
原子力が今、再び脚光を浴びている。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、世界的なエネルギー安全保障の強化と脱炭素化の潮流と相まって、原子力見直しの機運が高まっている。さらに今、この動きに拍車をかけているのが、人工知能(AI)の台頭だ。AIの普及拡大に伴うデータセンターの電力需要の拡大により、脱炭素化と安定した電力供給の確保をめざす企業、とりわけ、米国のITメジャーが、安価で安定した電力供給が可能な、原子力発電を活用しようとする動きが活発化している。
データセンターの建設ラッシュ

2024年3月現在、世界には約10,000棟超のデータセンターがあり、そのうちの約半分が米国に存在している。国際エネルギー機関(IEA)によると、データセンターへの新規投資の多くが米国に集中し、過去2年間だけでデータセンター建設への年間投資が倍増。2023年には、Microsoft社、Amazon社、Google社による設備投資額は、米国の石油・ガス業界全体の投資額を上回り、その総額は米国GDPの約0.5%に相当する規模であるという。この傾向は現在も続いており、Microsoft社は2025年6月末までに、データセンターの建設に800億ドル(約12兆6,000億円)を投じる計画で、このうちの半分以上を米国で投資すると発表している。
米国で近年データセンター建設が相次いでいるのはなぜか。その活況の背景には、AIの普及によるデータセンターの需要拡大がある。AIは、膨大なデータ計算が必要で、それらを動かすためにデータセンターは電力を大量消費する。したがって、データセンターが増えれば、当然その分電力消費も増えていく。今後もAIの普及と進化に伴い、学習に必要な計算量も急増し、AI向けサーバーを運用するデータセンターの電力消費量も加速度的に拡大すると見られている。IEAによると、実際、業界をリードするMicrosoft社、Amazon社、Google社、Meta Platforms社のデータセンターによる電力消費量は、2017年から2021年の間に2倍以上に急増し、約720億kWhに達した。

米国におけるデータセンターの最近の電力消費量を見てみると、2023年の電力消費量は約1,500億kWhで、全発電電力量(2023年:約4兆kWh)の4%を占めている。15の州がデータセンターの国内電力消費量の80%を占め、そのうち、バージニア州では、2023年のデータセンターの電力消費量シェアが、既に州の消費量全体の4分の1以上に上っている。同州は、Microsoft社、Amazon Web Services(AWS)社などが立地する世界最大規模のデータセンター集積地で、世界でハイパースケールデータセンター(数万㎡規模~数十万㎡規模)と呼ばれる巨大データセンターのうち、約35%にあたる約150施設が立地している。なお、大手原子力関連企業や原子力工学科を有する大学が存在するなど、原子力人材も豊富に揃っている州でもある。同州では、ドミニオン・エナジー社がノースアナ(PWR、100万kW級×2基)とサリー(PWR、90万kW級×2基)の両原子力発電所を所有、運転しており、既に両発電所とも80年運転の認可を取得済みだ。ノースアナの近傍に、少なくとも30万kWのSMR設置を検討する動きもある。州知事も、こうした原子力開発の最先端に位置する立場を生かし、同州の原子力イノベーションのハブ化をめざしている。つい最近では、核融合のスタートアップ企業・コモンウェルス・フュージョン・システムズが、世界初の商業用核融合発電所を同州で建設する計画を発表した。

