海外NEWS
28 Jun 2024
348
韓国 SMR産業ハブを創設へ
国内NEWS
28 Jun 2024
315
規制委 大飯3-4号の30年超運転認可
海外NEWS
26 Jun 2024
470
ロシア ベトナムの原子力科学技術センター建設を支援
海外NEWS
26 Jun 2024
651
中国 初の産業用原子力蒸気供給プロジェクトが本格稼働
国内NEWS
26 Jun 2024
670
原子力白書 放射線を特集
国内NEWS
26 Jun 2024
578
日本発 新規放射性治療薬の有効性を確認
海外NEWS
25 Jun 2024
442
韓国 HLW地下研のサイト提案を募集
海外NEWS
25 Jun 2024
541
加サスカチュワン州 原子力サプライチェーンの構築などでMOU
韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は6月20日、韓国南東部の慶尚北道(キョンサンブクト)の慶山市で主催した討論会で、小型モジュール炉(SMR)の産業ハブ創設の計画を明らかにした。ユン大統領は、慶山市の嶺南大学校で「北東アジアのハイテク製造イノベーションハブ、慶北」をテーマに主催した第26回目の国民との討論会において発言。慶尚北道の地域住民、原子力発電所や水素などの新エネルギー産業に関わる起業家や中央政府・地方政府などから100名以上が参加した。ユン大統領は挨拶の中で「慶尚北道が新たな飛躍を遂げるためには、産業構造の革新が何よりも重要だ」とし、エネルギー産業の拠点形成を重視。慶尚北道はこれまで、鉄鋼業や繊維産業を通じて韓国の輸出を牽引してきたが、現在、水素やバイオなどの新たな成長分野を発掘・推進しており、政府は慶尚北道の産業革新を積極的に支援すると強調した。具体的には、慶州市に3,000億ウォン(約330億円)規模を投じ、「SMR産業ハブ」を創設するとしている。欧米諸国などが2030年代初頭にSMR導入を目指す中、今後は炉型開発だけでなく、SMRの機材製作や建設面でもグローバルなSMR市場をリードすることを狙う。また、産業通商資源部(MOTIE)が、来年までに800億ウォン(約88億円)の原子力産業成長基金を創設することを紹介。SMR産業を牽引する革新的な機器製造企業を支援し、慶尚北道のSMR製造能力を着実に強化し、世界のSMR製造拠点に成長できるよう技術面のインフラ整備を積極的に支援することが目的。さらに現在、蔚珍郡で計画中の新ハヌル3、4号機(APR1400、各140万kWe)を滞りなく建設し、慶尚北道が原子力産業の復興と新産業化において主導的な役割を果たせるよう後押しすると表明した。新ハヌル原子力発電所3、4号機の新設計画は、ムン・ジェイン(文在寅)前大統領の政権下の脱原子力政策により建設計画が凍結されていたが、現政権下で再開された。また、SMRのハブ化に加え、慶尚北道を「水素産業のハブ」にするため、東海沿岸に「水素経済産業ベルト」を創設する8,000億ウォン(約880億円)のプロジェクトを支援すると表明。政府は現在、慶尚北道の浦項市において水素燃料電池の国産化を推進する「水素燃料電池クラスター」とともに、蔚珍郡に原子力を利用した「原子力水素国家工業団地」の創設を推進中とし、今後、さらに加速していくと語った。
28 Jun 2024
348
露ロスアトムのA.リハチョフ総裁は、ロシアの公式代表団の一員としてベトナムを訪問。ロシアとベトナムの首脳会談に先立ち、6月19日、ベトナムのファム・ミン・ティン首相と会談した。リハチョフ総裁は、ベトナムにおける原子力科学技術センター(CNST)建設プロジェクトの状況、原子力発電所建設に関する協力再開の見通し、その他関連分野での二国間協力の進展について同首相に伝えた。また同日、リハチョフ総裁はフイン・タイン・ダット科学技術相と会談し、ベトナムにおけるCNST建設プロジェクトの実施状況と計画、関連する科学技術分野での協力、ベトナムの原子力産業に携わる人材育成について協議した。6月20日、プーチン大統領のベトナム公式訪問の枠組みの中で、ロスアトムとベトナム科学技術省は、CNST建設プロジェクトの2027年までのスケジュールに関する覚書に調印。両国間の包括的戦略的パートナーシップの更なる深化に向けた共同声明で、CNST建設プロジェクト実施の加速化で合意したことが盛り込まれた。
26 Jun 2024
470
中国核工業集団公司(CNNC)は6月19日、中国初の産業用原子力蒸気供給プロジェクト「和気1号」(Heqi-1)を完成、本格稼働を開始した。江蘇省連雲港市の田湾原子力発電所3、4号機(PWR=VVER-1000、各112.6万kWe)から近隣の連雲港石油化学工場に蒸気を供給する。今年2月末に試運転が開始されていた。両機の二次系統から蒸気を取り出し、多段階の熱交換を経て、断熱された地上パイプラインで工場に運ぶ。パイプラインの総距離は23.36km。毎時600トン、年間8,000時間の連続運転による産業用蒸気の製造が可能で、年間480万トンのゼロカーボンの蒸気を発電所から工場への供給が期待されている。これは石炭の燃焼を年間40万トン削減することに相当し、それぞれ二酸化炭素(CO2)=107万トン、二酸化硫黄(SO2)=184トン、窒素酸化物(NOx)=263トンの排出削減に相当するという。CNNCは、国家能源局(NEA)と国家原子能機構(CAEA)下で国務院の「2024-2025省エネ・炭素削減行動計画」の実施に取り組んでおり、本プロジェクトは「グリーンで低炭素の先端技術実証プロジェクト」の第1陣の位置付け。グリーン、安全性、安定性、高効率を特徴としている。CAEAの黄明全(Huang Mingquan)秘書長は、今後も発電だけでなく、産業、農業、医療、環境保護、安全保障などの分野で原子力の広範な利用を強力に推進していくと語った。
26 Jun 2024
651
韓国の産業通商資源部(MOTIE)と韓国原子力環境公団(KORAD)は6月18日から高レベル放射性廃棄物研究のための地下施設のサイト候補地を募集している。韓国政府の第二次高レベル放射性廃棄物管理基本計画(2021年12月)と高レベル放射性廃棄物研究開発ロードマップ(2024年2月)に定められた放射性廃棄物管理技術開発方策に基づく措置。地下研究施設は、実際の処分施設と同規模の深度、地下500mで韓国の岩盤特性と処分システムの性能を研究するための施設。同施設は、高レベル放射性廃棄物処分施設とは完全に別の場所に建設され、放射性廃棄物や使用済み燃料は施設エリア内に受け入れず、研究目的のみに使用される。研究施設は、専門的な人材育成と国内の地質環境に適した処分技術の開発に主眼を置き、一般市民にも高レベル放射性廃棄物処分施設に近い環境を体験する機会を提供する。研究施設で開発された技術は、法令に基づき、高レベル放射性廃棄物処分施設のサイト選定、建設、管理の過程で活用される。KORAD傘下のサイト評価委員会が、地方自治体から提出されたサイト提案を地質など8項目の基準で評価し、2024年内の選定プロセスの完了を目指す。2026年に着工、2032年の完成を計画しており、運転期間は2030年から約20年間を計画する。MOTIEとKORADは、関心のある地方自治体向けにサイト選定プロセスを説明する説明会を6月25日に開催。関心表明とサイト提案は、それぞれ7月19日と8月2日までにKORADに提出を求めている。
25 Jun 2024
442
