
原産協会は11月21日、「原子力発電に係る産業動向調査 2019報告書」(概要)を発表した。今回、9基の原子力発電プラントが運転していた2018年度を対象に、会員企業を含む原子力発電に係る産業の支出や売上、従事者を有する営利を目的とした企業350社にアンケートを実施し、251社(電気事業者11社、鉱工業他228社、商社12社)から有効回答を得た。それによると、原子力発電を巡る産業の環境は、福島第一原子力発電所事故後の悪化から、新規制基準対応や再稼働により回復の兆しを見せていたが、鉱工業他の原子力関係売上高は前年度比9%減、原子力関係受注残高は同11%減と、いずれも下降。原子力関係売上高を産業構造区分別にみると、「バックエンド」が同23%減、「デコミッショニング」が同25%減となっていた。一方で、電気事業者の原子力関係支出高は同12%増の大幅な伸びを見せており、費目別では、「機器・設備投資費」が同40%増、「燃料・材料費」が同28%増となっていた。また、原子力関係従事者数は、鉱工業他も電気事業者も前年度から微増していた。 原子力発電に係る産業の景況感については、現在(2019年度)を「悪い」とする回答が80%と最も多く、1年後(2020年度)に「悪くなる」とする回答も前年度調査の10%から24%へと増加。「原子力発電所の運転停止に伴う影響」の問い(複数回答)に対しては、「売上の減少」(58%)、「技術力の維持・継承」(56%)をあげる回答が依然として多かった。また、「技術力の維持・継承への影響」の問い(複数回答)に対しては、「OJT機会の減少」(83%)が最も多く、「雇用の確保の困難」(31%)がこれに次いだほか、「企業の撤退・解散等による技術やノウハウの散逸」(26%)が前年度より9ポイント増となっていた。さらに、「自社の技術・ノウハウの維持のために力を入れている工夫」の問い(複数回答)に対しては、「教育・訓練の強化」(77%)が最も多かった。 「原子力発電に係る産業を維持する上での課題」(複数回答)の問いに対しては、「政府による一貫した原子力政策の推進」(73%)が最も多く、次いで「原子力に対する国民の信頼回復」(59%)、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」(58%)となった。また、海外との取引における課題としては、「海外におけるカントリーリスク(政治・経済情勢の変化など)への対応」、「海外の規制・規格への対応」の回答が多かった。
22 Nov 2019
747

日立製作所は11月20日、米国の大手総合病院メイヨー・クリニックと、北米初となる重粒子線治療システムの納入に関して基本合意書を締結したと発表した。重粒子線治療システムは、メイヨー・クリニックの拠点の一つであるフロリダ州の病院に建設予定。〈日立発表資料は こちら〉これを受け、メイヨー・クリニックのジャンリコ・ファルジアCEOは、「重粒子線治療は、従来治療が難しかった患者を治療する方法として、大きな可能性を秘めている」と期待を述べた。また、日立の小島啓二副社長(ライフセクター担務)は、「日立が持つ重粒子線治療システムの実績やデジタル技術、メイヨー・クリニックとのパートナーシップを通じて、北米だけでなく世界中で、先進的ながん治療の実現と社会価値の向上に貢献できる」と、今後の国際展開に意欲を示した。同社の重粒子線治療システムは、2018年に治療をした大阪重粒子線センター「HyBEAT」への国内納入実績があるほか、海外でも台湾の台北栄民総医院から同年に受注となった。重粒子線がん治療は、量子科学技術研究開発機構の放射線医学総合研究所「HIMAC」が1994年に世界初の専用施設として臨床試験を開始した。これに続いて国内では、前述の大阪重粒子線センターの他、群馬大学、神奈川県立がんセンター、兵庫県立粒子線医療センター、九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀)で治療が行われている。量子科学技術研究開発機構が10月に原子力委員会で報告したところによると、近年重粒子線治療施設は、アジア地域を中心に東芝、日立、中国近代物理学研究所による供給が進んでおり、韓国でも東芝製の治療装置が2022年に運用開始となる見込み。
21 Nov 2019
2506

日本経済団体連合会は11月19日、全62業種が参加する「低炭素社会実行計画」の2018年度実績(速報値)を発表。CO2排出総量は、2013年度(日本が国連に提出した約束草案に記載の2030年度温室効果ガス削減目標の基準年)からの5年間で9.9%の削減となった。〈経団連発表資料は こちら〉「低炭素社会実行計画」は、(1)国内事業活動からの排出抑制、(2)連携強化、(3)国際貢献、(4)革新的技術開発――の4本柱を通じ地球規模・長期の温暖化対策に貢献する産業界の自主的取組として、毎年のフォローアップ結果は政府審議会の議論にも供されている。 2018年度の部門別のCO2排出量は、産業部門(製造、建設など)が前年度比2.5%減、エネルギー転換部門(電力、石油など)が同9.3%減、業務部門(電気通信、金融など)が同6.5%減、運輸部門が同16.0%減となり、原子力発電所の再稼働、再生可能エネルギーの活用、高効率火力発電設備の導入など、エネルギーの低炭素化が各部門のCO2排出量削減に効果を及ぼした。2018年度は、関西電力大飯3、4号機、九州電力玄海3、4号機の計4基が原子力規制委員会による新規制基準をクリアし再稼働(営業運転再開)している。今回、速報段階として57業種からのCO2排出削減に向けた取組状況報告をまとめているが、「低炭素社会実行計画」のもと、各業種が掲げるフェーズI目標(2020年度)、フェーズII目標(2030年度)に対し、それぞれ37業種、23業種が既に到達しており、さらに高い目標への見直しを実施した業種もあった。また、今回の発表では、エネルギー多消費型産業における排熱・副生ガスなどを回収・利用した燃料消費量削減の取組が注目される。例えば、セメント業界では、電力使用に占める排熱発電の割合が2018年度に11.2%に達し、鉄鋼業界でも、製造プロセスで発生する副生エネルギーの有効利用を図っており、いずれも省エネルギーやCO2排出削減に大きく寄与したとしている。日本鉄鋼連盟からは、回収蒸気の発電利用などによる年間約680万トンのCO2排出削減効果の算定も報告された。
