文科省が「クリアランス制度」でシンポ、福井県内市民も参加
12 Feb 2021
原子力発電所の廃炉が進む中、放射能濃度が低く人体の健康への影響がほとんどない金属・コンクリート廃棄物の再利用を可能とする「クリアランス制度」について考えるシンポジウム(文部科学省主催)が2月10、11日、若狭湾エネルギー研究センター(敦賀市)を拠点にオンラインで開催された。
2005年度に始まった同制度に設計段階から長く関わっており、昨夏より国際廃炉研究開発機構(IRID)理事長も務める日本原子力発電廃止措置プロジェクト推進室長の山内豊明氏によると、110万kW級のBWRの場合、発生する撤去物の総量は約53.6万トンで、そのうち、約5%に当たる約2.8万トンがクリアランス対象物となる。
同氏は、(1)循環型社会形成への貢献、(2)原子力発電所廃止措置の円滑化、(3)放射性廃棄物の減容化――から「クリアランス制度」の必要性を強調。国内商業炉で初めて廃止措置に入った同社の東海発電所の解体工事に関しては、2006年に金属約2,000トンに係る測定・評価方法が国により認可された後、そのうちの約400トン分が確認済みとなっており、原子力施設の遮蔽体やPR館のベンチなどへの再利用が進められている。原電では、敦賀1号機でも廃止措置を進めているが、今後の作業増に備え、より作業負担・コストを軽減するクリアランス測定装置の開発にも取り組んでいる。
今回のシンポジウムでは、初日にバックエンド対策が進展するスウェーデンなどの海外事例の報告を受けた後、2日日には「クリアランス制度」の定着に向けた方策について、1月に福井県内で行われた市民勉強会の参加者も招きディスカッションを行った。
2日日ディスカッションの座長を務めた土田昭司氏(関西大学社会安全学部教授)はまず、「クリアランスの制度普及と国民理解」と題して講演。同氏は、人体の健康に影響がない放射能レベルの基準「クリアランスレベル」は、自然界から受ける放射線量の100分の1以下に過ぎない年間0.01mSv相当の放射能濃度であることを改めて強調。
その上で、リスクコミュニケーションの観点から、岸和田のだんじり祭や長野の御柱祭など、死者を出すほど危険と隣り合わせの祭が長く続いていることを例に、「安全の基準は人々の合意で成り立っている」と述べた。さらに、「自動車を使わなければ事故はなくなるが、それを使うことによって得られる利益もなくなる」として、危険と利益のバランスを考える「リスク学」の視点を提示。
また、土田氏は、風評被害について「事実と異なる情報の流布」と定義し、心理学の立場から、発生のメカニズムを、経験的判断による錯誤(思い込み)の事例や流言が広まる要因・背景を分析しながら説明。昨今の新型コロナウイルスに対する人々の動きにも触れ、複雑・不確実な情報・知識に対し専門外の人は真偽判断が困難なことを述べた上で、クリアランスに関わるリスクのとらえ方に関し「一般の人たちは独力で対応できない。まずは信頼が重要」と結論付けた。
ディスカッションに移り、先の市民勉強会で学生参加者の指導に当たった柳原敏氏(福井大学附属国際原子力工学研究所特命教授)は、「学生たちはクリアランスの考え方をよく理解していたと思う。家庭での会話を通して少しずつでも広がっていけばよいと思う」と所感を語った。
また、広報部門での経験が豊富な鈴木國弘氏(量子科学技術研究開発機構次世代放射光施設整備開発センター総括参事)は、大強度陽子加速器施設「J-PARC」へのクリアランス物利用(遮蔽体)の報道を振り返り、「オブジェのようなものを作ればもっとPRにつながるのでは」と提案。
勉強会参加者からは、高レベル放射性廃棄物処分に関し10年間理解活動を続けているという鈴木早苗氏(鯖江市)が、フィンランドの学校視察経験に触れ、「日本は原子力教育というと、腫れ物に触れるようだ。もっとフランクに語れるようになれば」などと指摘。さらに、今後の「クリアランス制度」の理解促進に向けては、「よいプレゼンターを育てることが重要」と強調した。
※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。