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原子力学会「春の年会」 東大で4年ぶりの対面開催

15 Mar 2023

社会学の視点から原子力の風評問題に取り組む関西大・土田氏(写真は2021年の文科省主催シンポにて)

日本原子力学会の「2023年春の年会」が3月13~15日、東京大学駒場キャンパス(東京都目黒区)で開催された。同学会では毎年、春と秋にそれぞれ年会、大会として研究発表の場を設けているが、「春の年会」の対面での開催は4年ぶり。今回の年会では、3日間で約150件のセッションが設けられ、同学会の専門委員会・ネットワークなどが活動成果を報告し、来場者を交え意見交換を行った。

初日の13日に行われた「原子力に関わる人文・社会科学的総合知問題」研究専門委員会と社会・環境部会との合同セッションでは、風評問題をテーマに議論。同専門委員会は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水[1]トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水の取扱いを巡り顕在化してきた原子力の風評問題をとらえ、社会的課題の解決に向け分野を横断した「総合知」を活用する必要性から、2022年4月に設置された。同セッションでは、土田昭司氏(関西大学社会安全学部教授、座長)、佐田務氏(日本原子力研究開発機構広報部)、寿楽浩太氏(東京電機大学工学部教授)、関谷直也氏(東京大学大学院情報学環准教授、基調講演)が登壇。これまでの検討状況を発表するとともに、一般来場者も交え総合討論を行った。

JCO臨界事故(1999年)を契機に社会心理学の立場から原子力の風評問題に関わってきたという関谷氏は、いわゆる「うわさ話」に関し、流言、都市伝説、ゴシップ、デマ、スティグマ(差別・偏見)、パニックなどに分類。最近の「件」(くだん、「人面牛」の様相をした妖怪で絵図を掲げることで厄除けになるといわれている)に関する都市伝説にも言及した。風評被害については、過去の事例分析から「本来、安全とされる食品、商品、土地、企業などを人々が危険視し、消費や観光を忌避することによって引き起こされる経済的被害」と定義。同氏は「うわさは関心の強い人や不安を感じる人の間で流れるが、風評被害はどちらかといえば関心の低い人の間で引き起こされる現象。両者を区別して考える必要がある」と指摘した。水産物の風評影響については、第五福竜丸の被爆(1954年)、原子力船「むつ」の放射線漏れ(1974年)、敦賀発電所の放射性物質漏えい(1981年)にさかのぼり、損害賠償・訴訟の歴史を説明。福島第一原子力発電所事故後、設定された食品中の放射性物質に関する基準値に対する人々の見方にも触れた上で、関谷氏は、風評の原因・対応の難しさとして報道や流通に係る問題をあげ、「物理的な正しさだけでなく、心理的な納得にも向かい合わねばならない」と述べた。

総合討論に移り、流通の問題について、地層処分の社会学的側面に関する研究にも取り組む寿楽氏は、「被災地以外の産地に移っていく消費者の購買志向をくい止めるのはなかなか難しい」などと、産業構造上の課題を示唆。一般来場者からは、所沢ダイオキシン騒動[2]1990年代後半、一部マスコミの「高濃度のダイオキシン検出」との報道により埼玉県所沢市を中心に野菜価格の暴落を招いたにも鑑み、いわゆる「風評加害」を危惧する意見もあり、原子力分野の報道対応に長く携わる佐田氏は、インターネットを通じた情報拡散に問題意識を示したほか、「安全・危険の尺度」が人によって異なること、政治への不信感が背景にあるなどと指摘した。

今回の年会では、原子力分野のジェンダーバランス、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けたアカデミアの役割に関するセッションも設けられた。

次回、「秋の大会」は、9月6~8日に名古屋大学で開催予定。

脚注

脚注
1 トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水
2 1990年代後半、一部マスコミの「高濃度のダイオキシン検出」との報道により埼玉県所沢市を中心に野菜価格の暴落を招いた

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