【第56回原産年次大会】揺れ動く国際情勢と各国のエネルギー情勢
19 Apr 2023
モデレーターの市川氏
「第56回原産年次大会」が4月18日、19日の2日間、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開催された。国内外より630名が参集し、「エネルギー・セキュリティの確保と原子力の最大限活用-原子力利用の深化にむけて」をテーマに議論した。
セッション1は「揺れ動く国際情勢と各国のエネルギー情勢」というテーマの下、ストラテジック・アソシエイツ・ジャパン社の市川眞一代表取締役がモデレーターを務め、世界の国際的な専門家4人から講演を伺った。
市川氏によると、欧州ではリーマンショック後の通貨危機を経て経済が低迷、これにともない「2030年までに温室効果ガスを1990年比40%削減」という目標は労せず達成できる状況だった。しかし、2019年にEC委員長に就任したU.フォンデアライエン氏が削減目標を55%に引き上げたことから、域内の排出量取引制度(EU-ETS)ではCO2価格が高騰。欧州企業の事業所ではコストが上がるなど大変な状況に追い込まれたが、重要なポイントは欧州の人々がこれを投資ととらえたこと。全体的な生産コストを下げることができれば欧州企業の競争力が高まり、国際競争に生き残ることができる。これに続いて米国企業も速いスピードで欧州に追いつこうとしており、日本はすでに取り残されようとしている状況だ。
講演後の全体的感想として市川氏は、地球温暖化の抑止に向けて我々は非常に長期の取り組みを求められてきたが、エネルギーの安全保障は今や経済の安全保障にバージョンアップしていると指摘。原子力は、そうした中でどのように経済を維持していくか考える際のキーポイントになる。原子力への支持を国民から幅広く得るには、政府や産業界が絶え間なく説明することが重要だと締めくくった。
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国際エネルギー機関(IEA)の貞森恵祐エネルギー市場・安全保障局長はセッションの基調講演として、「エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の役割」について発表した。
貞森氏の発言要旨
CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するIEAの「NZE」シナリオでは、原子力発電の設備容量が2050年までに倍増する見通し。しかし、間欠性のある再生可能エネルギーを補うため、各国の原子力産業界は新たな原子炉の建設プロジェクトを日程通り、予算の範囲内で進めねばならない。また、先進経済諸国のプロジェクトでは、現在進行中のプロジェクトのほぼ半分までコストをカットする必要がある。
NZEシナリオを実現する道筋のなかでは、世界では原子力の設備投資を今後10年間で3倍に拡大しなければならないが、先進経済諸国における既存の設備容量は急速に低下していく可能性がある。2019年以降、世界では5,000万kW分の既存炉で運転期間の延長が認められたが、これらは一層安価で確実なクリーンエネルギーへの移行に大きく貢献できる。
原子力の設備容量が低いケースでは、CO2排出量を実質ゼロ化するのは一層難しくなる。新規炉の建設件数の増強や既存炉の運転期間延長に失敗した場合、消費者が追加で負担する金額は年間200億ドルを越える見通し。サプライチェーンには重圧がかかり、原子力で100万kW分の設備不足を補うためにその他の電源で350万kWの追加設備が必要になる。
ただし、原子力は無炭素な電力と熱、水素を生産可能という利点があり、その役割の拡大にともないNZEシナリオよりもコストが低下すれば、市場では一層高いシェアを得ることが可能になる。
結論として言えることは以下のとおり。
- 原子力が受け入れられている国では、クリーンエネルギーへの迅速かつ確実な移行に原子力が重要な役割を担う。
- 原子力の発電量が少なければ、その移行は一層難しくなりコストもかかる。
- 原子力への投資を速やかに強化し、既存炉の運転期間も延長する必要がある。
- 原子力産業界は新たな建設プロジェクトを日程通り、予算の範囲内で収めなくてならない。
- 電力市場の設計は、低炭素で出力調整が可能な電源の価値を反映した構造にする必要がある。
