国内NEWS
07 Oct 2025
199
エネ庁 革新炉ワーキンググループを1年ぶりに開催
海外NEWS
07 Oct 2025
149
米テラパワー カンザス州でNatrium建設を検討へ
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07 Oct 2025
134
欧州SMR産業アライアンス 戦略行動計画を採択
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06 Oct 2025
451
ブルガリア 米GEベルノバとSMR導入可能性を協議
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06 Oct 2025
336
EUの裁判所 ハンガリーの増設計画をめぐるECの国家補助承認を無効に
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06 Oct 2025
443
Nプロジェクト 文科省で記者会見
~科学を「共通言語」に 高校生が小学生へ伝える挑戦~
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03 Oct 2025
686
原子力小委 電力需給を見据えた将来像を議論
海外NEWS
03 Oct 2025
364
ルーマニア チェルナボーダ・プロジェクトにJPモルガンが融資
米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社は9月23日、米国中西部のミズーリ州カンザスシティを拠点とする電力会社エバジー(Evergy)社ならびにカンザス州商務省と覚書(MOU)を締結した。テラパワー社が開発するナトリウム冷却高速炉「Natrium」(34.5万kWe)と付随するエネルギー貯蔵システムをカンザス州におけるエバジー社の供給区域内に建設を検討する。本MOU締結により、先進的な原子力発電所のサイト固有の特性を共同で評価するほか、Natrium炉の技術設計およびエバジー社の顧客に向けたサービス能力を調査する。サイト選定は、地域社会の支援、サイトの物理的特性や米原子力規制委員会からの許認可取得可能性、既存インフラへのアクセスなどの要素を評価した上で実施される。カンザス州のL. ケリー知事は、「カンザス州の市民と企業のエネルギー需要を満たすにあたり、常にあらゆる手段を講じる方針を支持してきた。州の未来を支える、利用可能なあらゆるエネルギー源を探求する必要があるため、革新的な手法の活用を歓迎する」と述べ、D. トーランド州副知事兼商務長官も、「カンザス州の驚異的な経済成長を継続するためには、競争力を強化しながら消費者のコストを抑制する、あらゆる革新的な選択肢を検討する必要がある。このプロジェクトは両方を実現し得るものだ」と語った。エバジー社のD. カンプベルCEOは、「原子力発電は何十年にもわたって当社の発電ミックスを構成している。信頼性が高く、無炭素電源の原子炉をカンザス州に追加導入するにあたり、そのコスト、技術、実現可能性を評価していく」と述べた。エバジー社はカンザス州とミズーリ州に電力を供給しており、発電電力量の約半分を炭素排出ゼロの電源から供給。カンザス電力共同組合と共同所有するウルフ・クリーク原子力発電所(PWR、128.5万kWe)は1985年に運転を開始し、カンザス州の発電電力量の約20%を占めている。Natrium炉は、熔融塩ベースのエネルギー貯蔵システムを備えており、貯蔵技術は必要に応じてシステムの出力を50万kWeに増強し、5時間半以上維持することができる。これにより、Natrium炉は再生可能エネルギーとシームレスに統合され、費用対効果の高い電力網の脱炭素化を実現すると言われている。ワイオミング州ケンメラーにおける建設に向けて、現在、米原子力規制委員会は建設許可申請の審査を加速して実施中。テラパワー社はNatrium炉の送電開始を2030年と見込んでいる。
07 Oct 2025
149
欧州委員会の域内市場産業・起業家精神・中小企業総局は9月12日、ブリュッセルで開催された欧州小型モジュール炉(SMR)産業アライアンスの第2回総会において、初の「戦略行動計画(Strategic Action Plan)」を採択したことを明らかにした。本計画は、今後5年間の活動計画を包括的かつ詳細に示し、2030年代初頭までに欧州におけるSMRの開発・実証・展開を促進することを目的としている。SMRの迅速な展開は、欧州産業の競争力の維持、2050年までのカーボンニュートラル実現に向けたエネルギー移行の推進、さらにエネルギー分野におけるEUの戦略的自律性を高める上で極めて重要とし、戦略行動計画では今後5年間で実施する10の具体的かつ重点的な行動を提示した。SMR展開に関する主要課題として、発電以外での市場需要の開拓、サプライチェーンの再活性化、研究開発と人材育成の推進、資金調達の機会を創出、規制枠組みの簡素化などに焦点を当ててている。10の重点行動と達成の目標とする達成時期は以下のとおり。SMR実証プロジェクトの枠組みづくり(~2026年6月)データセンター、エネルギー多消費産業、地域暖房などの用途でSMR実証プロジェクトを企画。公共部門・開発者・産業界の三者協定を検討。研究・実験施設の整備計画(~2026年12月)SMRの研究開発に必要な試験施設を特定・評価し、既存設備の改修や新設に向けた計画と資金計画を策定。規格・標準化と技術交流の促進(~2028年6月)SMR向けの共通規格・基準を提案し、EU域内での技術・データ交換を円滑化する制度を整備。サプライヤー連携プラットフォーム構築(~2026年12月)各国の有資格サプライヤーとSMR開発プロジェクトを結ぶマッチング機能を備えた支援プラットフォームを構築。EUサプライチェーン強化策の提言(~2026年6月)サプライチェーンの現状を評価し、NZIA(ネットゼロ産業法)やIPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)を活用した強化方策を提案し、能力拡大を継続的に推進。欧州「ネットゼロ・アカデミー」構想(~2027年1月)SMR・AMR(先進モジュール炉)開発に必要な専門スキルを特定し、欧州全体で人材育成を担う教育アカデミーの設立を計画。公衆・関係者向けエンゲージメントツール(試行:2026年3月/完成:2026年12月)地域社会や関係者との対話を促進するためのツールキットを開発し、早期計画段階で導入。共通安全評価の推進(2025年以降継続)規制当局間の協力を促し、安全性に関する「業界ポジションペーパー」を作成。早期審査を支援する体制を構築。標準化燃料設計の支援(~2027年10月)軽水炉型SMRならびにAMR向けの標準化燃料の仕様策定を支援し、安全性と互換性の向上を図る。投資リスク低減と資金支援策の提案(~2026年3月、以降毎年更新)初号機(FOAK)開発リスクを軽減するための資金支援・保証制度を提案し、EU基金・金融機関と連携して投資環境を整備。同アライアンスは2024年2月に設立され、産業界のリーダー、研究者、政策立案者など、350を超える幅広いSMR関係者が結集。共通のビジョンと行動計画の下で協働することを目的としている。運営面では、EC、Nucleareurope(欧州原子力産業協会)、欧州の100名以上の科学者や環境専門家のグループの欧州持続可能な原子力技術プラットホーム(SNETP)が主要パートナーとしてアライアンスを支え、複数の具体的なSMRプロジェクト支援や戦略行動計画に基づく施策の実施を主導。アライアンスの運営は理事会が指揮し、戦略的助言や重要な意思決定を行っている。戦略行動計画を成功裏に実施するには、産業界および公共部門の強力なコミットメントと、多様な関係者間の協力が不可欠であるとし、同アライアンスは、加盟団体、EC関連部局、他のEU機関、国際機関と緊密に連携し、欧州におけるSMRの迅速かつ円滑な展開を確実に行っていく方針である。
07 Oct 2025
134
ブルガリアのR. ジェリャズコフ首相とZ. スタンコフ・エネルギー相は第80回国連総会に出席するために米国を訪問。9月24日、GEベルノバのR. マルテラCCOと会談し、小型モジュール炉(SMR)の導入の可能性について協議した。スタンコフ大臣は、「ブルガリアは、安全保障と適正価格でのエネルギーへのアクセスを確保するために、近代的なエネルギーインフラと戦略的パートナーシップに積極的に投資している欧州諸国の1つであり、世界のクリーンエネルギーソリューションの地図上でますます認知されるようになっている」と指摘。南東欧地域において、エネルギーリーダーの地位を強化すべく、現在進行中のコズロドイ原子力発電所7-8号機に米ウェスチングハウス社製AP1000を2基増設するプロジェクトに加えて、長期的な安定性、予測可能性、低コスト、低排出の実現に貢献する小型モジュール炉(SMR)をブルガリアに導入する可能性についても言及。ブルガリアがエネルギー安全保障、脱炭素化、経済成長という戦略的目標を達成する上で、GEベルノバ社との協力に期待を寄せた。さらに同大臣は9月26日、カナダのオンタリオ州を訪問し、同州のS. レッチェ・エネルギー・鉱業相とも会談。SMRに焦点を当て、両国間のエネルギー協力の深化について討議した他、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の建設プロジェクトが進むダーリントン・サイトも視察した。これらの会談に先立ち、国際原子力機関(IAEA)総会期間中の9月16日、スタンコフ大臣は米エネルギー省のC. ライト長官とも会談。民生用原子力協力を強化するという両国間の政府間協定の目的を再確認する共同声明に署名し、革新的な原子力技術の開発と展開で協力することを確認した。これを機に、ブルガリアは米国研究所の専門知識を活用して、SMRの展開を加速するための候補サイトの立地可能性と適合性評価を事前に調査し、ブルガリア政府当局とプロジェクト会社であるコズロドイ原子力発電所-New Build EAは革新的技術の導入に向けた準備を進める。米国貿易開発庁は既に、ブルガリアの条件に最適なSMRを特定するため、様々な炉型の評価に資金提供する用意があることを表明している。原子力発電分野で50年以上の経験を持つブルガリアは、SMR導入により原子力をさらに拡大し、将来のデータセンター立地のためのプラットフォームを構築したい考え。スタンコフ大臣は、「他の国ではそのようなセンターの建設には10年かかるが、ブルガリアは大幅に短い期間で提供可能であり、国際的な投資家やパートナーにとって魅力的である」と強調。ブルガリアは将来へのビジョン、安定したインフラ、地域のエネルギー移行を主導し、信頼できるエネルギー輸出国であり続けるとの展望を示した。
