日本原子力文化財団はこのほど、2024年の10月に実施した「原子力に関する世論調査」の調査結果を発表した。18回目となるこの調査は、原子力に関する世論の動向や情報の受け手の意識を正確に把握することを目的として実施している。なお、同財団のウェブサイトでは、2010年度以降の報告書データを全て公開している。今回の調査で、「原子力発電を増やしていくべきだ」または「東日本大震災以前の原子力発電の状況を維持していくべきだ」と回答した割合は合わせて18.3%となった。一方、「しばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」との回答が39.8%となり、両者を合わせると原子力の利用に肯定的な意見は過半数(58.1%)を超えた。このことから、現状においては、原子力発電が利用すべき発電方法と認識されていることが確認できる。一方、「わからない」と回答した割合が過去最大の33.1%に達し、10年前から12.5ポイントも増加していることが明らかになった。「わからない」と回答した理由を問うたところ、「どの情報を信じてよいかわからない」が33.5%、「情報が多すぎるので決められない」が27.0%、「情報が足りないので決められない」が25.9%、「考えるのが難しい、面倒くさい、考えたくない」が20.9%となっている。この「わからない」と回答した割合はすべての年代で増加しているが、特に若年世代(24歳以下)の間で増加傾向が高かった。また、同調査は、「原子力やエネルギー、放射線に関する情報源」についても分析を行っている。その結果、若年世代(24歳以下)は、「小・中・高等学校の教員」(27.2%)を主な情報源として挙げており、また、SNSを通じて情報を得る割合が、他の年代と比較して高いことがわかった。原文財団では、若年世代には、学校での情報提供とともに、SNS・インターネット経由で情報を得るための情報体系の整備が重要だと分析している。また、テレビニュースは年代を問わず、日頃の情報源として定着しているが、高齢世代(65歳以上)においても、ここ数年でインターネット関連の回答が増加している。「原子力という言葉を聞いたときに、どのようなイメージを思い浮かべるか」との問いには、「必要」(26.8%)、「役に立つ」(24.8%)との回答が2018年度から安定的に推移している。「今後利用すべきエネルギー」については、2011年以降、再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱)が上位を占めているものの、原子力発電利用の意見は高水準だった2022年の割合を今も維持していることがわかった。再稼働については、「電力の安定供給」「地球温暖化対策」「日本経済への影響」「新規制基準への適合」などの観点から、肯定的な意見が優勢だった。しかし、再稼働推進への国民理解という観点では否定的な意見が多く、再稼働を進めるためには理解促進に向けた取り組みが必要であることが浮き彫りとなった。また、高レベル放射性廃棄物の処分についての認知は全体的に低く、「どの項目も聞いたことがない」と回答した割合が51.9%に上った。4年前と比較しても、多くの項目で認知が低下傾向にあり、原文財団では、国民全体でこの問題を考えていくためにも、同情報をいかに全国へ届けるかが重要だと分析している。
28 Mar 2025
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日本原子力研究開発機構と筑波大学は3月21日、液体が大量の液滴に分裂する現象を3次元で可視化する手法を開発したと発表した。原子炉の事故時に燃料デブリが形成される過程の理解を深め、福島第一原子力発電所の廃炉への貢献や原子炉の安全性向上につながるもの。〈原子力機構他発表資料は こちら〉今回の研究では、原子炉の過酷事故時、炉内の燃料が溶けて下部の冷却材プールに落下した際、大量の細かな液滴に分裂して広がるという現象に着目。溶融燃料や液滴が冷え固まると燃料デブリとなるのだが、特に、プールが浅い場合、溶融燃料がプール床に衝突しながら液滴に分裂するため、非常に複雑な状況で燃料デブリが形成される。つまり、燃料デブリ形成過程の解明は非常に困難となる。原子力機構と筑波大の研究グループは、溶融燃料が液滴へ分裂する現象を研究対象とし、実験や詳細数値シミュレーション手法の開発を推進。溶融燃料と冷却材を模擬した2つの液体を使用し、大量の微小液滴が発生する現象を実験室レベルで再現することに成功した。