20 Nov 2019
944

福島県は11月19日、2019年度の 県政世論調査 の結果を発表した。15歳以上の県民1,300人を対象に、復興に関する情報発信、福島イノベーション・コースト構想など、11のテーマについてアンケート調査を実施したもの。618人から有効回答を得た。それによると、震災・原子力発電所事故や復興について知りたい情報としては(複数回答可)、「食品や農産物の安全性確保についての取組・モニタリング情報」が最も多く51.8%、次いで、「廃炉に向けた取組や現状に関する情報」の48.7%、「放射線の健康への影響や健康管理に関する情報」の47.4%となっており、上位3つは2018年度の調査と同じだった。福島県の現状について県外に伝えたいこととしては(複数回答可)、「農産物や県産品の安全性」が最も多く68.9%、次いで、「農産物や県産品の魅力」の43.0%、「観光情報、来県の呼びかけ」の35.1%となっており、これも上位3つは2018年度の調査と同じだった。また、「県は、原子力災害の被災地域の復興・再生に向けて、十分な取組を行っていると思いますか」との質問に対しては、「はい」と「どちらかといえば『はい』」を合わせて49.2%で、2018年度調査の46.4%をやや上回った。「福島県の復興が進んでいると思いますか」との質問に対しては、「はい」と「どちらかといえば『はい』」を合わせて48.5%だった。福島県の復興に必要な取組としては(3つまで回答可)、「環境の回復(除染土の搬出など)」が最も多く42.4%、次いで、「風評払拭・風化防止」の39.3%、「医療介護体制の整備」の36.6%、「子育て・教育環境の整備」の35.0%などとなっている。福島イノベーション・コースト構想の認知状況については、「名前も内容も知らない」と「名前は聞いたことがあるが、内容はあまりよく知らない」が合わせて83.3%だった。知っている取組としては(複数回答可)、「廃炉に向けた取組」が最も多く34.8%、次いで、「ロボット産業推進に関する取組」の30.4%、「新エネルギー導入に向けた取組」の27.5%となった。
19 Nov 2019
938

福島第一原子力発電所の処理水に関する資源エネルギー庁の委員会が11月18日に開かれ、東京電力より貯蔵・処分の時間軸について説明を受け議論した。それによると、福島第一の多核種除去設備(ALPS)による処理水は、10月末時点で貯蔵量は約117万立方m、トリチウム総量は約856兆ベクレルと推定。これをもとに、(1)処分および減衰により単純に毎日定量のトリチウムが減少、(2)処分開始日は2020年1月1日から5年刻みに4ケース、(3)処分完了日は廃炉30年(2041年12月31日)と廃炉40年(2051年12月31日)の2ケース、(4)トリチウム総量は2020年1月1日現在で860兆ベクレル、(5)毎日150立方mの汚染水が発生――などを仮定条件に試算を行った。東京電力は8月の同委員会で、2020年12月末までにALPS処理水用の溶接型タンク約134万立方m分を確保する計画を示し、2022年夏頃にはタンク容量が満杯となるとしている。2020年に処分を開始するケースでは、1年当たりのトリチウム量の減少幅が、2041年末完了、2051年末完了で、それぞれ約39兆ベクレル、約27兆ベクレルとなり、想定保有水量はタンク容量を上回ることはないとした。一方、2025年、2030年、2035年に処分を開始するケースでは、いずれも2022年夏頃に想定保有水量がタンク容量を上回り、2035年ケースでは、処分開始時に保有水量が約200万立方mに達すると想定。また、合わせて、資源エネルギー庁よりALPS処理水の放出による放射線影響について、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の評価モデルを用いた評価結果が示された。海洋放出については、砂浜からの外部被ばくと海洋生物による内部被ばくを考慮し、仮に、タンクに貯蔵されている処理水すべてを1年間で処理した場合、放射線による影響は年間約0.052~0.62マイクロSvと、自然放射線の年間2.1m Svと比較し十分小さいとしている。これに対し、委員からは、希釈やモニタリングも考慮した現実的な時間軸を求める意見とともに、処理後のタンク再利用の可能性を問う声があり、東京電力は「ありうるかもしれないが、処理を終えたタンクは原則解体撤去する」とした。この他、風評対策に関する議論があり、水産業については小山良太氏(福島大学食農学類教授)が首都圏の飲食店を中心に展開される「常磐ものフェア」を、観光関連では開沼博氏(立命館大学衣笠総合研究機構准教授)が海外インフルエンサーの活用や若者向け動画コンテンツが数十万もの閲覧を集めていることを紹介し、これまでと違った新しい方策を考える必要性を強調した。
18 Nov 2019
1017