06 Oct 2025
451
欧州連合(EU)の司法裁判所(Court of Justice)は9月11日、ハンガリー政府によるパクシュ原子力発電所増設(パクシュⅡ)プロジェクトへの国家補助を承認した欧州委員会(EC)の決定を取り消した。パクシュⅡプロジェクトは、2014年1月のロシアとハンガリー間の原子力平和利用の協力協定に基づき、2014年12月、ロシア国営原子力企業ロスアトム傘下のニジニノブゴロド・エンジニアリング・アトムエネルゴプロエクト(JSC NIAEP)社に発注された。同発電所サイトにVVER-1200を2基増設して、既存のVVER-440×4基を段階的にリプレースする計画で、ロシアは2014年3月の政府間融資協定により、長期の低金利融資で総工費の約8割に当たる約100億ユーロの国家融資を行い、ハンガリーは自国予算から追加で25億ユーロを拠出する。ECは2017年3月、ハンガリー政府による国営企業MVMパクシュIIへの投資補助を承認。MVMパクシュIIは、無償で増設2基の所有者兼運転者となり、その建設費用はハンガリー政府が全額負担することとなった。ECによる国家補助承認を受け、ハンガリーの隣国であるオーストリアは2018年2月、一般裁判所(General Court=下級審)にECを提訴。MVMパクシュⅡがロシア企業と直接契約(競争入札なしの発注)し、公共調達に係わるEU指令に抵触しているにも係わらず、ハンガリー政府による補助は条件付きで域内市場と適合するとして国家補助を承認したことは違法であり、公共調達規則に基づき、国家補助の問題を検証すべきであると訴えた。これに対し、一般裁判所は2022年11月、国家補助審査に先行する直接契約が国家補助の目的と不可分に結びついているとは認められず、公共調達の規則違反を国家補助審査の枠組みで検証すべきではないとし、オーストリアの訴えを棄却した。オーストリアはこれを不服として、2023年2月に司法裁判所に上訴。司法裁判所は、一般裁判所による判決を破棄、ECの承認決定を無効とした。司法裁判所は、一般裁判所が判断した内容とは異なり、ハンガリー政府による援助がEUの国家補助規則に適合しているか否かの確認に留まるだけでなく、ロシア企業への直接契約の行為は国家補助の審査に本質的に関連するため、公共調達の観点からも検証すべきであったと判断した。司法裁判所の判決を受け、ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相は9月11日、「司法裁判所はECに対して不利な判決を下したが、パクシュIIプロジェクトをいかなる形でも制限または遅らせるものではなく、ハンガリー政府はパクシュⅡプロジェクトが自国のエネルギー安全保障の将来の主要な柱と見なし続けている」と述べた。むしろ最近の数か月、同プロジェクトへの投資を加速させているとし、2030年代初めには、両機を送電網に接続し、ハンガリーのエネルギー安全保障において大きな一歩を踏み出すと強調した。同国のJ. ボーカEU問題担当相も、この判決では、直接契約が公共調達規則に準拠していないとはしておらず、ECは国家補助手続きの枠組みの中でそれを検討しなかったか、少なくともこの問題に関して正当であると説明しなかったと指摘。国家補助や公共調達の手続き上でも違反とされていないため、パクシュⅡプロジェクトへの投資を計画通りに継続することに法的障害はないとの認識を示した。ハンガリーでは、旧ソ連時代に建設されたパクシュ発電所の4基(各VVER-440、出力約50万kWe)で総発電量の約5割を供給している。公式運転期間の30年を超過したため、運転期間を20年延長しつつ容量の大きい増設2基に徐々にリプレースしていく方針。シーヤールトー大臣は、同発電所の拡張はハンガリーの長期的なエネルギー供給を保証する重要要素であり、総発電量の約70%を供給できるとしている。パクシュⅡは2022年8月、増設プロジェクトの建設許可を国家原子力庁(HAEA)から取得。2023年7月以降、サイトでは建設の準備作業が進行している。HAEAからの承認を待ち、年内の初コンクリート打設を予定している。
06 Oct 2025
336
ルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカ(SNN)は9月24日、JPモルガン・チェースの欧州法人であるJPモルガンSEが主導する銀行コンソーシアムと、チェルナボーダ原子力発電所1号機の改修と同3-4号機の増設プロジェクトへの融資契約を締結した。SNNの株主による承認を経て実施される。銀行コンソーシアムは以下の銀行で構成:1号機改修プロジェクトの資金調達: Banca Comerciala Romana SA、Banca Transilvania S.A.、BRD Groupe Societe Generale SA、CEC Bank S.A.、Citibank Europe PLC(ダブリン・ルーマニア支店)、ING Bank N.V. アムステルダム – (ブカレスト支店)、UniCredit Bank SA、J.P. Morgan SE(ドイツ本社)3-4号機プロジェクトの資金調達: Banca Transilvania S.A.、BRD Groupe Societe Generale SA、CEC Bank S.A.、ING Bank N.V. アムステルダム(ブカレスト支店)、UniCredit Bank SA、J.P. Morgan SE(ドイツ本社)1号機(カナダ製CANDU、70.6万kWe)の改修プロジェクト向けに、5.4億ユーロの融資が行われる。改修工事は同機の30年間の運転期間延長を目的としており、SNNは2024年12月、エンジニアリング、調達、建設(EPC)契約を、カナダ、イタリア、韓国企業のコンソーシアムと締結している。EPC契約額は19億ユーロ。プロジェクトは現在、計画策定、設計・調達・建設契約の締結、長納期設備の調達、インフラ整備、許認可取得、資金確保などの準備作業が進められている。今年9月上旬には、土木工事が開始された。3-4号機(カナダ製CANDU、各70.6万kWe)増設プロジェクトでは、8,000万ユーロの融資が、エンジニアリング・調達・建設・管理(EPCM)契約のうち、米・加・伊の企業から構成される合弁事業会社が手掛ける「限定的な着手指示通知(Limited Notice To Proceed, LNTP)」フェーズの資金に向けられる。同資金は、SNNが全額出資するプロジェクト開発会社エネルゴニュークリア(EN)社が借り手となる。EPCMの契約額は32億ユーロ規模と想定。EN社は、エンジニアリング開発、資金確保、欧州委員会によるプロジェクト承認取得、最終投資決定の採択を目指している。SNNのC. ギタCEOは、「2件の資金調達契約の締結は、当社の戦略的プロジェクトである1号機改修ならびに3-4号機の増設プロジェクトの進行を支える重要な一歩。安全で信頼性のあるクリーンなエネルギー供給を最優先に、遅延やコスト超過なく進めていく。このパートナーシップは、両プロジェクトの信頼性の高さと、長期的な原子力エネルギーの役割を再確認するものだ」と語った。SNNは、両プロジェクトが同国のエネルギー安全保障、エネルギーの安定供給、CO2排出の削減、サプライチェーンなどに貢献すると強調。プロジェクトの完成により、ルーマニアの無炭素電源の66%が原子力となり、数千の雇用創出が見込まれている。チェルナボーダ発電所はルーマニアで唯一稼働する原子力発電所。1996年と2007年にそれぞれ1-2号機が運転を開始した。ルーマニアの総発電電力量に占める原子力シェアは約19%(2024年実績)。同発電所の3-4号機は1984年~1985年にかけて着工したが、1989年のチャウシェスク政権崩壊によって建設工事は中断し、現在は保全状態におかれている。
03 Oct 2025
364
ベルギーのチアンジュ1号機(PWR、100.9万kWe)が50年間の運転の後、9月30日に永久閉鎖した。現在、ベルギーで運転を継続するのは3基となった。チアンジュ1号機の閉鎖は、ドール3号機(2022年閉鎖)、チアンジュ2号機(2023年閉鎖)、ドール1号機(2025年2月閉鎖)に続き、4基目。ドール2号機(PWR、46.5万kWe)は今年11月末に閉鎖予定であり、ドール4号機(PWR、109万kWe)とチアンジュ3号機(PWR、108.9万kWe)の2基のみが、運転期間を10年延長し、2035年まで運転することになっている。チアンジュ1号機は1975年10月1日に営業運転を開始した。運転事業者であるエンジー・エレクトラベル社とフランス電力(EDF)が共同所有するこの原子炉は、2015年に閉鎖される予定だったが、エネルギー供給上の懸念から、運転期間は2025年まで10年間延長された。同機では今後、廃炉に向けた準備作業が行われる。使用済み燃料を燃料プールで冷却してから乾式の一時貯蔵施設に移し、一次系の化学洗浄を行う。これらの準備作業に5年かかる見通しで、その後、2040年にかけて解体作業を実施する計画だ。事業者は、連邦と地域レベルの双方で、解体許可に必要な申請書を提出する必要があり、すべての許可が下りてから解体作業を開始する。ベルギーでは今年5月、連邦議会(下院)が原子力発電の段階的廃止を撤回し、新規建設を認める法案を可決、原子炉の運転期間を40年に制限していた、2003年の脱原子力法は撤回された。現在の地政学的な不確実性に照らして不可欠となるエネルギーミックスの実現や、エネルギー移行に貢献する原子力部門を再活性化すると同時に、雇用創出を目的に、政府は原子炉をより長く稼働させ続けることを望んでいる。M. ビエ・エネルギー相は、エンジー社に対し、不可逆的な廃炉作業を行わないよう求め、地元の市長と市議会議員も、原子炉の解体許可申請に反対する意見を表明するなど、運転延長に関する議論が進行中であるという。一方のエンジー社は、ドール4号機とチアンジュ3号機以外の運転継続には繰り返し難色を示している。チアンジュ1号機の運転延長には、高コストなバックフィット作業を実施した上で、10年間の安全性審査を受ける必要があり、また、チアンジュ1号機の解体を停止すると、チアンジュ2号機の解体には1号機のスペースが必要なため、その作業が妨げられるという。チアンジュ1号機の閉鎖を受け、ベルギー原子力フォーラムのS. ドービー代表は、「閉鎖はナンセンス。閉鎖は何年も前に下された政治的決定の結果であり、この決定は現在の状況ではもはや意味をなさない」と述べ、世界的に不安定な地政学的状況からみても、低炭素で制御可能な電力供給は不可欠であり、ベルギーは原子力発電プラントを維持・強化すべきと訴えた。また、市民と産業界の双方の利益のために連邦政府と既存の事業者間で合意は可能、と期待を示した。同フォーラムによると、ベルギーの今年8月の総発電電力量に占める原子力の割合は34%。再生可能エネルギーが44%で、火力が22%。さらに電力需要を満たすために22%を輸入しなければならなかったいう。チアンジュ1号機の閉鎖により、同国は100万kW級の低炭素電源を失ったことになる。
