放射線育種場「ガンマーフィールド」 農業利用で貢献
19 Apr 2024
放射線育種場「ガンマーフィールド」、半径100mの円形フィールド中央にコバルト60線源がある
放射線の農業分野における利用の一つとして品種改良がある。植物にガンマ線などを照射して多様な突然変異体を作り出し、その中から有用な性質を持つものを選抜することで、効率的に品種改良を行うものだ。これまでに、日本酒醸造に適したコメ、病気に強いナシやリンゴ、多彩な花弁色を持つキクやバラなどが作り出されており、われわれの生活に供している。
元農業生物資源研究所(農業・食品産業技術総合研究機構に改組)の中川仁氏は、4月16日の原子力委員会定例会合で、自身が場長を務めていた同所放射線育種場が2022年度で60年超に及ぶ放射線照射業務を終了したことから、その成果を振り返るとともに、放射線育種に係る将来展望などを語った。〈中川氏発表資料は こちら〉
放射線育種場の「ガンマーフィールド」(茨城県常陸大宮市)は、植物の品種改良を行う世界最大級の野外照射施設で1960年に稼働を開始。半径100mの円形フィールドの中央にコバルト60線源(88.8テラベクレル)を備えている。
中川氏は、放射線育種場が長く取り組んできたガンマ線によるコメの品種改良の成果を主に紹介。短稈(背丈が低く倒れにくい)のコメとして開発された「レイメイ」に由来する新品種は、これまでに約200種にも上り、コメの品種改良のおよそ半分を占めるという。また、栽培上の耐性向上だけでなく、低たんぱく質種として食味の改善も合わせ開発された「LGC1」は、近年、急増している腎臓病患者が毎食コメを食べることができ、病院でも多く用いられている。こうしたことから、品種改良は間接的な経済効果も高い。同氏は、放射線の農業利用の経済規模を2,780億円と試算し、その中で、品種改良に関しては、「増殖し続け、経済効果も増殖する」と強調。実際、内閣府の調査によると、国内の栽培面積で突然変異品種の占める割合は12.4%となっている。
中川氏は、原子力委員会が主導するアジア地域の放射線利用を中心とした協力枠組み「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)の農業分野プロジェクトをリードした経験を紹介。品種改良に関しては、途上国での栄養源となっているバナナの収穫増などにつながっており、IAEAにより手順書も発刊されている。この他、同氏は、放射線育種場で照射された突然変異品種が日本のガンマ線照射による育種の大半を占めることや、遺伝学的研究における成果もあげた上で、「放射線育種場がリーダー的立場に立ち、アジアおよび世界の突然変異育種に及ぼした貢献は大きかった」と、振り返った。
これを受け、委員との間で、放射線の農業利用に関し、食品照射に対する国民理解、ガンマ線源の価格高騰、小型加速器の導入検討などを巡り意見が交わされた。