東芝は11月14日、「東芝 IR Day」を開催。エネルギーシステム、インフラシステム、デジタルなど、7つの事業部門の幹部がそれぞれ事業方針、数値目標、成長に向けた取組について投資家や報道関係者に説明を行った。エネルギーシステムに関しては、東芝エネルギーシステムズの畠澤守社長が説明に立ち、2040年を念頭に置いたビジョンとして、「将来のエネルギーのあり方そのものをデザインする企業として、新しい未来を始動させる」と標榜。「Smart:顧客価値を生む技術力」、「Sustainable:持続可能な発展を生む社会への貢献」、「Profitable:収益を生む健全な経営」の3つの軸を常に意識した事業判断を行っていくとした。エネルギーを取り巻く市場環境については、2030年頃までの発電設備容量・発電量の見通しから、国内外ともに「原子力と火力はほぼ現状維持となる一方、再生可能エネルギーが大きく伸びる」として、今後、点検・保全・更新といったサービス部分の強化など、エネルギー市場の転換に合ったリソース配分を図る考えを述べた。また、営業利益については、2019年度の黒字転換とともに、原子力では2021年度にかけて170億円程度で安定継続となる見通しを示し、「構造改革を含む高利益体質への変換を進めており、これから結果が出てくるもの」と説明。前日に発表された東芝プラントシステム社の完全子会社化に関する質問に対し、畠澤社長は、技術・人材やリスク管理の面で両社が協力し合い、サービス事業拡大のシナジー効果につなげるねらいを強調。また、8月に行われた東京電力ホールディングス、中部電力、日立製作所とのBWR事業に係る共同事業化を目指した基本合意書締結に関しては、「原子力産業の競争力を向上するためには、色々な課題を解決しなければならない」と述べ、現在議論を進めている段階にあるとした。
15 Nov 2019
1847

資源エネルギー庁は11月15日、2018年度エネルギー需給実績(速報)を発表した。それによると、一次エネルギー国内供給は、全体で前年度比1.9%減となり、化石燃料が5年連続で減少する一方、再生可能エネルギーや原子力などの非化石燃料は6年連続で増加。発電電力量は、1兆471億kWh(前年度比1.3%減)で、非化石電源の割合は23.1%(同4.0ポイント増)。全体の構成では、再生可能エネルギーが16.9%(同0.9ポイント増)、原子力が6.2%(同3.1ポイント増)、火力が76.9%(同4.0ポイント減)だった。エネルギー自給率は11.8%(同2.3ポイント増)となった。また、2018年度のエネルギー起源CO2排出量は、前年度比4.5%減の10.6億トンで、5年連続の減少。電力のCO2排出原単位も同4.8%減の0.49kg/kWhとなった。東日本大震災後、増加し続けたCO2排出量は、需要減、再生可能エネルギーの普及、原子力発電所の再稼働により、減少傾向にある。2018年度は、関西電力大飯3、4号機、九州電力玄海3、4号機の計4基が原子力規制委員会による新規制基準をクリアし再稼働(営業運転再開)した。
15 Nov 2019
697
情報通信研究機構は11月7日、太陽活動に伴う通信への影響や放射線被ばくなどに関する情報提供を、国際民間航空機関(ICAO)のグローバル宇宙天気センターのメンバーとして開始した。近年北極上空を飛行する極航路が増加しており、特に高緯度地域では太陽表面で稀に発生する爆発現象「太陽フレア」が人体への被ばくを高めることから、今回の取組を通じ海外の関係機関とともに安心・安全な航空運用に寄与する。同機構はオーストラリア、カナダ、フランスの各政府機関とともに、ICAOグローバル宇宙天気センター「ACFJコンソーシアム」として参画。情報の提供・共有に向けて活用される技術は、太陽放射線被ばく警報システム「WASAVIES」と呼ばれるもの。「WASAVIES」の開発に際しては、同機構の他、日本原子力研究開発機構、国立極地研究所、広島大学、茨城高専、名古屋大学の各機関が分担し、宇宙天気、太陽物理、超高層大気、原子核物理、放射線防護など、様々な分野の研究者が連携した異分野融合研究として達成に至った。 同日の各機関連名の発表によると、地上と人工衛星の観測装置を用いて「太陽フレア」発生時に飛来する太陽放射線の突発的増加をリアルタイムに検出する「WASAVIES」では、高度100kmまでの宇宙放射線被ばく線量が高精度で推定され、乗務員の被ばく線量管理や航空機の運航管理に資するものとしている。 「WASAVIES」は、太陽放射線の(1)地球近傍までの伝搬、(2)地球大気上層部までの伝搬、(3)地球大気内で起こす核反応――の各数値シミュレーションから主に構成されており、これらを統合することで、航空機高度での被ばく線量を計算。急激な被ばく線量の上昇が検知された場合は警報発信となる。名古屋大学を中心に過去の大規模な「太陽フレア」発生時のデータによるシステムの性能評価で有効性も確認。今後は、有人月・惑星探査計画の進展などを見据え、宇宙飛行士の被ばく管理にも利用できるシステムの開発を目指すとしている。 ICAOのグローバル宇宙天気センターは、航空運用に支障を来すおそれのある宇宙天気現象の情報を各国に送信する役割を持ち、「ACFJコンソーシアム」の他、米国、「PECASUSコンソーシアム」(フィンランドなど9か国で構成)の3つが認定されている。
15 Nov 2019
1192
IAEAの「原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定」(RCA)で行われる途上国協力の取組について理解を深めるシンポジウムが11月11日、東京大学本郷キャンパスで開催。約140名の参加者を集めた。RCAのもと、アジア・太平洋地域の開発途上国を対象に、原子力科学技術に関する共同研究、開発、技術移転に向けた相互協力が行われており、今回のシンポジウムは、RCA活動に長く関わるNPO「放射線医療国際協力推進機構」の中野隆史理事長(群馬大学名誉教授)が中心となり、農業、医療、環境、工業の各分野のプロジェクトについて日本の専門家から紹介し議論するものとして企画された。開会に際し、RCAの国内担当機関である外務省より、尾身朝子大臣政務官、松本好一朗・国際原子力協力室長が挨拶に立ったほか、IAEAのダーズ・ヤン事務次長のメッセージを紹介。