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衆院原子力問題調査特別委員会、元国会事故調委員長の黒川氏らを招き質疑

07 May 2021

衆議院の原子力問題調査特別委員会は4月27日、福島第一原子力発電所事故に係る国会事故調の委員長を務めた黒川清氏(政策研究大学院大学名誉教授)らを参考人として招き、最近の原子力政策を巡る課題について質疑応答を行った。

国会事故調は、憲政史上で初の国会に設置された独立調査機関として、現地視察、関係者へのヒアリング、市民対話などを通じ福島第一原子力発電所事故の原因究明に向けた調査活動を行い、2012年7月に報告書を取りまとめ両院議長に提出。報告書は、(1)規制当局に対する国会の監視、(2)政府の危機管理体制の見直し、(3)被災住民に対する政府の対応、(4)電気事業者の監視、(5)新しい規制組織の要件、(6)原子力法規制の見直し、(7)独立調査委員会の活用――の7項目からなる提言を掲げており、事故後の原子力行政の建て直しなどに供されている。

黒川氏

今回特別委員会の冒頭で発言に立った黒川氏は、この3月に福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎え、海外のメディア・アカデミアも含め多くの取材・講演依頼に応じていることに触れ、「『しっかり学ぼう』という気持ちを感じる一方で、日本で行われていることがまだ十分に理解されていないのでは」と、さらにコミュニケーションを図っていく必要性を示唆した。

津島氏

自由民主党議員の津島淳氏は、地元青森県の原子力政策を巡る状況を振り返り、「地元の声が反映されないことが国に対する不信感につながる」として、政策立案・決定のプロセス透明化を政治の立場から主張。その上で、福島第一原子力発電所で発生する多核種除去設備(ALPS)で処理した水の処分に関わる信頼性について尋ねたのに対し、黒川氏は、「トリチウム」という言葉が報道で多用されるあまり、これが疑義に結び付くことを危惧したほか、「元のデータを隠さずにそのまま出すべき」などと述べ、透明性の確保とメディアの役割の重要性を強調。この他、黒川氏は、諸外国から見た日本の技術力に懸念を示し、原子力発電所運転員の海外プラント派遣を通じたスキルアップの必要性などにも言及した。

石橋氏

国会事故調による提言の実現に関しては、事故調事務局を務めた石橋哲氏(東京理科大学経営学研究科教授)が早期に具体化されることを要望。これまでも幾度と参考人として招かれてきた同氏は、憲法の精神に立ち戻って立法府の存在意義を述べた上で、事故後の周年行事の形骸化、原子力を巡る不祥事の頻発を指摘するとともに、「われわれは『忘れない』という情緒的な言葉を反復しながら、『忘れていく』ことを繰り返している」などと、事故の風化を危惧し、「提言を一歩一歩着実に実行し不断の改革の努力を尽くすべき」と訴えた。

橘川氏

参考人として、この他、橘川武郎氏(国際大学大学院国際経営学研究科教授)と鈴木達治郎氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター教授)が発言。総合資源エネルギー調査会委員を務めている橘川氏は、最近のエネルギー政策に関する議論から、(1)新増設・リプレースの議論回避で生じる原子力政策のわかりにくさ、(2)核燃料サイクルの現実性、(3)柏崎刈羽原子力発電所再稼働の厳しさ――について意見を述べた。

鈴木氏

鈴木氏は、福島第一原子力発電所の廃止措置と福島復興プロセスの総合的連携を求め、自身が原子力委員会委員在任中の2012年に同委がまとめた見解「廃止措置に向けた中長期にわたる取組の推進について」や、昨夏日本原子力学会がまとめたエンドステート(廃炉の最終的な状態)までを見据えた提言を引用し、政府や事業者から独立した「廃止措置・復興評価委員会」の国会内設置を提案。

浅野氏

公明党議員の中野洋昌氏が昨今の核セキュリティを巡る事案から東京電力の経営体質について懸念を示すと、橘川氏は、東日本大震災発災から間もない2011年夏の阿賀野川水害時に柏崎刈羽原子力発電所が東北地域の復興を支えた(当時柏崎刈羽1、5~7号機が運転中、東北電力は水力発電所被害のため東京電力より電力融通)ことをあげ、「電力問題の本質は高い現場力と低い経営力のミスマッチに尽きる」とした。また、国民民主党議員の浅野哲氏が今後の原子力人材確保・技術伝承について尋ねたのに対し、鈴木氏は、ポイントとして、(1)ニーズを把握し優先順位を考える、(2)将来の革新技術創出に向け研究基盤を維持する、(3)国内だけでなく国際協力も有効活用する――ことをあげた。

※写真は、いずれもインターネット中継より撮影。

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