カナダ中西部サスカチュワン州の州営電力であるサスクパワー社は6月17日、米ウェスチングハウス(WE)社及び加カメコ社(本社:サスカチュワン州)と、サスカチュワン州の将来のクリーン電力ニーズに向け、WE社の新型炉と関連する核燃料サプライチェーンの可能性を評価する了解覚書(MOU)を締結した。MOU締結により、WE社製の「AP1000」と小型モジュール炉(SMR)の「AP300」などWE社の新型炉を長期的な電力供給計画に向けて展開する、技術的および商業的な道筋を検討する。この枠組みで、サスカチュワン州を拠点とする、燃料も含めた原子力サプライチェーンの評価を行う。また、サスカチュワン州の大学や職業訓練校と連携して、原子力研究開発およびトレーニングで協力する機会についても検討する。サスクパワー社は、サスカチュワン州初となるSMRの建設について、2029年に最終投資決定(FID)を行う予定だ。同社は、サスカチュワン州で建設される全原子炉を対象に、サスカチュワン州産のウラン利用を計画している。なお、同社は2022年6月、サスカチュワン州で2030年代半ばまでに導入可能性のあるSMRとして、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製BWRの「BWRX-300」を採用すると発表。加オンタリオ・パワー(OPG)社がオンタリオ州内のダーリントン原子力発電所サイトで建設を計画するSMRとして「BWRX-300」を選定しており、同じ設計を選択することで、規制面や建設・運転面のコストが低く抑えられるほか、初号機建設にともなうリスクも回避されると説明している。本MOUの締結に際し、サスクパワー社のR.パンダャ社長兼CEOは、「原子力産業において重要な専門知識を有する組織の知識の活用は、電力の将来に関して責任ある情報に基づいた意思決定を確実に行うために重要である」と指摘し、核燃料供給に係る協力と様々な技術の評価は、現在のSMR導入に係る作業とサスカチュワン州の電力システムの将来に関する計画の強化に資するとしている。WE社のP.フラグマン社長兼CEOは、「サスクパワー社と協力して、サスカチュワン州のクリーンエネルギーのニーズを支援するため、業界をリードする当社の専門知識を共有できることを誇りに思う。今後何世代にもわたり、サスカチュワン州にカーボンフリーの電力の供給のため、サスクパワー社を支援していきたい」とサスクパワー社との協力に意欲を示した。AP1000は米国と中国で運転中。ポーランド、ウクライナ、ブルガリアの原子力プロジェクトで採用されており、この他、中・東欧、英国、インド、北米の複数のサイトでも検討中だ。AP300は世界的に運転実績のある先進的な第三世代+(プラス)の大型炉をベースにした唯一のSMR。WE社は、2027年までにAP300の設計認証を取得し、2030年までに初号機の着工、2030年初めの運転開始を目指している。AP300は英国の大英原子力(Great British Nuclear=GBN)のSMRの支援対象選定コンペの最終候補の1つに選定されており、欧州諸国と北米の顧客も採用を検討中である。カメコ社のT.ギッツェル社長兼CEOは、「当社はサスカチュワン州を拠点に、世界有数のウラン生産事業を展開、大規模に発展する州の労働力や北部の先住民コミュニティとの長年にわたるパートナーシップを有する。サスカチュワン州の電力の脱炭素化において、当社ならびにWE社が果たす潜在的な役割を評価できることを楽しみにしている」と語った。なお、カメコ社は、WE社の筆頭株主。
25 Jun 2024
541
欧州では6月6~9日に欧州議会選挙が実施され、近く次期欧州委員会(EC)が発足する見込みである。欧州の電力会社や原子炉メーカー、核燃料サイクル企業、産業団体などの原子力産業界は6月13日、EU(欧州連合)が取り組むべき優先事項をとりまとめたマニフェストを発表。マニフェストでは、気候変動、エネルギー価格の安定、エネルギー安全保障など、EUが現在直面している多くの課題に対する解決策として、原子力を活用するようEUに求めている。マニフェストにおいて、産業界が次期ECに対して求めている優先事項は下記のとおり。既存原子力発電所の運転期間延長、大型炉、小型モジュール炉(SMR)、先進モジュール炉(AMR)のような革新技術、核燃料サプライチェーンの開発など、原子力の新たな展開を促進するための一貫した長期的政策を確保すること。欧州SMR産業アライアンス(European Industrial Alliance on SMRs)で特定されたSMRプロジェクトは、その展開を加速し、2040年の気候目標達成(2040年までに温室効果ガス排出量を1990年比で90%削減を提案)に向けて大きく貢献するよう支援されるべきであるすべてのネットゼロ技術を平等に扱うことすべての実行可能なソリューションがエネルギー移行に貢献するために必要な支援を受けられるよう、民間および公的資金へのアクセスを可能にし、促進すること欧州の金融機関(原子力を融資基準に含む欧州投資銀行)が、既存原子力発電所の長期運転、新規建設(大型炉、SMR、AMR)、燃料サイクル関連のプロジェクトに確実に融資を行うこと持続可能なEUタクソノミー(投資分類)に原子力エネルギーを引き続き含めることを支援し、関連する燃料サイクルの活動もその枠組に含めることエネルギー移行に貢献する低炭素技術を、税制面で不利にしないこと脱炭素化目標の達成に必要な燃料サイクルも含む、産業規模の拡大およびサプライチェーンなど、原子力技術の大量導入のためのスケールアップと資金調達を促進するため、ユーラトム(欧州原子力共同体)以外のEU基金へのアクセスを拡大することEUにおける原子力研究を支援すること:ユーラトム研究・訓練プログラムの予算は、数多くの課題に取り組むために倍増すべきである。他のEUの研究開発プログラムとの相乗効果を高めるべきである。同様に、核融合と核分裂プロジェクトの資金調達の間で、よりバランスの取れたアプローチを確保すべきである既存の原子力施設の維持および新たな原子力プロジェクト開発に重要であるユーラトム研究・訓練プログラムを通じて、原子力分野の技能(スキル)、労働力、人材に投資すること。エネルギー移行を促進するために、熟練した労働力と適切な能力が必要であるマニフェストによると、EUでは現在、総発電電力量に占める原子力の割合は25%で、低炭素電力に占める割合は50%と半分を占めている。EUではここ最近、EUの脱炭素化に対する取組において、原子力の役割を強調するいくつかの動きが見られている。直近では、欧州理事会が5月27日、ネットゼロ産業法(NZIA)を承認し、原子力を含むネットゼロ産業の開発と展開促進に向けた包括的枠組が構築された。また、欧州議会は2023年12月、将来のエネルギーシステムにおけるSMR技術の重要性を指摘した独自のイニシアチブ報告書を採択、続く2024年2月にはECが、欧州での2030年代初頭までのSMR展開の加速をめざして「欧州SMR産業アライアンス」を始動させている。そのほか、フランスなど原子力発電を利用する国々の協力イニシアチブである「欧州原子力アライアンス」(現在12か国が参加、2か国がオブザーバー)が2023年2月に発足し、域内における原子力への支援拡大に向けた働きかけを強めているところである。なお、今年3月にベルギー・ブリュッセルで開催された第1回原子力エネルギーサミット(Nuclear Energy Summit)では、ECのウルズラ・フォンデアライエン委員長(当時、元ドイツ政府高官)が、域内では原子力について異なる見解があるとしつつも、「気候変動問題への取組の緊急性から、原子力は重要な役割を果たすべき」と原子力の重要性を指摘した。今回のマニフェストについて、欧州の原子力産業団体であるnucleareuropeのY. デバゼイユ事務局長は、「原子力はクリーンかつ持続可能な技術であり、次期委員会では、原子力を他の化石燃料を使用しない技術と同等に扱うことが不可欠」としたうえで、今後の政策提案は、特定の技術ではなく、脱炭素化、競争力、エネルギー主権といった目標に焦点を当てるべき、との考えを示している。
25 Jun 2024
420
米上院は6月18日、先進炉の導入促進法案を可決した。大統領の署名により成立する。本法案は、クリーンエネルギーの多用途かつ先進的な原子力展開の加速化法(Accelerating Deployment of Versatile, Advanced Nuclear for Clean Energy=ADVANCE法)と称し、火災補助金および安全法(S.870)の一部を構成。上院の超党派により起草され、88対2の圧倒的多数で上院を通過した。なお、下院は5月8日に393対13の票決により可決している。ADVANCE法では、以下を定める。米原子力規制委員会(NRC)に先進炉の規制を策定するための国際的なフォーラムを主導する権限を与え、エネルギー省(DOE)には核不拡散の強固な基準を維持しながら米技術の国際市場への輸出承認のプロセス改善を指示し、原子力分野における米国のリーダーシップを促進する。先進炉の許認可を申請する企業の規制コストを削減し、次世代炉展開を奨励する賞を創設。NRCに対しては、利用停止中や閉鎖済みの火力発電所からマイクロ炉などへのタイムリーな許認可発給を可能にする道筋を示すよう要請し、新原子力技術の開発と展開を支援する。既存炉および次世代炉の安全性と競争力を向上させる事故耐性燃料および先進燃料の認定と許認可発給の能力の強化とともに、より良く、速く、安く、スマートに原子炉を建設するため先進的な製造技術の評価をNRCに指示し、米国の核燃料サイクルおよびサプライチェーンを強化するNRCの近代化、人員配置の問題に対処する取組みを支援し、先進炉の許認可申請の効率的な安全審査のため、優秀な人材の雇用と維持のツールをNRC委員長に提供し、NRCの効率性を向上させる。法案を作成した上院環境公共事業(EPW)委員会委員長のT.カーパー上院議員(民主党)は、「気候と米国のエネルギー安全保障にとって大きな勝利。長年、米国最大の無炭素電源である原子力の普及加速のためこの法案に取り組んできた。ADVANCE法は、NRCによる重要な安全使命の維持とともに先進技術の効率的審査を促進し、今後数十年に次世代炉を安全かつ成功裡に展開するための礎となる」と強調した。同じく法案作成に携わったEPW委員会上級委員のS.カピト上院議員(共和党)は「この超党派法案は、より多くの革新と原子力技術への投資を奨励するもの。NRCにその重要な規制上の使命をより効率的に遂行するよう指示し、将来の原子力プロジェクトのため従来型の発電施設の再開発を支援する」と指摘した。S.ホワイトハウス上院議員(民主党)は「ADVANCE法は原子力分野の労働力を強化し、規制プロセスの障壁を低くすることで先進炉の展開と石炭火力から原子力への移行を支援するもの」と述べ、米国の長年にわたる世界的リーダーシップの強化を目指す超党派による取組みの成功を称えた。
