原子力産業新聞

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Messages from Overseas 欧州原子力産業界が福島第一事故から導き出した結論 / 欧州原子力産業協会(FORATOM)事務局長 イヴ・デバゼイユ

10年前に起こった福島第一原子力発電所事故は、世界の原子力産業界にインパクトを与えた。もちろん欧州の原子力産業界も。その結果、欧州連合(EU)は欧州の原子力発電プラントの安全システムを評価する必要にも迫られた。断言するがこの10年は、業界が一丸となって、欧州の原子力発電プラントの(すでに可能な限りの高いレベルの)安全基準を再評価し、さらに改良を加えた10年だった。

福島第一原子力発電所事故へのEUの対応

事故直後、稼働中の原子力プラントの安全性を再評価するため、EUは自主的な安全評価(いわゆるストレステスト)の実施を決定した。EU加盟国のうち原子力発電プラントを運転する14か国(ベルギー、ブルガリア、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、オランダ、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、英国)と、廃止措置実施中のリトアニアは、このストレステストに自主的に参加することに合意し、プラント毎に安全審査を行い、ピアレビューのプロセスを経て、各国の規制当局がレポートを作成した。
ストレステストは以下のスケジュールに則って実施された。

  • 第1ステップ 2011年6月〜10月:各プラントの原子炉運転者(認可取得者)による審査
  • 第2ステップ 〜2011年末:各国の規制当局(規制者)によるレビュー
  • 第3ステップ 2012年1月〜4月:EUのピアレビュー

第1ステップで原子炉運転者は、欧州原子力安全規制機関グループ(ENSREG)の定めた仕様に沿って、プラントのロバストネス(頑健さ)を分析し、改善点を提案した。主に以下のトピックについて報告された。

  • トピック1:起因事象=地震、洪水、異常気象などの自然災害
  • トピック2:安全システムの喪失=事象の結果としての、全電源喪失および/または最終除熱能力喪失
  • トピック3:シビアアクシデント管理(SAM)

第2ステップでは、各国の規制当局が原子炉運転者による分析結果を評価し、さらに追加要件を課した。規制当局は状況をとりまとめた国別報告書を作成し、2011年12月31日までに欧州委員会へ提出した。
第3ステップでは、ピアレビュー・チームが国別報告書をレビューし、結論や勧告事項を特定。ストレステストの実施プロセス全体について要約し報告された。
ストレステストは、通常の許認可プロセスや定期レビューで実施される安全評価を超えた内容であり、原子力発電プラントが以下の予期せぬ事態に対処できるか評価するものだ。

  • 1) 自然災害:地震、洪水、厳冬、酷暑、積雪、凍結、嵐、竜巻、豪雨、ほか過酷な自然現象。
  • 2) 人為的なミスや悪意ある行動。これには、偶発的かテロ攻撃かに関わらず、航空機衝突やプラント近傍での火災や爆発なども含まれる。

「ストレステスト」の結果、EUで閉鎖勧告を受けたプラントは1基もない。これは欧州の原子力施設の安全レベルが全般的に高いことの証左である。
フォローアップとして各国の規制当局は、国家アクションプラン(NAcP)を作成し、原子炉運転者に、全電源喪失や最終除熱能力喪失に対処する設備の追加、オンサイト耐震設備の新設や改良、バックアップ用の緊急時制御室の用意、などの安全勧告事項を実施させた。これらNAcPはENSREGによりピアレビューされ、各国は課題や対策の現状に応じて随時NAcPをアップデートさせている。 さらに2014年、EUの新しい原子力安全指令が採択された。これは2011年の福島での事故を受けてEU首脳がEU域内の原子力安全に関しより強い枠組みを求めた結果である。新しい指令では各国の規制当局により強い権限と独立性を持たせることや、高いレベルのEU統一安全基準、欧州型のピアレビューなどを盛り込み、各国に定期的な安全評価の実施やオンサイトでの緊急時対策の策定などを求めている。加えて、透明性の向上や教育訓練の充実も求めている。

EUでの原子力の将来

福島第一事故後に、ストレステストや追加的安全対策を実施したことで、EUでは原子力発電シェアがある程度維持されている。今日、EUのエネルギーミックスにおいて、COP21で採択されたパリ協定を遵守し、電力部門の脱炭素化にコミットするならば、原子力はきわめて重要な役割を果たしている。現在、欧州委員会の主な優先事項の一つは、欧州グリーンディールだ。これは気候変動や環境面での課題を好機に変えることで、EU経済を持続可能にするものである。EU加盟13か国で106基が稼働し、総発電電力量の26%を占め、低炭素電源の中でも最大規模(およそ50%)を誇る原子力は、この新しい試みである欧州グリーンディールにおいて重要な役割を持っている。
つまり私に言えることは、EUにおける原子力の将来は明るいということだ。多くのEU加盟国が、欧州委員会へ提出する自国の正式な「エネルギーと気候変動に関する計画」(NECPs)の中に、原子力を盛り込んでいる。その上、EUでは(これまで原子力を利用していなかった国でも)数多くの原子力新設プロジェクトが存在する。
原子力に対する人々の受け止めも、近年、変わりつつある。福島第一事故は原子力に対する世論に影響を与えてきたが、最近では多くの加盟国で潮目が変わったと感じている。多くの世論調査で、人々は日増しに原子力に対して好意的になりつつある。ベルギー、オランダ、ポーランド、スウェーデン、その他多くの国でそうした傾向にある。またIPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)など多くの国際機関が、原子力は脱炭素社会のカギとなるピースの一つだと主張している。
国際的な連携の重要さに関して言えば、FORATOMとJAIF(日本原子力産業協会)との緊密な協力が欠かせないことを強調しておきたい。意見や経験を交換するだけでなく、知見を共有することで、この協力関係は日々価値を高めるだろう。
2019年に私は福島第一サイトを訪問する機会に恵まれた。大変貴重な機会で、政府、地方自治体、サイトが協働し、2011年の津波により向き合わなければならなくなった数々の課題を、なんとかして克服しようとする姿をまざまざと見せつけられた。最も胸を打たれたのは、これらの絶え間ない努力が結果を出しているという事実だ。だからこそ私は、最近の「2050年までに炭素排出量を実質ゼロにするためには原子力が不可欠」との梶山大臣の発言に拍手を送りたい。我々の星の将来と気候変動問題を真剣に考えるならば、(炭素排出量実質ゼロ)は避けては通れない道だろう。達成するには、過去を総括し、教訓を学び、同じ事故を二度と起こさず、なすべきことに集中して取り組まなければならない。欧州原子力産業界はそれが可能だと証明している

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