原子力産業新聞

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Vol.7

スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)の広報担当副社長 アンナ・ポレリウスさん

スウェーデンでは、高レベル放射性廃棄物はオスカーシャムの集中中間貯蔵施設(CLAB)で中間貯蔵し、短寿命の中低レベル放射性廃棄物は海底岩盤で処分するほか、使用済み燃料の最終処分場の建設がフォルスマルクで計画中だ。第57回原産年次大会への参加のため来日したSKBの広報担当副社長アンナさんに、話を聞いた。

文:保科俊彦 写真:小山内大輔

15 May 2024

知識が蓄積され、信頼関係が育まれるには、時間がかかります。

住民の方々との信頼がカギ

エネルギーをめぐる情勢変化がめまぐるしいなか、安定してエネルギーを確保することが各国の重要な政策課題になっていると思います。原子力発電については特に放射性廃棄物を適切に管理し処分することが、国民からの信頼を得るうえで重要な課題です。スウェーデンでは最終処分施設の立地にあたり、国民との信頼関係を確保、維持するためにどのような点に注意して取り組んでいらっしゃいますか?

アンナ

SKBは、放射性廃棄物を処理処分するためのソリューションを、長年かけて構築してきました。それこそ40年もの年月をかけて開発し、現在に至っています。まずなによりも、放射性廃棄物の管理システムとして安全なソリューションを持ち合わせていることが、すべてのベースとなります。
しかも私たちが開発したソリューションは、スウェーデンだけではなく、世界の他の国々も活用することができます。その意味で原子力を利用している各国に対して貢献ができていることを非常にうれしく思っています。
こうした安全なソリューションを持つことにくわえ、最終処分施設を建設する立地地域の地元住民の方々に受け入れてもらうことも重要です。スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)では、技術開発と同じくらい長い時間をかけて、住民の方々をはじめ多くの国民とのコミュニケーションをはかり、処分事業への理解を得るための努力を続けてきています。

最終処分施設の立地に際しこれまでどのような問題に直面し、どう対策をとられたのか?具体例があればご紹介ください。また現在、立地地域の人たちとの関係はいかがですか?

アンナ

当初は全国各地へ技術者(エンジニア)を派遣して、適切な候補地がどこにあるのかを科学的に調査するというやり方をしていました。技術の専門家に適地をさがしてもらう一方で、地元住民の方々とは一切コミュニケーションをとりませんでした。その結果、強い反対運動が起こって警察が出動するという事態になったこともありました。
こうした事態に直面して、SKBは初めて住民の方々とのコミュニケーションが非常に重要だと理解したのです。事業を進める立場として、地元コミュニティとそこに住む人たちとのコミュニケーションをオープンに、また事業は透明性をもってしなければならないと気づかされたのです。
透明性の確保とコミュニケーションをオープンに行う。その結果として、いまでは86%の地元住民が最終処分施設の建設に対して前向きな姿勢を示しています。地元の人たちの信頼を得ることができたと、私たちは非常にうれしく思っています。
具体的なやり方に関しては、地方自治体から応募してもらう形式にしたのが大きな変更点といえるでしょう。同時に各自治体には拒否権も与えられました。それによって地方自治体と事業を進める産業界が、いわば平等なパートナーになるというやり方です。
また、事業に関する研究調査の内容は公開し、関連の施設に住民の方々に実際に来てもらうようにしました。学校の生徒たちを施設やイベントに招くこともあります。
日々、住民の方々との信頼関係を持てるような取り組みを続けました。
最終的にエストハンマルに決定しましたが、エストハンマルはフォルスマルク原子力発電所が立地している地域でしたから、住民の方々にはすでに放射線などの基礎知識がありました。そうした点も、事業への理解という面でかなり重要なことだったと思います。

SKBが住民の方々に近しい存在に

最終処分施設の技術的な安全性や、今後の地域経済の発展などに関して地域住民に理解を得るには、おっしゃる通り、事業者(SKB)が信頼される必要があると思います。具体的にはどのように進めてこられたのでしょうか?

