原子力産業新聞

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スロベニア 国民投票前に国民理解を促進

06 Sep 2024

桜井久子

JEK2完成予想図  ©GEN energija

国営スロベニア電力(GENエネルギア)は828日の月例記者会見で、クルスコ原子力発電所の増設計画(JEK2プロジェクト)について今年後半に実施される国民投票の決定に先立ち、同プロジェクトに係る調査結果を公開した。

JEK2プロジェクトは、クルスコ発電所(PWR72.7kW×1基)に最大240kWeまたは2基を増設する計画。GENエネルギアは、国民投票前にJEK2プロジェクトについて広く国民の意識を高め、必要な情報を提供する方針の一環として、主要な調査結果を公開している。5月に示したJEK2の経済性評価に引き続き、今回、洪水危険性の分析、核燃料輸入に関連する財務・安全リスクの評価、およびJEK2から発生する放射性廃棄物と使用済み燃料の管理に関する調査結果を公開した。国民投票前に設定されたスケジュールに従い、他の調査結果も順次公開する予定である。

洪水危険性の調査の結果、想定される最大水位より低い洪水はJEK2の建設計画地に脅威を与えないが、1万年に一度の洪水を想定した再評価を実施すると強調。核燃料の輸入に関連する財務および供給リスクの評価については、電力コストに占める燃料費の割合が、核燃料の方が化石燃料よりもはるかに小さいことに加え、核燃料の供給はユーラトムへの加盟によって保証されていると指摘した。放射性廃棄物と使用済み燃料の管理については、JEK2の運転時までには既存の技術や経験に基づき、処分・管理施設は完成しているが、相応の増強が必要になると説明している。

また、JEK2プロジェクトにSMRを導入する可能性についての調査結果も報告。同プロジェクトの予想スケジュールとSMR開発状況の比較分析により、どのSMRもいまだ初号機リスクが高く、SMRの導入は小国のスロベニアにとって、時間的にもコスト的にもリスクがあるため適切ではないが、今後のSMRの開発の進展状況を注視していく考えを示した。

なお、チェコのドコバニ、テメリンの両原子力発電所の増設計画で、韓国水力・原子力会社(KHNP)を優先交渉者に選定したチェコ政府の7月の決定についても概説。KHNPによるドコバニ発電所(56号機)へのAPR1000の建設提案で、総事業費の予想額は1基あたり79億ユーロ(約1.26兆円)であったが、5月のJEK2の経済性評価では、同規模の原子炉1基あたり約93億ユーロ(約1.48兆円)であったことを踏まえ、経済的仮定を再検証する国際的なレビューが進行中であると言及した。

また、一般市民を対象とし、同プロジェクトやエネルギーに関する対話型の巡回プレゼンテーションを継続的に実施しており、9月末までに国内のさらに10か所で開催する計画だ。なお、JEK2プロジェクトの最終投資決定(FID)は2028年、着工は2032年、運開は2040年直前を予定している。

スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所が19831月に営業運転を開始して以来、同国の総発電電力量の約40%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivredaHEP)が共同所有。スロベニアの電力需要は、2050年までに倍増することが予想されているが、2033年以降は総発電電力量の約3分の1を供給する火力発電所を閉鎖する計画だ。2043年にはクルスコ発電所の運転期間(60年)も満了する。

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