三菱重工・QST ITERの重要部材量産化へ
06 Aug 2024
「外側垂直ターゲット」プロトタイプ1基 ©MHI
三菱重工業と量子科学技術研究開発機構(QST)は7月31日、ITER(国際熱核融合実験炉)に用いられるダイバータ[1]核融合で発生するヘリウムや不純物粒子を排出する装置の重要な構成要素「外側垂直ターゲット」のプロトタイプを完成したと発表した。〈三菱重工発表資料は こちら〉
完成したプロトタイプは、高さ約1.5m、幅約0.6mの“J”字型をした実機大モックアップ。三菱重工とQSTでは、2020年より製作に取り組んできた。三菱重工は、「外側垂直ターゲット」実機全58基(予備を含む)のうち、既に18基を受注し製作を進めており、2025年度にも6基分の納入が計画されている。プロトタイプの完成により、実機量産化に向けて準備が整った格好だ。
プラズマから来る大きな熱流を受止めるダイバータの熱負荷は、最大で20MW/㎡。これは、小惑星探査機が大気圏突入の際に受ける表面熱負荷に匹敵し、人が搭乗する宇宙船ではスペースシャトルが受ける表面熱負荷の約30倍に相当する。正にトカマク型核融合炉の「最も過酷な場所」だ。そのため、構成する部材は極めて厳しい熱環境での使用に耐えるよう、高融点であるものの加工が困難なタングステンなどの特殊な材料が用いられる。ITER計画は参加各極による物納貢献が基本で、ダイバータを構成する「外側垂直ターゲット」は日本が、「内側垂直ターゲット」は欧州が主に受注。「外側垂直ターゲット」は、30×30×10mm程度の「タングステンモノブロック」で構成。1基当たり3,000個以上の「タングステンモノブロック」は、1個でも熱負荷で溶融すれば大きなトラブルにつながることから、厳しい技術水準が要求される。
三菱重工は、高熱に耐えるタングステン材料、それを冷却するためのクロムジルコニウム銅合金冷却管、材料を接合する熱処理方法「ろう付け接合」を開発し、超高温下における耐久性の課題を克服。要素試験、小規模試験体および実規模試験体による検証を行い、材料特性に適した高度な接合技術、加工技術、組立方法など、「外側垂直ターゲット」を製作する基盤技術を確立した。
ITER計画は、「核融合エネルギー実現の見通しを得る」ことを目指し、前例のない技術目標を掲げた国際プロジェクトで、2007年10月に外交レベルの協定が発効。QSTでは、前身の日本原子力研究開発機構(核融合部門)の頃を含め、計画当初よりダイバータ「外側垂直ターゲット」の研究開発に注力し、三菱重工は2012年より製作に参加している。
脚注
↑1 | 核融合で発生するヘリウムや不純物粒子を排出する装置 |
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