【第57回原産年次大会】原子力業界の人材基盤強化を議論
15 Apr 2024
2日目のセッション4「原子力業界の人材基盤強化に向けて」では、これからの原子力業界の歩みの中で極めて重要な課題となる人材に焦点をあてて4名のパネリストからの講演、その後に学生のパネリスト3名が加わってのディスカッションが行われた。パネリストには、コンステレーション社 燃料設計エンジニア・クリーンエネルギー推進担当でミス・アメリカ2023のグレース・スタンケ氏、近畿大学 原子力研究所 教授の若林源一郎氏、アジア経済研究所 開発研究センター 主任研究員の牧野百恵氏、国際原子力機関(IAEA) 保障措置評価官/保障措置査察官で原子力青年国際会議 (IYNC) 会長のクリスティン・マデン氏の4名、学生パネリストとして福井南高等学校 3年生の西田 杏乃氏、福島工業高等専門学校 機械システム工学科 5年生の高橋那南氏、早稲田大学 先進理工学部物理学科 学部4年の舟坂柚香氏が登壇した。モデレーターを芝浦工業大学 工学部物質科学課程 環境・物質工学コース 教授の新井剛氏が務めた。
セッションへの導入として新井氏は、「原子力産業を学生に魅力あるものにするために」をテーマに講演。特に、原子力産業を学生に魅力あるものにするため、ジェンダー・ダイバーシティにより原子力産業で活躍する女性を増やすことを提言し、原子力産業への関心を呼び起こすためのアプローチの検討を呼びかけた。
スタンケ氏は「原子力における若者の役割とメンターシップ」をテーマに、自身が原子力工学に関心を持った背景、若い世代と原子力業界との橋渡しをすることへの思いを語った。原子力産業が求めるのはエンジニアだけではなく、コミュニケーションなどさまざまな人の関わりが大事であることから、スタンケ氏は、次第に原子力産業を若い世代に広く知ってもらう活動にも力を注ぐようになったという。
若林氏からは「近畿大学原子炉を活用した原子力人材育成」における高等教育と中等教育について報告があった。中高生のための原子炉実験研修会はこれまで5回開催。毎回定員の16名をはるかに上回る応募があり、参加者の半数以上は女子生徒だという。しかしながら、大学入試の頃になると原子力工学を目指す女子は激減している現状がある。ここに疑問をもった若林氏は、原子力に関心のある子どもたちに対し、進学や仕事の将来像を示すことが、このギャップを埋める鍵になるのではないかと述べた。
開発ミクロ経済学の実証研究を専門にする牧野氏は、欧州ではSTEM分野が圧倒的に所得が高く、女子がSTEM分野を専攻しないということが男女間の所得格差の5割を説明していると解説。思い込みがジェンダー格差にもたらす影響の大きさについて紹介した。
マデン氏からは、IAEAとIYNCが若い世代や女性に働きかける取り組みが紹介された。特にIYNCでは、若者の専門能力開発と育成に取り組んでおり、気候変動の議論に若い世代の声を反映させるべく、欧州原子力学会等とも連携を図っているという。
その後、これまで登壇したパネリストに、学生パネリスト3名が加わり、新井氏のファシリテーションでパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションでは、ジェネレーションとジェンダーという2つの軸を中心に意見が交わされた。西田氏は、「原子力との関わりには広報など文系からのアプローチもできそう」との思いを述べた。高橋氏は、東日本大震災や台風による被災を受ける中、中学生の時に長崎の学生と福島の原発について話し合う機会があり、危ないものだと思い込み原子力発電のことを全く知っていなかったことに気がついて学び始めたという。舟坂氏は「長い海外生活を通じて、人種の問題、多様性について考える機会に恵まれた。原子力産業は社会と科学技術のつながりについて考えられる研究分野だと感じ、宇宙分野での加速器や放射線利用への興味とも合致したので、原子力分野を選んだ」と力強く述べた。
実際に原子力業界に飛び込んだスタンケ氏からは、米国で35年ぶりに新規炉の運転が始まり、今年さらに1基が運転開始するなど、技術的な発展に期待を寄せる。また、大学時代にさまざまな企業の面接を受ける機会にも恵まれたことから、原子力工学の専門家だけではなくいろんな人がこの業界で必要とされていることに希望を感じているという。
一方マデン氏は、若い世代が気候問題に関心を持っていることを挙げ、原子力はネットゼロに大いに寄与することを若い世代との議論の場を設けて対話をしていきたいと強調した。また、さまざまな人材を原子力産業に巻き込むための人材マッチングツールの開発や、IAEAでの働く環境を知ってもらうためのポッドキャストの展開などについても紹介した。
若林氏は、具体的なロールモデルや、自分なりの将来像が見せることで、原子力業界に就職する学生が確実に増えていると指摘。原子力産業で働く近畿大学の卒業生を研究室へ招き、経験談を話してもらう会を何回も開催することで、具体的な将来イメージが湧く。自分の研究を実社会でどのような形で役立てられるのかがわかれば、原子力の分野に進む意欲につながると語った。