原子力産業新聞

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原子力委員会、医療用RIの国産化などを目指しアクションプラン策定へ

18 May 2022

原子力委員会は5月17日、医療用を始めとするラジオアイソトープ(RI)の製造・利用推進に向けたアクションプラン案を取りまとめた。同委専門部会が昨秋より検討を行っていたもの。今後、原子力規制委員会への意見照会を経て正式決定となる運び。

医療分野では診断と治療の両方に放射線・RIが活用されている。その中で、RIによる核医学検査は、対象となる臓器・組織に集まりやすい性質を持つ化合物と、ガンマ線を放出するRIとを組み合わせた医薬品を経口や静脈注射により投与。RI医薬品が放出するガンマ線を体外から検出し画像化する検査方法だ。RIによる核医学治療は、対象となる腫瘍組織に集まりやすい性質を持つ化合物と、アルファ線やベータ線を放出するRIとを組み合わせた医薬品を同じく投与し、体内で放射線を直接照射して治療する方法で、近年、治療実績が増加傾向にある。一方、国内の画像診断で年間100万件使われるテクネチウム99mの原料となるモリブデン99や、がん治療への有効性の高さが注目されているアクチニウム225など、RIの多くを輸入に依存している状況。また、核医学治療を行う病床数の不足が課題となっており、腫瘍・免疫核医学研究会の調べによると、関東圏のRI病室では治療までの待機日数が長いところで10か月にも上っている。さらに、RIを用いた治療と診断の組合せ「セラノスティクス」への注目も高まりつつある。

こうした中、同アクションプラン案では、「今後10年の間に実現すべき目標」として、(1)モリブデン99/テクネチウム99mの一部国産化による安定的な核医学診断体制の構築、(2)国産RIによる核医学治療の患者への提供、(3)核医学治療の医療現場での普及、(4)核医学分野を中心としたRI関連分野をわが国の「強み」へ――を標榜。その実現に向け、(1)重要RIの国内製造・安定供給のための取組推進、(2)医療現場のRI利用促進に向けた制度・体制の整備、(3)RIの国内製造に資する研究開発の推進、(4)RIの製造・利用のための研究基盤や人材・ネットワークの強化――についてアクションプランを提示。

その中で、モリブデン99/テクネチウム99mについては、可能な限り2027年度末に試験研究炉などを活用し国内需要の約3割を製造・供給するとしている。モリブデン99の国産化に向けては、日本原子力研究開発機構が今後3年程度をかけて研究炉「JRR-3」によるに係る基礎基盤技術の開発に取り組んでいく計画。放射線医薬品メーカーの日本メジフィジックスも2023年からの加速器を用いた生産を目指している。また、医療現場のRI利用促進に向けては、2030年度までに核医学治療実施の平均待機日数を約2か月に短縮することなどがあげられている。

RIや放射線の医療利用分野に係る人材育成について、原子力委員会では日本原子力文化財団への委託調査を実施し専門部会での議論に供した〈内閣府発表資料は こちら〉。同調査結果および専門部会委員からは、省庁横断・分野間連携の取組強化や、医師・放射線技師と連携し高度な放射線治療を支える「医学物理士」の重要性を訴える意見、大学における研究科・室や関連分野に進学する学生の減少傾向への懸念、「学生は人気TV番組に影響を受けることも念頭に置くべき」といった指摘もあった。最近では、放射線医療をテーマとした人気TVドラマ「ラジエーションハウス」の劇場版公開に際し開催された放射線技師を目指す学生限定の試写会も話題となっている。

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