しかしながら、液滴の量や一つ一つの大きさを計測することまでは実現できていなかった。今回、研究グループでは、レーザー光の制御が可能な「ガルバノスキャナー」と呼ばれる反射鏡を用いた3次元可視化手法「3D-LIF法」を開発。溶融燃料を模擬した液体の3次元形状データを取得し、コンピューター処理することで、液滴一つ一つの大きさや広がる速さを高精度に計測することが可能となった。「3D-LIF法」をプールに適用し実験を行ったところ、液滴は目視では理解できないほど複雑な広がりを見せたが、他の手法も併用することで、異なる2つの液体の速度差や遠心力による「サーフィンパターン」と、重力による「液膜破断パターン」で発生することが明らかとなった。研究グループでは、「3D-LIF法」が微粒子の動き解明につながることから、内燃機関や製薬など、幅広い分野で適用されるよう期待している。
25 Mar 2025
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経済同友会の新浪剛史代表幹事らは3月22日、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を訪問し、中央制御室、7号機オペレーティングフロア、防潮堤などの安全設備を視察した。〈東京電力発表資料は こちら〉視察後、新浪代表幹事は、「福島第一原子力発電所で発生した問題を、いかにすべて起こらないようにするかの対応がしっかり打たれている。想定される問題について、あらゆる対応がなされていることに、驚きとともに敬意を表したい」と強調。さらに、現場で働く人の意識に関して、「『ワンチームであろう』という努力も相当なものと感じた。そういった意味で、安全面で大変努力し、非常に高いレベルであると感じた」と述べた。経済同友会は2023年12月、「『活・原子力』-私たちの未来のために、原子力活用のあり方を提起する-」を公表。既存炉の再稼働にとどまらず、「中長期的なリプレース・新増設については、安全性の高い革新炉の導入を前提として、既成概念にとらわれずに、新たな規制の整備や立地の選定を行うことが望ましい」との考え方を示している。同会は東日本大震災後、「縮・原発」を提唱。「活・原発」では、2050年カーボンニュートラル実現やエネルギー安全保障の重要性などから、原子力を「活用していく」表現として、見直したものとなっている。新浪代表幹事は、2024年7月の記者会見で、柏崎刈羽原子力発電所により首都圏が受ける電力供給の恩恵に言及。経済団体として、「きちんと『ありがたい』と思う首都圏にしていかなくてはならない」と述べている。原子力規制委員会による審査をクリアした柏崎刈羽6・7号機の再稼働に関しては現在、地元判断が焦点となっている。
25 Mar 2025
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原子力サプライチェーンの維持・強化策について議論する「原子力サプライチェーンシンポジウム」(第3回)が3月10日、都内ホールで開催された。経済産業省資源エネルギー庁が主催し、日本原子力産業協会が共催した。武藤容治経産相の開会挨拶(ビデオメッセージ)、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官の基調講演などに続き、「サプライチェーン強化に向けた取組」と題しパネルセッション(ファシリテータ=近藤寛子氏〈マトリクスK代表〉)が行われた。パネルセッションの前半では、三菱重工業、東芝エネルギーシステムズが、革新型軽水炉として、それぞれ取り組む「SRZ-1200」、「iBR」の開発状況を紹介。サプライチェーンとしては、岡野バルブ製造が自社の取組について発表。同社は、高温高圧バルブを90年以上製造している実績を活かし、2023年より次世代革新炉向けのバルブ開発に取り組んでいるという。パネルセッションの後半では、三菱総合研究所と日本製鋼所M&E、日立GEと四国電力がペアとなって発表し議論。それぞれ、次世代炉建設に必要な人材維持に向けた「技能者育成講座」、原子力発電所におけるAI活用の取組について紹介した。これを受け、原産協会の増井秀企理事長は、ものづくりにおける人材確保の重要性をあらためて強調。原産協会が行う就活イベント「原子力産業セミナー」など、学生・次世代層への働きかけを通じ、「多様な人材確保につながれば」と期待した上で、「情報に触れて自分の頭で考える機会を与える」ことの意義も述べた。