原子力産業新聞

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フィンランド 原子力による熱供給のメリットに注目集まる

17 Jul 2024

桜井久子

LDR-50  ©Steady Energy

フィンランド国営の「VTT技術研究センター」は75日、フィンランドをはじめ欧州の地域暖房市場における原子力利用によるカーボンフットプリント(CFP[1] … Continue readingの調査結果を発表。原子力は他のエネルギー源よりもライフサイクル全体での環境影響が少ないことを明らかにした。

冬の気候が寒く厳しい国では、住宅やその他の建物の暖房に多くのエネルギーを消費し、欧州では6,000万人が、3,500の地域暖房ネットワークを利用している。VTTは、暖房はCO2排出の主要な要因でもあるため、エネルギーシステムの徹底的な脱炭素化には、化石燃料に代わる幅広い代替燃料が必要であると指摘。エネルギーの生産、流通、消費が発電分野とは異なる暖房分野において、代替エネルギーとして原子力を含めた環境影響について調査を行った。

調査にあたり、原子力による地域暖房には、小型モジュール炉(SMR)「LDR-50」(PWR、熱出力5kW)を採用して分析。2023年にVTTからスピンオフしたステディ・エナジー(Steady Energy)社がフィンランドと欧州市場向けの地域暖房用に2030年代の商業利用を目指して開発中の原子炉だ。標準的なライフサイクル分析(LCA)手法を用いて環境影響を分析したところ、LDR-50は設計段階のプラントのため、建設段階に関連した大きな不確実性が残るものの、暖房に利用した場合のCFP2.4gCO2/kWhと算定。原子力による地域暖房のCFPは最も少なく、化石燃料の場合は、天然ガス282gCO2/kWh、泥炭450gCO2/kWh、硬質石炭515gCO2/kWhであると示している。

また、電力を使用する直接電気暖房やヒートポンプと比較した場合、原子力による地域暖房は、スウェーデンやフランスなど、クリーンな電力ミックスを持つ国のヒートポンプによる暖房と同等のCFPになるという。その一方、化石燃料による電力生産の割合が大きいポーランド、チェコ、ドイツ、エストニアにおいては、直接電気暖房やヒートポンプは各段に大きなCFPとなり、暖房に電力を使用するのは悪い選択であると指摘する。

さらに、原子力による地域暖房と従来の暖房燃料の環境への悪影響を12の異なるカテゴリーで分析。原子力による地域暖房による環境影響はほとんどのカテゴリーで、平均を大きく下回る。ウラン採掘と粉砕が環境に悪影響を及ぼすとしても、熱生産量当たりの全体的な影響は代替燃料と比較して小さいという。

これらの結果を受けVTTは、地域暖房では、化石燃料から原子力へのリプレースによりCO2排出を著しく削減でき、原子力による地域暖房はバイオ燃料やヒートポンプと並んで実行可能な選択肢であると結論づけている。

なお、ステディ・エナジー社がこのほど公表した意識調査結果によると、フィンランドの自治体首長の多くはSMRの建設に極めて前向きで、大都市の自治体首長の86%がSMRを支持しており、反対はわずか11%だった。

 

脚注

脚注
1 商品やサービスなどのライフサイクル全体(原材料調達から製造・販売・使用・リサイクル・廃棄まで)で排出される温室効果ガスの排出量をCO2の排出量に換算した指標。

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