「原子力総合シンポ」でリスコミなど議論 学術会議
24 Jan 2025
原子力規制委員会・伴委員長代理
「原子力総合シンポジウム2024」が1月20日、日本学術会議の本部講堂(東京都港区)で開催された。日本原子力学会他、関連学協会の後援・協賛も得て行われているもの。今回は、原子力に係るリスクコミュニケーションが主なテーマ。
前半は、日本電気協会で民間の技術基準として原子力規格の策定をリードしている越塚誠一氏(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授)の進行で、福島第一原子力発電所事故の環境影響評価に関し、原子力学会の活動状況を技術的観点から報告。現在進められているALPS処理水の海洋放出に関しては、モニタリング結果を公開し継続的な情報発信を行う必要性があらためて示されたほか、発災直後の大気拡散モデル評価(SPEEDI)については、有効性を認める一方、「実測とモデル予測の相補的使用が合理的」といった指摘もなされた。報告の中で、環境科学技術に詳しい山澤弘実氏(名古屋大学名誉教授)は、SPEEDIの有効活用に向け、三宅島火山ガス拡散予測、稲ウンカ飛来予測など、自然災害対策や農林分野での実績にも言及。他学会とも連携しアカデミアとしてさらに検討を深めていく方向性が示唆された。
後半の総合討論では、原子力規制委員会委員長代理の伴信彦氏らを招き、「原子力のリスクをどのように考えるか」と題し議論。森口祐一氏(国立環境研究所理事)、野口和彦氏(横浜国立大学リスク共生社会創造センター客員教授)、更田豊志氏(原子力規制委員会前委員長)、小野恭子氏(産業総合技術研究所安全科学研究部門)、近藤寛子氏(マトリクスK代表)、岩城智香子氏(東芝エネルギーシステムズ)、上坂充氏(原子力委員会委員長)、大井川宏之氏(日本原子力学会会長)らが登壇し、一般参加者も交えた質疑もなされた。
委員に就任して10年目となる伴氏はこれまで、随時公開で行われる事業者との意見交換の場でも、原子力規制に携わる人材育成などの視点から、安全文化醸成に関する問題点を多く指摘してきた。同氏は、安全文化の定義を、「非常に困難」としながらも、IAEAレポートを引用し、「最高の優先度をもって、原子力発電所の安全問題が、その重要性に相応しい注目を受けることを確立する、組織および個人の特性と姿勢を集約したもの」と解釈。規制機関に対する社会の信頼性を図る重要性を強調した上で、新規制基準の施行を踏まえ規制委が行ってきた安全性向上に係るワーキンググループの経緯を紹介。同WGでは原子力分野以外の規制手法についても広く意見を聴取しており、同氏は、海外の著書「市場の倫理 統治の倫理」(ジェイン・ジェイコブス)をもとに、「知られていない『欠け』を発見するのは市場の倫理。現状に満足せずそれをもう一度疑ってかかり崩してみる『ゆらぎ』の場が必要」と述べ、規制・被規制側の双方が適切な対話を図っていく必要性を示唆した。
これに対し、プラントメーカーの立場から岩城氏は、重大事故対策評価「ROAAM」(確率論と決定論を組み合わせた事故進行の定量評価、Risk-Oriented Accident Analysis Methodology)について紹介した上で、「リスク評価は不確かさを伴うもの」と主張。「リスクとベネフィット」と題しプレゼンを行った上坂氏は、日本原子力発電敦賀2号機の審査不許可に関連し「リスク情報の活用も必要」などと定量的評価の必要性を提言したのに対し、大井川氏は「外にいる人たちともっと議論することが必要。繋がることがまだ弱いのでは」と述べ、学会の閉鎖的体質を自省。この他、市民説明会の経験から「再稼働ありきの説得になっている」といった批判、安全対策に関し重大事故の発生頻度とコストとの関係などをめぐっても意見が交わされた。更田氏は、学際化が進むことを評価する一方で、「縦割りの細分化を防ぐことも学術界に求められている」と指摘。学術会議では毎年7月初めに「安全工学シンポジウム」と題し、他産業も含めた安全に関する総合的な議論を行っているが、リスクマネジメント専門の立場から、同シンポを毎回リードしている野口氏は、安全分野の議論が理工系だけにとどまっていることを憂慮した。
1963年に始まった原子力総合シンポは回を重ね、60回目の開催と「還暦」を迎えた。近年では若手参加者の少なさも懸念されている。年度内に見込まれる次期エネルギー基本計画策定も踏まえ、次回以降は将来の革新炉導入に関しさらに深堀りした議論が行われる見通し。