02 Oct 2025
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韓国のサムスン重工業(SHI)は、9月9日から12日までイタリアのミラノで開催された世界最大のガス・エネルギー展示会「Gastech 2025」において、小型モジュール炉の熔融塩炉(MSR)を搭載した、積載容量174,000㎥級LNG運搬船の基本設計認証(AiP)を取得したことを明らかにした。世界初となるMSR搭載LNG運搬船は、船の安全性と技術的妥当性を認証する米国船級協会(ABS)ならびにリベリア海事当局から技術認証を受けた。AiPは、新造船の設計や技術を審査し、国際規制や安全基準に適合すると評価する象徴的なプロセスであり、実際の船舶開発の第一歩。同技術はSHIと韓国原子力研究院(KAERI)が共同で開発した概念設計中のMSRを動力源としている。KAERIによると、MSRは安全性とエネルギー効率が高い液体燃料として、燃料と冷却剤を混合した熔融塩を使用するため、船舶用エンジンとして注目されているという。LNG運搬船の動力となるMSRの設備容量は10万kWth、単基のみの設置でも船舶の寿命期間中に燃料交換が不要になるように設計されている。両者は、2023年から科学技術情報通信部と海洋水産部の支援を受けて推進中のMSR基盤・革新技術開発事業に主管研究開発機関として参加し、2026年までに海洋用MSRの概念設計を完成させることを目標に研究を進めている。本プロジェクトの実現により、海洋部門の炭素中立達成に貢献したい考えだ。SHI社のH. ジャン技術開発本部長(副社長)は、「我々の次世代エネルギーバリューチェーンにより、造船およびオフショア産業における競争力を実証し、引き続き世界市場をリードしていく」と語った。
02 Oct 2025
776
米テネシー川流域開発公社(TVA)は9月19日、テネシー州オークリッジ近郊にあるTVAの旧ブルラン火力発電所サイトにおいて、タイプ・ワン・エナジー(Type One Energy)社が開発する米国初の商業用ステラレータ核融合発電所である「Infinity Two」の建設支援に向け、同社と基本合意書(LOI)を締結した。タイプ・ワン・エナジー社は2019年設立のベンチャー企業。先進的な製造技術や最新の計算物理学、高磁場超伝導マグネットを組み合わせ、Infinity Two(35万kWe)を開発中で、早ければ2030年代中頃の稼働を目指している。同社は、複雑にねじれたコイルで強力な磁場を発生させ、ドーナツ状のプラズマを安定して閉じ込める、ステラレータ型核融合技術を採用。TVAによると、ステラレータは現在唯一、安定した定常運転と高効率を実証しており、競争力のある電力供給に資する可能性があるという。今回のLOIでは、Infinity Twoの運転・保守要員の研修施設として、旧ブルラン火力発電所サイトに建設されるプロトタイプ「Infinity One」を活用する可能性を指摘している。Infinity Oneは、後続の核融合パイロットプラントの設計と運用効率、信頼性、保全性、手頃な価格といった重要な側面をテストし、長期的な国家核融合研究施設の優れたプラットフォームにもなると期待されている。タイプ・ワン・エナジー社は今年2月、TVAとInfinity Twoプラントの計画を共同開発することで合意、7月には最初の商業契約を締結し、TVAはアラバマ州にある同社施設などを通じ、Infinity One向けに特化した溶接・製造技術の開発を支援する。Infinity One向けに開発された製造・建設手法は、Infinity Twoの建設に活用する方針である。TVAのD. モールCEOは、「当社は、米国の経済繁栄を支え、AI・量子コンピューティング・先端製造業を後押しする先進原子力導入のリーダー。タイプ・ワン・エナジー社との戦略的パートナーシップは、テネシー州のB. リー知事が同州を安全かつクリーンで信頼性の高いエネルギーのリーダーと位置づけ、経済成長と雇用機会をもたらす原子力エコシステムの構築にどのように貢献しているかを示すものだ」と強調した。ブルラン火力発電所は56年間の運転を経て、2023年に閉鎖。石炭依存を減らし、クリーンエネルギーに注力するというTVAの公約の一環である。タイプ・ワン・エナジー社は、リー知事自身が提案し、州政府が2023年に創設した「原子力基金」から資金提供を受けた初の企業でもある。同基金には5,000万ドル(約74億円)が投じられ、原子力関連企業の誘致や教育研究の強化に充てられている。同社のC. モウリーCEOは、「世界のエネルギー課題解決には、先見性あるパートナーとの大胆なコラボレーションが必要。リー知事やTVAと協力して、テネシー州を核融合の全国的なハブにしていく」と意気込みを語った。Infinity Twoの導入に必要な資金調達や建設、電力購入契約に関する最終決定や正式契約は、TVA理事会の承認や規制当局の審査、TVAの最低コスト計画および米国のエネルギー戦略との整合性が条件となる。
01 Oct 2025
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米原子力規制委員会(NRC)は9月5日、フェルミ・アメリカ(Fermi America)社が申請した、ドナルド J. トランプ発電所に関する建設・運転一括認可申請(COLA)の最初の2部を受理した。同発電所には、米ウェスチングハウス(WE)社製の大型炉AP1000が4基導入される予定だ。米テキサス州を拠点とするフェルミ・アメリカ社は、元米エネルギー省(DOE)長官で元テキサス州知事のR. ペリー氏が共同創設者に名を連ねるエネルギー開発会社。次世代人工知能(AI)に不可欠なギガワット(GW=100万kW)規模の電力網の構築をめざし、テキサス工科大学(TTU)システム((テキサス州にある州立大学群))と提携。TTUシステムに世界最大の統合エネルギーとAIキャンパス「ドナルド J. トランプ大統領 先進エネルギー・インテリジェンス・キャンパス」(別名: プロジェクト・マタドール)を建設するプロジェクトを進めている。同プロジェクトは、テキサス州アマリロ郊外の約2,335万m²の敷地に建設される、世界最大級の民間初の電力網キャンパス。AP1000×4基(400万kWe)のほか、SMR(200万kWe)、ガス火力複合発電所(400万kWe)、太陽光発電とバッテリーエネルギー貯蔵システム(100万kWe)を組み合わせ、計1,100万kWeの独立電力供給インフラを確保する。これに連携する形で大規模なハイパースケールAIデータセンターを段階的に導入し、既存の電力網よりも安定性の高いエネルギーキャンパスとして、次世代AI技術を支える特化システムを構築する狙いだ。フェルミ・アメリカ社は今回受理されたCOLAの第1部を、6月17日に提出。一般的な情報や財務、環境に関するもので、続く8月20日に提出した第2部では、AP1000の標準設計を含む最終安全解析報告書の技術的部分(特定の建設予定地に依存しない章)や、その他の補足情報が含まれている。今後、第3部として、サイト固有の具体的な環境情報を2026年内に順次提出する予定。フェルミ・アメリカ社は今年8月、WE社とCOLA文書の完成と承認審査プロセスについて協力することで合意している。なおNRCは、規制効率化の一環として国家環境政策法(NEPA)に基づき、従来、NRCが作成していた環境影響評価書(EIS)を申請者(フェルミ・アメリカ社)自身がその草案を作成するパイロットプログラムを進めている。NRCのスケジュールによると、草案の提出期限は2026年2月28日で、NRCは審査をさらに効率化するために必要なフィードバックや情報提供を行うとともに、適切な時期にNRCの原子力安全・許認可委員会(ASLB)に審理を求めるとしている。さらにフェルミ・アメリカ社は9月5日、同プロジェクトに係る資金調達のため、米国証券取引委員会(SEC)に新規株式公開(IPO)の登録届出書を提出した。同社はAP1000の1基あたりの建設期間を約5年と見込み、迅速な規制当局の承認と多額の資金調達により、AP1000の初号機を2032年に、後続機を2034年~2036年に順次稼働させたい考えだ。
01 Oct 2025
546