その中で、ヤン事務次長は、「『平和と開発のための原子力』は、故天野之弥事務局長の重要な遺産」と述べ、RCAが1972年の発足以来これまで、IAEAの活動の一つとしてアジア・太平洋地域の社会経済の発展に大きく貢献してきたと振り返った上で、日本のRCA活動を「リソースを有効に活かした重要な国際貢献」と高く評価し引き続き支援する意を表した。RCAのプロジェクトについては、医療分野で田巻倫明氏(福島県立医科大学)と畑澤順氏(大阪大学)、工業分野で玉田正男氏(量子科学技術研究開発機構)、農業分野で鈴木彌生子氏(農業・食品産業技術総合研究機構)、環境分野で辻村真貴氏(筑波大学)と加田渉氏(群馬大学)がそれぞれ活動内容・成果を発表。田巻氏は、「アジア全体のがん発生数は2040年までに65%増加する」と、プロジェクトを通じた放射線治療専門家育成の意義を述べ、2015年にはこれらの放射線治療医が結集し11か国による「アジア放射線腫瘍学会連合」(FARO)の設立に至ったことなどを披露。 同位体分析による米の産地判別技術の開発を目指す鈴木氏は、「米はアジアの代表的な農作物だが、アジア・アフリカ地域ではプラスチックによるかさ増しや規定以上の残留農薬が問題となっている」と、途上国の食糧事情を憂慮し、安全性・信頼性向上のため、さらに技術開発を進める必要性を強調。「水の保全には循環形態を知る必要がある」として、同じく同位体分析により地下水の年代や流動経路などの研究に取り組む辻村氏は、乾燥地帯の水資源確保とともに、オアシスの起源解明や国境河川における水紛争問題の解決にも貢献する可能性を示唆した。シンポジウムでは、小出重幸氏(日本科学技術ジャーナリスト会議理事)の進行によるパネルディスカッションやポスター展示も行われた。多くの海外取材経験を持つ小出氏は、RCAのプロジェクトに関する発表を受け、「インパクトがあると感じたが、なぜメディアで取り上げられないのか」と述べ、放射線利用を中心とした国際協力の意義を認識する一方、「原子力」、「放射線」、「核」という言葉がその有用性に関する理解を妨げていることなどを指摘した。これに対し、玉田氏は農作物の放射線育種に対し理解が不十分な現状から「エンドユーザーとの協働」を、学生の頃からプロジェクトに関わってきたという田巻氏は「日本人の勤勉さも是非伝えたい」と強調。医師の人材育成に取り組んできた畑澤氏は「ネットワーク作りの場としても重要」と、それぞれ今後のRCA活動に向けて期待を述べた。ポスター展示には14機関が参加し、来場者との活発な質疑応答が見られた。
15 Nov 2019
1460
日本原子力研究開発機構が最近1年間の活動について紹介する報告会が11月12日、都内で開催された。冒頭、同機構が10月末に取りまとめた「将来ビジョン『JAEA2050+』」について、児玉敏雄理事長が説明。最新の研究開発成果の発表とともに、同ビジョンが描く「原子力機構の研究と社会との関わり」をテーマにトークセッションも行われ、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会委員長を務める持続性推進機構理事長の安井至氏、日本エネルギー経済研究所原子力グループマネージャーの村上朋子氏らが登壇。産業界からは、中性子線解析でリチウムイオン電池の研究開発などに取り組む日産アークの松本隆常務より、「JAEA2050+」で実現を目指す未来社会「Society5.0」を展望し、AIを活用した材料分析の将来像が披露された。また、「福島の復興・再生」をテーマとするトークセッションも合わせて行われ、飯舘村復興対策課専門員(農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員)を務める万福裕造氏、福島イノベーション・コースト構想推進機構専務理事の伊藤泰夫氏、東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座講師の越智小枝氏、経済産業省福島復興推進グループ長の須藤治氏らが討論に臨んだ(=写真)。福島第一原子力発電所事故後、被災地での医療活動に取り組む越智氏は、事故発生から8年以上が経過した現在、病院や商店などの復旧が未だ進まず、「『日常を生きる』ということが一番難しいと感じる」と強調。また、行政の立場から、須藤氏は、「一人一人が幸せに生活できて復興は達成する」として、被災地の約8,000もの事業所を訪ねる取組を通じ、「廃業したところもあるが、徐々に事業が再開している」と、産業復興の現状を述べた。これに対し、伊藤氏は、「企業にとって働く人がいないことが最大の課題」と憂慮した上で、南相馬市に整備を進めている「福島ロボットテストフィールド」を中核として、産業の集積が促進することを期待した。再生資材化した除去土壌による農地造成の実証事業について説明した万福氏が、「高齢化が進み危機的状況。若い人たちを呼び込む施策が必要」と営農再開が滞る現状を訴えると、須藤氏は、南相馬市小高区で進められるスマート農業に相馬農業高校から2人の卒業生が就職したことをあげ、「浜通りでしかできない新しい一次産業の形を作り出すこと」などと、今後の課題を指摘。原子力機構で福島研究開発部門を担当する野田耕一理事は、福島県内の機器メーカーやマリンレジャー企業との協力で得られた無人船開発の成果を例に、「地元企業と連携し福島の復興につなげていきたい」と述べた。
13 Nov 2019
876

