原子力産業新聞

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CIGSが動画シリーズ エネ政策検討に向け

14 Aug 2024

石川公一

エネ政策における市民参加について解説する渡辺氏©CIGS

キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)は、「市民社会とエネルギー政策の関係」と題する動画シリーズを公開している。同所研究員の渡辺凛氏が各回10分程度で解説するもの。

エネルギー基本計画の見直しに向けた議論が6月より総合資源エネルギー調査会で開始しているが、渡辺氏は、動画シリーズの初回(8月8日公開)で、エネルギー政策の特徴として、「とても複雑な問題」、「経済活動に欠かせないインフラ」、「リードタイムが長い(実現するのが3年、5年、10年先)」との観点を提示。さらに、「決まったことが政権交代のたびに覆されることは比較的起こりにくい」という安定性に言及し、「政治や民意よりも、実務や行政の力が強い政策分野といえる」とも分析している。

また、これまで日本のエネルギー政策がとってきた「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)の枠組みに一定の評価を示す一方で、「他にも重要な観点がある」と指摘。例えば、EUにおけるエネルギー政策の考え方を例に、「健康・福祉、地域経済、食料問題など、幅広い社会問題と複合的にエネルギー問題を考え、議論の結果を政策にインプットする仕組みを作ること」をあげており、今後、行政だけでなく、研究機関、アカデミア(学術界)、NPO・NGOなども交え、議論の多様性・厚みを増していくことの重要性を強調している。

続いて、第2回(8月9日公開)では、原子力を巡る反対運動の根源として、リスクの不確実性が十分に議論されていないこと、それゆえに「一部の人だけが被害を受ける仕組みはおかしい」という主張に至っている現状に言及。その上で、エネルギー政策決定に関わる市民参加型の議論について、「目的をはっきりと」、「対象・目的に対し適切な問いを」、「結果をどう意思決定に活かすのか」を、ポイントとして指摘している。

13、14日には、第3、4回「物事を100%、『科学的に』、『合理的に』決めることはできない」を公開。その中で、渡辺氏は、「科学は不安を取り除く道具にはならない。解釈するのは人間一人ひとりの価値観だから」と強調している。とかく水掛け論になりがちな個人の「価値観の議論」に関し、「科学者もそれぞれ価値観を持っている。お互いが異なる価値観を理解し合うことで打開策が考えられるのでは」と述べ、事前アンケートの実施、フリーディスカッションの設定など、市民参加型の議論に向けて、「場の設計」の重要性を指摘。一例として、同氏は、東海村の若手市民を対象とした高レベル放射性廃棄物の地層処分に関するインタビュー経験を紹介し、事前の情報提供を15分程度行うだけで「専門的知識の多少にかかわらず、市民は意見を述べることができる」と説いた。

原子力・エネルギー政策にとどまらず、公益的課題に関して「価値観の議論」の重要性を強調する渡辺氏は、方針ありきで進めていくいわゆる「ガス抜き」的な市民参加では信頼の失墜につながってしまうと、警鐘を鳴らし、まずは「コミュニケーションの実績を地道に積んでいくことが大事」と指摘した。

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