「原子力総合シンポジウム」開催、日韓の原子力学会会長経験者も登壇
27 Jan 2022
「原子力総合シンポジウム2021」(日本学術会議主催、日本原子力学会他共催)が1月17日、オンラインで開催され、日本原子力学会会長の山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)他、日韓それぞれの元原子力学会会長も登壇し、「2050年の世界のエネルギーシステムとしての原子力の意義」をテーマにディスカッションを行った。
総合資源エネルギー調査会の委員として昨秋閣議決定されたエネルギー基本計画の改定審議に携わった山口氏は、日本のエネルギー政策の変遷を1960年代からたどり、高度経済成長、石油危機、TMI事故、チェルノブイリ事故、京都議定書合意、原子力ルネッサンスの高揚、東日本大震災など、内外の動きに応じ見直しが図られ、「『S+3E』(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)に適ってきた」と概観。世界の原子力発電の見通しについては、IAEAが2021年9月に公表した年次報告書から、設備容量が、低予測では2030年に2020年比で約7%減少するものの2050年には概ね回復し、高予測では2030年に同約20%増加し2050年にはほぼ倍増となり、特に2050年時点においてアジア・中南米での伸びが顕著となる予測を紹介した。
また、次世代原子炉開発に関して、熱源としての利用可能性に着目し「発電以外の付加価値は大きい」としたほか、長期的なエネルギー資源確保の観点から「日本においては核燃料サイクルの技術成熟度が重要」と強調。その上で、2050年のエネルギーシステムの要件として、(1)気候変動を抑制できる、(2)レジリエンスを確保できる、(3)安定した価格で経済の持続性を支援できる、(4)長期的なエネルギー資源の持続性を保証できる、(5)様々なニーズに応える利用の多様性を確保できる、(6)技術・制度・社会受容性の観点から実現性が高い――ことを掲げた。
これを受け、元日本原子力学会会長の藤田玲子氏、元韓国原子力学会会長のミン・ビュンジョ氏を交えたディスカッションでは、社会とのコミュニケーションや人材育成におけるアカデミアの役割についても意見が交わされた。
韓国の現政権では、「今後新たな原子力発電所の建設計画は認めず、設計寿命を終えた原子炉から閉鎖する」との方針が掲げられている。韓国原子力研究所(KAERI)で長く研究開発に従事してきたミン氏は、建設中の原子力発電所が完成しても世論の動きから運転開始が困難な韓国の状況と、新規制基準をクリアしても再稼働に至っていないプラントがある日本の状況との類似点に言及しながら、「発電に限らず広く社会に役立つ原子力技術」に目を向ける必要性を示唆した。
韓国で建設中の新古里原子力発電所5、6号機は、現政権の政策により一時建設工事が中断されていたが、国民参加の討論型世論調査を踏まえ建設再開に至っている。山口氏は、東日本大震災後、エネルギー政策の検討のため行われた討論型世論調査の経験を振り返り、限られた枠内での熟議を公共政策に反映することの難しさを述べ、専門家集団として学会が社会とのコミュニケーションにおいて果たすべき役割を考えていく必要性を改めて強調。高レベル放射性廃棄物の資源化に係る技術開発に取り組んできた藤田氏は、青森県内の女性たちとの意見交換の経験から、歯科材料やアクセサリーにも使われるパラジウムの抽出・再生利用に注目が集まったことに触れ、コミュニケーション活動に関し「まずは関心を持っている層から広めていってはどうか」と提案した。
人材育成の関連では、高等教育に携わる立場から、山口氏とミン氏は「2050年に向けて原子力のビジョンを示していく」重要性を強調。ソウル大学では原子力志望の大学院生が集まらなくなったといわれているが、山口氏は、韓国がUAEへの原子力開発進出を機に設立した産業界主導の教育訓練機関「国際原子力大学院大学」(KINGS)を例に、「原子力は教育制度そのものに一工夫いる」と、藤田氏は「魅力ある新しい研究分野を開拓していくことも必要」などと述べた。