福島県の内堀雅雄知事は11月11日の定例記者会見で、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故からの復興途上にある中、先般の台風19号襲来に伴う大災害が重なったことについて、「引き続き避難元・避難先の市町村と連携しながら、生活再建情報の提供や心のケアに関する相談など、きめ細かな支援に努めていく」と述べた。また、知事は、台風19号による多くの犠牲者発生や家屋の浸水について「極めて甚大な被害」と改めて強調した上で、これまでの各方面からの支援に対し謝意を表する一方、他県にわたる大規模水害の特殊性や交通の利便性によりボランティアの集まりに偏りがあったことを一つの課題にあげ、今後改善に向けた議論を深めていく考えを述べた。去る7日に行われた政府の復興推進委員会で、福島県は、2020年度までの「復興・創生期間」以降の取組に関わる要望の中で、「復興・再生を目指し軌道に乗ってきたものが台風によって壊されてしまった事業者や農家に対し、通常の災害とは異なる手当てが必要」と、県としての特殊性に鑑み制度・財政面上、特段の配慮を訴えている。同委員会では、今後の復興施策に関し、地震・津波被災地域と原子力災害被災地域とは復興の進捗状況が大きく異なるとして、両者を区分し整理した「『復興・創生期間』後における東日本大震災からの復興の基本方針」の骨子がまとめられた。
11 Nov 2019
988
湖底に堆積した地層が描く縞模様「年縞」を用いた年代測定研究に関する企画展示が文部科学省庁舎のイベントスペース「情報ひろば」で開催されている。この企画展示は立命館大学によるもので、展示期間中、同学古気候学研究センター教授の中川毅氏らによる講演が行われた。「年縞」は、木の年輪のように、季節によって異なる明暗1対の層が1年に1つずつ重なって形成されたもので、縞を数えることでその年代を特定することができる。一方、遺跡から出土した遺物などに含まれる放射性炭素14の残存量を測定しその年代を知る「放射性炭素年代測定法」があるが、生物では年代によって炭素14の量が変動しており、遺骸だけからでは正確な年代が特定できない。福井県三方五湖の一つ水月湖では、好条件が幾つも重なり、世界にも類を見ないほどの年月にわたり「年縞」が形成され続け、その数は湖底から45mまで約7万年分にも及んでいる。例えば、水月湖「年縞」の13,927層目から出土した葉は13,927年前のものとなり、同じ葉を炭素14の残存量で調べた結果との差が補正される、つまり水月湖「年縞」から得られたデータを「放射性炭素年代測定法」の較正に用いることができる。これは、較正曲線「IntCal13」として国際的に評価されており、「年縞」の研究に深く取り組んできた中川氏は、「歴史を測る世界標準のものさし。水月湖は地質学の『グリニッジ天文台』」と、その意義を強調した。また、合わせて講演を行った同センター准教授の北場育子氏は、現在、メキシコの湖で発見された「年縞」により、マヤ文明の盛衰と気候変動の関係を研究しているという。同氏は、地球の歴史の中で繰り返された間氷期・氷期と天体運動の関係について説明。その中で、間氷期の安定した気候が文明の繁栄をもたらしたとする一方、「現在進行中の地球温暖化は、単なる気温上昇ではなく、これまで経験したことのない異常なモードにある。想像以上に脆い気候の安定化の上に文明は成り立っている」などと、昨今の気候変動に警鐘を鳴らした。文科省の同企画展示は8日までだが、水月湖「年縞」に関する展示・説明は福井県若狭町の 年縞博物館 で行われている。
06 Nov 2019
3384

政府は11月3日、秋の叙勲 を発表。原子力関連では、旭日大綬章を元九州電力社長の松尾新吾氏、科学技術庁長官や財務大臣などを歴任した谷垣禎一氏が受章した。松尾氏は、2003~07年の九州電力社長在任中、国内初となった玄海原子力発電所3号機のプルサーマル導入に向けて、地元への理解活動などでリーダーシップを発揮した。また、九州経済連合会会長も務め、電気事業の発展とともに九州地方の産業振興に尽力した。谷垣氏は、1997年の第2次橋本改造内閣発足で科学技術庁長官として初入閣。折しも、「もんじゅ」事故や東海再処理施設火災爆発事故の発生、その後の対応により「経営の不在」が問題視されていた旧動力炉・核燃料開発事業団の建て直しに取り組んだ。また、旭日重光章を元経済産業副大臣の松宮勲氏、前島根県知事の溝口善兵衛氏が、瑞宝重光章を元文部科学審議官の青江茂氏、元科学技術事務次官の岡﨑俊雄氏、京都大学名誉教授の佐和隆光氏が受章した。松宮氏は2012年の第3次野田改造内閣発足で経済産業副大臣に就任し、東日本大震災後のエネルギー政策の見直しに、溝口氏は2007~19年の3期12年にわたり島根県知事を務め、立地地域として島根原子力発電所の安全・防災対策の強化に取り組んだ。青江氏は文部科学審議官在任中、ITERの国内誘致に向け国際対応に臨んだほか、退任後は旧日本原子力研究所副理事長を務めるなど、科学技術行政とともに原子力研究開発の推進にも尽力した。また、岡﨑氏は科学技術事務次官在任中、1999年にJCO臨界事故が発生したのを受け、その後の原子力安全行政の刷新に先鞭を付けた。さらに、退任後は、旧日本原子力研究所の理事長を務めたほか、2005年に同所と旧核燃料サイクル開発機構とが統合し日本原子力研究開発機構が発足した後は、2007~10年に2代目理事長として、初代殿塚猷一理事長を引き継ぎ新法人の経営を軌道に乗せた。佐和氏は原子力委員会の専門委員として2000年の原子力研究開発利用長期計画の策定審議に参画した。
05 Nov 2019
1065

日本原子力研究開発機構は10月31日、2005年10月の発足から15年目を迎えたのに際し、2050年を見据えた将来ビジョン「JAEA2050+」を発表した。同機構が将来にわたって社会に貢献し続けるため、2050年に向けて「何を目指し、何をすべきか」を取りまとめたもの。原子力のポテンシャルの最大限追求、福島第一原子力発電所事故の反省に立ち原子力安全の価値を再認識した「新原子力」の実現を標榜。取り組むべき研究テーマとしては、「安全の追求」、「革新的原子炉システムの探求」、より合理的な放射性廃棄物の処理処分などに向けた「放射性物質のコントロール」、安全・迅速・効率的な廃止措置技術開発に取り組む「デコミッショニング改革」や、原子力以外の分野とも協働した「高度化・スピンオフ」、「新知見の創出」を掲げ、横断的かつ戦略的に推進するとしている。この他、「組織づくりと人材確保・育成」、「国際協力・国際貢献」、「地域の発展」、「持続可能な原子力利用のための取組・挑戦」の各観点から将来ビジョンについて整理。原子力機構が目指す組織としては、「原子力コミュニティだけにとどまらず、他分野のセクターと連携・協働し、将来社会に貢献できる組織」をつくっていくとしている。また、人材像としては、「グローバルな活躍の成果を社会に還元・実装できる」、「新しい“モノ”や価値を創造できる」、「様々な分野で活躍できる」、「協働して施設の安全確保に貢献できる」、「対話により社会との相互理解を深められる」をあげ、幅広い分野から人材確保・育成を進めることを強調。
