原子力産業新聞

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原子力学会、福島第一原子力発電所事故調査で「10年目のフォローアップ」を発表

19 May 2021

日本原子力学会は5月14日、福島第一原子力発電所事故の反省・教訓に基づき2014年に示した提言を踏まえ、関係機関における取組の実施状況に関する調査報告書を発表した。事故から5年目となる2016年の第1回調査に続く、「10年目のフォローアップ」として行われたもので、今後原子力学会として取り組むべき課題についても述べている。〈報告書ダウンロードは こちら

同学会は、2012年に福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会(学会事故調)を立ち上げ、「事故と災害の科学的・専門的分析による背景と根本原因の解明」を目指して、専門家集団の立場からサイト内外で行われた事故対応について調査し、様々な観点から事故の分析評価と課題の抽出を行い、2016年に最終報告書を取りまとめ、刊行。津波・過酷事故対策が不十分であったことなど、「直接要因」とともに、(1)専門家自らの役割に関する認識の不足、(2)事業者の安全意識と安全に関する取組の不足、(3)規制当局の安全に対する意識の不足、(4)国際的に謙虚に学ぼうとする取組の不足、(5)安全を確保するための俯瞰的な視点を有する人材および組織運営基盤の欠如――からなる「背後要因」をあげ、これら要因の改善に向け50項目の提言を示した。

提言では、「背後要因のうち組織的なものに関する事項」として、第一に、専門家集団としての学会・学術界が自由な議論、学際的取組の強化に努める必要性などが指摘されていた。今回の「10年目のフォローアップ」では、原子力学会が2016年より行っている福島復興・廃炉推進に向けた36学協会連携の活動「ANFURD」による情報発信や若手の意見交換を「成果が上がっている」とするなど、学際的取組の進展を評価。その上で、「社会との対話を進め、情報の共有や理解を得て新たな取組に反映させる」、「広い分野での専門家を集めて自由に議論できる仕組み、場を設ける」ことを課題として指摘し、他分野の知見を引き出し具体的な成果があがるよう、学術界におけるリーダーシップの発揮を期待。3月11日に福島第一原子力発電所事故発生から10年を機に同学会が開催したシンポジウムでは、研究者だけでなく、実務者・利害関係者・当事者も問題の発見、知識の創出、成果の普及に関与する「超学際的活動」の必要性が議論された。

原子力人材の育成に関しては、「原子力安全を最優先する価値観の醸成」、「資格制度の充実」、「大学における原子力教育・研究の充実」、「小中高校における原子力・放射線教育の充実」が提言されていたが、この10年間を振り返り、原子力プラントの長期停止による実務経験の機会減少、技術士受験者数の減少、原子力分野の大学教員・研究者の減少、若年層の放射線知識レベルが低い状況などを課題提起。原子力学会としては今後、「各層の教育に積極的に関与し実践すべき」としている。

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