原子力産業新聞

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QST マルチイオンを用いた重粒子線がん治療を開始

19 Mar 2024

石川公一

重粒子線がん治療の高度化に向けカギとなるマルチイオン源の中心部

量子科学技術研究開発機構(QST)は3月15日、マルチイオンを用いた重粒子線がん治療を、骨軟部肉腫を対象に開始したことを発表した。〈QST発表資料は こちら

マルチイオンによる重粒子線がん治療は、QSTが取り組む次世代装置「量子メス」実現に向けた要素技術の一つ。住友重機械工業とともに2016年より開発を進めてきた。従来の重粒子線がん治療装置では、炭素イオンのみが用いられていたが、マルチイオン治療は、「病変への細胞殺傷効果をさらに高めつつ、副作用を低減するため、腫瘍の悪性度に応じて最適な種類のイオンビームを組み合わせて用いる」もので、両者は2022年に、ネオン、酸素、ヘリウムなど、複数のイオンによる「マルチイオン源」の開発に成功。QST放射線医学研究所の重粒子線がん治療装置「HIMAC」(千葉市)に設置・接続し研究を進めてきた。例えば、腫瘍の中心には炭素より重い酸素を、正常組織に近い部分には軽いヘリウムを照射。線量分布や生物効果分布を分析したところ、炭素イオンのみを照射する場合と比較し、様々なイオンビームを用いることで、重粒子線がん治療の高い効果が確認された。

骨軟部肉腫は、部位によっては手術することで神経障害を生じる患者が多いとされている。重粒子線の適用で、手術が困難な患者にも良好な治療成績をあげてきたが、大きな腫瘍での再発などが課題だった。今回、開始したマルチイオン治療の1例目は、2023年11~12月に実施され、計16回照射。炭素イオンと酸素イオンの同日治療は初の試みとなったが、イオン線の切替えも順調で、患者は治療終了の翌日に退院。2か月が経過したが、早期副作用はない状況だ。

「HIMAC」は、重粒子線がん治療のパイオニアとして、1994年の臨床試験開始以来、30年にわたり新技術の導入や対象部位の拡大に努め、これまで多くの治療実績を上げており、国内外への普及に向け礎となった。超伝導磁石を採用した回転ガントリーの開発・適用では、治療台を傾けずに患部への集中照射が可能となり、治療成績の向上とともに患者の負担低減にもつながっている。「HIMAC」に対しては2月1日に、電気学会が毎年、社会生活に大きく貢献した概ね25年以上の実績を有する電気技術への顕彰「でんきの礎」が授与(顕彰先:QST、住友重機、東芝エネルギーシステムズ、日立製作所)されている。〈東芝ESS発表資料は こちら

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