スウェーデン政府は9月19日、2026年予算案で、新規原子力発電プラントの建設を支援するための財政枠組みを提案した。提案内容によれば、政府は最大2,200億スウェーデンクローナ(約3.5兆円)を投じ、12年間にわたって支援を行う方針だ。今後、議会の承認が必要である。この長期的な支援枠組みは、最大約500万kWeの新規原子力発電所への投資支援が対象。政府は、新規プラントが運転を開始してから最大40年間にわたって、年間平均10億~30億スウェーデンクローナ(158億~473億円)の価格保証も提供する予定だ。支援を受ける企業と政府の契約は2026年と2027年に予定されているが、2026年にはその約半分にあたる規模の申請が見込まれている。契約条件はプロジェクトごとに個別に交渉されるが、本支援スキームは欧州委員会(EC)の承認が必要であるため、個々の契約が調整される可能性があり、国のコストは最終的な建設価格と将来の電力価格の動向に左右される。政府の気候政策の基礎は、主に電化による化石燃料を使用しないエネルギーへの移行であり、安定的かつ競争力のある電力供給が不可欠だとして、原子力の拡充が重要な役割を果たすと認識されている。政府は今後、多くのサイトで効率的に許認可を進めるため、大・小規模の事業者双方に対応し、既存技術と新技術の双方を扱える許認可プロセスを2026年までに整備する方針。そのため2026年予算案では、放射線安全局、環境保護庁、県行政庁、国債管理庁、裁判所への予算として合計1.61億クローナ(約25億円)の追加措置が計上されている。さらに、環境許認可プロセスを簡素かつ効率的にしつつ、高水準の環境保護の維持を目的として、2027年7月1日に新たな環境審査庁の設立を予定し、2026年予算案に計上済み。但し、一度にすべての規制変更を導入すると逆に遅延を招く恐れがあるため、段階的に新機関の役割を導入するとし、当初は県行政庁から一部の責任が移管され、将来的には土地・環境裁判所の一部業務も新機関に移す計画である。議会は今年5月、国内の新規原子力発電プラントの建設を検討する企業への国家補助、新規プラントの運転時に市場リスクを軽減するため、運転事業者と政府による双方向の差金決済取引(CfD)制度の導入を含む国家支援の枠組みを確立する法律を可決した。支援対象は、大型炉4基分に相当する、最大500万kWeの発電設備容量を持つプロジェクトで、8月1日に施行され、新規建設プロジェクトへの支援申請が可能になっている。
30 Sep 2025
543
米グローバル・レーザー・エンリッチメント(GLE)社は9月16日、同社のノースカロライナ州にあるウィルミントンの試験ループ(Test Loop)施設において、大規模なウラン濃縮実証試験を完了し、レーザーを用いたウラン濃縮プロセスが商業的に展開可能であることを裏付ける豊富な性能データを収集したことを明らかにした。GLE社は、米国内における製造基盤や供給網を整備し、国内濃縮能力の確立を目指している。同社のS. ロングCEOは、「過去5か月にわたる実証試験活動により、当社は米国のウラン濃縮戦略のソリューションとなる体制を整えた。米国の電力供給の約20%は原子力に依存しており、GLEの取組みは、外国政府が支配する脆弱な燃料供給網への危険な依存からの脱却に資するものだ」と語った。なお、GLE社は2025年を通じて実証プログラムを継続し、数百キログラム規模の低濃縮ウラン(LEU)を生産する予定。GLE社はレーザー濃縮技術の商業化を目指し、豪サイレックス・システムズ社が51%、加カメコ社が49%所有する合弁企業。GLE社はサイレックス法(サイレックス社独自のレーザー分子法によるウラン濃縮技術)の独占行使権を保有している。GLE社はこれまでに、ノースカロライナ州とケンタッキー州で5.5億ドルを投じ、エンジニアリング、設計、製造、認可取得活動を進めてきた。現在、同社がケンタッキー州で計画しているパデューカ・レーザー濃縮施設(PLEF)は、米原子力規制委員会(NRC)が審査中の唯一の新規濃縮施設。GLEは今年7月にPLEFの建設と操業に向けた認可の申請を完了している。この認可申請は、GLE社が2012年9月に取得した、ノースカロライナ州ウィルミントンにおける商業規模のレーザー濃縮施設のNRCの建設・操業許可に基づいている。当時は市場環境が悪く、計画は進展しなかった。GLE社は2024年11月に米エネルギー省(DOE)が所有する、ケンタッキー州のパデューカ・ガス拡散工場(PGDP)跡地に隣接する665エーカー(約2.7㎢)の土地をPLEFの建設サイトとして取得しており、PLEFサイトの良好な特性から、認可取得は早まると予想されている。認可取得後、GLE社は2030年までにPGDPにある劣化六フッ化ウラン(DUF6)の再濃縮を開始する。これは、2012年11月のDOEとのDUF6の長期購入契約に基づいている。パデューカ・サイトでは、1960年代からガス拡散濃縮プラントが民生用の濃縮ウランを生産していたが、2013年に操業を停止し、サイトは現在、環境復旧プログラム下にある。PLEFで20万トン以上のDUF6を再濃縮し、最大6,000tSWU/年の生産能力となる見通し。これにより、GLE社は、ウランの転換から濃縮までを一拠点で担う、米国内の包括的な供給体制を構築したい考えだ。
29 Sep 2025
729
国営スロベニア電力(GENエネルギア)は9月4日、クルスコ原子力発電所の増設計画(JEK2プロジェクト)に関する技術的な実行可能性調査(TFS)の結果、フランス電力(EDF)が提案するEPRならびにEPR1200、米ウェスチングハウス(WE)社のAP1000のいずれの炉型もJEK2サイトにおいて技術的に実行可能であることが確認されたと明らかにした。GENエネルギアは今年1月、JEK2プロジェクトのTFS実施契約を、サプライヤー候補である仏EDFならびに米WE社と締結。WE社は、韓国の現代E&C(現代建設)社と協力してTFSを実施した。当初、TFS実施の入札を予定していた韓国水力・原子力(KHNP)は、ビジネス環境の評価と戦略的ビジネスの優先事項の変更のため、同入札に参加せず、JEK2プロジェクトの建設入札にも参加しないとGENエネルギアに通知していた。GENエネルギアは2024年5月、出力100万kWe~240万kWe規模の増設プラントを、スロベニアの電力システムへ接続した場合の安全性・安定性解析の結果、電力網への影響の観点から、JEK2プロジェクトの最適な設備容量は最大130万kWeであると結論づけた。JEK2の推定投資額(オーバーナイトコスト((金利負担を含まない建設費)))は9,300ユーロ/kWで、100万kWeのプラント増設で93億ユーロ、165万kWe増設で154億ユーロとの経済性評価を明らかにしている。なおGENエネルギアは、投資の経済的実行可能性を保証するJEK2の電力の最低販売価格を70.2ユーロ/MWhと推定している。TFSでは、スロベニアにおける特定の技術要件、欧州の法的要件、その他セキュリティ等を調査。両社の炉型は、いずれもJEK2の立地において技術的に実行可能であり、すべての規制枠組みに対応可能であると評価している。GENエネルギアの新規原子力施設部門責任者V. プラニンク氏によると、各設計は洪水や地震リスクを考慮し、既存の環境に安全かつ効率的に適合できることを確認済みで、設計寿命は60年とされており、条件を満たせば最大80年まで延長可能。サイトは、使用済み燃料や低・中レベル放射性廃棄物の一時的な乾式貯蔵施設の建設にも十分なスペースがあることを確認。調査では特に、環境影響の評価に重点が置かれ、提案されている炉型は自然通風冷却塔を採用、サヴァ川への影響を最小限に抑え、炭素排出量も最小となる、環境的に最も受入れ可能な方法であるとしている。同プロジェクトはまた、地域に広範な経済的利益をもたらし、地元企業のサプライチェーンへの参入、新規雇用の創出、インフラ整備、サービス開発などを通じて、人口の定着に寄与すると強調。投資額の見積もりも、2024年5月の経済性評価の範囲内に収まっているという。現在、増設に係わるプロセスの透明性の確保のために、JEK2の国家空間計画(DPN)イニシアチブの一般公開が今年7月から10月末まで進行中であり、一般の人々が提案や質問を行う。その後、DPNの開始に関する政府決定に続き、環境影響評価を実施する計画だ。GENエネルギアは、透明性を確保しながら、2028年までにJEK2プロジェクトの是非を問う国民投票を実施し、最終投資決定(FID)を予定。FIDから建築許可の取得までの期間を約4年、推定建設期間(サイト内の建設工事の開始から発電の開始まで)は7年と見込んでいる。スロベニアでは当初、2024年11月に国民投票の実施を計画していたが、その合法性やプロジェクトの透明性を疑問視する環境団体や世論の批判を受け、国民投票の実施を中止した。同社は、EU各加盟国が策定する国家エネルギー・気候計画(NECP)に基づき、2040年までに大型炉、2050年までにJEK2プロジェクトを補完するSMR(設備容量約25万kWe)の導入を想定しており、SMRを設置する可能性のある場所を特定するための作業も並行して実施している。スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所(PWR、72.7万kWe)が同国の総発電電力量の約35%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivreda(HEP)が共同所有。WE社は運転と燃料供給のサポートを通じて、GENエネルギアと数十年にわたるパートナーシップを有する。スロベニアの電力需要は、2050年までに倍増することが予想されているが、2033年以降は総発電電力量の約3分の1を供給する火力発電所を閉鎖する計画だ。2043年にはクルスコ発電所の運転期間(60年)も満了する。
29 Sep 2025
432
