IAEA:「パンデミックで停止を強いられた原子力発電所は皆無」
15 Jun 2020
ロシアの原子力発電所では中央制御室でソーシャル・ディスタンシングなどの措置が取られている ©ロスエネルゴアトム社
国際原子力機関(IAEA)は6月11日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大(パンデミック)に際し、世界各国の原子力産業界ではこれに対処する特別な措置が取られているため、発電所の労働力やサプライチェーン等への影響により停止を強いられた原子力発電所は、今のところ皆無であると発表した。
これは、IAEAが運営するCOVID-19運転経験ネットワーク(OPEX)や「原子力施設事象報告システム(IRS)」を通じて、各国の原子力発電所運転員や規制当局から得られた情報に基づいている。IAEA原子力発電部のD.ハーン部長は「実施が計画されていた定期検査やメンテナンスの日程など、このパンデミックは様々な形で世界中の原子力発電所に影響を及ぼしているが、運転員と規制当局は引き続きこれらの発電所で安全・セキュリティの確保に努めている」とコメント。IAEAがOPEX等から受け取る情報は、パンデミックが原子力産業界に与える影響について重要な洞察力をもたらしているほか、運転員や規制当局が互いの経験を学びあう一助にもなっていると指摘した。
発表によると、原子力発電所では日々の運転業務の継続やスタッフ間の感染リスク軽減で複数の方策が取られる一方、経済活動の制限にともない電力需要が低下したことから、いくつかの発電所では出力を下げて運転中。メンテナンスのための定期検査は日程の調整を余儀なくされており、検査期間の短縮や規制当局の許可を得た上で重要度の低い作業を延期する例も見受けられている。これと同様に、発電所スタッフの配置数の検討やスタッフ間で距離を置くことも実行されており、日々変化する前代未聞の状況に際して発電所運転員が柔軟な措置を取り万全に準備している点、トラブルに際しても迅速に健全な環境に復帰できるよう対応している点を強調した。
パンデミックが世界経済と産業活動に及ぼしている広範な影響は、今後も継続して世界のサプライチェーンにとっての課題となると予想され、IAEAは例として原子力発電所の中・長期的パフォーマンスへの影響、新規の原子炉建設や大規模改修プロジェクトにおけるリードタイムの長期化を挙げた。また、新規建設プロジェクトの資金調達で不確実性が増し、入札プロセスに遅れが生じる可能性などを指摘した。
さらに、スタッフ数をこれ以上削減した場合の緊急時対応計画、発電所スタッフあるいはその家族の感染時に取られる対応措置についてもIAEAは情報を与えられている。IAEA原子力施設安全部のG.リジェットコフスキー部長は、「今回のようなパンデミックは原子力発電所で安全運転を続ける際に障害となり得るので、発電所の安全性を事業や優先事と統合させる特別な措置を講じなければならない」と説明。そのような措置においては、先例のない状況のなかでも安全性で妥協しないことを目標としており、有資格のスタッフ数については特に、適切なレベルを確保しなければならないこと、必要であれば原子炉を停止して、安全な停止状態で維持することも辞さないことを挙げている。
IAEAはこのほか、世界原子力発電事業者協会(WANO)や経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)などの国際機関とも調整し、パンデミック状況下の原子力発電やエネルギー市場動向のデータを分析比較。今回のような事態や将来同様のアウトブレイクが発生した場合でも、原子力発電事業を後押ししたいとしている。
(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)