01 Nov 2019
2301
東京電力は10月31日、福島第一原子力発電所2号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しを、原子炉建屋上部を全面解体せず、南側外壁に開口を設置しクレーンを用いる工法で行うと発表した。 同機の燃料取り出しについては、これまで原子炉建屋上部を全面解体するプランが選択肢としてあげられていたが、ダスト飛散対策や作業被ばく低減の観点から、原子炉建屋内の線量低減傾向なども含め総合的に評価し今回の選択となった。従来のプランに比べ、燃料取扱い完了までの総被ばく線量は約2割減と評価されている。 2号機使用済み燃料プールからの燃料取り出し開始は、中長期ロードマップで2023年度目処とされており、今後、工法に関わる詳細設計を進め、年度内を目標に工程の精査を行うこととしている。同機の使用済み燃料プールには、使用済み燃料587体、新燃料28体が保管されている。
01 Nov 2019
1819
福島県産水産物の美味しさと魅力を首都圏の消費者にアピールする「ふくしま常磐ものフェア」が10月1日に始まった。農林水産省が取り組む福島復興・再生事業の一環として福島県主催で実施されるもので、都内および横浜市内の25の飲食店を通じ、産地直送の県産魚介類「常磐もの」を用いたオリジナルメニューを提供することで、地域ブランドの認知度向上、消費者ニーズの醸成を図り、新たな販路開拓につなげるのがねらい。「誰にも食べさせたくないくらい美味しい」と県産魚介類の味を自慢する福島漁連会長の野﨑哲氏水産庁が9月に発表したところによると、福島県内では、2017年度までに東日本大震災で被災した漁港の陸揚げ機能がすべて回復したものの、小名浜魚市場の水揚金額は震災前年比39%、水揚量は同49%などと低迷しており、漁業再開や水産加工業の復興とともに、風評払拭や販路開拓の取組も求められている。「四家酒造店」(いわき市)の7代目蔵元・四家久央さんがふくしまの酒を提供同日、フェアに参加する25店舗の一つ海鮮居酒屋「三茶まれ」(東京世田谷区)でオープニングセレモニーが行われた。主催者を代表し挨拶に立った福島県水産事務所長の水野拓治氏は、厨房から運ばれるヒラメ、ホッキガイ、ホウボウなどの「常磐もの」を使った料理を目に、「栄養豊富な『親潮』と温かい『黒潮』がぶつかる福島県沖は美味しい魚が獲れる」と、漁業関係者の抱く操業再開に向けた意欲を強調し、「今まで以上に福島県産水産物のファンになって欲しい」と、店内の来客たちに訴えかけた。 「ふくしま常磐ものフェア」は10月15日までの第1回に続き、第2回が同一店舗で11月1~15日にも実施される。*「ふくしま常磐ものフェア」実施店舗はこちらをご覧下さい。
02 Oct 2019
928
近畿大学医学部の研究チームはこのほど、耐放射線ゴム材料で定評のある早川ゴムと共同で、加温(60度C程度の湯)することで柔らかくなり常温で型を維持できる放射線遮蔽材「シーラー Soft Tungsten Rubber」(STR、=写真〈近畿大学ホームページより引用〉)を開発したと発表した。早川ゴムは、大強度陽子加速器施設「J-PARC」(東海村)の建設資材となるゴム材料の開発で、高放射線環境下でもゴム本来の弾性体としての機能を維持することや耐震性などの技術課題をクリアしてきた。今回開発された「STR」は、同社独自の特殊配合技術によりゴムが持つ柔軟性・加工性と放射線遮蔽能力を兼ね備え、成型加工が容易な特徴から、従来の有毒な鉛やアンチモンに替わる遮蔽材として、放射線治療を行う際の副作用低減や高精度化に寄与することが期待される。また、「STR」は再利用が可能。創業100年を迎える早川ゴムは、戦前に端を発するタイヤゴム再生など、環境負荷低減に長く取り組んでいる。近畿大学の発表によると、「STR」は、皮膚の表面に直接装着させた状態で電子線照射を行うことができ、特に呼吸による位置変動が大きい部位や小さな照射野に対しより高精度な治療が見込めるほか、手術直後に傷口への放射線治療を施すことがあるケロイドなどでは、遮蔽材の加工時間の大幅短縮による早期治療開始で再発が抑えられる可能性もあげている。
01 Oct 2019
1626
福島第一原子力発電所の処理水に関する資源エネルギー庁の委員会は9月27日、前回8月の会合で示された貯蔵継続に係る事実関係を整理した上で、風評被害への対応策を議論した(=写真)。前回の会合で、東京電力は、多核種除去設備(ALPS)により浄化された処理水の保管状況とタンクの建設計画から、2022年夏頃に貯留水が満杯となる見通しを示したほか、今後の廃炉作業に必要となる敷地利用や、敷地外保管の可能性について説明した。これを踏まえ、27日の会合では、福島第一原子力発電所周辺への敷地拡大の可能性や敷地の有効活用などについて改めて整理。委員から質問の出ていた発電所に隣接する中間貯蔵施設(除去土壌等)予定地への敷地拡大に関し、資源エネルギー庁は、国が地元や地権者の方々に説明し受け入れてもらっている関係上、「難しい」とした。