【第58回原産年次大会】原子力新設に向けた課題 欧州の事例を踏まえ議論
09 Apr 2025
大会初日の午前中に開催されたFireside Chatでは、午後のセッション1、2で議論する原子力発電所の新設に向けた資金調達やサプライチェーン上の課題について、問題提起と欧州の事例に基づく課題共有が行われた。
Fireside Chatとは、暖炉脇での会話を想起させるリラックスした雰囲気で行われる対話形式のトークイベント。原産年次大会では初めての試みであり、その後のセッションへの橋渡しとして実施された。初日の登壇者は、フラマトムジャパン株式会社のピエール・イヴ コルディエ代表取締役社長と日本原子力産業協会の増井秀企理事長。
増井理事長は冒頭、日本の原子力産業の現状に触れ、2025年2月18日に策定された「第7次エネルギー基本計画」に関し、特に日本の原子力産業界が注目する重要な変化として、「原子力依存度の低減」から「原子力の最大限の活用」へと表現が改められ、既設炉の活用に加え、「新規建設」にも明確に言及されたことを挙げた。
コルディエ氏は、欧州における原子力の現状について解説。欧州では130基以上の原子炉が稼働しており、世界全体の約3分の1に相当する規模を有している。近年では原子力への関心が再び高まり、新規導入や既存炉の運転期間延長が広く検討されていると述べ、欧州全体で原子力活用のモメンタムが拡大していると指摘した。
コルディエ氏は、在英フランス大使館勤務時に関わった英国ヒンクリーポイントCやフィンランドのオルキルオト3号機のプロジェクトを例に挙げ、欧州の原子力プロジェクトがEUの政策動向に大きく左右される点を指摘した。特に環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準 である「EUタクソノミー基準」をめぐっては、原子力を推進する国々と、反対する国々の間で激しい議論があったが、最終的に原子力は2023年1月1日付でEUタクソノミーに含まれ、グリーンファイナンスの活用が可能となったことを紹介。休眠中のプロジェクト再活性化への期待を示した。
日本における資金調達課題について増井理事長は、⽇本では原子力産業が民間事業であり、電力市場自由化が進んでいることから、新たな長期的投資回収が難しくなり、金融機関からの融資を受けることが困難である現状を説明。かつて存在した「レート・オブ・リターン(総括原価方式)」の仕組みがなくなったことで、原子力プロジェクトの資金調達環境が厳しくなっていると述べた。
コルディエ氏は、欧州で採用されている多様な資金調達スキームの事例として、ヒンクリーポイントCで導入された「差金決済取引(CfD)」、英サイズウェルCに適用予定の「規制資産ベース(RAB)モデル」、フランスの改良型欧州加圧水型炉(EPR2)6基の建設プロジェクトにおける低利の政府融資とCfDの組み合わせを紹介した。
また、欧州のプロジェクトで課題となった建設遅延やコスト超過についても触れ、その主要因としてサプライチェーンと人材の準備不足を指摘。こうした課題に対応するため、フランス電力(EDF)とフラマトムは2020年から2023年にかけて、プロジェクト管理やサプライチェーン標準化などを推進する「エクセル・プラン」を実施し、これにより改善が見られたと評価した。
さらに、原子力産業が若年層に対して魅力あるキャリアとして欧州で再評価されていることを紹介。英国ヒンクリーポイントCでは、約8,000人の若者がスキル訓練を受け、地域の若年人口が大きく増加。また、フランスでは、高度な技能を持つ人材を育成するため、エクセル・プランの一環として、溶接訓練機関や原子力のための大学University for Nuclear Professionsが設立され、着実に成果を上げていると述べた。
最後に増井理事長は、原子力の新設プロジェクト成功のカギとして「ファイナンス」「人材」「サプライチェーン」の3点を挙げ、欧州の経験から学ぶべき多くの教訓があると総括。コルディエ氏もこれに同意し、適切な制度設計と体制整備が整えば、日本においても”On Time, On Budget”での原子力新設が実現可能であると展望を語った。