また、「サプライチェーンの課題を解決するためには、産官学の緊密な連携が必要」とも指摘。引き続き広報・情報発信に努めていく姿勢を示した。増井理事長は、プレゼンの中でリクルートワークス社による労働需給シミュレーションを紹介し、「2040年に1,100万人の働き手不足が生じる」と危惧し、将来的に「人口減・仕事増の矛盾解消策、総合的な対策が必要」と指摘。同シミュレーションによると、2040年の労働人口不足率は、地域別に、東京都はマイナス8.8%と供給過剰の見通しだが、原子力発電所の立地道府県では、新潟県が34.4%と全国的に最も厳しく、女性の就業率が高いとされる島根県では0.9%と、地域間のギャップが顕著となっている。同シンポジウムの初開催(2023年3月)に合わせ設立された「原子力サプライチェーンプラットフォーム」(NSCP)の会員企業は現在、約200社に上っている。パネルセッションの前半と後半の合間に、NSCP参画企業約20社によるポスターセッションが行われた。パネルセッションの締めくくりに際し、行政の立場から、文部科学省原子力課長の有林浩二氏がコメント。業種の枠を越え交流が図られたポスターセッションについては「いかに企業が若い人材を確保することが大変か」との見方を示した上、北海道大学で制作・公開が始まっている誰もが利用可能なオンライン型「オープン教材」の企業内教育における活用などを提案。また、資源エネルギー庁原子力政策課長の吉瀬周作氏は、国際展開の見通しにも言及し「若者に未来を示すことが出発点」、「しっかりと次世代にバトンをつないでいくことが必要」、「新たなチャレンジを」と所感を述べ、産官学のさらなる連携強化の必要性を示唆した。なお、電気業連合会の林欣吾会長は、3月14日の定例記者会見で、今回のシンポジウムに関し、先に決定されたエネルギー基本計画にも鑑み「サプライチェーンの維持には、事業予見性の向上はもとより、技術・人材を維持する観点から、国が具体的な開発・建設目標量を掲げることが重要だと考えている」とコメント。さらに、「将来にわたり持続的に原子力を活用していくには、いずれ新増設も必要になると考えている」とも述べている。
24 Mar 2025
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所教授)が3月24日、第7次エネルギー基本計画の閣議決定(2月18日)後、初めて開かれた。〈配布資料は こちら〉冒頭、資源エネルギー庁の久米孝・電力・ガス事業部長が挨拶。前回、2024年11月の小委員会以降の国内原子力発電をめぐる動きとして、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機の再稼働をあげた。これに続き、原子力政策課が最近の原子力に関する動向を説明。新たなエネルギー基本計画の概要についてもあらためて整理した。今回は、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX脱炭素電源法)に基づく原子力発電の運転期間(電気事業法)に関し議論。同法では、「運転期間は最長で60年に制限する」という従前の枠組みは維持した上で、事業者が予見し難い事由による停止期間に限り、運転期間のカウントから除外する、いわゆる「時計を止める」ことが規定されている。同規定は6月6日に施行となるが、認可要件に係る審査基準の考え方が、資源エネルギー庁より示され、「事業者自らの行為の結果として停止期間が生じたことが客観的に明らかな場合」については、カウント除外の対象には含めないとされた。事例として、柏崎刈羽原子力発電所での核燃料物質移動禁止命令、敦賀発電所2号機の審査における地質調査疑義に伴う停止期間をあげている。委員からは、杉本達治委員(福井県知事)が、立地地域の立場から、原子力政策の明確化を引き続き要望。六ヶ所再処理工場の竣工時期変更に鑑み、核燃料サイクル事業に関し国が責任を持って取り組むよう、具体的枠組みを早急に検討すべきとした。運転期間延長認可について、遠藤典子委員(早稲田大学研究院教授)は、「現在の最大60年という規定は科学的根拠が乏しい」と述べ、主要国における長期運転の動向も見据え、中長期的視点からの制度整備検討を要望。長期運転に関し、同小委員会の革新炉ワーキンググループ座長を務める斉藤拓巳委員(東京大学大学院工学系研究科教授)は、プラントの劣化管理におけるリスク情報の活用などを、小林容子委員(Win-Japan理事)は、規制の観点から、国内では原子炉圧力容器の中性子脆化を調査する監視試験片の数が十分でないことを指摘し、原子力規制委員会の国際アドバイザーの活用を提案。