総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループ(以下WG、座長=斉藤拓巳・東京大学大学院工学系研究科教授)が10月3日、約1年ぶりに開催され、次世代革新炉の開発の道筋の具体化に向けた議論が行われた。前回のWG開催後に策定された第7次エネルギー基本計画では、原子力を脱炭素電源として活用することが明記され、次世代革新炉(革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合)の研究開発を進める必要性が示された。今回のWGでは、実用化が間もなく見込まれる革新軽水炉と小型軽水炉に焦点を当てた議論が行われ、開発を進める各メーカー(三菱重工・日立GEベルノバニュークリアエナジー・東芝エネルギーシステムズ・日揮グローバル・IHI)から、安全性への取り組み、技術の進捗、今後の見通しなどの説明があった。三菱重工のSRZ-1200は、基本設計がおおむね完了しており、立地サイトが決まれば詳細設計に進む段階で、すでに原子力規制庁との意見交換も5回実施済み。規制の予見性向上に取り組んでいるとの報告があった。日立GEベルノバニュークリアエナジーからは、開発中の大型革新軽水炉HI-ABWRや小型軽水炉BWRX-300の説明があり、特にBWRX-300はカナダのオンタリオ州で建設が決定しているほか、米国やヨーロッパでも導入・許認可取得に向けた動きがあると述べた。東芝エネルギーシステムズは、開発中の革新軽水炉iBRに関して、頑健な建屋と静的安全システムの採用で更なる安全性向上を進めながら、設備・建屋の合理化を進め早期建設の実現を目指すと強調した。IHIと日揮ホールディングスは、米国のNuScale社が開発中の小型モジュール炉(SMR)について、米国では設計認証を取得し、ルーマニアで建設に向けた基本設計業務が進められていると伝えられた。両社は、経済産業省の補助事業を活用し、原子炉建屋のモジュール化や要求事項管理、大型機器の溶接技術、耐震化などの技術開発に取り組んでいるという。その後、参加した委員から多くの期待感が示されたが、同時に課題点の指摘があった。例えば、革新炉開発の技術ロードマップの定期的な見直しの必要性や、日本特有の自然条件への適合に関する議論の進展、また、各社が進める新型炉の開発状況に応じた規制要件や許認可プロセスの予見性向上の必要性など挙げられた。また、エネルギー安全保障の観点や立地地域との信頼の醸成など技術開発以外で取り組むべき事項についても意見があった。産業界の立場から参加している大野薫専門委員(日本原子力産業協会)は、ロードマップには技術開発だけでなく、投資判断の際に重視される事業環境整備やサプライチェーン、人材の維持・強化についても明示的に盛り込むよう要望。また、環境影響評価や設置許可などの行政手続きについては、標準的なタイムラインの提示が必要だと指摘した。 小型軽水炉のロードマップに関しては、国内での開発動向や新たな知見を反映したアップデートに加え、日本企業が参画する海外の小型軽水炉プロジェクトの導入可能性も視野に、ロードマップで取り上げることを提案。またGX関連支援では、革新技術だけでなく、サプライチェーンを支える製造基盤の維持に対する支援継続も不可欠と訴えた。
07 Oct 2025
199
京都大学複合原子力科学研究所の中村秀仁助教らは10月2日、文部科学省にて「Nプロジェクト」に関する記者会見を開いた。同プロジェクトは、高校生が科学の「ワクワク感」を小学生や地域社会に伝える対話型学習活動であり、このたび初めて公立小学校(4校、50クラス、計1704名)に展開することが正式に発表された。中村助教は、20年にわたり科学教室を続けてきた経験を振り返り、「これまで理科好きの子どもや保護者が熱心な家庭にしか届いていなかった」と反省を語った。その上で「科学は学問ではなく、世界共通の言語。人と対話するツールとしてこそ意味がある」と強調。学力中間層や文系生徒を対象とした新たなアプローチの意義を訴えた。今回の小学校での授業は、低学年に「気象」、高学年に「放射線」を題材に、高校生1名に対し、小学生4~5名の少人数形式で45分間。自作のスケッチブックを使ったクイズ形式で行われる予定だ。中村助教は「文系の生徒に科学を届けたい」と考え、題材を設計した経緯を説明。高校2年で文理が分かれる際、文系に進む理由の多くは「古文が好きだから」や「漢文が好きだから」ではなく、「算数が苦手だから」であり、理系科目に対して苦手意識があるという実態がある。こうした生徒に物理や化学の題材を取り上げても「理系の生徒には勝てない」「自分にはできない」という意識が先立ち、学びにつながらない。そこで中村助教は、社会的な話題でありながら、理系生徒も文系生徒も「誰もが同じスタートラインに立てるテーマ」を選ぶ必要があると考えた。その一つが「福島第一の処理水に含まれるトリチウム水」の問題だった。理系も文系も詳しくないテーマであり、初めて「対等に議論できる」題材となったのだ。放射線は一般的に不安や偏見と結び付けられがちだが、科学的に学べば「必ずしも悪いものではない」ことを理解できる。だからこそ、放射線を題材に選ぶことには、科学リテラシーを育てる契機となる社会的にセンシティブな話題に向き合う力をつけるという狙いがある。大阪高等学校の平野宏太校長は「2000人近い生徒たちがNプロジェクトに参加しているが、その7割近くが文系の生徒。その文系の生徒たちが、Nプロジェクトが終わった後に、物理や科学系の参考書を読み始めたり、YouTubeを見るようになった」と語り、これまでの授業とは全く違う形での教育効果を実感していると述べた。中村助教も「小学校で実施するからと言って、小学生に知識を与えることが目的ではない。かっこいいお兄さん・お姉さんの姿を見て、『あんなふうになりたい』と思ってもらうことが大切」と述べ、高校生にとっても「役割交代」を通じてキャリア意識を育む機会になるとした。記者会見に同席した京都大学複合原子力科学研究所の川端祐司特任教授は、Nプロジェクトについて「3年目という若いプロジェクトだが、アウトプットの場を多様に設けることで子どもたちの非認知能力に改善が見られる」と評価。「吹田市のご協力を得て公立小学校という公の教育の場で活動できるのは、我々にとって全く新しいステージに入った」と語った。当初は「放射線を題材にする」ことへの不安が小学校側から多く寄せられたが、大阪・関西万博での高校生の活動を見た教員らがSNSで拡散し、協力的な姿勢へと転じたという。保護者からも「家庭で子どもが科学やニュースを話題にするようになった」と喜びの声が寄せられている。授業は10月20日からスタートし、桃山台小、津雲台小、佐竹台小、千里たけみ小の4校で順次実施される。さらに今後は海外当局との共同記者会見も計画されているそうで、Nプロジェクトは国際的な広がりを視野に入れているようだ。 高校生が語る「挑戦」と「ワクワク感」今回の会見には、大阪高等学校から2名の高校生が出席し、それぞれの成長体験と今後の意気込みを語った。寒川琴音さん(3年):「科学のワクワク感」を伝えたい文系の生徒として参加した寒川さんは、中学時代に委員会や生徒会の活動を断り続けてきた後悔から、高校入学時に「前向きにすべてに挑戦しよう」と決意したという。Nプロジェクトでは「科学のワクワク感を伝える」ことを最も重視しており、「教えるという形にこだわらずに伝える」という姿勢で小学生との対話に臨むと語った。小学生への説明で最も苦労している点について「漢字が使えないこと」を挙げており、「風向計とかも風の向きを計測する機械です」と大人には説明できるが、小学生低学年へひらがなで説明する際は「イラストを丁寧に描く」といった工夫が必要だと話した。将来は芸能関係を目指す寒川さんは、「いろいろな人と話せるようになりたい」と語り、今回の活動がコミュニケーション能力向上の良い機会になると期待している。同世代の高校生に対しては「挑戦したら変わるよっていう挑戦することの大切さを身をもって実感できるので、それを伝えたい」と述べ、自らの変化体験を基にした説得力のあるメッセージを送っている。横田さくらこさん(3年):「踏み出す勇気」を伝えたい横田さんは、高校入学前は将来について何も考えていなかったが、姉が大阪高等学校の在校生だったことからNプロジェクトの存在を知り、「文系理系関係ないなら、科学とか得意じゃないけどできるかな」という気持ちで参加した。参加後は発表機会が増えるにつれて「コミュニケーション能力とかプレゼン力がどんどん上がってきた」と実感。理科の授業に対する向き合い方も変化し、「公式を覚える授業というよりは、自分が知って、科学に興味を持ってるから取り組む」ようになり、「ただ暗記するような、テスト用の勉強じゃなくなった」と語った。小学生と向かい合うことに関しては「ちょっと踏み出すことによって、こんなにも世界が広がるというのを伝えていけたら」と語る横田さん。自分には弟や妹がいないため「どうやって接したらいいのかわからないから」と、小学生との接し方についても学びたいと話した。同世代の高校生に対しては「何事にも関係ないって思わずに挑戦しよう」と語り、「将来や進路につながらなくても、きっとどこかにつながると思う。科学だけじゃなくて、プレゼン力やコミュニケーション力とか。大事なことは知識だけじゃない」と強調した。川端特任教授は、寒川さんと横田さんの発言を受けて「普通の高校生がこのような場に来て、自分の言葉で話すというのはなかなか難しい。学力のボリュームゾーンの子どもたちが自分で考えて、プレッシャーがある場で話すことができること自体が、大きな成果だ」と評価した。
06 Oct 2025
443
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長)が10月1日に開催され、第7次エネルギー基本計画を踏まえた原子力発電の将来像と見通しが議論された。同委員会では、次世代革新炉の動向や立地地域との共生、燃料サイクル、サプライチェーン・人材確保、国際動向などさまざまな課題が示され、委員から幅広い意見が出された。特に、電気事業連合会(電事連)がまとめた資料には、運転期間60年を前提とした場合、2030年代半ば以降に廃止措置に入る原子炉が増えるため、2040年代に約550万kWのリプレースが必要との試算が示され(既報)、これを中長期議論の出発点とすべきといった提案がなされた。黒﨑委員長は、脱炭素電源不足を避けるため将来像を提示する意義を強調し、定量的見通しの重要性、そして、電事連が示した試算を議論の出発点とする妥当性を確認した。他の委員からも、「リプレースに必要なリードタイムを考慮すると、時間的な猶予はあまりないため早期に議論に着手すべき」との声や「2040年以降のシナリオも、海外事例を参考に、政府と産業界が共同で計画を検討すべきだ」との声が上がった。この試算について多くの委員が支持した一方で、電力需要の伸び方など、DXやGXの進展次第で大きく変わる不確実性を考慮し複数シナリオを提示する必要性や、安全文化の確立、規制の予見性向上に関する指摘があがった。専門委員として出席している日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、電事連が示したリプレースに関する試算について「電力需要の見通しと原子力比率に基づいた試算であり穏当と受け止めた」と評価し、国が将来像を策定するに当たって、「中期・長期の二段階で見通しを提示すべき」との意見を示した。また、原子力産業の基盤維持・強化の取組みに関して、①原子力産業への就業確保②産業内での人材定着③シニアの活用、の3点を挙げ、原子力産業界全体の生産性向上に向け、省人化技術を積極的に活用することの重要性を訴えた。また、これらの課題について、「産官学の協力が必須であり、協会としても当事者意識をもってしっかり取り組みたい」と意欲を示した。〈発言内容はこちら〉