24 Jun 2024
788
ノルウェーの新興エネルギー企業ノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社は6月14日、ノルウェー最北東部フィンマルク県における小型モジュール炉(SMR)の発電所建設の評価に関する提案書をエネルギー省(OED)に提出した。発電所建設に必要な正式なプロセスの第一段階である。OEDが承認すれば、同社は環境面や技術面、経済面、および安全面の影響評価を開始する。ノルスク社は、バレンツ海に面するフィンマルク県のヴァードー(Vardø)自治体が原子力発電所建設の候補地としてスヴァルトネス村(Svartnes)近隣を提案したことを受け、2023年6月、同自治体と調査プログラムの実施協定を締結。ヴァードー自治体とフィンマルク県のエネルギー事情、スヴァルトネス村の現地の状況を調査した。ノルスク社の提案書によると、発電所の従業員数は200~400人規模となり、フィンマルク県の主要産業となる。発電所の設備容量は最大60万kWe、年間総発電電力量は最大50億kWhとなり、フィンマルク県の電力供給量は現状の3倍となるため、将来の電力需要の増大に応えると予測。既存の発電所は風力タービンと小規模の河川発電所のみで、エネルギー安全保障と、戦略上重要な地域でノルウェーのプレゼンスを示す観点から、発電設備の増強の必要性を訴える。また、ヴァードー自治区の利点として、公共サービスが充実した都市コミュニティで、多様な労働市場があるため、発電所の運転に必要な多くの労働力の提供が可能であり、送電線と変電所、良好な道路接続、港湾インフラがあり、電力集約型産業が立地できる広大な土地があることを挙げている。また、冷却水への十分なアクセス、安定した地盤条件、原子力に対する地元の政治的支援があるとも紹介している。ノルスク社は、提案書はスヴァルトネス村近隣での原子力発電所の建設と運転に関する現地の状況を説明し、今後の影響評価で説明されるテーマを列挙しているとし、入手情報からも、発電所建設に適していると指摘した。一方、ヴァードー自治区の送電網容量には限界があるため、ノルスク社は影響評価を開始する前にフィンマルク県で代替地を検討するとし、原子力発電所建設の可能性について調査を希望するフィンマルク県の他の自治体に対し、関心表明を呼び掛けている。ノルスク社は2023年、ノルウェー海に面したアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体、北極圏のナルヴィク(Narvik)自治体からも、SMR立地可能性調査の実施要請を受け、各自治体と調査プログラムの実施協定を締結。同社は2023年11月、ノルウェー南西部のアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体を拠点とするSMR発電所建設に関する評価に関する提案書をOEDに提出した。また同月、エストフォル・エネルギー(Østfold Energi)社ならびにハルデン市と、かつて研究炉が運転されていたハルデン市でSMR発電所建設の実現可能性を探るため、共同で新会社のハルデン・シャーナクラフト(Halden Kjernekraft)社を設立。今年4月には、ノルウェー西岸ヴェストラン県ベルゲン市の西にあるエイガーデン(Øygarden)自治体に最大5基で構成されるSMRの発電所建設サイト候補地として、サイトの影響評価作業を開始すると明らかにした。
24 Jun 2024
649
オーストラリア最大野党の保守連合(自由党・国民党)は6月19日、バランスの取れたエネルギーミックスと、より安価で安定したクリーンな電力供給を実現するため、原子力導入を次期総選挙の公約にすると発表した。同国はウランの主要輸出国であるものの、原子力発電を法律で禁止している。一方で核医学など、発電以外の原子力・放射線利用には力を入れている。気候変動・エネルギー・環境・水資源省によると、2022年の同国の電源別シェアは、石炭(47%)、天然ガス(19%)、石油(2%)と、化石燃料が7割近くを占めており、太陽光は14%、風力は11%、水力が6%。石炭は減少傾向にあり、太陽光と風力は増加を続けている。保守連合は、現労働党政権が2030年までに再生可能エネルギーを82%にするという目標を掲げるもののスケジュールは大幅に遅延し、急速なエネルギーの枯渇に直面、全国の家庭や企業の電力料金は値上がりが顕著であると指摘。コストのかかる「再生可能エネルギーのみ」のアプローチは既に失敗しているとし、現政権が掲げる2030年までに43%のCO2排出量削減目標は達成不可能と主張している。また、最大シェアの石炭火力発電所は今後10年間で閉鎖予定であり、保守連合は政権交代が実現すれば、再生可能エネルギーや天然ガスとともにバランスの取れたエネルギーミックスを図り、電力料金とCO2排出の削減を実証している原子力を導入して、より安価でクリーンな電力を安定供給するとともに、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにし、強固で回復力のある経済を実現するとの方針を示した。閉鎖済みまたは閉鎖予定の石炭火力発電所サイトに原子力発電所(小型モジュール炉を含む)を建設する方針で、候補サイトは以下の7地点。リデル発電所(ニューサウスウェールズ州)マウント・パイパー発電所(ニューサウスウェールズ州)ロイ・ヤン発電所(ビクトリア州)タロン発電所(クイーンズランド州)カリデ発電所(クイーンズランド州)ノーザン発電所(南オーストラリア州、SMRのみ)ムジャ発電所(西オーストラリア州、SMRのみ)これらの発電所は、冷却水や送電網などの原子力発電所に必要なインフラを既に備え、地元コミュニティには熟練労働者の雇用機会、経済的利益をもたらし、現政権の「再生可能エネルギーのみ」のシステム構築に必要な新たな経費の支出やそれに伴う電気料金の値上げを回避できるとしている。そして保守連合は、現政権の「再生可能エネルギーのみ」のアプローチでは、5,800万枚のソーラーパネル、3,500基の新しい産業用風力タービン、最大2.8万kmの新送電線の全国敷設が必要となり、1.2兆~1.5兆豪ドル(約127兆~159兆円)の費用が掛かるとのエネルギー専門家による試算を紹介。現政権が提案する太陽光と風力発電のみに依存する国は世界中になく、世界20大経済国の中で、原子力を利用していない、あるいは利用に向けて動いていないのは、オーストラリアだけであると訴えている。政権交代が実現すれば、SMRまたは米ウェスチングハウス(WE)社製の「AP1000」や韓国電力公社(KEPCO)製APR1400などの最新大型炉を採用した2つの発電所プロジェクトを計画し、SMRの場合には2035年、大型炉の場合には2037年に運転を開始したい考えだ。発電施設は政府所有とし、建設と運転については経験豊富な原子力発電会社と提携するとしている。オーストラリアの世論も原子力に対して肯定的になっている。同国の世論調査を20年にわたり広範囲のテーマで実施するローウィー研究所が、オーストラリアの成人2,028人を対象とし、6月上旬に公表した年次世論調査の結果によると、オーストラリアが原子力発電を利用することを「どちらかといえば支持」または「強く支持」すると答えた回答者は61%で、「どちらかといえば反対」または「強く反対」の37%を上回った。なお、原子力発電を「強く支持」(27%)が「強く反対」(17%)を上回っている。対照的に、2011年に実施した質問で、「温室効果ガス排出削減計画の一環としての原子力発電所建設」に「強く反対」と答えたのは46%、「やや反対」と答えたのは16%であった。同研究所は、オーストラリア人の原子力発電に対する世論の現状が10年以上前の否定的な態度から大きく変化したと分析している。なお、保守連合の原子力発電導入方針とサイト候補地の発表を受け、C.ボーウェン気候変動・エネルギー相は、「詳細、コスト、モデルが何も示されておらず、オーストラリアの排出削減目標の達成には遅すぎ、高すぎ、リスキーだ。これは計画ではなく、詐欺だ」と自身のSNSにポストしている。