アンナ

信頼関係を作るという意味で申し上げれば、SKBは正直さとプロフェッショナルであるというところを非常に重んじていると言えます。
成功例だけでなく問題があった場合も、それをオープンにしていくこと、それも信頼を得ていくためには重要だと思うからです。事業の透明性をつねに保つ努力を続けることが大切だと考えています。
またSKBが住民の方々に近しい存在であること、SKBへのアクセスが容易であると感じてもらえるように、日頃から心がけて活動しているということも重要です。地域の様々な会議の場に出向くことを心がけ、私たちの施設も住民の方々にオープンにしています。
幸いなことに、住民の方々はSKBの専門家やコミュニケーターとすぐに話ができると思ってくださっていると思います。SKBを近しい存在だと感じてもらえているということが大切なことです。
ただし、繰り返しになりますが、このような信頼関係は何十年もの積み重ねの成果であることは申し上げておきたいと思います。

スウェーデンでは昨年来、新規に原子力発電を拡大する取り組みを始めておられますが、廃棄物の適切な管理と処分を含め、原子力発電の活用を進める意義について、改めてコメントをお願いします。

アンナ

政府は地球環境問題を解決するため、非化石電源である原子力発電の活用拡大を進めています。気候変動対策として原子力発電は重要です。
使用済み燃料や放射性廃棄物の処分に対する解決策を持ち合わせているという意味で、スウェーデンには大きなアドバンテージがあると考えています。
ただし、新たな原子力発電所に関しては廃棄物処分に関して許認可プロセスを構築することも必要になってくるでしょう。現在建設が予定されている最終処分施設は、既設の原子力発電所からの廃棄物を受け入れるためのものだからです。

高レベル放射性廃棄物の最終処分施設の立地に取り組んでいる日本ですが、過去には福島第一原子力発電所の事故もあり国民の理解という面ではまだ道半ばです。日本の取り組みについてどのように見ておられるか。また助言、コメントなどあればお願いします。

アンナ

日本では立地選定にあたって、関心を示す自治体を公募するやり方していますね。原子力発電環境整備機構 (NUMO)の、この選定方法には感心しています。また、様々な活動をオープンに、またアクセスしやすい形で活動されていることは重要だと思います。特に若者に対しての活動は目を引きました。未来を担う世代への理解活動は大切なことですから。
このような状況を見ると、日本は正しい道を進んでいると言えるのではないでしょうか。
国民との信頼関係の面で申し上げれば、日本に限らず、各国にはそれぞれ歴史や背景というものがあると思います。それにあわせてコミュニケーションをはかっていく必要があるでしょう。日本の状況が違うというのはわかりますが、知識が蓄積されて信頼関係が十分に育まれるには時間がかかるものです。それはどの国でも同じことだと思います。スウェーデンでも何十年という時間をかけています。

ジャーナリストから原子力に関わるお仕事をされるようになったきっかけは?

アンナ

もともと、放射性廃棄物の適切な管理は社会全体としての重要な課題だという考えを持っていました。非化石エネルギーとしての原子力発電の重要性も認識していましたから、スウェーデンだけではなく、地球全体の問題として、この廃棄物の処理処分をきちんと進めていくという仕事に関心があったのです。

アンナ・ポレリウス Anna PORELIUS

profile
アンナ・ポレリウス氏は、スウェーデンのストックホルム大学でメディアおよびコミュニケーション科学の学士号を取得。スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)の上級副社長(コミュニケーション・渉外担当)および経営管理チームのメンバーを12年間務めており、地方自治体および国の政治的意思決定プロセスにおける信頼構築のコミュニケーションを担当している。
また、SKB社の子会社であるSKB Näringslivsutveckling AB(事業開発)の取締役会長であり、スウェーデン最大の原子力発電所を運営するフォルスマルク社の取締役会メンバーでもある。
同氏は、新聞社のジャーナリストとして自身のキャリアをスタートさせ、これまで2つの異なる自治体でコミュニケーションおよびマーケティングの責任者を務めた。
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