原子力産業新聞

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原子力機構報告会でトークセッション、宇宙開発での技術応用に期待

01 Dec 2021

トークセッションに臨む山口氏、神田氏、永松氏、大井川氏(右より、インターネット中継)

日本原子力研究開発機構は11月18日、都内のホールで報告会を開催(オンライン併用)。最近の研究成果の紹介に続き、「新原子力×無限大 我々はまだ原子力の可能性の一部しか利用していない」と題するトークセッションでは、宇宙開発分野での原子力技術に対する期待などが語られた。

原子力機構の児玉敏雄理事長は、報告会の開催挨拶で、2022~28年度の7年間(法令で策定が求められる中長期目標の期間)に向け、「“新原子力”の実現に向けた挑戦」を標榜。「エネルギー分野以外への成果の応用を積極的に推進し、産業界への橋渡しを行う」とし、一例として、廃棄豚骨を原料とした高性能なストロンチウム吸着材の研究開発を紹介。ラーメン好きの研究者が豚骨の持つ金属吸着メカニズムに着目して取り組んだもので、身近な素材を利用し、食品廃棄物の減容はもとより、環境浄化や有用金属の回収にも応用できる可能性から注目を集めた。

トークセッションには、山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授、モデレーター)、神田玲子氏(量子科学技術研究開発機構放射線医学研究所副所長)、永松愛子氏(宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉研究開発部門)、大井川宏之氏(原子力機構理事)が登壇。

折しも報告会の翌日19日にJAXAは13年ぶりとなる宇宙飛行士の公募を発表しているが、国際宇宙探査に向けた宇宙放射線計測・遮蔽防護研究に取り組む永松氏はまず、9日に国際宇宙ステーションでの199日間の滞在を終えた星出彰彦宇宙飛行士の活躍を紹介。最近の宇宙開発の動きとして、7~9月に米国企業が高度100kmの弾道飛行による数分間の無重力体験ミッションや民間人だけの地球周回宇宙旅行に成功したことをあげ、「今年は民間宇宙旅行幕開けの年といえる」とした。「今後は100人単位で1週間程度での月旅行ミッションも計画されており、さらに多くの人が宇宙に行く可能性がある」と展望し、同氏は、より身近なものとなる宇宙放射線に関して、宇宙飛行士の網膜に荷電粒子が入り閃光を感じる「アイフラッシュ」現象、宇宙船の設計や搭載する機器・部品の放射線耐性評価が必須であることをあげ、「宇宙開発を前進させるために必ず克服しなければならない課題だ」と強調。

小惑星探査機「はやぶさ2」(文科省発表資料より引用)

原子力機構への期待として、永松氏は、大強度陽子加速器施設「J-PARC」の活用をあげた。同施設の物質・生命科学実験施設(MLF)では、2020年12月に小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取したサンプルの元素組成分析が行われている。同氏は、こうしたサンプルリターンのプロジェクトが、2024年度に打上げを予定するJAXAの火星衛星探査計画「MMX」以外にも、各国で計画されていることから、「宇宙開発において元素組成分析の需要はますます高まる」とした。

また、放射線防護研究や放射線リスク認知調査に取り組む神田氏は、放射線治療の向上や理解促進に向けて、個々人の線量評価の精緻化を図るべく、原子力機構が加速器設計を機に開発した線量評価コード「PHITS」(Particle and Heavy Ion Transport code System)に関する協働に期待。「PHITS」は、航空機の運航管理における太陽フレアに伴う被ばく線量予測など、幅広い分野で用いられている。

原子力機構理事として原子力科学研究部門や人材育成などを所掌する大井川氏は、「活かせる施設、技術はまだたくさんある」と述べ、研究成果の社会実装に向けて、他分野との交流を図る重要性を強調。

山口氏は、「1955年に原子力基本法ができてから60数年。他の色々な技術も芽生えて60年というのはまだ発展途上の段階」と述べ、さらなる原子力のポテンシャル向上を期待しセッションを締めくくった。

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