- 各国政府は原子力の安全規制を効率的かつ効果的に推進するとともに、放射性廃棄物問題に解決策を見出し、新規炉の建設に向けた財政支援の仕組みを創出すべきである。
- CO2排出量の実質ゼロ化を達成するには多くの分野で技術革新が必要となるが、小型モジュール炉(SMR)は有望な技術と言える。
- 出力変動しやすい再エネの割合が高い将来の電力システムでは、火力発電所が発電量の季節変動の大部分を柔軟にカバーするようになる。
- 原子力など低炭素な電源を複数備えた電源ミックスでは、供給量の季節変動を抑えるのに有効であり、電力供給保証の強化に役立つ。
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韓国・慶熙大学原子力工学部のチョン・ボムジン教授は、「韓国原子力産業の課題と可能性」と題して講演した。
チョン氏の発言要旨
韓国では天然資源が不足しているため、エネルギーの95%を輸入に依存。これは国全体の輸入額の25%に相当し、年間のエネルギー輸入額である約1,000億ドルの7割以上が石油に費やされている。
原子力については2023年現在で25基の商業炉が稼働しており、建設中は3基。ムン・ジェイン(文在寅)前政権時代に2つの新サイトで各2基の建設計画が中止されたが、新ハヌル3、4号機は建設計画が再開される予定である。発電コストはMWhあたり約60ドルで、石炭火力の約80ドルやLNG火力の約120ドルと比べて非常に割安。その後、石炭とLNGのコストが2倍以上に高騰しており、再エネは設置に適した場所が少ないため資源不足となっている。
ムン前大統領は2017年6月、古里1号機の永久閉鎖式で脱原子力を突然宣言した。原子力と石炭の割合を縮小する一方、再エネとLNGを拡大すると表明。これに対して、一部の勇敢な専門家や大学教授らが抗議したため、公開討論の後に新古里5、6号機の建設計画が再開されたものの、韓国電力公社は赤字に転落、原子力サプライチェーンもダメージを受けた。一方、出力調整不能で間欠性があるという再エネの欠点が改めて認識された。
現在は原子力推進派のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が勝利し、産業界では原子力発電所の輸出に対する期待が高まっている。クリーンエネルギーとして原子力を肯定する意見も増えており、国民の70%が原子力の継続に支持を表明している。ユン大統領は大型炉とSMRの建設で韓国の競争力を高めるなど、クリーンエネルギー技術立国の上位に入ることを約束。原子力をベースロード電源としつつ、再エネも拡大して調和を図る方針である。
CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化する計画に関しては、再エネを原子力に置き換えなければ不可能である。原子力に対しては依然として反対意見も強く、使用済燃料の処分など課題も多いが、韓国では気候変動への対応やエネルギー・セキュリティ強化の観点から、原子力のシェアを30%台に拡大することが見込まれる。また、海外では既存の原子炉の建て替え需要や、持続可能な経済発展を目指す国があるなど、輸出の機会やSMRの開発・導入機会の拡大が期待できると考えている。
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フィンランド経済雇用省原子力・燃料局のL.ヘイキンヘイモ次長は、「フィンランドのエネルギーシステムの一翼を担う原子力」と題して講演した。
ヘイキンヘイモ氏の発言要旨
フィンランドでは、社会全体と産業界の電化が進みエネルギーの自給自足が重要視されるにつれ、原子力は信頼性の高い重要な無炭素電源の一つと認識されている。2022年にロシアからのエネルギー供給が段階的に縮小したことから、エネルギーの供給保証は以前にもまして重要になってきた。
フィンランドの電力消費量は2022年に860億kWhであり、このうち87%が再生可能エネルギーなどの無炭素電力。2022年5月にロシアからの電力輸入(全体の約10%)が停止されたが、2023年には出力172万kWのオルキルオト3号機が運転を開始した。総電力消費量に占める原子力の割合は2022年実績で約30%であり、多数の風力発電所が建設段階や計画段階にある。
