イタリア 原子力発電再開計画に向け議会審議へ
05 Mar 2025
伊閣僚評議会は2月28日、原子力発電再開に向けた法令整備に関する権限を政府に委任する法案を承認した。法案は議会で承認される必要がある。法案の発効後、政府は12か月以内に原子力発電再開に向けた一連の政令を採択し、法令整備を目指すことになる。
この法案は、G. メローニ首相およびG. ピケット=フラティン環境・エネルギー安全保障相の提出によるもの。持続可能な原子力発電および核融合を組み込んだ、「イタリアのエネルギーミックス」を実現することを目的としている。2050年を視野に入れた欧州の脱炭素化政策の枠組みの中で、エネルギー供給の継続性の保証とエネルギーの自立化の促進、脱炭素化目標の達成、エネルギーコストの削減と国内産業の競争力の確保を目指す。
法案では、イタリア国内ですでに廃止措置を実施中の「第一世代」または「第二世代」の原子力発電所ではなく、モジュール化や先進技術など、利用可能な最新技術の採用を示している。原子力安全を担当する独立機関の設立の検討や、原子力発電のライフサイクル全体にわたる規制設計を想定。加えて、電力市場への影響を勘案し、電力システムとの常時調整の必要性や、原子力プロジェクト実施者による建設、運転、廃止措置および原子力活動に係るリスクに対する、法的・財務的補償の実施を明言している。
イタリアでは1960年初頭から4サイトで合計4基の原子力発電所が稼働していたが、チョルノービリ原子力発電所事故後の1987年、国民投票によって既存の全発電所の閉鎖と新規建設の凍結を決定。最後に稼働していたカオルソ(BWR、88.2万kWe)とトリノ・ベルチェレッセ(PWR、27万kWe)の両発電所が1990年に閉鎖し、脱原子力を完了した。2009年になると、EU内で3番目に高い電気料金や世界最大規模の化石燃料輸入率に対処するため、原子力復活法案が議会で可決している。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、同じ年の世論調査では国民の9割以上が脱原子力を支持。当時のS. ベルルスコーニ首相は、政権期間内に原子力復活への道を拓くという公約の実行を断念した。
しかし、近年は世界的なエネルギー危機やロシアのウクライナ侵攻にともない、イタリアのエネルギー情勢も変化。2023年5月、議会下院は、国のエネルギーミックスに原子力を組み込むことを検討するよう政府に促す動議を可決。同年9月には、環境・エネルギー安全保障省が主催する「持続可能な原子力発電に向けた全国プラットフォーム(PNNS)」の第一回会合が開催され、近い将来にイタリアで原子力発電を復活させる可能性が議論された。伊政府は2024年7月、欧州委員会(EC)に「国家エネルギー・気候計画」(NECP)の最終文書を提出。文書の中で同国が原子力発電計画の再開を決定した場合の原子力発電規模のシナリオを示している。同国では、再生可能エネルギーが主導的な役割を果たすものの、2050年の気候中立目標の達成上、電力部門は電化や水素製造などで大量の電力を必要とする。そのため、天候の影響を受ける再生可能エネルギーを補完するものとして、原子力発電を含めた場合の仮説のエネルギーとコストシナリオを策定。2035年から原子力を導入(小型モジュール炉=SMR、先進モジュール炉=AMR、マイクロ炉の計40万kW)し、2050年の設備容量では核融合を初めて含む、約800万kW(原子力760万kW、核融合40万kW)を想定する。2050年には国内の総電力需要の約11%を供給し、経済を脱炭素化するコストで170億ユーロ(約2.7兆円)の節約効果を指摘。さらに最大22%(1,600万kW)に達する可能性もあると予測している。