原子力産業新聞

アツイタマシイ

熱い情熱を持った女たち男たちにフォーカスをあてるインタビューシリーズ。
タマシイから溢れるコトバは、聴く者を惹きつける。
アツくDOPEなタマシイに、ドップりハマってみよう!

Vol.9

Mothers for Nuclear クリスティン・ザイツ&ハザー・ホフさん

「Mothers for Nuclear」は、2016年のアースデイに、この地球で子どもたちの未来を守りたいと願う2人のカリフォルニアの母親によって設立された。2人はともに、閉鎖の危機に瀕したディアブロキャニオン原子力発電所に勤務するエンジニアで、原子力が環境や社会にとって重要な役割を果たすことを確信し、米国が間違った方向に進んでいると感じ、それを正すために声を上げた。発電所に勤務する傍ら、米国内外で原子力についてもっと知りたい、質問したいと思う人たちと対話を続けている。

文/写真:石井敬之

23 January 2025

母親として、原子力が子供たちの未来のために必要だと感じました

ディアブロキャニオンの延長を勝ち取る

運転期間延長を勝ち取りましたね。20年でしたか?

クリスティン

ありがとうございます。ディアブロキャニオン原子力発電所を所有するパシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)社が、運転期間の20年延長を申請し、米原子力規制委員会(NRC)が受理しましたので、いずれライセンスが更新されることは間違いありません。ですが発電所の運転期間に関してはカリフォルニア州にも決定権があるのです。今のところ州政府は、5年の延長が妥当だと考えているようです。私たちMothers for Nuclear(MfN)は、その期間をもっと延長するよう、州政府に働きかけているところです。

運転期間延長が決まり、MfNはより幅広い活動を展開するようになったのですか?

ハザー

それは違います。2016年にMfNを始めたとき、カリフォルニア州における原子力発電所は非常に厳しい状況に置かれていました。ディアブロキャニオンの閉鎖は既にPG&Eによって決定されていたので、MfNは他の州や国で、原子力を支持する活動を行っていたのです。
ですがここ数年間で、カリフォルニア州の状況は大きく変わりました。州政府は、停電を回避するには原子力が必要であることを認識したようです。そのためMfNも、ディアブロキャニオンを護る活動に力を入れ、原子力の重要性についてのコミュニケーションを展開しています。他の地域でも引き続き活動を続けているので、活動の幅が広がったように見えるのでしょうね(笑)

カリフォルニアの現在のエネルギー構成は?

クリスティン

カリフォルニア州には多くの再生可能エネルギーがありますが、既存の原子力発電所を閉鎖するとエネルギー不足に陥ります。原子力はカリフォルニアのエネルギーミックスの欠かせない一部なのです。

カリフォルニアの世論はどうですか?

クリスティン

2016年に始めたとき、全米で原子力の支持率は低下していました。しかし、最近では、電力供給の現実を直視するようになり、原子力が必要だという意識が高まってきています。2024年には、カリフォルニア州民の大多数が原子力を必要だと考えているという驚くべき数字が出ました。

カリフォルニアの人々はシュワルツェネッガーのように、太陽光や風力が好きだと思っていました(笑)

クリスティン

はい。私たちは再生可能エネルギーを愛していますが、再生可能エネルギーと原子力は両立できるものだとも思っています。再生可能エネルギーだけでは限界があるので、原子力も重要な役割を果たすべきです。

ハザー

カリフォルニア州はすでにかなり多くの再エネ電源を持っていますが、そろそろ限界に近づきつつあります。再生可能エネルギーは特定の時間帯にしか電力を生産できないため、貯蔵設備を作らなければならず、そのためのコストもかかります。そのため、カリフォルニア州の電力は米国で最も高いレベルとなっています。この現実が、私たちの議論を原子力という選択肢にシフトさせる要因となっているのです。
また、私たちの電力供給の半分は天然ガス火力であり、30%は他州から輸入しています。つまり、まだ多くの課題が残っており、あらゆる選択肢が必要だと実感しています。

クリスティン

実は、日本と似た状況なのだと思います。カリフォルニアもエネルギーを輸入しています。日本はもっと多くを輸入しているかもしれませんが。一方でカリフォルニアは隣の州から電力を送ることができるという利点がありますが、日本は島国なのでそのような選択肢がありませんね。
そのため、カリフォルニアは日本よりも少し長い間、現実から目を背けていられるような形です。日本はその地理的制約から、早く現実と向き合わなければならないと思いますよ。

カリフォルニアの反原子力運動は少数派

MfNを始めた理由は?