03 Oct 2025
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電気事業連合会(電事連)は10月1日、第46回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の原子力小委員会において、「今後の電力需給を見据えた原子力発電の見通し・将来像について」と題する資料を提示し、将来的に必要となる原子力発電所のリプレース規模に関する説明を行った。それによると、国が定めた第7次エネルギー基本計画に記された原子力発電容量(総発電電力量の2割程度)を達成するためには、2040年代に約550万kWの原子力リプレースが必要で、2050年代には最大で約1,270~1,600万kWのリプレースが必要な可能性があるという。今後の発電電力量の推移や、脱炭素電源の導入状況によっては、さらなるリプレースが必要なケースも想定される。第7次エネルギー基本計画では、増加する電力需要に応えるべく、脱炭素電源としての再生可能エネルギーと原子力を最大限活用しつつ、出力調整機能に優れた火力発電等の電源を組み合わせるエネルギーミックスの重要性が示された。電事連は、今後の設備容量の低下や原子力発電所建設に係る長いリードタイムを踏まえると、既存の安定電源を如何に更新していくかが重要だと指摘している。また、電事連は、既設炉を最大限活用していくとしても、運転開始後60年で廃止を決定するとした場合、2030年代半ばから廃止措置段階を迎えるプラントが増え、2040年度までに4基、2050年度までに更に11基が廃止措置段階へ移行すると試算している。そのため、既設炉の最大限活用を進めるとともに、次世代革新炉の開発と建設に取り組む必要性を強調したほか、それら具体的な中長期の見通し・将来像の明示が、人材やサプライチェーン、技術基盤の維持や再構築に直結すると訴えた。その上であらためて、国による事業環境の整備や、規制予見性向上が重要であると指摘した。
02 Oct 2025
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中国電力は9月30日、「中国電力グループ経営ビジョン2040」を公表し、今後、原子力発電を最大限活用するなど、脱炭素化と成長を両立させる取り組みを打ち出した。経営ビジョンの改定は5年ぶり。中川賢剛代表取締役社長執行役員は冒頭メッセージで、「前回の経営ビジョンの策定以降、脱炭素化の潮流加速や電力システム改革の進展、国のエネルギー基本計画の改定など、当社をとりまく環境は大きく変化している」と指摘。そのうえで、中国地域の電力需要が、全国平均を上回るペースで増加する見通しをふまえ、「エネルギー供給の安定化や脱炭素化ニーズに応えていくことは当社の使命であり、経営環境の変化や社会課題の解決をグループ全体の成長の好機と捉えている」と述べた。新ビジョンでは、自己資本比率を現在の16.5%から2040年度までに25~30%へ引き上げ、経常利益は2040年度までに1,600億円とする目標を掲げた。その前提として、建設中の島根原子力発電所3号機(ABWR, 137.3万kWe)の営業運転開始を位置付けている。同社は今後、原子力発電所等の脱炭素関連設備への投資を行いつつも、負債の増加を抑制しながら利益を着実に上げる財務体質を目指し、同社グループ全体の飛躍に繋げたいとしている。同3号機は現在、新規制基準適合性審査の対応中で、2028年度を目途に安全対策工事を完了し、2030年度までの営業運転開始を目指している。昨年12月には13年ぶりに同2号機(BWR、82.0万kWe)が再稼働しており、2040年度までに発電電力量に占める原子力の割合を2割程度まで高める計画だ。さらに、使用済み燃料貯蔵対策の一環として、中間貯蔵施設の設置検討を加速させるほか、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、山口県上関町での原子力発電所建設計画にも取り組む方針を盛り込んだ。
01 Oct 2025
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は9月26日、定例の記者会見を行い、「第69回IAEA総会」と「第3回新しい原子力へのロードマップ会議」への参加報告や原子力産業セミナー2027東京会場の速報、また、記者からの質疑に応じた。 増井理事長はまず、第69回IAEA総会に参加し、IAEAの幹部ら(ラファエル・グロッシー事務局長、ミカエル・チュダコフ事務局次長)と面会したことや、日本ブースの展示を政府や民間関係機関と共同で取りまとめたことについての所感を述べた。 グロッシー事務局長との面会においては、ALPS処理水放出や福島第一原子力発電所の国際社会への理解促進におけるIAEAの貢献に感謝の意を示し、引き続きIAEAと同協会の関係を深め、さらなる協力可能性等について意見を交わしたことを報告した。また、日本ブースの展示においては、次世代革新炉を中心とした原子力技術開発の展望や福島第一原子力発電所の状況などを紹介し、来訪者が計780名と昨年を100名以上も上回る盛況ぶりであったと伝えた。その他、オープニングセレモニーには日本政府代表である城内実科学技術政策担当大臣から挨拶を頂戴したことや、復興庁の協力により福島県浜通りの銘酒が来訪者に振舞われ、福島の復興をアピールする良い機会となるなど、ブース全体の充実ぶりを伝えた。 次に、OECD原子力機関(NEA)と韓国政府が主催した「第3回新しい原子力のロードマップ会議」に参加し、他国の原子力関係機関とともに共同声明を発表したこと、そして、毎年秋に同協会が実施している「原子力産業セミナー2027」の東京会場での速報を報告した。 原子力産業セミナー2027の東京会場では、来場者数と出展企業数が昨年より増加し、参加者アンケートにおいても全体的にポジティブな回答が多かったと述べた。この後、開催される大阪(9/27に開催済み)と福岡(10/18開催予定)会場においても、同じような盛り上がりが見られることに期待を寄せた。 その後、記者から、「原子力産業セミナーに来場した学生の関心等傾向は年々変わってきているのか」と問われ、増井理事長は、「同セミナーの現場に立ち会ったのは昨年が初めてだが、採用する企業側の熱意があふれていると感じた。学生らは、仕事の面白さや手ごたえ等キャリアアップに関する点を重視していると同時に、転勤の有無や住宅補助等の実利的な面にも着目しているという印象を受けた」と述べた。 また、記者から「原子力工学以外を専攻する学生への訴求や、今後、原子力人材の育成や確保に向けて、どういった手立てが考えられるか」と問われ、増井理事長は、「原子力発電所の運営には、土木、機械、電気、化学やその他事務系等、総合的な人材が必要であるため、原子力産業セミナーの意義について、今後さらに説明を重ね、幅広い学生に原子力産業の入口としての理解を促していく。また、当協会が実施している人材育成活動をさらに強化し、原子力産業界が人材を引き付けて長く留まってもらうための方策を考えていきたい」と課題と抱負を述べた。
30 Sep 2025
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東京電力は9月12日、英国のセラフィールド社との情報交換協定を延長したと発表した。同日、締結式が執り行われ、東京電力の小野昭副社長とセラフィールド社のユアン・ハットン最高経営責任者(CEO)が協定に署名した。セラフィールド社は、英国原子力廃止措置機関(NDA)の傘下にあり、同国中西部に位置するカンブリア州にて広大な原子力施設を運営している。両社は、2014年9月に情報交換協定を初めて締結。東京電力にとって、廃止措置作業の経験を持った海外事業者と相互に知見を共有することは、安全で着実な福島第一原子力発電所の廃炉措置を進める上で重要な一歩となった。以来、両社は随時内容の見直しを行いながら協定を延長し、この度、2回目の協定延長の合意に至った。今後も、両社が共通して取り組んでいる課題を解決すべく、活発で開かれた情報交換を目指す。すでに、2018年度から東京電力の社員をセラフィールド社へ派遣するなど、福島第一原子力発電所の廃炉作業に向けて先進的かつ有用な知見の習得に取り組んでいるという。この度の協定延長を受けて東京電力の小野明副社長は「セラフィールド社と約11年間にわたり、廃炉分野において良好な協力関係を続けてこられたことを喜ばしく思う。すでに、確実で安全な廃炉プロセスの構築に資する成果を上げている。今回の延長合意は、両社の関係をさらに深化させ、発展させる新たな出発点となる」と期待を示した。
26 Sep 2025