原子力技術に詳しい竹下健二委員長代理(東京科学大学名誉教授)は、学協会の活用、国際組織によるレビューに言及した。新たなエネルギー基本計画に関する意見では、次世代革新炉の開発・設置に取り組む方針が明記されたことに対する評価は概ね良好。一方で、長期的見通しの深掘りなど、不十分な部分を指摘する発言もあった。専門委員として出席した日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、サプライチェーン・技術継承・人材確保の重要性を強調したほか、次世代革新炉の開発に関する事業環境整備の必要性を指摘した。〈発言内容は こちら〉運転期間延長認可の要件に係る審査基準については、今後パブリックコメントに付せられ、成案決定となる運び。
24 Mar 2025
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関西電力は3月14日、大飯発電所1・2号機から発生したクリアランス金属を加工し製作したリサイクルベンチを美浜町の公共施設、発電所のPR施設に設置したと発表した。同社の原子力発電所で発生したクリアランス金属の再利用製品が一般供用の施設に設置されるのは初めてのこと。〈関西電力発表資料は こちら〉大飯1・2号機は、いずれも1979年に運開した100万kW級のPWRだが、新規制基準への適合が困難なことなどから、2017年12月に廃炉が決定。現在、廃止措置が進められている。このほど、リサイクルベンチが設置されたのは、美浜町の公共施設「道の駅若狭美浜」と大飯発電所のPR施設「エルガイアおおい」だ。リサイクルベンチの素材はステンレス製で、寸法は幅約150cm、高さ約40cm、奥行き約45cmで、総重量約230kg中、約188kgのクリアランス金属が使用されている。ベンチの座面は木材で、クリアランス金属の使用箇所はベンチの部分となる。関西電力では、原子力発電所の運転・保守や解体に伴って発生する放射性廃棄物の低減に向けて取り組むとともに、クリアランス制度を活用し循環型社会の形成に貢献していくとしている。
19 Mar 2025
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量子科学技術研究開発機構(QST)と日本電信電話(NTT)は3月17日、核融合エネルギーの実用化に向けて重要なプラズマ閉じ込めに適用するAI予測手法の確立を発表した。QSTとNTTは2020年に連携協力協定を締結。核融合エネルギー開発に関して、QSTは国際プロジェクトとなるITER計画を始め、それを補完する日欧協力「幅広いアプローチ」活動の一つとして、トカマク型実験装置「JT-60SA」(QST那珂研究所)の開発を進めてきた。NTTも総合資源エネルギー調査会に参画し、通信ネットワーク産業の立場から、革新的原子力技術の重要性を訴えてきた。核融合エネルギーの実用化に向けて、プラズマ閉じ込めが重要な技術課題の一つとなっている。今回の発表においても、両者は「計算量の大きな複雑な方程式を解く操作を段階的に行わなくてはならない」と、制御が困難なプラズマ閉じ込めに係る背景として、演算手法を確立することの重要性を強調。こうした背景から「混合専門家モデル」と呼ばれる複雑な状態を評価する新たな手法を開発した。同手法を「JT-60SA」に適用し、プラズマ閉じ込め磁場を評価した結果、従来手法では不可能だった「プラズマの不安定性を回避するために重要となるプラズマ内部の電流や圧力の分布まで、複数の制御量をリアルタイムに制御できる見通し」が得られたという。核融合エネルギーの実現に向けては、ITER計画に続き、発電実証を目指す原型炉開発の検討が文部科学省のワーキンググループで進められているほか、内閣府でも核融合の安全確保の考え方に関しパブリックコメントが行われた。ベンチャー企業を含む産業界の関心も高まりつつある。QSTは、NTTの通信ネットワーク構想「IOWN」を始めとし、先進技術を核融合研究開発に適用しながら、早期実用化に向け取り組んでいくとしている。
18 Mar 2025
