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三菱みなとみらい技術館、核融合の未来をSF思考で考えるトークイベント

01 Mar 2022

トークイベントの模様(左より、藤本氏、野尻氏、大前氏〈スクリーン上〉、杉本氏、関根氏、インターネット中継)

「核融合エネルギーが実現する未来社会」をSF思考で考えるオンライントークイベントが1月27日に三菱みなとみらい技術館(横浜市)で行われた。有人宇宙飛行をテーマとする「ロケットガール」などの著作を持つSF作家・野尻抱介氏らとともに、未来の核融合エネルギーの可能性を展望。「『機動戦士ガンダム』を創れるか?」といったロマンあふれるトークが繰り広げられた。三菱みなとみらい技術館は、青少年に科学技術の関心を喚起する体験型の展示施設。イベントの翌日には折しも、同技術館近くの人気スポット「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の来春までの開設延長が決定した。

トークイベントには、野尻氏の他、ITER(国際熱核融合実験炉)日本国内機関長の杉本誠氏、ITER機構首席戦略官の大前敬祥氏、三菱総合研究所シニアプロデューサーの藤本敦也氏、三菱総合研究所参与の関根秀真氏(モデレータ)が登壇。

関根氏は、「核融合エネルギーは『来年できる、5年先にできる』という簡単なものではない。中期といったら50年くらい先、これは学生ならば自分の祖父母の年代になる頃。長期といったら200~300年先の自分たちが既にいない世界、でも人類は生きている。そうした時間的スケールの中で核融合がどのように豊かな社会を実現できるか」と、トークを切り出した。

ITER計画に関わる大前氏と杉本氏は、貧困のない社会、長生きできる社会をそれぞれイメージ。「ワクワクする未来を創って実現したい」と、SF思考を活用した未来ストーリー作成手法を研究する藤本氏は、「野菜のほとんどが植物工場生産に。移動型住居が一般化。自分のコピー人格が働くようになる」などと展望。核融合には処女作から“お世話になっている”という野尻氏は、自身の短編作品のストーリーから、「宇宙服のような完全に閉鎖系となったスーツ内で、自分の排泄物や汗などがすべて食物に変換される。つまり元素の組み換えを変えるもので、これはエネルギーを注ぐことで理論的に可能だと思う」と話した。

話は宇宙に移り、野尻氏は、「太陽光エネルギーは距離の2乗に反比例し、木星だと地球のおよそ30分の1にまで弱まる。太陽電池が使えるのはせいぜい火星が限界。他の恒星系に行こうとなると『自分で太陽を持っていくしかない』」と、深宇宙探査のエネルギー供給源として核融合の可能性に強く期待。これに対し、大前氏は、スペースコロニーでの核融合利用に期待しつつも、「地球の資源を使って宇宙へ進出していくと、いつか地球のエネルギーがなくなりはしないか」と、宇宙で資源を開発し利用する必要性を示唆した。

ITERに据え付けられる世界最大級のトロイダル磁場コイル(2020年1月、三菱重工二見工場にて)

核融合エネルギーの実現に向けた現在の課題として、杉本氏は約30年間にわたりITER計画に関わった経験を振り返り、三菱重工業で2020年1月に完成したトロイダル磁場コイル初号機(高さ16.5m、幅9m、総重量300トン、誤差1万分の1以下の高精度)の開発を例に「失敗を繰り返し、足かけ9年も要した」などと、極めて高い技術レベルを達成する困難さを強調。また、大前氏は「核融合は様々な技術の総合体系。まずは『核融合の未来』に関わろうという次世代の人たちが増えることが最も重要」と述べた。

オンライン視聴者からも多くの質問が寄せられた。「『ガンダム』を創ることができるか?」に対し、野尻氏は「できると思う。それには遊びにどれだけお金を使えるかだ」と、また、「一番実現できそうもないことは何か?」に対し、藤本氏は「組織というのはどうしても部分最適を目指そうとする。全体最適を図るための意思決定が一番最後に残る難しさではないか」と応え、いずれも科学技術だけでは解決できない人間の精神面や社会構造の課題が指摘された。

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