21 Jun 2024
911
エストニア議会(リーギコグ)は6月12日、エストニアにおける原子力導入支援に関する決議を採択した。今後、原子力安全法の起草、必要に応じて既存の法律の改正・補足、原子力の規制組織の設立、および専門家の育成を実施する。本決議は、エストニアにおける原子力導入を許可するか否かに関する基本的な決定。エストニアに原子力発電所を建設する許可を与えるものではない。決議案には41名の議員が賛成、25名が反対、2名が棄権した。リーギコグの55名の議員は5月9日、同国における原子力導入と適切な法的・規制的枠組みの創設の準備を開始することを可能にする決議案を提出した。エストニア政府の原子力作業部会(代表:A.トゥーミング気候省次官)が2021年から2023年にかけて作業し取りまとめた、エストニアに原子力導入は可能であると結論づけた報告書に基づいている。決議は、2035年までのエネルギー部門国家開発計画において、気候中立のエネルギーへの移行期におけるエネルギー供給の安全性を確保するため、原子力導入による影響に対処することや、規制の枠組みの確立にあたっては、国家の安全保障、資金調達、プラントの所有形態に関するリスクを徹底的に評価することを求めている。また、決議の説明覚書では、エストニアにおける原子力導入の利点として、再生可能エネルギーの発電能力による変動の均衡、気候目標の達成への貢献、長期的に安定して安価な電力価格の維持、研究開発の促進、経済的効果、地元の雇用創出を挙げている。原子力作業部会の報告書は、原子力発電所の建設資金を民間部門から調達し、原子力利用を可能にする枠組みを構築するための国家予算の費用は、原子力計画段階から発電開始までの9~11年の期間で約7,300万ユーロ(約123.9億円)と試算。原子力導入は主に税収の増加や経済活動の活性化により国家に安定した歳入をもたらすと評価している。エストニアの現在の電源は、化石燃料、特にオイルシェール燃料が大半を占めている。エストニアは、2050年までに排出量実質ゼロを達成することを掲げており、国内のオイルシェールの段階的廃止を開始する2035年までにエネルギー・ミックスを多様化するため、信頼性が高く低炭素な電源の選択肢として原子力発電に注目している。原子力作業部会の報告書では、電気出力40万kW以下のSMRの導入が適切とし、小規模なバルト海電力市場、再生可能エネルギー、供給目標、欧州の水素市場の発展の可能性を考慮し、水素製造が可能なSMRを3~4基または合計120万kWまでの導入可能性を検討。炉型の選択にあたっては稼働実績と燃料供給の安定性を重視している。なお、2023年2月、エストニアの新興エネルギー企業のフェルミ・エネルギア社は、GE日立・ニュクリアエナジー社のSMR「BWRX-300」を2030年代初頭までに建設すると発表した。
20 Jun 2024
651
スウェーデンの国営電力会社、バッテンフォールは6月12日、ヴェーロー半島にあるリングハルス原子力発電所(PWR、110万kWe級×2基)の西側に建設を計画している小型モジュール炉(SMR)について、供給候補6社から英国のロールス・ロイスSMR社と米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の2社に絞り込んだことを明らかにした。今後、同2社の提案を詳細に分析した上で、SMR建設に係るスケジュールを共同して策定していくとしている。並行して、バッテンフォールは大型原子炉の建設条件の検討を続けており、大型原子炉の供給者として、米国のウェスティングハウス(WE)社、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)を挙げている。バッテンフォールのD.コムステッド新原子力発電部門長は、「炉型は未定だが、SMRまたは大型炉に係わらず、将来の投資決定には国との合理的なリスク分担モデルが必要になる。新規建設の資金調達コストを削減し、電力需要者が負担する発電コストを合理的にする必要がある」と指摘した。炉型の選択に係わらず、建設の最終投資判断(FID)は、必要な許認可をすべて取得した後に行い、早ければ2030年代前半に新規炉の運転を開始したい考えだ。なお、バッテンフォールは6月17日、同社を含むフォルスマルクとリングハルスの各原子力発電所の所有者が既存炉の運転期間を60年から80年に延長する方針を決定したと発表した。運転期間延長により、2060年代までカーボンフリーの電力供給が可能になり、スウェーデンの消費者への効率的な電力供給だけでなく、エネルギー移行の面でも有利になるとしている。同社のT.ウォールボルグ北欧地域担当上級副社長は、「原子力は、スウェーデンのカーボンフリーの電力生産において、今後何十年にもわたって重要な役割を果たすため、新設だけでなく既存炉への投資も極めて重要。過去に大規模なバックフィット作業を実施しており、運転期間の20年延長に問題はない」と運転期間延長の意義を強調した。フォルスマルク発電所1~3号機(BWR、各110~120万kWe級)とリングハルス発電所3~4号機の運転期間の20年延長により、合計8,000億kWh以上の電力供給が可能であり、現在のスウェーデンの電力消費量のほぼ6年分に相当するという。この方針の決定に続き、より詳細なコスト計算やリスク分析を含む詳細な調査段階を経て、最終的な投資決定(FID)が行われる。必要な投資のほとんどは2030年代に行われる予定だ。運転期間延長には、システムや機器の交換や改修に推定400億~500億スウェーデン・クローナ(約6,047億~7,560億円)の投資を予想。技術的なニーズには、タービン、発電機などの機器の保守、改修、交換、制御・監視システムの改良のほか、電力網などのインフラへの投資も必要であるという。スウェーデンでは2022年9月に総選挙が行われ、翌10月、40年ぶりに原子力を全面的に推進する中道右派連合の現政権が新たに誕生、2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップを発表した。これには、カーボンフリーの電力を競争力のある価格で安定的に確保し、社会の電化にともない総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型原子炉2基分の原子力発電設備を完成させ、さらに2045年までに大型炉で最大10基分相当の原子力発電設備の追加などが盛り込まれている。また、今年1月には、環境法の一部改正法が発効、新たなサイトでの原子炉の建設禁止や国内で同時に運転できる原子炉基数を10基までとする制限事項が撤廃されるなど、原子力推進に向けた環境整備が着々と進められている。
19 Jun 2024
839
米国のウェスチングハウス(WE)社は6月11日、カナダのオンタリオ州キッチナーにグローバルエンジニアリングハブを開設した。同ハブのサイト面積は約1,200m2。CANDU炉や海外の新設プロジェクトのサポートに特化した設計エンジニアリングチームのカナダ唯一の拠点となり、同社製の「AP1000」、小型モジュー炉(SMR)の「AP300」、マイクロ炉の「eVinci」の世界展開を支援する。ハブには、最先端のトレーニング施設や防火エンジニアリング・サービスの研究所も設置される。開設記念式典に出席したオンタリオ州経済開発・雇用創出・貿易省のV.フェデリ大臣は、「オンタリオ州は北米で2番目に大きな技術者集団の中心地。多くの優秀な技術労働者がキッチナーおよびウォータールー地域に居住している。WE社のキッチナーのエンジニアリングハブへの投資は、オンタリオ州の原子力の新たな進歩を約束するもの」と指摘した。同じく式典に出席したWE社のP.フラグマン社長兼CEOは、「現在、当社にはカナダを拠点に250人以上の専門家がいる。キッチナーの新しいエンジニアリングハブには、2025年までに約100人のエンジニアを増員予定。強固な国内サプライチェーンと実証済みの技術で何世代にもわたりカナダのクリーンエネルギーのニーズに応えていく」と強調した。キッチナーのサイトは、WE社の5つのグローバルエンジニアリングハブの1つ。このサイトが選ばれた理由は、クライアントや多くのサプライヤーに近いだけでなく、理工系で有名なウォータールー大学など優秀な人材の育成機関に近接しているためだという。なお、今年2月末、コンサルティングファームである英プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が、「カナダにおけるウェスチングハウス(WE)社製AP1000プロジェクトの経済的影響」を発表し、WE社がオンタリオ州に4基の「AP1000」を導入した場合の大きな経済的影響を示した。さらに、WE社とサスカチュワン研究評議会(SRC)は、カナダ初となるマイクロ炉「eVinci」の初号機をサスカチュワン州に2029年までに建設する計画だ。
