IEA:2021年に世界の電力需要は5%上昇、化石燃料の発電量が増加
16 Jul 2021
©IEA
国際エネルギー機関(IEA)は7月15日、今年上半期の世界の「電力市場報告書」を公表した。新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大のため、世界の電力需要は2020年に約1%下落したが、その後世界経済が回復したことにより、2021年は5%近く、2022年は4%それぞれ上昇する見通し。増加分の半分近くを化石燃料発電で賄うことになり、電力部門ではCO2排出量が押し上げられる危険性があると指摘している。
同報告書によると、近年の世界各国の政策設定や経済傾向を反映して、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電量は今後2年間、着実に増加すると見込まれている。増加率は2021年に8%、2022年に6%以上となる見通しだが、それでも世界で増大する電力需要の約半分を満たす程度。このためIEAは、2021年に増加した電力需要の45%、2022年は40%までを石炭火力などの化石燃料発電がカバーし、その残りが原子力発電で賄われると見ている。必然的に、電力部門のCO2排出量も2019年と2020年に連続して下降していたものが、2021年に3.5%、2022年は2.5%上昇し、史上最高値を記録する可能性がある。
IEAの貞森恵祐エネルギー市場・安全保障局長は、「世界中の多くの国で、再生可能エネルギーが目を見張る成長を続けているが、今世紀半ばまでのCO2排出量実質ゼロ化に向けて軌道に乗れるほどのレベルではない」と指摘。「経済が回復するにつれ、電力部門における化石燃料の発電量も大幅に増加してきたが、経済を持続的な成長軌道に乗せるためには、再エネやエネルギーの効率化といったクリーンエネルギー技術への大規模投資が必要だ」と強調した。
原子力発電所の閉鎖でCO2排出量が増大する可能性
世界の原子力発電動向については、IEAは新規の建設を進める国がある一方、段階的廃止を決めた国まで様々な方向性があると指摘した。世界の原子力発電は、1970年代後半から1980年代にかけて新規設備の建設がピークを迎えた後、10年ほど前までは下降傾向にあった。過去10年間にこのようなマイナス傾向は一転し、中国やインドが新規建設を推し進めているほか、アラブ首長国連邦(UAE)では初の商業炉が完成。現在、世界では54基の建設工事が進められており、総設備容量は5,800万kWにのぼる。これらのうち870万kW分が2021年に運転を開始する一方で、920万kW分が閉鎖される見通し。2022年には1,050万kWの設備が利用可能になるが、閉鎖分が680万kWに留まるため、ネットの設備容量は370万kW増加するとIEAは予測している。
IEAはまた、既存の原子力発電所で運転期間を延長するには課題も伴うと指摘した。原子力発電所の長期運転(LTO)は主に、運転開始当初の運転期間(一般的に40年)を超えて運転することを意味しており、新規設備の建設やその他の発電技術と比べて、「耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)」では大きな競争力がある。ただし、1970年代から1980年代に多くの原子炉が運転開始した先進諸国では、現実問題として今後これらを閉鎖するのか、あるいはLTOに向けて改修投資を行うのか、今決めなくてはならない。
米国ではさらに、地方ごとの複雑な電力市場構造が原子力発電所の運転期間延長に向けた投資を阻んでいる。最大手の原子力発電事業者であるエクセロン社は2020年8月、バイロンとドレスデンの両原子力発電所を2021年中に早期閉鎖すると発表したが、どちらも採算性の悪化が閉鎖の理由。これを是正する措置として、米国内ではこれまでに、5つの州がCO2を排出しないという原子力発電所の利点に対し、発電量に応じた補助金を提供する支援プログラムを導入。IEAは10サイトの14基(合計約1,400万kW)がその恩恵を被ったと報告書に明記している。
IEAによると、再エネの利用は現在、世界中で急速に拡大しており、ますます競争力のある価格で無炭素な電力を提供しつつある。しかし、大容量の原子力発電設備が閉鎖された場合、電力供給の基盤となるのは化石燃料発電であり、送電インフラ等への投資とともに再エネが大規模に拡大されない限り、CO2の排出量も増加する可能性があると強調している。
(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)