ベルギーのトラクテベル社、SMR事業を重点推進へ
14 Dec 2020
©Tractebel
ベルギーの大手エンジニアリング企業であるトラクテベル社は12月11日、小型モジュール炉(SMR)に対する同社のビジョンを記した白書「2.0バージョンに進展する原子力技術」を公表した。その中で同社の将来展望として、SMR事業をエネルギー問題の統合的解決策として重点的に推進していく方針を表明している。
同社は、ベルギーで稼働する原子炉7基中6基の建設でアーキテクト・エンジニアを務めたほか、世界中の複雑な原子力開発プロジェクトにおいてもエンジニアリング企業として活動。半世紀以上にわたって原子力に関する経験を蓄積してきた。同社によると、SMRは単なる原子力製品ではなく、21世紀の重要なエネルギー問題に懸命な解決策をもたらす「ビジネス・モデル」である。エネルギーの生産・貯蔵から輸送まで、分野横断的な事業を幅広く手がける中心的企業として、トラクテベル社はSMRによるソリューションの提案を推し進める考えである。
同社はまず、コストの超過やスケジュールの遅延といった大型原子炉の新設にともなう課題によって、原子力産業界がダメージを負ってきたと指摘。その結果、民間部門からの投資が減少し、自国内で原子力を長期的に開発していこうとする国でのみ建設プロジェクトが維持されてきた。同様の現象は航空業界でも見られており、今や規模の小さい柔軟性のある航空機利用が新たなスタンダードになってきている。原子力産業界でも、シンプルで規格化した小型のモジュール式原子炉を新たな「標準」として定義しつつあるが、革新的な設計を普及させるには許認可の枠組などが必要になってくる。
同社はこのため、通常よりも一層拍車をかけてSMRを量産し、そこから経済的恩恵を得るというビジョンがSMR産業界には必要だと説明。それに不可欠な事項として、SMRが第3世代炉の新規建設プロジェクトから教訓を学んでおり、予算内でスケジュール通りに完成させることができると投資家に証明しなければならないとした。
また、現実問題として、需要に応じて出力調整する能力と、既存の産業ハブに隣接する地点でプラントの立地が可能という2重の基準を経済的に満たせる無炭素発電技術はほとんどない。これらのことからトラクテベル社は、電力や水素、蒸気など複数のエネルギーを統合したエコ・システムの中心にSMRを置くというビジョンを描いている。
同社によれば、米国やカナダ、仏国、英国、フィンランド、エストニア、ポーランド、チェコ、およびその他の東欧諸国は、すでにSMRを活用して将来を築くという方針を明確に表明済み。SMRには無炭素社会への移行を可能にする能力が複数あり、それらは具体的に、①再生可能エネルギーの間欠性を補い、その普及を助ける出力調整能力と100万kWh規模のエネルギー貯蔵能力、②市場の需要に応じた発電所規模や運転時の温度の高さなどにより、地域熱供給や海水脱塩など幅広い分野の適用が可能–などである。
トラクテベル社は、現実社会の産業プロジェクトを通じてSMRのこのような価値を実証し、今後活用される複雑なエネルギー・システムの全側面を経験した企業として、建設プロジェクトの機会を世界中で模索していく。その一環として同社はすでに今年1月、エストニアのエネルギー企業が同国内で計画しているSMR建設に協力するため、フィンランドのフォータム社とともに協力覚書を締結している。
(参照資料:トラクテベル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)