原子力産業新聞

国内NEWS

再エネ大規模導入に伴う歪み 原子力支持を押し上げか

27 May 2024

石井敬之

資源エネルギー庁の前田室長は、高校生による世論調査の取り組みも紹介

東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)は23日、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)と共催で、「電力消費地から原子力について考える」と題したシンポジウムを大阪で開催した。電力消費地を含む社会全体が原子力利用に対する理解を向上させることが目的。国内のみならず欧米から原子力立地地域のオピニオンリーダーらを招き、カーボンニュートラル(CN)実現とエネルギー安全保障に果たす原子力の役割を、あらためて浮き彫りにした。

基調講演に立った資源エネルギー庁の原子力立地政策室長の前田博貴氏は、再生可能エネルギーの拡大や、原子力発電の再稼働の遅れなどにより、電力需給がひっ迫している現状を指摘。今後、データセンターや半導体工場の新増設などによる産業部門の電力需要がますます拡大するとの見通しを示し、原子力の重要性を再確認した。そして日本国内の世論傾向として、日本原子力文化財団が実施している世論調査を引用。「原子力発電利用の増加や維持を求める意見が増加傾向にある」と強調した。

同世論調査に関しては、地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員の秋元圭吾氏も言及。同世論調査結果を「個人的な実感ともかなり近い」とした上で、「近年、特に地方での講演会の場で、お年寄りから『再エネけしからん』との非難を受けるようになった」と指摘した。同氏はこの原因について、「地方における再生可能エネルギーの大規模導入に伴う歪みが表れているのではないか」と分析。「従来原子力に反対していた地方の高齢者層が、太陽光パネルなどの再生可能エネルギーの無秩序な導入によって、各自が抱いている故郷の原風景を破壊されたことで、かなり怒っている」との見方を示した。

日本の原子力立地地域からは、福井県原子力平和利用協議会敦賀支部長の武内貴年氏が登壇。メディアによる風評被害の実例を紹介し、「原発」「核のゴミ」などネガティブなワードを使用しないよう呼び掛けた。また、福井県が取り組むクリアランス制度の産業化にも言及。2025年に開催される大阪万博の会場にクリアランス製品を設置し、来場者の理解を促進できないかとのアイデアを提案した。

シンポジウムではその他、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題が進展するフィンランドや、新規原子力発電プロジェクトが進展する英国のヒンクリーポイントやウィルヴァ、ディアブロキャニオン原子力発電所の閉鎖が撤回された米カリフォルニア州から、ステークホルダーを迎えてパネル討論が行われ、地域と原子力との共生について議論された。

cooperation