18 Jun 2024
641
原子力規制委員会は6月26日、関西電力大飯原子力発電所3-4号機(PWR、出力各118万kWe)について、新たな法令のもと、運転開始から30年を超えるプラントに要求される長期施設管理計画を認可した。高経年化した原子炉に対する規制の厳格化を含めた「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX脱炭素電源法)成立後、初の事例。昨夏に成立した同法では、規制側(原子炉等規制法)として、原子力事業者に対し、「運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内ごとに、設備の劣化に関する技術的な評価を行い、その劣化を管理するための計画を定め、原子力規制委員会の認可を受けること」を規定。一方、利用側(電気事業法)には、「原子力発電の運転期間は最長で60年」との現行の枠組みは維持。事業者が予見しがたい事由による停止期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外することを定めている。法令は2025年6月に本格施行されることとなっており、現在は準備期間中。大飯3-4号機らには、それぞれ1991年12月、93年2月に運転を開始し、既に30年を経過していることから、施行日までに新法下による長期施設管理計画の認可が求められていた。関西電力は、2023年12月に同計画の認可を申請。今回の認可を受け、「国内外の最新知見を積極的に取り込み、プラントの設計や設備保全に反映していくことで、原子力発電所の安全性・信頼性の向上に努めていく」とのコメントを発表した。
28 Jun 2024
315
原子力委員会は6月25日、2023年度版の原子力白書を取りまとめた。日本の原子力利用に関する現状および取組の全体像について、「国民に対する説明責任を果たしていく」ため、発刊するもので、今回は、「放射線の安全・安心と利用促進に向けた課題の多面性」を特集。白書公表に際し序言の中で、上坂充委員長は、「原子力行政のアーカイブ」として広く活用されることを期待した上で、特集テーマに関連し、2023年に開始した福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の海洋放出に係る議論の背景として、「放射線に関する正確な知識が必ずしも国民に幅広く浸透しておらず、漠然と不安を感じている」と懸念。他方、放射線は、医療、工業、農業の各分野で幅広く利活用が図られ、「今日の生活基盤を支える技術となっている」といった観点から、安全性確保を前提として、「社会的受容性、経済性など、多面的な側面を考慮して取組を進める必要がある」と述べている。特集の冒頭では、「放射線に関する基礎知識」を整理。この部分を読むだけで、放射線の種類や強度・線量を測る単位、自然放射線の存在、低線量被ばくの影響などを学ぶことができる。原子力委員会では2024年に入ってから、「医療用等ラジオアイソトープ製造・利用推進アクションプラン」(2022年5月に同委決定)のフォローアップも合わせ、有識者らからのヒアリングを実施。国民理解の関連では、4月にMRIリサーチアソシエイツ社より説明を受けており(既報)、人々の様々なリスクに対する認識について、数千人規模の調査結果をもとに議論している。その中で、原子力・放射線関係のリスクについては、「一般層」と「原子力・放射線に関する知識を持っている層」とを比較し、「受け入れられない」とする割合は、「一般層」で顕著に高くなっていた。一方で、ワクチンや医薬品など、日常的に使用され、その便益が理解されているものについては、「ベネフィットがリスクを上回る」との回答割合が高くなっていたことから、今回の白書では、原子力・放射線利用に関し、電力安定供給に資する役割と、それに伴い発生する放射性廃棄物の安全な処分やクリアランス物の再利用なども含め、「社会的な意義について、国民の理解・信頼を得る継続的な努力が重要」と、結論付けている。なお、最近1年間の取組状況として、今回の白書では、「原子力利用の基盤となる人材育成とサプライチェーンの維持・強化」を項目立てし、2023年3月に設立された「原子力サプライチェーンプラットフォーム」、同年6月にOECD/NEAが公表した「原子力部門におけるジェンダーバランスの改善」などを紹介し、原子力分野における技術基盤の維持・強化やダイバーシティの確保について、一層踏み込んで取り上げている。
26 Jun 2024
670
国立がん研究センターや神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター、量子科学技術研究開発機構(QST)等は6月24日、希少かつ難治性のがんである悪性の脳腫瘍に対し、日本で開発された新規放射性治療薬(64Cu-Atsm)の有効性を確認したことを発表した。安全性と有効性にメドを得たもの。この治療薬を投与することで、これまでの標準治療と比較して患者の生存期間を延長するかどうかを検証するための試験(ランダム化比較第3相医師主導治験)を、今月から開始した。試験は2029年3月までを予定、良好な結果を得て日本発の放射性治療薬としての承認をめざす。これまでの試験では、患者に対する投与法を含めて治療薬の安全性にメドを得た。また有効性については18人の患者に投与して生存期間の延長が認められた。例えば膠芽腫(こうがしゅ)の患者は、再発すると一般的に1年以上生存できるのは30~40%とされるが、投与した患者9人のうち5人が1年以上生存し、有効な治療効果が期待される可能性があるという。脳から発生する原発性脳腫瘍は国内の年間発生数が約3万人で、そのうち約7,000人程度が悪性脳腫瘍(がん)の患者だ。脳腫瘍は分類が複雑だが、悪性脳腫瘍の中でも、最も多い膠芽腫や星細胞腫(せいさいぼうしゅ)などは悪性神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれる。膠芽腫の年間発生数は約2,100人で、5年生存割合は約15%程度と、最も治療が難しいとされるがんのひとつ。膠芽腫を含む悪性脳腫瘍は代表的な希少がんかつ難治性がんで、有効かつ安全な治療開発が課題になっている。悪性脳腫瘍の治療においては、既存の治療法(外科手術、放射線治療、化学療法等)で十分な効果が得られず再発した場合の治療法は確立していない。これは、悪性腫瘍は活発に増殖するため血管新生が追い付かず、酸素の供給が乏しい低酸素環境になるため、既存治療法の効果が弱まってしまうことが一つの重要な要因になっている。今回の「64Cu-Atsm」は、既存の放射性治療薬の効果に加え、がん細胞 DNA を効果的に損傷する特殊な電子(オージェ電子)を放出する特長があり、低酸素化した治療抵抗性腫瘍を攻撃する治療において、既存治療法で十分な効果が得られず再発した悪性脳腫瘍の治療に対し、効果を発揮することが期待されるとしている。
26 Jun 2024
578
