終文書を提出した。同国が原子力発電計画の再開を決定した場合の原子力発電規模のシナリオを示している。

NECPは、EU加盟国が脱炭素化やエネルギー効率、再生可能エネルギーなどの実施計画を含む、気候変動目標と行動を詳述した文書。当初は2030年までの温室効果ガス(GHG)排出削減目標40%削減(1990年比)に合わせたものであったが、2019年にEC2050年までの気候中立の実現を目指す「欧州グリーン・ディール」を発表、2030年の削減目標を55%に引き上げたことから、2019年に提出したNECPの改定が求められていた。

イタリアでは、再生可能エネルギーが国家エネルギー政策において主導的な役割を果たしている。石炭発電からの脱却を進め、再生可能エネルギーのシェアを拡大、残りを天然ガスとする電力ミックスを推進しながら、エネルギー源の輸入削減をしていく方針である。NECPでは再生可能エネルギーの設備容量を2022年の6,100kWから、2030年までに1.31kW(太陽光7,920kW、風力2,810kW、水力1,940kW、バイオ燃料320kW、地熱100kW)にする必要性を改めて強調。再生可能エネルギーの最終エネルギー消費量に占める割合を2022年の19.2%から2030年には39.4%に、最終電力消費量については、2022年の37.1%から2030年には63.4%とする計画だ。

なお、電力部門は、電化や水素製造などで大量の電力を必要とし、2050年の気候中立目標を達成する上で重要な役割を果たすことから、天候の影響を受ける再生可能エネルギーを補完するものとして、原子力発電を含めた場合のエネルギーおよび経済的利便性に関する仮説のシナリオを策定している。それによると、2035年から導入する原子力(小型モジュール炉=SMR、先進モジュール炉=AMR、マイクロ炉)と核融合の発電規模は2050年までに約800kW(原子力760kW、核融合40kW)となり、国内の総電力需要の約11%を供給し、さらに最大22%1,600kWe)に達する可能性もあると予測。また、原子力を利用すれば、原子力を利用しない場合と比較して、約170億ユーロ(約2.94兆円)を節約でき、気候中立の目標を達成できると推定。関連する国内法の必要な改正が可能であれば、原子力発電の再開が重要な役割を果たす可能性があると指摘する。

イタリアでは1960年初頭から4サイトで合計4基の原子力発電所が稼働していたが、チョルノービリ原子力発電所事故後の1987年、国民投票によって既存の全発電所の閉鎖と新規建設の凍結を決定。最後に稼働していたカオルソ(BWR88.2kWe)とトリノ・ベルチェレッセ(PWR27kWe)の両発電所が1990年に閉鎖し、脱原子力を完了した。2009年になると、EU内で3番目に高い電気料金や世界最大規模の化石燃料輸入率に対処するため、原子力復活法案が議会で可決している。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、同じ年の世論調査では国民の9割以上が脱原子力を支持。当時のS.ベルルスコーニ首相は、政権期間内に原子力復活への道を拓くという公約の実行を断念した。

しかし、近年は世界的なエネルギー危機にともない、イタリアのエネルギー情勢も変化。20216月に実施された世論調査では、イタリア人の1/3が国内での原子力利用の再考に賛成しており、回答者の半数以上が新しい先進的な原子炉の将来的な利用を排除しないと述べている。20235月、議会下院は、国のエネルギーミックスに原子力を組み込むことを検討するよう政府に促す動議を可決。9月には、環境・エネルギー安全保障省が主催する「持続可能な原子力発電に向けた国家政策(PNNS)会議」の第一回会合が開催され、近い将来にイタリアで原子力発電を復活させる可能性が議論されている。(既報

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