クリスティン

私たちがMfNを始めた理由の一つは、カリフォルニアにも原子力に反対する活動家グループがあり、メディアの注目を集めていたからです。彼らは非常に声が大きく、コミュニティ全体が原子力に反対しているという印象を与えますが、実際には少数派なのです。
だからこそ、MfNとして活動し、その“ナラティブ”に対抗することが重要だと思いました。反原子力の活動家は決して人々の声を代表していません。しかし、残念ながらメディアはそのように取り上げています。

ハザー

もう一つ、MfNを始めた理由は、会社(PG&E)が言わないことや言えないことを言いたかったからです。幸いにも、会社は私たちがそれを行うことを許してくれました。私たちが会社を代表していないこと、会社とは別の組織であることを明確にする限り、非常にうまくいっています。
ソーシャルメディアが企業にとってリスクがあることを、私たちは認識しています。企業は将来的な経営を見据えて、常に保守的なメッセージを発信しますが、私たちがそれを損なうようなことをしたくありません。ですから、会社が懸念を持った場合は、常に私たちに連絡するように伝えています。私たちからも、私たちが何をしているのか、なぜそれをしているのかを伝え、常に透明性を持って会社と話し合っています。

MfNのメインでのコミュニケーション活動は、対面での対話集会でしょうか?ソーシャルメディアを使った活動も多いようですが。

クリスティン

対面でもSNSでも、あらゆる機会をとらえて活動しています。
最近は原子力産業界を対象に、どのようにコミュニケーションをしていくべきかをお話ししています。より多くの人が原子力の価値を共有し、それを地域社会に持ち込むことで、さらに加速的に広がるのです。原子力業界のイベントでお話することもありますが、原子力を支持しないグループや政治団体、学校などでもお話します。もちろん、SNSやウェブサイトも活用しています。

ハザー

SNSは、対面のイベントでは届かない広い範囲にリーチすることができます。

クリスティン

対面イベントは素晴らしい機会なのですが、どうしても限定的になります。十分な人々に届きません。ですから、もっといろいろな方法でコミュニケーションを図る必要があります。

STEM分野に女性を

対面でのコミュニケーションは限定的とはいえ、効果が絶大で強力なツールなのではないでしょうか?昨春JAIFは米国からグレース・スタンケさんを招聘し、日本の中学生や大学生たちとディスカッションする場を設けました。

ハザー

素晴らしい。若い人同士のディスカッションは盛り上がったのではないですか?

特に女学生たちが大いに影響を受けていたようです。日本では、STEM分野(科学、技術、工学、数学の4分野)の女性が少ないことが問題になっているのですが、その理由の一つに、ご家族がSTEM分野へ進むことに反対しているということがあるのです。

クリスティン

興味深いですね。ご家族はSTEM分野全体に反対しているのですか?それとも原子力に反対しているのですか?

私も驚いたのですが、ご家族は娘さんがSTEM分野に進むこと自体に反対しているそうです。もちろん、原子力なんてもってのほかかもしれません。

クリスティン

STEMという分野では、時には危険なこともありますからね。

スタンケさんのようなSTEM分野で活躍する女性たちは、後に続く女性たちにとって大変良いモデルケースになります。特に日本の女学生にとっては、大きな励みになると思います。

クリスティン

そうですね。私たちも、もっと多くの女性たちがSTEM分野に進み、特に原子力業界に関わってくれることを強く望んでいます。女性が増えることでチーム全体が強くなり、より良い仕事ができると思うのです。

ハザー

私は原子力発電所のオペレーターとして、男性たちとチームを組んで仕事をしていますが、自分の貢献は少しばかり特別で、ユニークだと感じています(笑)コミュニケーションの方法が違いますし、気に掛ける点も違います。こうした「違い」がチームを強くし、どんなに異常事態にも対応できるようになるのです。そのためにも女性の力が必要です。もっと多くの女学生にSTEM分野に関心を持ってもらいたいですね。

原子力コミュニティが大きく成長

COPにも参加されたそうですね。

クリスティン

はい。ドバイのCOP29に参加しました。11歳の娘と一緒に。とても特別な経験でした。エネルギッシュな会議でしたね。原子力に対する世界的な支持を見るのは本当に励みになりました。
またドバイでは、「エコ・ニュークリア」というスペインのNPO団体と知り合いました。スペインで原子力発電プラントを閉鎖の危機から救うために非常に努力しているグループです。彼らはMfNがカリフォルニアで経験したのと同じような課題に直面しています。ですから、私たちはそのことに多くの共感を感じました。
MfNは最初、二人の個人から始まりました。原子力の価値を強く信じて活動を開始したのです。自分たちの国が間違った方向に進んでいると感じ、それを正すために声を上げました。

ハザー

私たちはこうした原子力の支援活動を、世界中にもっと拡大していこうと考えています。世間の人々はこうした活動に従事するメンバーの真摯な姿勢を見て、共感し、信頼するものです。自分たちだけでできることは限られていますが、同様の活動を行っている他のNPOグループをサポートし、互いに協力して使命を達成することを目指しています。

クリスティン

2016年に活動を開始したとき、私たちはとても孤独を感じていました。原子力を支持するグループは、ほとんど存在しませんでした。私たちは多くのネガティブな反応を受けました。原子力産業界からお金をもらっていると言われたり、悪意があると非難されたりしました。しかし現在では、原子力を支持するコミュニティがソーシャルメディア等を通して成長し、同じような活動をするグループも出てきました。MfNとしては他のグループをサポートし、より効果的な活動ができるよう連携しています。