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長・教授)が6月25日、4か月ぶりに開かれ、核燃料サイクルの確立に向けた取組を中心に議論した。〈配布資料は こちら〉黒﨑委員長は、今回、前任・山口彰氏を引き継ぎ、初の議事進行に臨んだ。冒頭、原子力・エネルギー政策立案をリードする責務を認識した上で、「是非前向きな議論を」と述べた。続いて、議論に先立ち、資源エネルギー庁が原子力に関する国内外動向、課題・論点を整理。同調査会の基本政策分科会では、5月にエネルギー基本計画改定に向けた検討が開始されているが、久米孝・電力・ガス事業部長は、2021年の現行基本計画策定以降、ロシアによるウクライナ侵略など、エネルギーをめぐる地政学的リスクの高まり、AIの社会実装に伴う急速な電力需要増を見据え、「脱炭素電源の安定供給をいかに確保するか」と、極めて困難な局面にある現状を強調。その中で、「原子力を活用していく上での課題」については、原子力小委員会において着実に議論していく姿勢を示した。委員からは、次期エネルギー基本計画策定に係る発言も多く、基本政策分科会の委員も兼ねる遠藤典子委員(早稲田大学研究院教授)は、最近の通信関連企業からのヒアリングに言及。データセンターの増加に伴う電力需要増に対し、「供給力をどう確保するか」を政策的課題としてあげた上で、原子力発電の建設リードタイムも見据え、今後の新増設に民間企業が投資できる制度設計を検討していく必要性を指摘した。同じく、村上千里委員(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会)は、原子力発電所の建設コスト上昇を、最近の欧米における状況から懸念した上で、「新増設の賛否にかかわらず納得できるコスト検証を行って欲しい」と要望。さらに、消費者の立場から、再稼働に伴う電気料金への影響、バックエンドコストに関し使用済み燃料の直接処分にも言及した。核燃料サイクル政策について、資源エネルギー庁は、「高レベル放射性廃棄物の減容化」、「有害度低減」、「資源の有効利用」などの観点から、今後も原子力発電を安定的に利用する上で、関係自治体や国際社会の理解を得ながら、「引き続き推進することが重要」とあらためて明示。立地地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、原子力政策の明確化、立地地域の振興、原子力防災の強化とともに、核燃料サイクルの確立について要望。その中核となる六ヶ所再処理工場のしゅん工に向けては、「国が責任をもって事業者の取組状況を管理するとともに、原子力規制委員会も遅滞なく効率的に審査を行う」など、政府全体での取組が図られることを求めた。技術的観点からは、竹下健二委員長代理(東京工業大学名誉教授)が発言。ウラン濃縮については、投資促進に関する日本・カナダ・フランス・英国・米国による共同宣言「札幌ファイブ」(2023年12月、産業界による共同声明は こちら)など、国際的な動きもみられる。同氏は、「ウラン濃縮は機微技術のため、国内で開発するしかない」との基本姿勢に立ち、濃縮能力の増強、経済性の向上に向け、日本原燃による遠心分離機開発に期待。さらに、将来的な資源の有効利用を見据え、回収ウラン利用に係る技術開発、高速炉MOX燃料の再処理にも言及した。専門委員として出席した日本原子力産業協会の新井史朗特任フェローは、「既設炉の最大限の活用」、「新増設・リプレースを含めた必要容量・時間軸の明記」、「事業者が適切な時期に新規建設の投資判断ができる事業環境整備」、「革新軽水炉に関する規制基準の検討」、「原子力の価値を広く知ってもらう国民理解の促進」の5点を、次期エネルギー基本計画に向け要望した。
25 Jun 2024
803
筑波大学の研究グループは6月21日、2011年から13年間にわたり福島県内で実施した森林モニタリング調査により、「土壌中の放射性セシウムが下方移行する」という自然のプロセスが、根による放射性セシウム吸収量や空間線量率を低下させる、いわば除染効果を持つことを明らかにしたと発表した。〈筑波大発表資料は こちら〉同学放射線・アイソトープ地球システム研究センターの高橋純子助教らによるもので、これまでも同センターでは、恩田裕一教授が中心となり、浪江町・川内村での観測を通じ、降雨と空間線量率の変動を推定するモデルを開発するなど、原子力災害被災地の森林環境回復に資する研究成果をあげている。今回の研究では、川俣町のスギ林において、落葉落枝層、土壌層、木が養分を吸収する直径0.5mm以下の根(細根)、それぞれについてセシウム137の動態を調査。その結果、セシウム137の深度分布を経年でみると、存在量は、落葉落枝層では発災直後の2011年に最大だったのが2020年までにほぼゼロになった。表層から2cmまでの土壌層では2017年以降、急増し2020年頃にピークとなったのに対し、細根では2017年頃をピークに減少に転じていた。こうした土壌層と細根との間にみられたセシウム137の経年分布のズレに関し、「わずか数cmであっても土壌中でセシウム137の下方移行が進むことで、樹木によるセシウム137吸収が減少する効果がある」と分析。実際、細根では、表層から2cmまでの最も根が密集する深度で、2020年頃に著しくセシウム137の低下がみられており、「森林生態系の自浄作用効果を解明した」と結論付けている。今回の研究で、調査対象となった川俣町の山木屋地区は、2017年3月に避難指示が解除されているが、「事故以降、これまで森林管理が行われていない」と、被災地における林業再開の停滞を懸念。調査は、「スクレーパープレート」と呼ばれる土壌採取用具を用いて、土壌を5mm間隔で採取し、ふるい分けを行うという緻密な方法で2011年7月より実施されてきた。下方移行による除染効果が検証されたが、植林地が管理放棄され、下流域にセシウム137を流出させる土砂浸食といった長期的観点からのリスクも指摘。今後は、間伐によるセシウム137の下方移行の促進効果も検証し、新たな森林除染方策の提案を目指すとしている。
24 Jun 2024
2991
次期エネルギー基本計画策定に向けた検討が5月15日、総合資源エネルギー調査会で始まった。間もなく閉会を迎える今通常国会だが、こうしたエネルギー政策をめぐる重要な動きと合わせ、衆議院原子力問題調査特別委員会(委員長=平将昭氏〈自由民主党〉)が同31日に開催。元国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)委員長の黒川清氏(政策研究大学院大学名誉教授)ら、有識者を招き、原子力行政のあり方を中心に質疑応答が行われた。この約1年間、原子力・エネルギー政策をめぐる法整備としては、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX脱炭素電源法)など、重要法案が可決・成立。同法は、原子力基本法改正の他、運転期間に関連し高経年化した原子炉に対する規制の厳格化も盛り込まれている。福島第一原子力発電所事故から13年、国会事故調終了後もこれまで、原子力規制行政の建て直しに向け意見を述べてきた黒川氏は、2年ぶりとなる特別委員会への出席に際し、最近の海外交流経験も振り返りながら、「実際、あまり変わっていないのでは」と、日本の現状を厳しく指摘した。また、国会事故調で黒川氏をサポートし、次世代層への啓発にも力を入れている石橋哲氏(クロト・パートナーズ代表)は、事故調が示した提言に関して、この2年間、国会で実質的に発言があったのは「1回・10秒のみ」と、問題意識の低下を懸念。その背景として、立法府側に「『できない』のではなく『やらない』ことの集積があったのでは」などと推測した上で、「ソクラテスの弁明・クリトン」(岩波文庫)の一節から、古代ギリシャ時代の名言「君は恥辱と思わないのか」を紹介し、意識高揚を促した。総合資源エネルギー調査会にも参画してきた橘川武郎氏(国際大学学長)は、日本の原子力をめぐる課題として、「東京電力柏崎刈羽6・7号機の再稼働」、「次世代革新炉の建設」、「次期エネルギー基本計画と原子力発電の比率」を提示。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関しては、元旦に発生した能登半島地震の影響も相まって、地元理解の課題をあげた。さらに、2040年のエネルギーミックスとして、再生可能エネルギー45%、原子力30%、水素・アンモニア5%、火力20%などと例示。その上で、「原子力は新用途の開拓が不可欠」と主張し、電力市場の将来も見据え「原子力をカーボンフリー水素の供給源として使う」ことを重要な選択肢として提案した。原子力技術開発に厳しい見方を示す佐藤曉氏(原子力コンサルタント)は、米国の現状とも比較しながら、運転期間延長や出力向上に伴う経済性に言及し、「電力事業者と規制当局が双方の役割を果たし次の10年を目指すべき」と主張。原子力委員を務めた経験のある鈴木達治郎氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター教授)は、バックエンド問題について発言。高レベル放射性廃棄物の地層処分地選定に関し、1990年代の同委高レベル放射性廃棄物処分懇談会(評論家の木元教子氏の司会により全国各地で啓発に取り組んだ)の議論を振り返り、昨今の状況を「透明性が欠ける」などと指摘した。文献調査に応募する自治体も出ているが、「科学的特性マップ」の有用性、最近の日本原子力文化財団の世論調査結果も踏まえ、理解活動に向けて「まだ改善すべきことがある」と強調。さらに、国会の役割の重要性にも言及し、高レベル放射性廃棄物処分の管轄を経済産業省から環境省に移す法改正などを提案した。 有識者による発言を受け、細田健一委員(自民党)は、国会事故調の提言の一つ「規制当局の監視」を重要なミッションととらえた上で、昨今の情勢から、核テロ対策を踏まえた設計基準脅威に係る対応や、過重な規制に伴う弊害などに関して問いを発した。