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岩手県盛岡市内において9月21日、静岡大学の大矢恭久教授らが企画した「STEAM教育手法を活用し、エネルギー・環境問題を基盤とした原子力人材育成 2025年度夏 勉強会」が開催された。文部科学省国際原子力人材育成イニシアティブ事業の一環。対象は小中高の理科教員を目指す教育学部の学生および大学教員であり、文部科学省や大学研究者による講義を通じて、中学校理科における放射線教育、エネルギー環境教育、そしてSTEAM教育のあり方について専門的な議論が交わされた。文部科学省国立教育政策研究所の神孝幸先生は、「中学校理科における放射線教育の可能性 ~現場の実践から考える~」をテーマに講義した。神先生は、広島市での放射線教育実践例として、霧箱を使った2本の授業動画を比較しながら、効果的な授業展開のあり方について詳しく解説した。1本目の動画は、広島市美鈴が丘中学校での理科の授業であった。この授業では、霧箱を提示して放射線の観察を行ったが、生徒たちは平和学習で培った放射線に関する知識から、原子爆弾や放射線の危険性といった社会科学的なアプローチで思考が展開された。神先生は、この授業では「理科らしい展開にはならなかった」と振り返った。2本目の動画は、同じ学校での総合的な学習の時間の授業であった。この授業では、霧箱の観察から始まり、最終的にシーベルトの単位や品種改良、ポテトチップスの製造過程での放射線利用など、理科的な身近な利用について生徒たちの思考が向けられた。神先生は「こちらの方が理科らしい展開になった」と評価した。神先生は、この2つの授業の違いを通じて、同じ教材を使っても授業の枠組みや教師のアプローチによって生徒の思考の方向性が大きく変わることを示した。特に、広島という地域の特性(平和学習の影響)を踏まえながら、理科教育として適切な方向に生徒の思考を導くことの重要性を強調した。中央大学理工学部の栢野彰秀先生は、「本勉強会が意図するエネルギー環境教育 / 学習指導要領がめざすエネルギー環境教育」をテーマに講義した。栢野先生は、SDGs(持続可能な開発目標)の背景にある1987年の国連での持続可能な開発の考え方について説明し、ブルントラント報告書((「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した報告書「Our Common Future」のこと。同委員会の委員長を務めたのが、当時ノルウェー首相だったG.H.ブルントラント氏だったため、こう呼ばれる。))の内容を引用しながら、「エネルギーと環境はセットである」ことを強調した。そして、学習指導要領の大きな変化について「見方・考え方がゴールなのか、それとも見方・考え方を授業の中で発揮させるものなのか、これは大きな違い」と説明し、「目的が手段になった」と指摘。また、現行の学習指導要領は「内容(コンテンツ)中心」から「資質・能力(コンピテンシー)中心」への転換であり、小中高の全教科で探究学習が導入されていることを指摘した。エネルギー環境教育については、「エネルギーの教育」(エネルギーそのものの概念理解)と「エネルギーについての教育」(エネルギー資源の保全や省エネ、再生可能エネルギー、原子力などを扱う)の二層構造で捉えることが重要であることを説明した。また、科学的プラクティス(第1~6単元)と工学的プラクティス(第7単元)を使い分ける必要性について詳しく解説し、STEAM教育の要素を指導案に組み込む具体的な方法についても言及した。北海道教育大学釧路校の森健一郎先生は、「STEAM教育とエネルギー環境教育 ―『見方・考え方』に着目して―」をテーマに講義した。森先生は、STEAM教育の視点からエネルギー環境教育を再考し、「見方・考え方」に着目した授業設計と評価の重要性を説いた。特に印象的だったのは、過去に中学校で実際に使われていた「水からの伝言」という道徳教材についての言及である。森先生は、当時中学校教員として勤務していた際に、この教材が道徳の授業で大真面目に使われていた経験を語った。「水に『バカ野郎』と言って凍らせると結晶が汚くなり、『可愛いね』や『ありがとう』という綺麗な言葉を話しかけて凍らせると綺麗な結晶になる」という内容の教材で、文化祭の意見発表でこのテーマについて話した生徒が最優秀賞を取って市の大会に出場したという。森先生は「なぜ止めなかったのか」と自問しながらも、当時の状況では受け入れられていたことを振り返った。この経験を通じて森先生は、教材の良し悪しを見分ける力の重要性を強調した。科学的根拠のない教材が教育現場で使われる危険性を指摘し、STEAM教育の視点から正しい科学教育を実践することの大切さを訴えた。特に、放射線教育においても「正しく怖がる」ことの重要性を説き、根拠のない恐怖ではなく、科学的な理解に基づいた判断力の育成が不可欠であることを強調した。神先生の講義後の質疑応答では、参加した学生たちから実践的な質問が相次いだ。カリキュラムマネジメントに関する質問として、「教科横断という言葉だけが先走りして、教科横断の要素が入った指導案を作って満足してしまう場面が多いが、実際に良い実践が行われた後の先生たちの話し合いやカリキュラムマネジメントの現状はどうなのか」という具体的な疑問が寄せられた。神先生は、授業の目的について「子どもたちが考えるきっかけができれば十分であり、必ずしもゴールを示す必要はない。考えるきっかけとなって、次の授業や評価、学習段階でいつか答えが出てくればよい」と回答した。また、「カリキュラムマネジメントも重要だが、教科横断に欲張るよりは、本時で子どもたちに何を身につけさせたいのかを明確にし、その目標に到達できたかどうか、できなかった場合はどこを改善すべきかを、まず自分の教科で解決することが重要」と助言した。今回の勉強会は、小中高の理科教員を目指す教育学部の学生にとって、学習指導要領の背景にある考え方を理解し、今後の教育現場での指導に活かす重要な機会となった。特に、理論と実践の橋渡しとなる具体的な指導法について、三人の講師から多角的な視点が提供された。エネルギーや放射線といったテーマは、社会的にも関心が高く、誤解や感情的議論を招きやすい領域である。だからこそ、教育の現場で「見方・考え方」を養うことが、次世代の科学的リテラシーを育むカギとなる。参加者からは「学習指導要領の変革について、これまで漠然と理解していた部分が明確になった」「STEAM教育の具体的な実践方法が分かり、指導案作成への意欲が高まった」「現場での実践に向けて、継続的な学習の必要性を実感した」といった声が寄せられた。今後、放射線教育に関する教師のリテラシー向上や、エネルギー環境教育とSTEAM教育の統合による新しい教育モデルの確立が課題となる。今回の勉強会は、これらの課題に取り組む人材育成に向けた重要な一歩となった。
26 Sep 2025
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原子力産業界の人材確保支援と理解促進を目的とした「原子力産業セミナー2027」(主催:日本原子力産業協会・関西原子力懇談会)が9月20日、新宿NSビル地下1階大ホールにて開催された。同セミナーは、原子力関連企業や関係機関が一堂に集う企業説明会で、今年で20回目の開催。9月27日には大阪市、10月18日には、福岡市内でも開催される。主に、2027年に卒業予定の大学・大学院生・高専生、既卒の学生らが対象。東京会場の出展企業・機関数は52社と、昨年の46社を上回ったほか、来場者数も239名と、昨年の223名を上回る結果となった。また、文系学生が全体の25%を占めるなど、専攻学科を問わず、原子力産業に対して熱意のある学生の姿が多く見られた。採用する企業側も人柄や意欲を重視した柔軟な採用活動、各々の個性に応じたキャリア支援を打ち出し、学生らに熱心に自社紹介をする様子が見られた。人口減少に伴ない人材獲得競争が激化している原子力産業界の現状について、主催者である日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、「ここ数年、各企業の採用意欲の高さを感じているが、当協会が毎年実施している産業動向調査の結果を見ても、希望採用人数に到達していない会員企業が多い」と述べ、「人口減少に対応するためには、原子力産業界全体の省人・省力化が必要になるだろう」とコメントした。9月1日より「日本中で考えよう。地層処分のこと。」をテーマとした新CMを公開している原子力発電環境整備機構(NUMO)の担当者は、「CMを見て興味を持った」と話す学生が来場したことを踏まえ、地道な広報活動が採用活動にも良い影響を与えていると実感したと語った。また、NUMOのここ数年の採用人数は増加傾向にあり、「特に技術系の職種の採用を強化し、国内外の研究機関等との共同研究への参加を通じて若手人材の育成に力をいれている」と強調した。「地層処分事業の社会貢献性の高さに共鳴し、課題に誠実に向き合えるプロフェッショナルな人材を育んでいきたい」と、今回のセミナーで得た手応えと意欲を語った。今回、初出展したゼネコンの株式会社安藤・間は、茨城県つくば市に放射線実験室「安藤ハザマ技術研究所」を保有し、厚さ100cmの遮蔽扉を備えた高レベル実験室にて、各種材料の遮蔽性能試験や、がん治療などに用いられる医療施設の設計・施工のための技術開発を進めている。先般行われた「日本原子力学会 2025年秋の大会」に出展し、中性子の遮蔽性能を向上させた独自のコンクリート建材などを紹介したという。セミナーには、前述の「安藤ハザマ技術研究所」での採用を見越して出展したが、想定以上に文系学生がブースに多く来場したことを明かし、「当社は文系出身者が技術職に挑戦できる体制を整えており、そうした強みも採用活動にて発揮したい」と意欲を述べた。同じく初出展となった日本核燃料開発株式会社は、原子燃料や、原子炉を構成する材料等の研究・開発を行っている企業だが、担当者によると「3年ほど前から潮流が変わり、インターンシップや企業研究会に来場する学生数が増えた」と述べた。「決まった製品を作るのではなく、さまざまなニーズに合わせて研究や試験を行う会社であるため、自ら探究心を持って試行錯誤しながら取り組める人材を採用したい」と初参加に際しての意気込みを語った同じく初出展の西華産業株式会社は、エネルギー分野に強みを持つ総合機械商社として、関西エリアに拠点を多く構え、主に三菱重工グループの原子力発電関連設備の販売代理店の役割を担っている。同社の担当者は、「想定を上回る来場があり、大きな手ごたえを得た。来年度以降、新卒採用者数を増やす計画でいる。原子力事業は、当社が扱っている商材の一部ではあるが、関西エリアで原子力新設・リプレースのニュースを受け、当社としても良い潮流の中にあり、今後の採用活動に繋げていきたい」と意気込みを語った。
24 Sep 2025