ハザー

今では、米国内のみならず世界中に原子力を支持するグループが増えてきています。私たちはその活動をサポートしています。

クリスティン

ハザーと私がMfNを始めた2016年には、原子力を支持する声はほとんどなく、企業からのメッセージだけがありました。少なくとも米国では、企業のメッセージには警戒感を持つ人が多かったので、私たちはそれとは異なるアプローチを取ることが必要だと感じました。

ハザー

多くの人が企業や政府に対して懐疑的ですから、異なるコミュニティグループからの声が重要です。ですから、さまざまなコミュニティグループが、さまざまな理由から原子力を支持するような、社会全体に広がるような支援の輪を作っていきたいと思っています。

クリスティン

もし企業がすべてをコントロールしようとすると、それが逆に広がりを妨げることがあります。私たちは、企業が何を言っているのかに加えて、私たち自身がどんな活動をしているのか、そして私たちが何を伝えたいのかをしっかりと示すことが大切だと思います。
私たちは個人的に原子力を支持するようになったからこそ、この活動を始めました。原子力が私たちの生活をどれだけ向上させるかを学んだとき、私は母親として、これが私の子供たちの未来のために必要なことだと感じたのです。

次世代層は原子力にオープン

他の環境系のグループと対面で議論する機会があると思いますが、原子力についての誤解を解くこともあるのでしょうか?

クリスティン

環境グループのリーダー層とは理解し合うことは難しいですが、メンバーや地域のオーガナイザーとは話しやすいです。
学校を訪問すると非常に励みになります。特に高校や大学では、若い人たちは気候変動について多くのことを聞いていますが、実際の解決策についてはあまり学んでいません。原子力について聞くと、ほとんどの学生が興奮するんです。私は彼らに原子力についての正確な情報を提供し、あとは自分で判断してもらいます。若い人たちは心が開かれており、非常に励みになります。

ハザー

若い人たちは気候変動についてただ論じるだけでなく、自分たちが行動することで、何かを達成することができると信じています。自分たちの未来に希望を持ちたいのです。

若い学生たちと会う機会がたくさんあるでしょうが、彼らは原子力をエネルギーの選択肢としてどう見ているのでしょうか?

クリスティン

現在のカリフォルニア州におけるエネルギー教育には多くの課題があります。現在のカリフォルニアの教育カリキュラムでは再生可能エネルギーに重点が置かれていますが、私たちはその教育をもっと正確にし、エネルギーの現実と課題を伝えていく必要があると感じています。しかし、実際に学校で1コマ(45分間)話すだけで、多くの学生たちは原子力の必要性を理解してくれます。

ハザー

若い学生たちは、原子力について学ぶと、非常に支持的な姿勢を見せてくれます。しかし問題に思うのは、彼らがそもそも原子力という選択肢があることをこれまで学んでこなかったことです。私たちは、他のグループと協力して、教科書に原子力についてもっと公平に載せるよう求める運動に取り組んでいます。

米国やカナダでSMR(小型モジュール炉)がブームになり、多くの若者に人気があるようですが。一方で大型軽水炉への関心はどうでしょうか?

クリスティン

確かにSMR開発は進展しています。しかし、実際に商業化されて運転される段階には至っていません。ゴールまでかなり近づいている企業もあるようですが、私たちの大きな課題は、より多くの電力が必要だという現実に直面していることです。
ジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所4号機が、2024年4月に営業運転を開始しました。これは出力が125万kWの大型炉「AP-1000」です。私たちはもっと多くの電力が必要なのです。

ハザー

もちろん、小型炉から大型炉までさまざまなタイプの原子力発電プラントが効率良く建設され、地理的な条件に応じてさまざまな用途に導入されるようになれば、気候変動への対応にも有効だと思います。

クリスティン

大型の軽水炉は本当にワクワクするテクノロジーなんですよ。私とハザーは20年以上ディアブロキャニオン発電所で働いていますが、毎日そのテクノロジーの数々に新鮮な驚きを覚えています(笑)

ハザー

大きくて迫力のあるクールな機器に囲まれることを想像してみてください。大型炉も最高ですよ(笑)

クリスティン・ザイツ&ハザー・ホフ Kristin ZAITZ & Heather HOFF

profile
ディアブロキャニオン原子力発電所でともに勤務する友人であるクリスティン・ザイツさんとハザー・ホフさんは、発電所を所有するパシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)社が、発電所の運転認可を更新しない方針であることを知り、「Mothers for Nuclear」として立ち上がった。PG&E社の決定が地球環境的な観点から誤っているだけでなく、国内外の原子力発電所が同様の脅威にさらされていると考えた2人は、反原子力のプロパガンダや原子力に不公平な市場設計が、クリーンで供給安定性の高い原子力の価値を毀損していることを広く社会に訴えて活動している。「プロ・ニュークリア」の流れを一大ムーブメントに成長させた、多大なる貢献者である。
アツイタマシイ CONTENTS 一覧へ

cooperation