ロシアから輸入している一次エネルギーの割合は2021年に消費量全体の34%だったが、2022年5月にロシアのガス企業はフィンランドに対する天然ガスの供給を停止。フィンランド企業はその年の夏、石炭と石油の調達先をロシア以外の国に切り替えた。原子力に関しても、フォータム社がロビーサ発電所(ロシア型PWR×2基)用燃料の調達先を多様化する準備を進めている。
フィンランドでは原子力に対する国民の支持率が1990年代末頃に反対派を上回り、過去数年間は急激に上昇。2022年時点で賛成派は過去最高の60%に達している。ただし、原子力の利用には特別な危険がともなうとの認識があるため、社会全体にとって原子力が良い影響をもたらすことが大前提となる。近年は新たな技術として、SMRの導入に向けた動きが活発化。SMRの特徴を踏まえた規制や新しいビジネス・モデル、SMRから出る放射性廃棄物の管理等で関係者が連携を強めている。
放射性廃棄物の管理に関しては、フィンランドは世界に先駆けてポシバ社が、2016年12月からオルキルオトで使用済燃料の深地層処分場建設を進めている。操業開始は2024年末となる見通しだが、政府が操業許可を発給するには規制当局から肯定的な評価を得ることが必要、2024年~2025年頃の許可発給に向けて準備を進めている。処分場の操業期間は建設期間も含めて100年間を見込んでおり、埋設を終えて処分場を閉鎖するのは2120年頃になると予測している。。
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スウェーデン原子力産業協会のC.ベルグロフ事務局長は、同国の新政権がもたらした「スウェーデンの新しいエネルギー政策の展望と原子力新規建設の見通し」について紹介した。
ベルグロフ氏の発言要旨
スウェーデンではこれまで原子力があらゆる側面で無視されてきたが、昨年秋に発足した新政権に反対派政党は含まれておらず、40年ぶりという純粋な原子力推進政権となった。原子力の制限政策を撤廃するなどエネルギー政策の歴史的転換点を迎えつつあり、原子力を巡る状況は大きく改善されている。最盛期に国内では12基の商業炉が稼働していたが、政治介入によりこれまでに6基が閉鎖された。エネルギー問題は昨年、政治的議論の主要項目だったが、国民は今や高い電気料金と原子力の容量不足の間に相関関係があることに気づいている。
過去数十年の間にスウェーデンでは原子力の段階的廃止か現状維持かという議論があり、1980年の国民投票とその後の議会審議で、スウェーデンは2010年までに原子力から段階的に撤退することを決定した。しかし、2010年に近づくなかで代替電源が見つからず、この期限を撤廃。2016年のエネルギー政策協議では、2040年までに再エネ100%のエネルギー供給システムに移行することで合意しており、新規の原子炉を建設することは難しくなった。
それが過去3年ほどの間に、政策転換の切っ掛けとなる出来事がいくつか発生。2020年に産業界の22部門が脱炭素化計画を発表し、化石燃料を使わずに鉄鋼や水素を製造することを目指したが、多くの場合安価な電力の不足がボトルネックとなっていた。2021年には、国内送電網が不安定になりつつあることが判明。これを安定化するには追加の送電設備と電力が必要だったが、原子炉6基のうち3基までが定検により稼働できない状態だった。2022年になるとロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まり、スウェーデンの電気料金は高騰。国民は原子力発電所の稼働率と電気料金が深く関わっていることを悟り、初めて電力不足のリスクを経験した。
こうした背景から、新規の原子炉建設を支持する国民の割合は2022年11月に過去最高水準の59%をマーク。原子炉を段階的に廃止すべきだとする国民の割合は、過去最低の8%に低下した。政権3党と閣外協力を約束した1党は昨年10月、南部のティード城における政策協議の一項目として新たな原子力政策で合意。この「ティード合意」では、目標を「100%再エネ」から「100%非化石燃料」に変更したほか、同時に稼働が許される原子炉数と立地に関する制限を撤廃するとした。また、新規建設も含めた対策に4,000億クローナ(約5兆2,000億円)の信用保証を提供、政治的理由による原子炉の段階的廃止は補償の対象とすることに決定。さらに、閉鎖したリングハルス1、2号機の再稼働に向けて調査を行うこと、SMRなど新たな原子炉の導入に向けて法・規制を修正すること、新規原子炉の建設準備を始めるよう要請するとしている。