原子力産業新聞

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三菱総研「ALPS処理水の海洋放出量を拡大する検討も重要」

27 Aug 2024

石川公一

ALPS処理水放出に対する諸外国・地域の反応(三菱総研まとめ)

福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始してから、8月24日で丸1年を迎えた。同日、福島県を訪問した岸田文雄首相は、いわき市小名浜魚市場の視察、県漁業協同組合連合会との意見交換に臨み、地元水産物「常磐もの」の美味しさを絶賛する一方、ALPS処理水の海洋放出を理由とした一部の国による輸入停止の継続に関し、「科学的根拠に基づかず、極めて遺憾なことだ」と、強い懸念を表明した。

こうした中、三菱総合研究所は、ALPS処理水の海洋放出に関するコメントを22日に公表。海洋放出開始前後における諸外国・地域の反応を整理した上で、長期にわたる福島第一原子力発電所廃炉作業を見据え、処理水放出について「まだ序盤に過ぎない」との見方を示し、今後、プロセスの定期的見直しと改善を行いながら、風評被害の排除とリスク管理を最後まで続ける重要性を提言している。

同コメントは、三菱総研の社会インフラ事業部他が随時、ウェブサイト上で原子力問題の議論を喚起するコラム「カーボンニュートラル時代の原子力」の一環。関係省庁による三陸・常磐産品の販売促進イベント、在京外交団向け説明会、バナー広告や解説動画を通じた発信など、政府主体の継続的取組を評価するとともに、日本原子力文化財団実施の「2023年度原子力に関する世論調査」結果や、2023年度版原子力白書の記載にも言及し、ALPS処理水の安全性について「国民の間に一定程度浸透している」ことを首肯する見方を示した。

さらに、福島第一原子力発電所の廃炉完遂に向け、「処理水などを保管する1,000以上のタンク群を減らす」ことの重要性をあらためて強調。これに関し、トリチウム総量が「多いケース」と「少ないケース」のそれぞれについて、2051年度までの放出シミュレーション結果を試算した上で、「地上保管によるリスクを可能な限り低減するためには、ALPS処理水の海洋放出量を拡大する検討も重要」などと指摘している。

今回のコメントは、まとめとして、「現在見込まれる約30年間という放出期間に鑑み、この1年は序盤に過ぎない」と、今後も、予断を持たずに対応していく必要性を述べるとともに、技術的観点からの一般論として「30年間もの期間をトラブルゼロで過ごすことは、どんな機器であっても難しい」と強調。その上で、「トラブルを未然に防ぐための対策と、トラブル発生時における迅速かつ適切な対処を徹底すべき」と提言している。

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