原子力産業新聞

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原子力利用賛成が過半数 三菱総研アンケート

08 Aug 2024

石川公一

原子力発電比率に関する意見による4つの層ごとに分析した「重視する要素」の選択割合

三菱総合研究所は8月6日、「原子力政策の議論を円滑に進めるカギとは?」とする意見を発表した。〈三菱総研発表資料は こちら

同社のWEBサイト上に掲載するコラムシリーズ「カーボンニュートラル時代の原子力」の最新版として、社会インフラ事業本部がエネルギー基本計画見直しの検討開始をとらえ、独自に実施したアンケート調査に基づき取りまとめたもの。同事業本部は昨年末にも、COP28で発出された「原子力3倍化の宣言」の関連で、「国内の再稼働を進めつつ、技術・人的な世界貢献を進めることが重要」とする意見を発表している。

今回、各都道府県100名・全国4,700名を対象とした原子力発電の利用に関するアンケート調査(2023年8月実施)を踏まえ、回答者を、「反対層」、「消極層」、「肯定層」、「積極層」に分類・分析。その上で、原子力利用における「信頼」に焦点を当て意見を述べた。

アンケート調査結果によると、全体の傾向として、「原子力発電の再稼働や新規建設の是非の判断で重視すること」(複数回答可)については、回答割合の多い順に、「電気料金への影響」、「原子力発電の安全性」、「放射線の人体への影響」と、個人にとって身近な点を重視していることが示された。一方で、「国の判断」、「原子力産業による雇用創出や地域の活性化の可能性」など、個人との結び付きが弱いと考えられる点については、選択割合が低くなっていた。

さらに、「様々な電源がある中で、2030年度に原子力発電が全電力量のうち、何%程度をまかなうべきか」との問いに対する回答者を、
 (1)原子力発電を利用すべきでない(発電比率0%:反対層)
 (2)政府目標よりも低い水準にすべき(発電比率5~15%:消極層)
 (3)政府目標と同程度の発電比率にすべき(発電比率20%程度:肯定層)
 (4)政府目標水準以上に利用すべき(発電比率25%以上:積極層)
――の4つのスタンスに分類。各層の割合は、それぞれ15%、22%、37%、26%だった。この4つの分類ごとに、「原子力発電の再稼働や新規建設の是非の判断で重視すること」について、回答を分析。その結果、いずれの層ともに「原子力発電の安全性」が重視されていることが示された。

さらに、「反対層」と「消極層」では、「放射線の人体影響」、「放射性廃棄物の処理処分の見通し」など、原子力固有の課題が上位に、一方で、「肯定層」と「積極層」では、「電気料金への影響」、「エネルギー自給率」、「電力の安定供給」が上位にランキング。今回のアンケート調査結果からは、「肯定層」と「積極層」では、原子力利用の価値を重視していることがわかった。

他の層との比較で「重視すること」の回答割合の差が顕著だったものとしては、「事故を起こした福島第一原子力発電所の廃炉の見通し」が「反対層」で、「停電リスクといった電力安定供給への影響」が「積極層」で、それぞれ高くなっていた。

調査結果を踏まえ、今回の意見では、政府・事業者による原子力利用政策に対し「国民から信頼を獲得するには、国民と重視する要素が一致することが重要であるが、『重視する要素は多様にある』ことから、すべての国民と重視する要素が一致した政策や施策を実装することは困難」と、指摘。その上で、「相反するスタンスを有する国民の双方とバランスよく議論する」ことを提言している。

三菱総研はかつて、JCO臨界事故(1999年)後の原子力行政の建て直しに向け、様々なステークホルダーが意見を述べ合う原子力委員会「原子力政策円卓会議」の運営を担った経験がある。

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