日立グループがフォーラム開催
10 Sep 2024
原子力発電に関し議論する松井氏、竹内氏、遠藤氏、稲田氏(左より)
日立グループが顧客・パートナーとの協創に向け、きっかけ作りの場として継続的に行うイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2024 JAPAN」が9月4~5日、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された。
今回は、2025年の「大阪・関西万博」を見据え、展示「未来の都市」パビリオンの見どころを紹介する特別セッションも設定。同セッションに招かれた乃木坂46元メンバーの山崎怜奈さんは、1970年万博が開催された高度成長期を「自身の親が生まれた頃」と振り返った上で、将来に向け「もう今までの価値観や過去の成功経験を背負っていくのは難しいのでは」と指摘。この他、日立グループが気概を持つ人材の多様性に関連したセッションでは、原子力、鉄道などの技術者らが意見を交わし合い、分野を超えて「自らのキャリアや仕事に向き合う価値観などについて本音で語り合う」好機となった。
5日の「原子力発電を取り巻く現況と日立の取組」と題するセッションでは、フリーアナウンサーの松井康真氏(モデレーター)、サイエンス作家の竹内薫氏、早稲田大学研究院教授の遠藤典子氏、日立製作所執行常務原子力ビジネスユニットCEOの稲田康徳氏が登壇。現在、政府ではエネルギー基本計画改定に向けた議論を進めているが、総合資源エネルギー調査会に参画する遠藤氏は、AI・データセンターの増加に伴い、将来の電力消費量が「4年で2倍」のペースで急増する見通しを図示。「脱炭素電源としての原子力の重要性」について、2050年までの原子力発電設備容量の見通しから、「運転期間を60年に延長しても必要な原子力比率を達成できない」と、既存炉で対応できる限界を強調。今後、民間企業が新増設に取り組む上で、事業環境整備を図る必要性を説いた。
稲田氏は、日立の原子力事業について紹介。同社が標榜するデジタル技術「Lumada」を通じ、原子力技術の生産性向上に努めていく姿勢を示した。国内における福島第一原子力発電所の廃炉や、既存炉の再稼働に加え、展示スペースで模型による説明も行われた小型軽水炉「BWRX-300」の技術開発については、カナダOPG社・ダーリントンサイトの建設工事を映像で紹介。さらに、日立グループのAI技術を駆使した作業効率改善のバーチャルシステム「現場拡張メタバース」を通じ、技術伝承や人材育成にも努めていることを強調した。
松井氏は、福島第一原子力発電所事故後、12年間にわたり原子力関連の取材活動を行ってきた経験から、今回のセッション進行役を快諾したという。同氏は、「原子力発電をもう一度見直す状況にきている」との現状認識を示す一方、最近、中央紙が実施した世論調査結果を図示し、今後の原子力利用について「わからない」という回答が大半を占めていることから、「サイレントマジョリティが正しい情報を持っていないのでは」と危惧した。
これに関連し、竹内氏は、「原子力発電に対する科学的理解」をめぐり問題提起。メディア出演の経験を踏まえ、同氏は、テレビ番組の制作現場に理系の人材が少なく、「定量的な議論ができない。感情論が入ってしまう」などと憂慮した上で、科学技術とマスコミをめぐる問題について、
- ゼロリスクを求める(完全な安全にして欲しい)
- 感情論に基づいて報道してしまう
- 誤った報道を検証しない
――と整理した。さらに、近年の「若者のテレビ離れ」から、You Tube配信などの活用にも言及するとともに、原子力発電に対する忌避に関し、「仕組み・原理を知らないとどうしても危険と感じてしまう」と述べ、今後も出版や学校への出前授業などを通じ、理解醸成に努めていく考えを示した。