原子力産業新聞

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「放射性廃棄物を資源に」 原子力機構の技術展望

21 Nov 2023

原子力機構・菅原氏©原子力機構

“16,000トン”、“300億円”、“4.8kg”――。これは、日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究センター研究主幹の菅原隆徳氏が「サステナブルな原子力利用への鍵」として標榜する「燃えないウランの蓄電池化」、「使用済燃料の元素利用」、「熱・放射線による発電」に関し、それぞれ潜在化するポテンシャルを表す数値だ。

菅原氏は、11月15日に開催された同機構の年次報告会で「放射性廃棄物を資源に変える技術革新」と題し講演。同氏はまず、天然ウランから原子力発電所の燃料となるウラン235を除き貯蔵されている劣化ウラン約16,000トン(2021年時点)に着目した「レドックスフロー電池」(URF電池)の展望を紹介した。URF電池は、ウランの酸化・還元反応を利用するもので、1基当たり3万kWh(およそ3,000世帯分/日)の容量を持ち、「燃えないウランの貯蔵」16,000トンを74万kWh相当の「貯電」とすることが可能だという。再生可能エネルギーや原子力発電の余剰電力を蓄電し、電力供給の系統安定化に資することも期待される。

また、菅原氏は、使用済燃料中で14%を占める白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム)につき、資源価値が約300億円/年に上ると強調。実際、抽出されるパラジウムは、歯科材料やアクセサリーとして有効利用されている。使用済燃料からの有用元素分離の研究に関しては、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)で実施された「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」(藤田玲子プロジェクト・マネージャー)が知られているが、「基礎の段階にあり未だ実用化に至っていない」ことから、新たな分離手法「レーザーアシスト」の開発・高度化や、いわゆる「都市鉱山」への技術応用に期待を寄せた。

菅原氏が構想する絵姿(原子力機構発表資料より引用)

さらに、同氏は、米国NASAの火星探査ローバー(自動車の一種)用熱源として用いられるプルトニウム238の、わずか4.8kgで出力110Wに相当する発電の可能性に言及した上で、電気と磁気のハイブリット「スピントロニクス」など、新たな技術や、放射性廃棄物を利用した「熱・放射線による発電」の実証計画を紹介した。

菅原氏は、こうした放射性廃棄物を資源に変える技術革新を通じ「現状の核燃料サイクルに新しい価値を加えていきたい」と強調した。

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