また、東京電力は、廃炉の進展に伴い2020年代後半にかけて設置を検討する8施設の概ねの整備時期を示した上で、貯留水タンクエリアの効率化や廃棄物処理作業の進捗などにより、空き地ができる可能性があるとして、「現在の福島第一の敷地内で廃炉作業をやり遂げる」と強調。風評対策に関して、資源エネルギー庁は、「貯蔵を継続する中でも、処分を行う際にも、風評への影響を最小限度に抑える対応策を検討することが必要」などとした上で、(1)具体的な懸念を抱く層への情報提供・丁寧な説明、(2)流通・消費の実績を見せることで不安を払拭、(3)流通関係者への働きかけ、(4)新商品開発・新規販路開拓、(5)海外への対応――との素案を提示した。また、東京電力からは、国内外で実績のある海洋放出と水蒸気放出について、風評抑制に向けた設備対応の検討状況が説明された。委員からは、「漁業復興の時間軸も十分考えるべき」、「海外メディアから誤解を招かぬよう」といった意見があった。
30 Sep 2019
872

原産協会の高橋明男理事長は9月26日、月例のプレスブリーフィングで、同日発表の 理事長メッセージ「原子力イノベーションの促進と安全規制」、および16~20日に開催されたIAEA総会の概要について説明した。理事長メッセージでは、2019年度の経済産業省新規事業「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業補助金」の採択事業者がこのほど決定・公表されたのを受け、新型炉開発が先行する北米の取組を紹介した上で、こうした支援策に加え、安全規制面でも規制当局の早期関与を得ることにより、新型炉開発が円滑に進むよう期待している。例えば、SMR開発に力を入れているカナダでは、原子力安全委員会(CNSC)の「許認可前ベンダー設計審査」(VDR)提供などにより、効率的に安全審査が進むことが見込まれている。また、IAEA総会(9月17日既報(1)、(2))への出席については、先の内閣改造で入閣した竹本直一科学技術政策担当大臣による政府代表演説が行われたほか、多くの出席者から7月に逝去した天野之弥事務局長への哀悼の意とともに、同氏の3期10年にわたる在任中の功績に対する敬意の声が寄せられたことを述べた。記者からは、フランスの高速炉「ASTRID」の開発中断に関する報道について質問があり、高橋理事長は、同国の原子燃料サイクルの方向性に変わりはないとした上で、「これまでのフランス側との議論の中で色々な課題があげられており、検証していかねばならない」との認識を示した。「ASTRID」は、当初電気出力60万kWの実証炉として計画され、2014年より日仏間での開発協力が開始しているが、2018年6月に資源エネルギー庁の高速炉開発に関する戦略ワーキンググループで、フランス原子力・代替エネルギー庁より、規模を10~20万kW程度に縮小して実施する新たなプログラムが示された。
27 Sep 2019
757
先の内閣改造で初入閣した萩生田光一文部科学大臣は9月25日、記者団とのインタビューに応じ抱負を語った(=写真)。科学技術政策の関連で、原子力分野の人材育成について問われたのに対し、萩生田大臣はまず、エネルギー基本計画に記されている原子力の位置付け「安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」を改めて述べた。その上で、「事故を起こした国だからこそ、より安全性の高い原子力利用を考えることができると思う。そのためにも原子力を学ぶ人たちが失われぬよう、教育現場とも連携していきたい」と、原子力人材確保への取組姿勢を示した。また、大規模な国際協力プロジェクトの関連で、線形加速器「国際リニアコライダー」(ILC)の日本誘致について考えを問われると、計画自体の必要性は認めながらも、「実際に建設するとなると、あまりに膨大な予算が必要。一国で抱えるには問題があるのでは」として、適切な資金配分のなされるパートナー国の模索など、引き続き関係機関と検討していく考えを述べた。さらに、イノベーション創出については、「研究成果を社会に還元する仕組み作りに力を入れていく。埋もれてしまっている研究も発掘してみれば面白いと思う。民間からも協力を得て是非活路を見出していきたい」と、産学官連携で取り組む考えを強調。萩生田大臣は、宇宙科学分野で開発されたGPSがナビゲーション・システムなどに応用されていることや、ロケット製作で開発された断熱材が住宅に、無重力環境に対応するトイレが介護問題にも資する可能性に言及したほか、「日本のものづくり産業の礎」として、高専による実践的な技術者教育の重要性も強調した。
26 Sep 2019
880
日本原子力研究開発機構は9月20日、ポーランド国立原子力研究センター(NBBJ)と、「高温ガス炉技術分野における研究開発協力のための実施取決め」に署名した。 両者は2017年、日本・ポーランド外相間で合意した戦略的パートナーシップの行動計画に基づき、「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」に署名しており、これまでも高温ガス炉分野において、技術会合や人材育成などの協力を進めてきた。このほど署名された実施取決めにより、高温ガス炉の高度化シミュレーションのための設計研究、燃料・材料研究、原子力熱利用の安全研究など、さらに協力を具体化させていく。 また、原子力機構は、高温工学試験研究炉「HTTR」(現在、新規制基準適合性審査のため停止中)の建設・運転を通じて培った国産高温ガス炉技術の高度化、国際標準化を図り、ポーランドとの技術協力でさらなる国際展開の強化を目指す。 本件に関し記者団への説明に当たった同機構高速炉・新型炉研究開発部門次長の西原哲夫氏は、今回の実施取決めによる協力では、データの共有など、ソフト面が主となるとしており、今後に向けて「ものづくりの段階でメーカーの参画にもつなげていければ」と期待を寄せている。 電力供給の8割以上を石炭に依存するポーランドでは現在、その依存度を下げることが喫緊の課題となっており、石炭火力リプレースの候補とされる高温ガス炉導入の意義として、天然ガス輸入依存からの脱却、CO2排出の削減、競争可能なコストでの産業への熱供給などがあげられている。 高温ガス炉導入に関わる諮問委員会の報告書によると、現在設計段階にある研究炉(熱出力1万kW)に続き、商用炉(同16.5万kW)の予備設計も開始されつつあり、2026~31年の初号機建設を目指している。