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日本原子力研究開発機構(JAEA)は3月13日、資源の有効利用や脱炭素化への貢献が期待される「ウラン蓄電池」を開発したことを明らかにした。〈JAEA発表資料は こちら〉軽水炉(通常の原子力発電所)の燃料となるウランは、核分裂を起こしやすいウラン235が約0.7%、核分裂を起こしにくいウラン238が約99.3%含まれており、燃料集合体に加工して原子炉に装荷する際、核分裂の連鎖反応を持続させるため、ウラン235の割合を3~5%まで濃縮する必要がある。今回の研究開発では、濃縮の工程で発生するウラン235含有率が天然ウランより低い「劣化ウラン」に着目。「劣化ウラン」は、軽水炉の燃料には使用できないため、「燃えないウラン」とも呼ばれる。今回、JAEAは、ウランの化学的特性を利用し資源化を図ることで、再生可能エネルギーの変動調整にも活用できる「ウラン蓄電池」を開発した。原子力化学の技術で資源・エネルギー利用における相乗効果の発揮を目指す考えだ。「劣化ウラン」保管量は日本国内で約16,000トン、世界全体では約160万トンにも上っており、JAEA原子力科学研究所「NXR開発センター」は、資源利用としての潜在的な可能性を展望し、研究開発に本格着手。電池はイオン化傾向の異なる物質が電子をやり取りする酸化還元反応を利用し、電気エネルギーを取り出すのが原理。その電子数(酸化数)が3価から6価までと、幅広く変化する化学的特性を持つウランについては、充電・放電を可能とする物質として有望視され、2000年代初頭「ウラン蓄電池」の概念が提唱されてはいたものの、性能を実証する報告例はなかった。同研究で開発した「ウラン蓄電池」では、負極にウランを、正極に鉄を、いずれも酸化数の変化によって充電・放電を可能とする「活物質」として採用。つまり、蓄電池の充電・放電には、ウランイオンと鉄イオン、それぞれの酸化数の変化を利用するのが特徴。今回、試作した「ウラン蓄電池」の起電力は1.3ボルトで、一般的なアルカリ乾電池1本(1.5ボルト)とそん色なく、実際に、充電後の蓄電池をLEDにつなぐと点灯を確認。電池の分極は電圧降下を来す化学現象だが、試作した蓄電池では、充電・放電を10回繰り返しても性能はほとんど変化しなかったほか、両極とも電解液中に析出物が見られず、安定して充電・放電を繰り返せる可能性が示された。原子力発電に必要なウラン燃料製造に伴い発生したこれまで利用できなかった物質が、別のエネルギー源の効率化につながる「副産物」として活かせる可能性が示されたこととなる。「NXR開発センター」は、「新たな価値を創造し社会に提供する」ことを標榜し、2024年4月に開設された新組織。同センターは3月13日、オリジナルサイトを開設し、研究成果の発信に努めている。
17 Mar 2025
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政府の原子力災害対策本部は3月7日、飯舘村・葛尾村に設定された帰還困難区域の一部を、3月31日午前9時に解除することを決定した。原子力災害に伴う避難指示の解除は、富岡町の一部地域における2023年11月以来のこと。帰還困難区域について、線量の低下状況も踏まえ避難指示を解除し居住を可能とする「特定復興再生拠点区域」が6町村に設定されていた。 「特定復興再生拠点区域」の避難指示解除が完了したのに続き、今回の飯舘村・葛尾村における解除は、原子力災害対策本部が2020年12月に決定した「特定復興再生拠点区域外の土地活用に向けた避難指示解除」に基づくもの。帰還・居住に向けた避難指示解除とは異なり、住民が日常生活を営むことが想定されない事業用の土地活用が主目的。飯舘村については堆肥製造施設用地および周辺農地(イイタテバイオテック社)、葛尾村については葛尾風力・阿武隈風力発電事業用地(葛尾風力社・福島復興風力社)の用地がそれぞれ対象。飯舘村の施設では、脱水汚泥や畜糞などを乾燥させ堆肥原料を製造。乾燥のための燃料として、重油に加え、資源作物とされるソルガムを栽培し活用する。葛尾風力発電所では村内に3,200kWの発電機を5基、阿武隈風力発電所では4自治体を跨いで同規模の発電機を46基設置。風力発電機は、良好な風を受ける阿武隈山地の稜線に設置し、観光拠点として展望エリアも整備する計画だ。
13 Mar 2025