21 Jun 2024
1028
資源エネルギー庁が設置する高速炉開発会議の戦略ワーキンググループは6月19日、高速炉実証炉の概念設計段階における開発体制について、研究開発統合機能を担う組織を7月にも、日本原子力研究開発機構に設置する方針を決めた。〈配布資料は こちら〉2016年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」廃炉決定後、将来的な高速炉の研究開発方針をあらためて明確化すべく、2018年12月に原子力関係閣僚会議において「戦略ロードマップ」が決定。2024~28年度に実証炉の概念設計・研究開発を進め、2026年頃に燃料技術の具体的検討、2028年頃に実証炉の基本設計・許認可手続きへの移行判断を行う計画だ。経済産業相がリードする高速炉開発会議のもと、エネ庁他、文部科学省、電気事業連合会、原子力機構ら、実務者レベルで構成される戦略WGはこのほど、およそ1年ぶりに会合を行い、高速炉実証炉の概念設計、基本設計・詳細設計、建設・運転の各開発段階で必要な「司令塔機能」について整理。2023年7月には、高速炉実証炉の設計・開発を担う中核企業として、三菱重工業を選定しているが、「もんじゅ」の責任体制所在に係る教訓などを踏まえ、今後の概念設計段階に向けて、プロジェクト全体戦略のマネジメント機能は引き続き政府が担い、新たに研究開発統合機能を担う組織を原子力機構に設置することを決定した。新組織の設置は7月1日の予定。エネ庁の説明によると、かつて「もんじゅ」は、主務会社を設けず重工メーカーが横並びでプロジェクトを請け負う「護送船団方式」であったため、システム全体の設計に対し、一貫性をもって実施する責任体制の明確化が課題だったという。実際、「もんじゅ」の現場では、電力・メーカーからの出向者の知見から保安体制に係るノウハウが活かされる一方で、十分な伝承がなされていないことも指摘されてきた。19日のWG会合で、原子力機構の板倉康洋副理事長は、今回、研究開発統合機能の同機構内設置が決定したことについて、「その役割を果たすべく最大限努めていきたい」と、使命感を強調。今後、高速炉の再処理技術開発も展望し、関係者の理解・支援を求めた。また、電事連の水田仁・原子力推進・対策部長は、将来を見据え「実用炉開発を進める上で、具体的開発体制が示されたもの」と、期待を寄せるとともに、原子力機構がリードする高速炉技術開発に対し「軽水炉の運用で培った知見も活かして欲しい」などと、事業者として協力姿勢を示した。
20 Jun 2024
1291
日本原子力産業協会は6月18日、定時社員総会を日本工業倶楽部(東京・千代田区)で開催し、2023年度決算および事業計画、2024年度の事業計画・予算案がそれぞれ承認、報告された。また、理事8名の改選を承認。総会終了後の理事会で、東原敏昭氏(日立製作所会長)が副会長に、増井秀企氏(東京電力原子力・立地本部副本部長)が理事長に就任することが決定された。総会の冒頭、三村明夫会長は、「原子力は優れた安定供給性と経済効率性を有しており、運転コストが低廉・安定な準国産の脱炭素電源であることから、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する、重要なベースロード電源」と強調。現在、検討が進められている次期エネルギー基本計画策定に向けては、「原子力の持続的かつ最大限の活用、ならびに早期の新規建設開始を明記するべき」とした。その上で、「産業界の声」として、既設炉の最大限の活用原子力サプライチェーンの維持・強化新規建設の投資判断を可能とするための事業環境整備国民理解の促進――の4点をあげ、既設炉の活用に関しては、再稼働の他、長期サイクル運転の導入、運転中保全の導入拡大、既設炉の出力向上など、設備利用率の向上に言及。新規建設に向けては、電力の事業予見可能性の著しい低下を懸念し、「投資回収面および資金調達面での課題に対処し、約20年にも及ぶ建設リードタイムを踏まえた適切な時期に事業者が投資判断できる事業環境整備が必要」と訴えた。核燃料サイクル事業をめぐっては現在、六ヶ所再処理工場の年内しゅん工が見込まれ、高レベル放射性廃棄物の地層処分地選定に向けた文献調査が佐賀県玄海町で開始されている。三村会長は、日本原燃の再処理工場・MOX燃料工場について「サイクルの要」との認識をあらためて述べ、しゅん工への取組を着実に進め、バックエンドに関しても「国・原子力発電環境整備機構(NUMO)と密接に連携していく」と、原子力産業界として着実に支えていく姿勢を示した。〈挨拶文は こちら〉来賓として訪れた齋藤健経済産業相は挨拶の中で、日本のエネルギー情勢をめぐり、化石燃料の輸入に伴う国富流出など、昨今の状況から、「戦後最大の難所を迎えている」との危機感を示した上で、エネルギー安定供給とGXの両立を実現するため、「原子力の活用が不可欠」と強調。一方で、「福島第一原子力発電所事故の反省を一時も忘れることなく、高い緊張感を持って安全最優先で万全を期すこと」をあらためて述べた上で、原子力産業界との連携に関し、サプライチェーンの維持・強化、人材育成、国際競争力の強化、事業環境整備などの課題を列挙。5月に開始した次期エネルギー基本計画策定の関連では、将来的な電力需要の増大、それに伴う大規模な脱炭素電源投資の必要性に鑑み、今後、「政府のみならず、電力・産業、金融など、官民の様々なプレイヤーが危機感を共有し、それぞれの役割を果たしていくことが重要」と、訴えかけた。続いて、本田顕子・文部科学政務官が挨拶。研究開発・人づくりを担う立場から、日本原子力研究開発機構の「JRR-3」や「常陽」の活用とともに、現在、作業部会で検討が進められる「もんじゅ」跡地の試験研究炉設置にも期待を寄せ、産業界による理解・支援を求めた。新任の増井理事長は、19日に就任挨拶を発表。その中で「稼働する原子力発電プラントは12基と、現存する33基の約3分の1にとどまっている」と、原子力発電をめぐる現状を懸念。次期エネルギー基本計画の策定に向け、原産協会として、「IT需要や脱炭素化の進展で増加すると予想される電力需要に応えるため、既存プラントの再稼働はもとより、リプレースや新増設の必要性の明記、そしてそれらを実現するために必要な事業環境の整備について明示してもらうよう求めていきたい」と強調した。
19 Jun 2024
1057
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は6月17日の会合で、エネルギーを巡る国際情勢について有識者からのヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉冒頭、齋藤健経済産業相は、「世界的に不確実性が高まる中で、いかにエネルギー安定供給と脱炭素化の両立を確保するか、コストの上昇にどのように対応するかが各国共通の課題。その状況を把握することは、わが国の対応を考えていく上で重要」と、今回のヒアリングを行う意義を強調。同分科会では、次期エネルギー基本計画策定に向けた検討を5月15日にキックオフ。以降、3回目となる会合に際し、齋藤経産相は、「野心を持ちつつ、着実かつ現実的なアプローチを追求していくためにも、今後、イノベーションを積極的に進めた上で、その進展状況を踏まえ、コスト面での検証を行いながら、あるべき政策の方向性を見出していく」と、さらに議論を深めていく姿勢を示した。ヒアリングでは、コスト面の課題について、中東情勢・化石燃料市場に詳しい日本エネルギー経済研究所専務理事の小山堅氏が、ウクライナ危機に伴い高騰したエネルギー価格が下降傾向にあると概観しながらも、原油価格は「歴史的観点で高水準」にあると指摘。過去のオイルショックを振り返り、中東・ウクライナ・東アジアを中心とする「地政学リスク」を筆頭に、「政策変更リスク」、「過少投資リスク」、「マーケットパワーリスク」、「需給構造変革リスク」、「自然災害・サイバーリスク」など、様々なリスクの存在をあげ、「国際エネルギー情勢にはまだまだ先行き不透明な要素がある」ことを強調。その上で、ウクライナ危機発生以降、中長期的な脱炭素化に向けた世界動向の一つとして、小山氏は、「原子力重視の潮流顕在化」をあげ、既存炉の有効活用、新規建設、新型炉の開発の他、米国で動きのある「廃炉が決定していたプラントの再稼働」にも言及した。脱炭素化に係る課題・不確実性に関しては、コスト抑制を「重要なカギ」と指摘。その他、「政策変更リスク」に関連し、11月に予定される米国大統領選挙も注目すべきとした。小山氏は、先進技術・イノベーションの役割、経済安全保障の重要性についても述べた上で、次期エネルギー基本計画に向けた論点として、新情勢を踏まえ、あらためて「S+3E」の同時達成を目指すこと総合的な観点でのコスト最小化・最適化の追求エネルギー戦略と成長戦略・産業政策の一体化・融合――などを提案。エネルギー安全保障政策を国家戦略ととらえ、GXを踏まえた政策策定を政府一体となって進める必要性を示唆した。同分科会会合のヒアリングでは、この他、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた課題に関連し、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパン・シニアパートナーの堀井摩耶氏が、水素・アンモニア、CO2回収・貯留(CCUS)など、各技術の普及ペースとコスト低減の関係を整理した上で、投資加速化の重要性を主張。三菱UFJ銀行サステナブルビジネス部長の西山大輔氏は、同行が刊行する「MUFGトランジション白書」および欧米視察調査について紹介。ドイツにおける世論調査結果で、「原子力を許容」とする回答割合が、電力価格高騰を背景に、東日本大震災直後の24%から、2023年4月には59%に増加していることなどを示した。