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第2回国際原子力科学オリンピック(INSO)が7月末から8月にかけてマレーシアで開催され、日本代表として初出場した高校生4名が金1、銀2、銅1を獲得した。さらに実験最高得点賞と最優秀女性選手賞の特別賞も受賞する快挙となった。9月20日に東京大学で開かれた報告会と解団式では、支援委員会代表の飯本武志教授(東京大学)や育成チームの佐藤大樹氏(日本原子力研究開発機構)らが経緯を報告。選手たち自身も国際舞台で得た成長を語った。報告会で挨拶した飯本教授は、INSOの背景を解説。IAEAが中心となり、アジア太平洋地域を含む各国の要望を受けて設立された経緯を紹介し、「次世代のNST(原子力科学=Nuclear Science and Technology)人材を育成する国際的な試み」と位置づけた。INSOは数学・物理オリンピックの流れを汲み、原子力科学を題材に理論(5時間)と実験(3.5時間)の試験を行う。2024年の第1回大会はフィリピンで開催された。日本はフィリピン大会を視察した関係者の強い要望を受け、今年初めてナショナルチームを結成し、大会に参加した。今回の日本代表派遣は、多くの企業・団体・個人からの支援によって実現した。飯本教授は「完全ボランティアで運営している支援委員会の活動は、多くの方々に支えていただいている」と感謝を表明。「6人のメンバー(リーダー2名+選手4名)を海外へ派遣するだけでもそれなりにかかる」との内情を明かし、感謝の念を述べた。支援企業には匿名希望も含まれているが、原子力関連企業を中心に幅広い業界からの協力があった。また、個人支援者も多数に上り、原子力分野の専門家をはじめ、次世代人材育成に関心を持つ多くの方々から寄付金が集まったという。角山雄一・京都大学准教授とともに選手団リーダーを務めた佐藤氏は、2024年12月の教材提供/勉強会に始まる、国内での準備活動について報告した。2025年4月に筆記・英語面接による選抜試験を実施し、18名から4名の代表選手を選出。選抜試験では、カリウム40を題材とした計算・知識問題と英語面接を実施した。筆記試験は文章理解と計算問題、知識を問う問題で構成され、英語面接では「おすすめの日本食は何ですか」「放射能って何ですか」といった質問に、20秒で考えて45秒で回答することが求められ、頭の回転が問われたという。その後、選ばれた4名の代表選手たちに、DiscordやZoomを活用した遠隔指導を実施。大会直前には茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の施設で、測定技術合宿を実施、そのまま東京へ移動して壮行会を実施し、羽田からマレーシアへ向けて出国といった極めてタイトなスケジュールだったことが紹介された。マレーシア大会での成果大会には14か国から56名が参加。既報だが、日本は以下の成績を収めた。金メダル:田中 優之介 選手(私立東海高等学校3年)銀メダル:田部 主真 選手(国立筑波大学附属駒場高等学校3年) 堀 航士朗 選手(私立武蔵高等学校3年)銅メダル:佐々木 柚榎 選手(大阪府立北野高等学校2年)さらに田部選手が実験最高得点賞、佐々木選手が最優秀女性選手賞を受賞した。なお試験では、核分裂、環境放射線、資源利用から、ビタミンCの放射線安定性や紛失線源の探索といった高度な課題が出題された。佐藤リーダーは舞台裏で行われる採点会議での事例として、途中式が省略された日本選手の答案が0点とされたことを紹介。粘り強く食い下がった結果、「『この場で途中式が補完できるなら減点しない』ということになったので、私が必死に解きました!」と語り、判定を覆したエピソードを明かした。一方選手たちは、国際舞台での経験を通じて大きな成長を実感していた。金メダルを獲得した田中選手は「原子力は未知だったが学べば学ぶほど面白く、将来は原子力分野に進みたいと考えている。研修での施設見学も貴重だった」と語り、銀メダルの堀選手はビデオメッセージで「世界中の参加者と交流できたのが大きな財産。試験だけでなく文化の違いを体験できた」と振り返った。同じく銀メダルと実験最高得点賞を獲得した田部選手は「シンガポールやシリアの学生との議論で、多様な才能に触れた。受験期にこうした経験ができ感謝」と述べ、銅メダルと最優秀女性選手賞を獲得した佐々木選手はZOOM画面を通して「女子は少数だったが、最優秀女性選手賞を通じて後輩に勇気を与えたい。世界中に同世代の仲間がいることを実感した」と語った。報告会には、原子力業界の支援者たちが駆けつけ、学生たちの快挙を心から祝福した。日本原子力研究開発機構理事の上田光幸氏は、現在の原子力業界の動向に触れながら激励の言葉を述べた。「世界的に原子力が再評価される中で、高校生の活躍は心強い」と語り、Microsoft、Amazon、Googleといった巨大IT企業が原子力発電所に投資を開始するなど、まさに生き馬の目を抜くような時代になっていると指摘。「みなさんのような優秀な人材がこの分野で活躍してくれることを心から期待している」と結んだ。日本アイソトープ協会専務理事の上蓑義朋氏は、受験期という重要な時期に高度な問題に挑戦した学生たちの姿勢を高く評価した。「基礎的なことしか知らない高校生のみなさんが、自分で種を見つけていかないといけないような高度な問題を解かれたのは驚きだ」と称賛。問題の難易度と学生たちの成果の大きさを強調した。日本原子力文化財団専務理事の矢野伸一郎氏は、業界全体の期待を込めて語った。「原子力の世界は後継者不足、次への継承が非常に難しくなってきている」と現状を憂慮しながらも、「みなさんの活躍を素晴らしいニュースとして関心を持っていただいた」と、学生たちの成果が業界に与えた影響の大きさを強調した。電気事業連合会広報部部長の風間章光氏は、国際大会という貴重な経験の価値を語った。「国際交流を通じて得た経験は人生の大きな財産となる」と述べ、緊張や不安を乗り越えて勇気を振り絞った経験そのものが、将来の大きな糧になると激励した。文部科学省原子力課長の有林浩二氏はメッセージを寄せ、「今回のみなさんの取り組みは、確実に次の年、次の高校生たちに引き継がれたのだと確信しました。原子力分野の人材育成に新たな道筋を与えてくれました」と代読され、今回の成果が後輩たちへの大きな励みとなったことが強調された。式典の最後には、来年度の第3回INSOに向けた準備が進められていることが発表された。2026年1月に一次選考、4月に二次選考を実施予定。飯本代表は「手作りの形で、みんなで盛り上げて、みんなで作り上げているような雰囲気の国際原子力科学オリンピック、さらには日本チームに育ったらいいなと思っている」と語り、継続的な支援を呼びかけた。なお支援委員会の宮村浩子氏(JAEA)から、「来年度は原子力人材育成ネットワークが事務局を引き継ぎ、全力でサポートしていく」と明かされ、INSOが産官学連携による人材育成活動の一環として認知されたことが明らかになった。
24 Sep 2025
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日本原子力研究開発機構(JAEA)は、英国原子力規制局(ONR)との間で締結している高温ガス炉の安全性に関する情報交換の取決めについて、その期間を今後5年間延長することで合意したと発表した。JAEAは、2020年10月に英国国立原子力研究所(UKNNL)との包括的技術協力の取決めを改定し、高温ガス炉の技術開発協力を開始。さらに同年11月には、ONRと安全性に関する情報交換の取決めを締結し、技術開発と規制の両輪で連携体制を構築してきた。英国政府はカーボンニュートラルの達成に向け、非電力分野では革新炉として高温ガス炉を選択しており、2030年代初頭の実証炉の運転開始を目指している。JAEAとUKNNLはこれまで、日英両国における高温ガス炉の導入を目指した研究開発、原子力サプライチェーンの構築、人材育成等、さまざまな活動に取り組んできた。今回の合意により、JAEA・UKNNL・ONRの三者の協力体制がさらに強化され、英国での高温ガス炉導入に向けた取り組みが一段と加速する見通しだ。一方、英国で高温ガス炉を早期に社会実装するには、燃料サプライチェーンの確立が課題とされている。現在、英国民間企業との連携による燃料製造が有力な選択肢として検討されているが、日本の技術に基づく燃料製造を英国で実現するには、規制当局との十分なコミュニケーションが不可欠だ。JAEAは今後、英国での社会実装を推進し、国内の実証炉計画にも活かすためにも、今回の取決め延長をさらなる連携強化の好機と位置付けている。
19 Sep 2025
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国際原子力機関(IAEA)は9月12日、福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の海洋放出に関する安全面の報告書を公表。一連の対応は国際的な安全基準に完全に沿っており、問題は見つからなかったと結論付け、ALPS処理水の放出が人および環境に及ぼすリスクは無視できる程度であるという放射線環境影響評価(REIA)と一致していることが改めて明記された。同報告書は、今年5月26日から30日にかけて、IAEAのスタッフ及び専門家7名(アルゼンチン、カナダ、韓国、中国、米国、ベトナム、ロシア)が来日し、ALPS処理水の海洋放出に関する安全性レビューミッションを行い、その結論を示したもの。また、IAEAと日本政府(原子力規制委員会、環境省、水産庁、経済産業省及び外務省)、福島県及び東京電力との間で議論も交わされ、一連の対応が国際安全基準に合致しているかどうかを総合的に判断・確認した。今回で、安全性レビューミッションは海洋放出開始以来4回目となったが、これまでの3回で強調された結論と大きく変更はなかった。主な要点は以下の通り。IAEAが定めた国際安全基準の要求事項と合致しないいかなる点も確認されず、「包括報告書」に記載された安全性レビューの根幹的な結論を再確認することができる。ALPS処理水のために実施されているモニタリングプログラムは、関連する国際安全基準及び指針と一致。ALPS処理水の放出が人および環境に及ぼすリスクは無視できる程度であるという放射線環境影響評価(REIA)の結論と一致している。ALPS処理水の放出に関する安全監視を維持するため、原子力規制委員会が自らのモニタリングプログラム及び現地での立会を通じて、ALPS処理水に対する規制上の監視を継続してきたことを強調した。ALPS処理水の放出に関する機器及び設備は、国際安全基準に合致した方法で設置され、運用されていることが確認された。IAEAは、東京電力と日本政府から報告されたデータの正確性と信頼性を維持し、包括的で透明性のある独立した検証を提供するため、この監視を続けていく。同報告書を受けて東京電力は、webサイト上にて「ALPS 処理水の海洋放出にあたり、引き続き、IAEAの国際安全基準に照らしたレビューおよびモニタリングを通じて、安全確保に万全を期す。そして、広く国内外の皆さまに対し、理解が深まるよう努力する」とコメントした。
18 Sep 2025
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