24 Sep 2019
2255

日本学術会議の臨床医学委員会は9月19日、CT検査による画像情報の活用に向けた提言 を発表した。全身の様々な部位を短時間で画像化できる一方で、単純X線撮影に比べ高い放射線被ばくを伴うことや、近年の病変見落としなどの問題から、本提言ではCT検査を中心とした画像診断情報利用の現状と問題点を整理。その上で、(1)画像検査の適正利用の推進および画像診断体制の改善、(2)検査依頼医による画像診断報告書確認の医療情報システムを用いた支援、(3)人的システムによる画像診断情報伝達の補完、(4)画像検査に関わる教育の充実――に関し、今後望まれる取組についてまとめている。提言によると、世界的に見て日本では、多くのCT装置が設置されており、検査の件数も年間3,000万件程度と、世界最多水準に上っているという。さらに、撮影の高速化により1回のCT検査による画像数も増加していることから、「画像上で異常が抽出されても、これを医師が認識して適切に診断し、治療方針に生かされなければ意味がなく、放射線被ばくによる不利益だけが残る」、「画像情報量が増大する一方で、画像診断を担当する放射線科医の数が不足」などと指摘。これに関し、日本を含む8か国のCTとMRIによる検査について調査した論文を紹介し、日本では放射線診断医1人当たりの検査数が他国のおよそ3~4倍だったと述べている。また、提言では、全身の様々な臓器を画像化できることから、「検査の目的外の重大な異常が偶発的に発見されることも稀ではない」と、CT検査の有用性を評価する一方、検査を依頼する医師に関して「専門外の異常の診断に弱点がある」などと、誤診や見落としの危険性を指摘。例えば、腎臓がん手術後のケアのため大学病院で半年ごとにCT検査を受けていた40代男性が、放射線科に画像診断が委ねられ、主治医によるチェックが不十分だったことなどから、3年間にわたり肺がんが見落とされていたという事例もある。こうした事例から、放射線診断医が主治医に診断結果を伝える画像診断報告書の重要性について述べ、「放射線診断医とのコミュニケーションによりCTからの情報を最大限に生かす」よう求めている。さらに、画像診断の充実化に向け、電子カルテなどの医療情報システムの活用については関係学会による標準的なモデルの作成を、医療機関に対しては医師間の情報共有の意識高揚を、大学医学部に対しては放射線診断に関わる臨床研修の拡充などを提言。近年、健康寿命への関心が高まり、放射線科を舞台としたドラマが人気を博すなど、画像診断に注目が集まりつつある。学術会議の臨床医学委員会では、2017年にも「CT検査による医療被ばくの低減に関する提言」を発表している。
20 Sep 2019
1099
日本原子力研究開発機構は9月18日、原子力規制委員会に、材料試験炉「JMTR」(熱出力5万kW、=写真)の廃止措置計画の認可申請を行った。「JMTR」は、2006年に運転を停止した後、炉心周辺設備更新のため2007~10年度にかけて改修が行われ、福島第一原子力発電所事故後は、再稼働を目指し2015年3月に新規制基準の適合性審査に入ったが、耐震補強などに要する費用・年数から、2017年4月に原子力機構が公表した「施設中長期計画」で廃止施設に位置付けられた。廃止措置の全体工程は、「解体準備」、「原子炉周辺設備の解体撤去」、「原子炉本体設備の解体撤去」、「管理区域解除」の4段階からなっており、2039年度に完了する予定。原子力機構の原子炉施設に関しては、中性子利用に供する研究炉「JRR-3」、原子炉安全性研究炉「NSRR」、定常臨界実験装置「STAYCY」が新規制基準の適合性審査をクリア(原子炉設置変更許可)し、「NSRR」は2018年6月に運転を再開。「JRR-3」は2020年度中の運転再開を目指している。この他、高温工学試験研究炉「HTTR」、高速実験炉「常陽」は現在、同審査中となっている。また、既に廃止措置が進められている高速増殖原型炉「もんじゅ」では、9月17日に炉心からの燃料体取り出し作業が始まった。
19 Sep 2019
2156
内閣府(原子力防災)は9月18日、2019年度の原子力総合防災訓練の実施計画について原子力規制委員会の定例会合で説明した。原子力災害対策特別措置法に基づき毎年行われるもので、今回は中国電力島根原子力発電所を対象に11月上旬に実施。同発電所で原子力総合防災訓練が行われるのは、根拠法施行後初の実施となった2000年以来、19年ぶりとなる。 今回想定する事象は、「島根2号機(BWR、82万kW)において、島根県東部を震源とした地震による外部電源喪失後、非常用炉心冷却装置による原子炉への注水を実施するも、同装置にも設備故障等が発生し、原子炉へのすべての注水が不能となり、全面緊急事態となる」というもの。規制委員会が定める原子力災害対策指針で「緊急時防護措置を準備する区域」(UPZ)とされる発電所から30km圏内は、島根・鳥取の2県にまたがっており、島根県庁所在地の松江市全域が含まれ人口の多いエリアとなっている。 訓練実施計画の説明に当たった内閣府担当者は、中央と地方自治体の連絡調整や住民防護の手順に関わる実効性を確認し、避難計画の検証・改善などにつながるよう、「できるだけリアルな訓練としたい」と述べた。 現在、島根2号機は新規制基準適合性の審査が行われており停止している。
18 Sep 2019
975