18 Jun 2024
759
電気事業連合会の林欣吾会長は、6月14日の定例記者会見で、夏の電力高需要期に向けて、近年の需給ひっ迫の懸念を振り返り、「緊張感をもって、供給力の確保を万全のものとしていきたい」と、電力安定供給を担う事業者としての使命をあらためて強調した。資源エネルギー庁が6月3日の総合資源エネルギー調査会会合で説明した今夏の電力需給対策によると、「全エリアで安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できる」見通し。しかしながら、北海道、東北、東京の各エリアでは、7月の最小予備率が4.1%と低くなっており、特に東京エリアについては、運転開始から40年以上が経過した高経年火力プラントが供給力の約1割を占めるなど、供給脱落のリスクが高くなっている。こうした状況を踏まえ、会見の中で林会長は、電力広域的運営推進機関(OCCTO)による今後10年間の「EUE」(Expected Unserved Energy)と呼ばれる分析結果を紹介した。「EUE」では、全国10エリアごとに、2024~33年度の各年間で停電がどれだけ発生する可能性があるかを確率論的に評価している。供給面における再生可能エネルギーの進展など、電源の多様化に伴い、需給両面での不確実性が高まり、各エリアで最大電力が発生する季節・時間帯の供給予備率だけによる需給リスク評価が困難となっていることから採り入れられた指標だ。それによると、沖縄を除く全国9エリアの合計でみた場合、2026年度以降は、供給信頼度の目標値が満たされず、「全国レベルで需給がひっ迫する懸念があり、決して予断を許さない状況」と、厳しい見方を示した。その上で、現実的な需要想定と、それに見合うだけの設備運用を計画的に進め、エネルギーの安全保障の観点も含めた電源のバランスを考えていくことの重要性をあらためて強調。さらに、具体的な選択肢の一つとして、原子力の最大限の活用をあげ、再稼働しているプラントの安定稼働、BWRの再稼働加速化、将来に向けて、新増設やリプレースの必要性にも言及した。現在、再稼働している12基はいずれもPWRで、新規制基準をクリアしたBWRのうち、東北電力女川2号機(5月27日に安全対策工事完了)、中国電力島根2号機が、それぞれ2024年9月、12月に再稼働する見通し。
17 Jun 2024
1001
齋藤健経済産業相は6月14日の閣議後、東京電力柏崎刈羽原子力発電所に係る対応について記者団からの質疑に応えた。前日、花角英世・新潟県知事の他、自由民主党でエネルギー政策に係る細田健一衆議院議員らによる訪問を受けて、今後の再稼働を巡り、記者会見の中で質疑応答があったもの。花角知事からは東京電力に対する指導・監督の強化、原子力災害時の住民避難を円滑にするための避難道路整備などに関する要望事項が示されており、これまでも地元住民からは、元旦に発生した能登半島地震に鑑み、厳寒期の広域的な防災対策について不安の声が出されている。齋藤経産相はまず、柏崎刈羽発電所の再稼働を巡り、「様々な懸念や不安の声がある」との現状認識をあらためて示した上で、今回の新潟県知事他による要望に対しては、「しっかりと受け止めて、今後あらためて回答したい」とした。その上で、今後も「地域の方々の理解が得られるよう、柏崎刈羽発電所の必要性・意義について説明を尽くしていく」と強調。防災対策については、「能登半島地震で得られた教訓を踏まえて、内閣府(原子力防災)と連携しつつ、地域の緊急時避難対応を取りまとめていく」と説明した。現在、新潟県では、柏崎刈羽発電所の再稼働に係る判断に向けて、県の技術委員会での議論が大詰めとなっており、東京電力や関係行政機関も説明に当たっている。会見の中で、齋藤経産相は、今回の知事との会談を好機ととらえ、「今後も様々な機会をとらえ直接コミュニケーションをとっていく。地域の実情を踏まえ丁寧に説明していきたい」と強調した。なお、新規制基準適合性に係る審査をクリアした柏崎刈羽7号機について、東京電力では、燃料装荷を完了後、6月12日までに、健全性確認を一通り実施し原子炉の起動に必要な主要設備の機能が発揮できることを確認したとしている。また、一連の核物質防護に係る事案を踏まえ受け入れたIAEAによるエキスパートミッション(3月25日~4月2日)からも、6月6日公表の結果報告書の中で、「核セキュリティ文化を改善するために措置を講じている」と、高い評価が得られている。こうした事業者による取組に対し、齋藤経産相は、「安全性向上に向けて自律的な改善の取組を進めていくとともに、丁寧に地域・社会に説明して欲しい」と述べた。
14 Jun 2024
1151
日立製作所は6月11日、同社の取り組む「デジタル」、「グリーン」、「コネクティブ」の各戦略について、投資家・報道関係者らを対象に説明する「Hitachi Investor Day 2024」を開催した。〈配布資料は こちら〉冒頭、小島啓二社長は、日立グループが事業のデジタル化を加速すべく掲げるビジョン「Lumada」のもと、「厳しい環境の中にも常に『成長』の2文字を追い求める企業でありたい」との経営姿勢を強調。AI技術に関しては、「新たなビジネスチャンスを生む」ものと大いに期待。一方で、それに伴うデータセンター需要の急拡大や半導体供給不足、中長期的には「電力不足の深刻化」などを懸念し、こうした将来課題に対しても「One Hitachi」で取り組み、「企業価値を一層向上させていく」との意気込みを示した。「グリーン」戦略については、グリーンエナジー&モビリティ戦略企画本部長のアリステア・ドーマー氏が登壇し説明。同氏は、昨今のAI技術の加速化を「デジタル革命、社会の転換」と称した上で、「膨大なデータセンターと大量のグリーンエネルギーを必要とする。それによってパワーグリッド事業のみならず、原子力事業における小型モジュール炉(SMR)の潜在需要も見込まれる」との見通しを述べた。さらに、2050年までの世界的な電力の産業需要に関し、IEAによる調査をもとに、保守的に見ても10兆kWh(日本の年間電力消費量の10倍規模に相当)オーダーでの増加が見込まれると予測。同社のデジタル技術を活用した最近の国内電力供給におけるソリューション事例として、2023年11月に送配電システムズ合同会社(全国エリアをカバーする送配電ネットワーク10社)より受注した「次期中央給電指令所システム」を紹介。昨今、電力需給のひっ迫が懸念される中、周波数制御などを通じ全国の需給運用を統合する初のシステムとして期待されている。2024年度以降のグローバル成長を見据え、ドーマー氏は、「市場は巨大で、われわれは強気な目標を設定している」と強調。モビリティの分野では、特に日立が強みとする鉄道事業に関して「そのサービスビジネスは圧倒的に収益性が高い」と期待し、一例として2022年に受注した米国メリーランド州・ワシントン地下鉄の車両製造工場・試験線の建設プロジェクトを紹介した。コンパクトでメンテナンスフリーな車両設計は、日本におけるノウハウも活かされそうだ。また、エネルギーの分野では、「SMRは非常に大きなポテンシャル」として、米国GEベルノバ社の原子力事業会社であるGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)による「BWRX-300」(BWRをベースとした30万kW級のSMR)開発に向けたパートナーシップの他、今後、カナダ、英国、ポーランドでの市場拡大も展望した。
13 Jun 2024
928