原子力産業新聞

国内NEWS

原子力学会 高校教科書で調査報告

14 Sep 2023

新学習指導要領で新設された「公共」の教科書(数研出版ホームページより引用)

日本原子力学会の教育委員会は9月12日、高校教科書におけるエネルギー・環境・原子力・放射線関連の記述に関する調査報告書を発表した。

同委員会では、1995年以来、初等中等教育の教科書に係る課題認識から、これまで17件の調査報告書を公表し、文部科学省を始め、各教科書出版会社などに提出しており、その具体的な要望・提言が教科書の編集に検討・反映されることにより、記述の改善が促されている。

今回、調査を行ったのは、高校の主として中学年用に2023年度から使用されている地理歴史(地理総合、地理探求、日本史探求、世界史探求)、公民(公共、倫理、政治・経済)、理科(物理、化学)、工業(電力技術Ⅰ、工業環境技術)の検定済み全教科書計39点(2022年度入学生から適用されている新学習指導要領に基づく)。

調査結果を踏まえ、報告書では、前回、2022年度に高校教科書(地理歴史、公民、理科、保健体育)を対象に実施した調査と同様、全般的に、可能な限り最新のデータ・図表を使用するとともに、原子力・放射線についての用語・単位は正しく使用、記載、説明するよう要望。その上で、

  1. 福島第一原子力発電所事故に関する記述
  2. 国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)に基づく事故評価の考え方
  3. わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況に関する記述
  4. 各エネルギー源のメリットとデメリットに関する記述
  5. 放射性廃棄物に関連する記述
  6. 放射線および放射線利用に関する記述
  7. 地球環境問題に関連した記述
  8. 原子力エネルギー利用についての多様な学習方法の拡充

――について提言している。

福島第一原子力発電所事故に関連した事項は、「化学」と「物理」の一部を除くほとんどの教科書で記載されていた。報告書では、放射線被ばくによる健康影響に関するより正確な記述をあらためて求めるとともに、事故後10年以上を経た現在の復興状況として、地元の若者たちの将来を見据えた新しい取組や明るい一面についても可能な範囲で紹介するよう要望。

INESに関しては、今回の報告書で新たに提言。原子力利用のリスクについて、チェルノブイリ[1]本紙では“チョルノービリ”と表記しているが、ここでは調査した教科書の記載に従った原子力発電所事故、福島第一原子力発電所事故、JCO臨界事故、「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故などを、比較し取り上げている「公共」、「政治・経済」の教科書があったが、「事故の深刻度については、必ずしも社会的な取り上げ方に比例しない」と指摘。科学的な観点から、誤解を招かぬよう、INESに定義された異常事象・事故レベルを念頭に具体例を取り上げるよう要望している。

わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況に関する記述では、2023年2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」で取り上げられている政策やそれに関連する事項、さらに、ウクライナ情勢も踏まえ、各国の原子力利用の動きについても、最新の記載がなされるよう求めている。

脚注

脚注
1 本紙では“チョルノービリ”と表記しているが、ここでは調査した教科書の記載に従った

cooperation