【第54回原産年次大会】今井会長、「さらなる原子力の活用が必要不可欠」と
13 Apr 2021
第54回原産年次大会が4月13日に開幕した。今回は、「コロナ禍の世界と日本-環境・エネルギーの課題と原子力」がテーマ。14日までの2日間、コロナ禍の影響を含め、地球規模で人々が直面する課題(変化する世界情勢・経済の変化、気候変動問題、エネルギー・原子力利用)を俯瞰し、事故発生から10年が経過した福島第一原子力発電所に係る廃炉の進捗状況と福島復興を展望するとともに、本格的に策定議論が始まった次期エネルギー基本計画を念頭に、あるべき日本のエネルギー・原子力政策について考える。感染症対策のためオンライン配信での開催となった。
2年ぶりの開催となった今大会には国内外より830名が参加登録。開会に当たり、今井敬・原産協会会長が所信表明に立ち、3月に東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過したのに際し、被災した方々、今なお避難している多くの方々に対し、「改めて心からお見舞いを申し上げる」と述べたほか、福島の復興に長く尽力してきた方々への謝意を表した。
今後のエネルギー・原子力政策について、今井会長は、昨秋に菅首相が表明した2050年カーボンニュートラルに言及。「わが国では原子力発電によりこれまでに約46億トンものCO2排出を回避してきた。原子力発電がなければ発電部門のCO2排出量は少なくとも25%は増えていた」とするIEAのデータなどを示し、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、「さらなる原子力の活用が必要不可欠」と述べた。さらに、日本のエネルギー自給率が極めて低い現状からも、原子力発電の重要性を、「安定供給の観点から極めて強靭で環境に対し持続可能な、最も信頼できる電源の一つ」と強調。原子力産業界は、安全性の一層の向上を図りつつ、既設炉の再稼働や運転期間の延長を着実に進め、社会からの信頼を得ていかねばならないとした。また、将来にわたる原子力発電の活用に向けて、新増設・リプレースの位置付けの明確化や、原子燃料サイクルの早期確立、高レベル放射性廃棄物処分事業などを着実に推進すべきとも指摘。
今大会のテーマに関し、今井会長は、「世界はコロナ禍の中、経済、気候変動、エネルギーなど、地球規模の様々な課題に直面している。国内外の原子力産業界がこれから歩む道は決して平たんなものではない」とした上で、「海外の先行事例も踏まえ、世界、そして、日本の原子力産業が目指すべき将来について考える機会にしたい」と抱負を述べた。
続いて、長坂康正・経済産業副大臣と上坂充・原子力委員会委員長が挨拶。長坂副大臣は、福島第一原子力発電所の廃炉、福島の復興・再生を筆頭とする資源・エネルギー関連の施策について述べた上で、産業界による原子力イノベーションに向けた取組に関し、「原子力の技術や人材の維持・強化につなげて欲しい」と、積極的な推進を期待。ビデオメッセージを寄せた上坂委員長は、原子力政策を巡る動きとともに、最近の技術開発成果から、可搬型X線源を利用し橋梁の維持管理を行う「インフラ・メディカル」や、ウラン鉱さい由来の放射性医薬品による「セラノスティクス」(治療+診断)などを紹介し、原子力科学技術の多様な応用の可能性を展望した。
大会は、特別セッションに移り、初めに、ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA事務局長のビデオメッセージを紹介。その中で、グロッシー事務局長はまず、新型コロナウイルス拡大に見舞われた1年を振り返り、「世界が直面する課題は昨今複雑化してきた」として、原子力技術の応用が相乗効果を最大限に発揮し、食料安全保障、環境保全など、多くの課題解決に寄与する必要性を示唆した。また、福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過したのに際し、IAEAとして引き続き日本に対する支援とともに、事故の教訓を踏まえ世界の原子力安全向上を図っていく考えを強調。さらに、「原子力は実証済みの脱炭素技術」と明言し、11月のCOP26(グラスゴー)に向けて、「気候変動を語る上で原子力は不可欠」とのメッセージを発信する準備を進めているとした。
この他、歴史家・作家の加来耕三氏の講演、米戦略国際問題研究所(CSIS)所長・CEOのジョン・ハムレ氏へのインタビュー(ビデオ録画)が行われた。加来氏は、徳川家康を例に、戦国武将の実際の人物像と小説・ドラマでの描かれ方との違いを紹介し、歴史を考える上で、(1)常に疑ってかかる、(2)決して飛躍させてはならない、(3)徹底的に数字を重視する――姿勢の重要性を述べ、「根拠のない思い込み」や「無責任な感情論」への危惧を指摘。原子力を過渡的なエネルギーと捉える風潮に疑問を呈し、「何を言われても言い返さない原子力産業界にも責任がある。きちんと主張しないと新たな人材も育たない」と強く叱咤した。ハムレ氏は、米国のコロナ対応、バイデン政権移行後の外交政策・環境政策、原子力の信頼回復に向けた助言などを語った。