原子力機構 線量評価の精緻化で人体モデル開発
25 Oct 2024
複雑な臓器形状を再現するポリゴン型と従来のボクセル型との対比
日本原子力研究開発機構は10月25日、放射線防護に関する最新の科学的知見に基づき、日本人の体格特性を反映した被ばく線量評価を行うことを目的に、成人男女の標準人体を再現する「ポリゴン型人体モデル」を開発したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉
同機構原子力基礎工学研究センターが、CAD技術の一種「ポリゴン」を利用し開発したもの。多角形を組み合わせて物体の形状を再現する「ポリゴン」は、数学書籍の表紙・挿絵でよく見られるが、近年はアニメ制作他、応用範囲を広げており、今回の開発では、放射線への感受性が高い眼球組織など、複雑な生体構造のモデル化への応用に着目。水晶体に関しては、国際放射線防護委員会(ICRP)が線量限度引き下げを勧告しており、国内でも原子力規制委員会の放射線審議会で議論が行われている。こうした様々な被ばく状況における線量評価の精緻化の必要性をとらえ、「ポリゴン型人体モデル」を開発した。今後は、個々人の姿勢や体格に合わせた被ばく線量評価技術の開発を進めていくことで、近年、進展が目覚ましい放射線医療における効果的な治療計画の立案や被ばく低減の他、合理的な放射線作業管理システムの設計にも貢献が期待される。
同センターは、2020年にも米国研究機関との協力で、原爆被爆者への疫学調査を踏まえ、国際的な放射線防護指針の策定に資するよう、被爆者の臓器線量を評価する手法「臓器線量データセット」を発表している。大型計算機を用いたシミュレーションにより、約3万通りの照射条件を分析し確立した評価システムだが、複雑な構造を有する臓器に関しては、人体模型(医療ファントム)などによる線量推定システムとの間に約15%の差が生じていたほか、分析対象の1945年頃の成人日本人の体格は、身長で男子160cm、女子152cm程度と、現在より数cm低かったものとみられ、他分野への応用には限界があった。
また、実際のCT画像データをもとにした従来の「ボクセル」と呼ばれる手法では、ムラが生じ、水晶体など、ミクロサイズの臓器構造を再現することは困難だったため、今回の「ポリゴン型人体モデル」の開発に際しては、「ボクセル」の画像をもとにまず、臓器の輪郭データを抽出。これに、「ポリゴン」の技術を適用し、より滑らかな臓器画像を作成することに成功した。