キヤノングローバル戦略研・杉山氏、原子力発電全停止のシナリオ示し警鐘
28 Jan 2022
今冬の電力需給の見通しは全国的に厳しく、とりわけ東京電力管内では1月6日、降雪に伴い電力使用が約97%にまで上り「どこか1か所でも不具合が起きれば停電が起きる」事態となるなど、昨年末から2月にかけて予断を許さぬ状況だ。総合資源エネルギー調査会でも、既に来夏以降の電力供給力確保に向け、例年にない頻度で検討を行っている。
こうした状況下、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は1月25日、「全原発停止で日本は極寒に」と題するコラム(同研究所ウェブ上に掲載)の中で想定した「悪夢のシナリオ」を通じて、再生可能エネルギーに過度に依存した脱炭素政策への危惧を示唆し、電力供給における原子力の必要性を指摘している。
同氏は、フィクションとして、「何者かによって安全規制に関する非公開文書とメールのやり取りが大量にリークされ、そこから複数の不祥事疑惑が起きる。原子力規制委員会、電力会社、政治家を巻き込んだ一大スキャンダルになる。(中略)反原発を持論とする政治家が支持を集め、『安全性が担保されないおそれあり』として、疑惑の解明まですべての原子力発電所が停止される」と想定。これに端を発し、東日本大震災直後のような電力需給ひっ迫が起き、国の節電要請を受けて、企業は輪番休業を余儀なくされ、全国の至る所で計画停電。さらに、エネルギー供給の見通しが悪化することで、国内の工場閉鎖、電気料金の値上げが進み、経済活動は大きく落ち込むとしている。
杉山氏は、気候変動対策について議論する産業構造審議会の小委員会委員を務めており、昨今の異常気象に関しても、観測データの精査、防災投資と温暖化対策とのバランスなどの視点から意見を述べてきた。2021年に静岡県熱海市で発生した土砂災害ではメガソーラー(大型太陽光発電所)開発との因果関係が報道を賑わしたが、今回のコラムの中で、同氏は、原子力発電所の全停止に加え、「伊勢湾台風」クラスの強力な台風の襲来も想定。全国30か所のメガソーラーで土石流や風害による事故が発生し犠牲者が出るほか、送電網が各地で寸断され、1週間以上にわたり停電が続く事態となるとしている。実際の事例として、北海道電力の泊発電所は2012年以降全基停止中だが、2018年の北海道胆振東部地震による道内全域停電を振り返り、「基幹発電所が停止し、電力需給がひっ迫していると、送電網の寸断による停電もさらに起きやすくなる」とも指摘。近年建設が進むメガソーラーに関しては、「施工が悪く十分な備えができていないものも多い」と述べている。
この他、コラムでは、化石燃料市場やレアアース供給に係るリスクなども想定し、「原子力発電がすべて停止すれば、エネルギー供給はますます脆弱になり、日本経済は危機に瀕する。1年後には日本の冬も日本人の懐もますます寒くなるだろう」と述べている。