大阪で「くらしとエネルギー」トークイベント
16 Jul 2021
トークイベント「くらしとエネルギー」(大阪市・梅田クリスタルホールにて)
フリーアナウンサーの八木早希氏と社会保障経済研究所代表の石川和男氏によるトークイベント「くらしとエネルギー」(主催=日本のエネルギーを考える会、事務局=関西原子力懇談会)が7月4日、大阪市内のホール(オンライン参加も含む)で開催された。
両氏はともにテレビ・インターネット番組で活躍中。八木氏は米国ロサンゼルスに生まれ、地元の大阪阿倍野で育った。経済産業省で資源エネルギー・中小企業政策に携わった経験を持つ石川氏は、都内から今回のイベント出席に際し、前日、静岡県熱海市で発生した土石流に伴い東海道新幹線がストップしたため、急きょ飛行機に振替えて大阪に到着できたことを振り返り、「大都市が線路一本で結ばれ、日本は良い国だといわれるが、災害が発生すると途端に交通がマヒし脆いところもある」と語った。災害時における感染症対策も課題となっている状況下、八木氏は「『平時と非常時の2パターン』で備えねばならないという感覚がコロナを受けて一段と増した」と返し、トーク第1部「With コロナ、After コロナで変わるくらし」が幕を開けた。
国内で新型コロナが拡大し始めた2020年2月以降の番組収録を振り返り、石川氏は、スタジオ内の「密」を避けるべく無観客となったほか、リモート出演のパネラーたちも他者の存在を意識せず一方的に主張しているなどと指摘。コミュニケーション手法に関する講演活動も行う八木氏は、「リモートでは、間合い、場の空気を読むこと、信頼関係を結ぶのが難しい」とした。さらに、石川氏は、テレワークに伴う「霞が関」の職場環境の変化から「With コロナ」の1年間を回想。パソコンを通じ上司から監督されるストレス、夜の付き合いの消滅をあげたほか、通勤移動がなくなることから「結構太るよね~」とも。これに対し、八木氏は、「After コロナ」に向けて、「関西圏は中小企業が多くデジタル化といっても目先の設備投資がしにくい」との地域事情や、女性の視点から、家事負担増を「旦那は家にいてもいいけど、いるなら動いて欲しい。『ご飯まだ?』なんて言わないで」と突っ込むなど、雑談風のトークが展開された。
八木氏が「おうち時間」に伴う家庭の光熱費増加に触れると、石川氏は消費税改定に係る盛んな議論に比して、電気・ガス・水道に対するコスト意識の低さを指摘。トークは第2部「くらしを支える脱炭素エネルギーのリアル」に移った。
石川氏は日本における2000年度以降の電源構成の推移を図示。東日本大震災以降、再生可能エネルギーの比率が拡大してきたことをあげ、昨秋の菅首相による「2050年カーボンニュートラル」実現表明を受けてさらに加速化するとの見通しを示した。特に太陽光について、同氏は、自治体による支援制度拡充の動きとともに、「導入量は中国、米国に次いで世界3位にある」などと強調。
八木氏が再生可能エネルギーのメリット・デメリットについて問うと、石川氏は、「国内で賄え、燃料費がかからず、それ自体はCO2を出さない。一方で、初期投資がかかり消費者の電気料金に跳ね返ってくることから、なかなか普及しない」とした。さらに、「原子力・火力発電所は一種の工場といえ、それほど面積をとらない。しかし、100万kW級の原子力発電プラント1基分を太陽光発電で代替しようとすると、山手線で囲まれる敷地面積(約58平方km)にパネルを敷き詰めねばならない」と説明。
電力の安定供給維持に関わった経験から、関西圏の需要ピークに関し「テレビとエアコンが同時につく夏の甲子園の決勝が目安」と語る石川氏は、「電気は『生産、即消費』のもの。蓄電池が普及しない現状で、自然条件によって変動する太陽光・風力を導入するほど、調整力の利点を持った火力が必要となってくる」ことも図示。各電源のメリット・デメリットを踏まえたエネルギーベストミックスの構築を、折しも食い倒れの街・大阪に因み「電気もつまみ食いで」と表現した。
両氏によるトークは、現在改定作業が大詰めとなっているエネルギー基本計画を巡り、CO2回収技術や水素・アンモニア混焼の可能性など、多方面にわたった。原子力の関連では、先般、関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転に向け発電を開始したが、運転期間延長に係る地元の不安は根強い。その一方で、将来に向けたイノベーションとして小型モジュール炉(SMR)への期待も高まっており、石川氏は海外における長期運転や革新炉開発の動きについて米国を例に説明した。
同氏はさらに、檀上を明るく照らし心地よい風を送るホールを差し、「ここの電気はどこから来ていると思いますか?福井県なんですよ」と語りながら、エネルギー生産地に対する感謝の気持ちの重要性を強調。八木氏も「電気は自動的に流れ、機械的に発電されているもの、というイメージを持っていた」と、エネルギーに対する理解不足を自覚した上で、「今後も市民レベルで話し合う場を設けることが大事」と述べ締めくくった。
※写真は、関西原子力懇談会提供。