米国電力研究所(EPRI)の分析によると、今後、米国のデータセンターの電力消費量は、2030年までに低成長では2,000億kWh弱、高成長では4,000億kWh強に拡大し、年間発電電力量に占めるシェアは、4.6%~9.1%と試算している。さらに、近年では、AIによる計算量の増加に伴い、データセンター自体の規模も拡大する傾向にあるという。
このように、AIの普及拡大やデータセンターの大型化に伴い、電力需要増への対応と脱炭素の両立を図るため、大規模で安定した低排出電源の必要性が高まっている。米国の巨大IT企業はこれまで、環境への取組みとしてカーボンニュートラルの達成を目標に掲げ、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーに投資してきた。しかし、自然環境の影響により、発電量が変動する再エネだけでは安定した電力供給を得ることが難しく、IT向けの電源には適さない。
今後、電力需要の爆発的な増加が見込まれるなか、いかに安定した、低排出な電力を確保していくか――そこで、着目したのが「原子力発電」である。原子力発電は、天候に左右されず一定出力で安定的に発電可能、しかも、発電時にCO2を排出しない、「脱炭素電源」である。まさに、電力の安定供給と脱炭素の両方の要求を満たし得るものとして、IT各社は、脱炭素化が企業の成長の制約要因とならないよう、再エネとともに、原子力発電による電力確保に乗り出した。具体的には、既設/閉鎖済み原子力発電所の活用や開発中の小型モジュール炉(SMR)など、次世代原子炉への投資を積極的に進めている。とりわけ、SMRは、規模の拡大が柔軟であり、設置面積も小さい。また、送電ロスを最小限にするためデータセンターなどのサービス施設の近傍に設置可能で、従来の大型炉に比べて工期が短いという優位性がある。
こうした動きは、2024年に入り、より顕在化した。

以下に、Microsoft社、Google社、Amazon社、Meta Platforms社のそれぞれの主な具体的な動きを紹介する。
- ①Microsoft社とTMI1号機(PWR)再稼働
- 2024年9月20日、大手電力会社のコンステレーション・エナジー社と閉鎖済みのスリーマイル・アイランド(TMI)1号機(PWR、89.0万kW)を再稼働させ、Microsoft社のデータセンターに電力を供給する、20年間の売電契約の締結を発表。
- ②Amazon社とサスケハナ(BWR×2基)
- 2024年3月4日、傘下のAmazon Web Services(AWS)社が、ペンシルベニア州にあるサスケハナ原子力発電所(BWR、133.0万kW×2基)に隣接するデータセンターを買収。
- ③Amazon社とX-エナジー社製SMR等
- 2024年10月16日、X-エナジー社に、同社製SMRを2039年までに合計500万kW以上稼働させるべく、約5億ドルの出資を発表。同日、エナジー・ノースウェストとワシントン州でのSMR開発計画(4基)を発表したほか、ドミニオン・エナジー社と同社がバ―ジニア州で所有・運転するノースアナ原子力発電所(PWR、100万kW級×2基)の近傍に、少なくとも30万kWのSMR設置を検討する契約を締結。
- ④Google社とケイロス・パワー社製SMR
- 2024年10月14日、ケイロス・パワー社と同社が開発する先進炉を複数基、合計最大50万kWを2035年までに導入し、Google社のデータセンターに電力を供給する、電力購入契約(PPA)を締結。
- ⑤Meta Platforms社
- 12月3日、2030年代前半に原子力発電から電力調達することをめざし、2025年2月7日まで事業提案を募る、提案依頼書(RFP)の発行を発表。
IEAによると、米国で2024年前半に発表されたデータセンターの新設は急増し、必要な電力の設備容量は2,400万kW近くに上る。これは、2023年同時期の3倍以上の規模であるという。それに伴い、米国のデータセンタープロジェクトでは、電力供給を原子力、特にSMRから確保しようとする動きが増えてきている。需要側が、単に原子力による電力を購入するだけでなく、積極的に原子力プロジェクトの開発、支援に乗り出している点がこれまでとは大きな違いだ。

但し、SMRが商業的に利用できるようになるのは早くて2030年頃であり、SMRや核融合発電などの活用をめざす動きは、今後の技術開発に勢いを与えるものではあるが、技術的成熟度やプロジェクトの確実性から言えば、未知数な部分もある。
AI時代に、大量かつ安定した電力は今や欠かせない存在となっている。企業の成長と脱炭素化の両立をめざし、今、原子力の価値が改めて見直されている。