“… there is no sensible alternative to nuclear energy(原子力を代替できる現実策はない)” 『ガイア理論』を提唱した科学者であり有名な環境主義者であるジェームズ・ラブロック博士はこう言った。博士に指摘されるまでもなく、地球温暖化防止の切り札は原子力発電である。
しかし欧米で新規の原子力プロジェクトが低迷している一方で、(失礼ながら)それほど地球環境への意識が高いとも思えない中国・ロシアが、自国内外で破竹の勢いで原子力発電所を建設している。この皮肉をどう説明したらよいのか?
米国内でも州によっては、原子力発電所が早期閉鎖に追い込まれるケース、その逆に運転期間延長に乗り出すケースと、原子力事業者が置かれた状況があまりにも異なる。これは何故なのか?
COP26の開催国であり、日立や東芝など日本企業がプロジェクトから撤退してしまった英国では、今何が起こっているのか?
本書は電力経済の第一人者、エドワード・キー氏の集大成『Market Failure』の日本語版である。原子力をめぐる世界の電力市場動向について、基本用語や歴史的経緯、市場における電力価格決定やプロジェクト投資決定のメカニズムなど、具体例を挙げて丁寧に説明しており、これまでなんとなくわかったような気がしていた事柄について、あらためて整理し直す契機となるであろう。
キー氏は「電力業界に市場原理を適用したことが、原子力が現在直面する最大の脅威を引き起こす原因となっている」と指摘するが、けして本書はか弱き原子力の弁護をするものではない。原子力は公共財であるとの観点から、電力に市場原理を適用したことによって引き起こされた失策を具体例を挙げて検証していくものだ。なぜ原子力は重要なのか、そして原子力、電力、電力改革、「市場の失敗」の概念、世界における原子力発電の状況などについて解説を加えたうえで、原子力に関する「市場の失敗」をどのように解決し得るかについて提言するものである。
編集に当たってはキー氏諒解の下、デザインやレイアウトを改編し、出典には出来る限りQRコードを付けた。残念ながら多くの出典がweb媒体ゆえに、編集時点でアクセスできなくなったものも数多く存在するが、できるかぎり探索した。今後も時の経過とともにQRコードを追えなくなる事態も予想される。さぁ、スマートフォンを片手に、今すぐ本書を開いてもらいたい。