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原子力学会 福島第一の廃炉廃棄物について考えるシンポ

16 Aug 2023

ファシリテーターの土屋氏(左)と議論に参加する学生たち

福島第一原子力発電所の廃炉で発生する放射性廃棄物の取扱い、エンドステート(最終的な状態)について考える日本原子力学会主催のシンポジウムが8月12日、東京大学・本郷キャンパスで開催された。

同学会の福島第一原子力発電所廃炉検討委員会では、廃棄物検討分科会を設置して専門的議論を行ってきた。同分科会は、2020年に取りまとめた中間報告の中で、「通常の原子力発電所とは異なり、物量・放射能濃度・物理化学的な性状の範囲が広く、多種多様である」ことから、放射性廃棄物の低減に向けた取組の早期実施、エンドステートに係る議論の必要性などを提言している。

同中間報告では、福島第一原子力発電所廃炉のエンドステートに関し、「福島復興の将来像をどう考えるのか」という課題との関連性や、ステークホルダー間での話し合いの重要性も指摘しており、今回のシンポジウムでは、学会の専門家だけでなく、工学系の学生、報道関係者を交えてパネルディスカッションを行った。

議論に先立ち、原子力学会の新堀雄一会長(東北大学大学院工学系研究科教授)が福島第一原子力発電所で発生する廃棄物の課題について講演。燃料デブリ取り出しに入る現段階において、物量の再見積もり、クリアランスレベル・再利用、サイト修復など、エンドステートを見据えた廃棄物管理シナリオを検討しておく必要性を述べた。

報道関係者も登壇し学生たちと対話

パネルディスカッションは、土屋智子氏(複合リスク学際研究・協働ネットワーク理事)がファシリテーターを務め、学生パネリストとして、北海道大学大学院エネルギー環境システム専攻の鎌田勇希さん、東海大学大学院工学系研究科の地井桐理子さん、福井大学工学部の川瀬里緒さん、福島高専機械システム工学科の高橋那南さんが登壇。報道関係からは、日本経済新聞編集委員の安藤淳氏、毎日新聞週刊エコノミスト編集部の荒木涼子氏、読売新聞科学部の服部牧夫氏、共同通信科学部の広江滋規氏、朝日新聞科学みらい部の福地慶太郎氏が登壇。

いわき市出身で「震災発生時、幼稚園生で何が起きたのかわからなかった」という高橋さんは、現在、ロボット研究に取り組んでおり、「将来は廃炉に貢献したい」と話した。

高レベル放射性廃棄物処分に係る技術・安全評価や社会受容について研究しているという鎌田さん、地井さんは、福島第一原子力発電所の廃炉に関し、それぞれ「40年後、本当に終わるのか」、「専門家と国民とのコミュニケーションが大事」と発言。これに対し、原子力関係を取材してきた記者として広江氏は、学会の活動がメディアで十分取り上げられていない現状に触れた上で、「『サイトの部分利用ができるのは何十年後』とか、具体的に示すべき」と、ステークホルダーの関与に向け、時間軸を明示する必要性を指摘。荒木氏は、ALPS処理水の理解を図るデジタルサイネージ広告を例に、「考えるきっかけ」を与え「わかりやすい言葉」で語る重要性を強調した。

福島の復興に関し、地元勤務の経験を持つ福地氏、服部氏は、ふたば未来学園(広野町)を拠点に世代・地域・立場を超えて語り合う「1F地域塾」、現地を見て学んでもらうスタディツアー「ホープツーリズム」をそれぞれ紹介。福島第一原子力発電所事故をきっかけに原子力・放射線に関心を持ったという川瀬さんは、自身が在学する福井県、出身の岐阜県に立地する原子力施設が電力消費地に知られていないことをあげ、「まずは自分事として考えることが重要」と主張した。

安藤氏は、長期にわたる廃炉プロセスの理解に関し、「情報を中立的に出して、シナリオを一緒に考え、『自分が意思決定に関わった』と一人一人が思えば納得感につながる」と強調。土屋氏は、「廃炉にかかわらず原子力では信頼を壊さぬよう色々な事業を進めてもらいたい」と述べ、議論を締めくくった。

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