総合エネ調原子力小委 事業環境整備に関し議論
20 Aug 2024
今後の原子力発電容量の見通し、新増設・リプレースがないと2040年代から急降下する
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長)は8月20日、事業環境整備に関し、電気事業連合会、電力中央研究所、原子力エネルギー協議会(ATENA)よりヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉
8月1日、政府・GX実行会議が国家戦略「GX2040ビジョン」策定に向けて行っている有識者からの意見聴取「リーダーズパネル」は、「再生可能エネルギー拡大、原子力発電所の再稼働やリプレース、火力の脱炭素化に必要な投資拡大の必要性」を課題の一つとして掲げている。
今回小委員会の冒頭、資源エネルギー庁の久米孝・電力・ガス事業部長が挨拶に立ち、脱炭素エネルギーへの転換に向けた現状について、「世界がネットゼロという未知の領域に進んでいる」とあらためて強調。一方で需要面の不確実性が高いことなどから、「極めて難度の高い課題」との認識を示した上、原子力の観点からエネルギー政策の将来像について、忌憚のない意見を求めた。
ヒアリングで、電事連の佐々木敏春副会長は、電気事業を取り巻く大きなトレンドとして、「世界的な脱炭素の潮流」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展によるベースロードを中心とする電力需要増」、「エネルギー・経済安全保障リスクの高まり」を提示。これらの環境変化に対する適応可能性から、原子力については「持続的かつ最大限活用していくべき電源」と強調した。既設炉の最大限活用に加え、建設のリードタイムを踏まえ、早急に次世代革新炉の開発・建設に着手する必要性を、今世紀後半までの設備容量予測により図示。さらに、2040年度末までに運転期間60年に達する4基分(高浜1・2号機、美浜3号機、東海第二)をリプレースするとした場合、必要な投資額を、2021年に総合資源エネルギー調査会が実施した発電コスト検証をもとに、約2.5兆円と試算した。厳しい財務状況を背景とした電力をめぐる資金調達環境の悪化も憂慮。原子力事業の継続性確保に向け、「円滑なファイナンスが可能となる資金調達環境整備」の早急な検討を求めた。
電中研社会経済研究所研究参事の服部徹氏は、原子力事業環境整備の海外事例について紹介。新増設に係る英国、フィンランド、フランス、米国の各事例の他、既設炉維持やバックエンドの事例にも言及し、費用回収とファイナンスの課題への対応について説いた。これに関し、朝野賢司委員(電中研社会経済研究所副研究参事)は、電力事業におけるファイナンス整備の重要性を「原子力だけでなく将来必要となるあらゆる大規模な脱炭素電源への設備投資と密接に関連する」と強調。一方で、日本における次世代革新炉の開発・建設に向けては、「投資回収の予見可能性があまりに低い」ことをファイナンス整備の課題として挙げたほか、「リスクとコストの適切なバランス」について、電気事業者・大手メーカーだけに偏らず、関連するステークホルダー間で議論が進められる必要性を指摘した。
ATENAは、革新軽水炉の取組として、三菱重工業が開発に取り組む「SRZ-1200」の安全対策を紹介。規制の予見性の観点から、原子力規制委員会との議論に向けた準備を進め、「高い安全性を持つ革新軽水炉導入の早期実現」を目指すとした。
専門委員として出席した日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、現在検討が進められる次期エネルギー基本計画に、原子力発電の新規建設を前提に、その基数と時期を明確に記載することを要望。その実現化に向け、資金調達・回収、革新軽水炉の規制基準について意見を述べた。〈発言内容は こちら〉
今回の会合では、利用政策の観点から運転期間延長に係る審査基準についても、資源エネルギー庁より考え方が示され議論。立地地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、「安全が最優先。運転延長後もプラントの安全性が確保されていることが重要」と強調した。