ICEF 10年目を迎えイノベーション創出に向け若手に期待
06 Oct 2023
開会挨拶に立つ西村経産相
技術イノベーションによる気候変動対策について世界の産学官のリーダーが話し合うICEF(Innovation for Cool Earth Forum、運営委員長=田中伸男氏〈元IEA事務局長〉)の年次総会が10月5日、2日間の日程を終了した。前回に続き都内のホテルを会場としてオンライン併用のハイブリッド形式での開催となり、79か国・地域から約1,700名が参集。故安倍晋三元首相の提唱により始まったICEFは10年目を迎え、閉幕に際し発表されたステートメントでは、これまでの成果を振り返るとともに、将来のイノベーション創出に向け次世代層の活躍にも力を入れていく考えが記された。
4日、開会に際し、挨拶に立った西村康稔経済産業相は、世界中からグリーントランスフォーメーション(GX)関連分野の有識者が日本に集まる「東京GXウィーク」の一環となった今回の年次総会開催を歓迎した上で、「全世界がともに取り組むべき待ったなしの喫緊の課題」と気候変動に対する問題意識をあらためて述べ、世界全体のカーボンニュートラル実現に向けて、「イノベーションこそが解決の最も重要なカギ」と繰り返し強調。
続くキーノートスピーチでは、元米国エネルギー省(DOE)長官で1997年ノーベル物理学賞受賞者のスティーブン・チュー氏(スタンフォード大学教授、オンライン参加)と、宇宙飛行士の野口聡一氏が登壇し、2日間の議論に向け問題提起。チュー氏は、エネルギーの脱炭素化に向け、水素利用の有望性を披露し、貯蔵やタンカー輸送における日本の技術力発揮に期待。小型モジュール炉(SMR)やCO2貯留技術の展望にも言及した。また、3回の国際宇宙ステーション滞在を経験した野口氏は、“Cool Earth”の視点から、「宇宙から見た地球は本当に息を飲むほど美しい。ダイナミックでそこには命が満ちあふれている」と強調。一方で、気候変動や生物多様性の喪失といった世界的な環境リスクの顕在化を指摘し、課題解決に向け「見える化、分析、処方箋のポジティブなサイクル」が生まれるようイノベーションの創出に期待を寄せた。さらに、最初のセッションで講演を行ったジャン=エリック・パケ駐日EU大使も「野心的に今すぐ行動すべき」と、警鐘を鳴らし、イノベーションにおける政策立案に関する議論に先鞭をつけた。
今回のICEF年次総会では、核融合に着目。5日に行われた各国スタートアップ企業の動きを中心に議論する技術セッションでは、日本から「Helical Fusion」代表取締役の田口昂哉氏が新技術や実用化への課題について発表。同氏は、若手専門家とICEF運営委員らとの対話セッションにも登壇し、「核融合は夢ではない」と、実用化に向け意気込みを語った。同セッションでは、2006年ノーベル生理学・医学賞受賞者のアンドリュー・Z・ファイアー氏(スタンフォード大学教授)もオンライン参加。科学技術に対する信頼の重要性を指摘したほか、若手パネリストに対し、「世界の大統領に向けて1分間でコメントして欲しい」と発言を求めるなど、次世代層からのリーダー台頭に期待を寄せた。
閉会に際し挨拶に立ったICEF運営委員長の田中伸男氏(元IEA事務局長)は、2日間の議論を振り返り、気候変動問題の解決における「革新的なファイナンス」の重要性を指摘し、次回年次総会のテーマにあげることを示唆。AIの活用、ガバナンス機関の創設、科学の説明責任、ジェンダーバランスの課題などにも言及した上、「今後も是非皆が協力しイノベーションを続けて欲しい」と強調した。
※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。