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日本原子力研究開発機構はこのほど、福島第一原子力発電所の廃炉作業の加速化に資するアルファ線検出器を開発した〈原子力機構発表資料は こちら〉同機構福島廃炉安全工学研究所によるもの。福島第一原子力発電所の廃炉作業では、アルファ核種を含むダスト(アルファダスト)による内部被ばく評価が重要とされるが、従来の測定器では、全体の放射能量しか測れず迅速な評価が困難だった。同研究所の環境モニタリンググループは、ガラス研磨剤などに用いられるセリウムを用いた従来の約8倍の精度を有する「YAP Ce(セリウム)シンチレータ」を開発し、国内では困難なアルファダストの実試料を用いた性能確認試験を、米国エネルギー省(DOE)のサバンナリバ―国立研究所(SRNL)の協力で実施。現地でエネルギーレベルの異なる2種類のアルファ線核種として、プルトニウム238、ネプツニウム237を含む酸化物粒子のサンプルを用いた試験を実施した結果、いずれも現場でリアルタイムに識別測定できることが実証された。研究グループでは、新たな検出器が迅速にアルファ線をイメージングできることから、医療分野での応用にも期待を寄せている。
13 Mar 2025
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経済産業省資源エネルギー庁と日本原子力産業協会は3月10日、国内原子力関連企業による海外展開や事業承継、人材育成支援など、原子力サプライチェーンの維持・強化策について議論する「原子力サプライチェーンシンポジウム」を都内ホールで開催した。会場・オンライン合わせて約600名の参加があった。 開会に際し、ビデオメッセージを寄せた武藤容治経産相は、先月閣議決定された第7次エネルギー基本計画に言及し、既設炉の再稼働と運転期間延長を最重要課題にあげたほか、将来の次世代革新炉の開発に向けて、「サプライチェーンと人材確保は必須の課題」と述べ、同シンポジウムの開催意義を強調した。 毎年3月に開催されている同シンポジウムは今回で3回目となる。2023年に経産省より「原子力サプライチェーンプラットフォーム」(NSCP)の設立発表に合わせ開催され、2024年の開催時には、来日中だったR.M.グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長も出席するなど、海外からも注目を集めている。NSCP設立以降、経産省では、国内サプライヤーからなる視察団の海外派遣、セミナー・意見交換会・座談会の開催、原子力関連企業約400社を対象としたヒアリングなど、原子力人材育成支援も含めた支援策を積極的に展開している。 「原子力産業の現在と未来」と題するセッションでは、総合資源エネルギー調査会革新炉WGの座長を務める斉藤拓巳氏(東京大学教授)、電気事業連合会副会長の佐々木敏春氏がそれぞれの立場から事業の予見性確保の重要性を強調した。 パネルセッションは、近藤寛子氏(マトリクスK代表)がファシリテーターを務め、大手メーカーの他、中小サプライチェーン企業からもパネリストが登壇し、次世代革新炉の開発・建設に向けた取組、供給途絶対策、国際連携、人材確保・育成について議論。同じく登壇した経産省と文科省の担当課長は、省庁が連携した取組の重要性を強調した。 今回もポスターセッションが行われ、革新炉開発に取り組む大手メーカーの他、プラントの健全性を支えるバルブ・配管等を製造する中小企業も参加。海外展開も見据えて、それぞれの強みをアピールしていた。
11 Mar 2025
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資源エネルギー庁はこのほど、中高生を対象として、「エネルギー政策~エネルギー安定供給と脱炭素社会の実現の両立~」とのテーマで、政策提案型パブリック・ディベート全国大会(実行委員会委員長=江間史明・山形大学大学院教育実践研究科教授)をオンラインで開催。3月1日に日本科学未来館(東京都江東区)において、優勝チームらの表彰式が行われた。〈エネ庁発表資料は こちら〉本大会は、ディベート形式を通じた直接討論を通じて、地域を越えた交流を図り、次世代層に対し日本のエネルギーの未来について考えさせるのがねらい。2回目となる今回、折しも第7次エネルギー基本計画の検討時期となったが、「エネルギーの未来をつくるのは君だ!」と標榜し、提案を募集。中学生16校37チーム、高校生24校47チームから応募があり、それぞれ16チームがリーグ戦討論に参加。高校生の部では岐阜県立岐阜高校、中学生の部では慶進中学校(山口県)が優勝した。ディベートでは、 (1)社会の課題を解決するための従来にない着眼点があるか (2)政策を支える大事な理念や価値観を示すとともに実現可能な実施方法が考えられているか (3)提案された政策の実行によりどの程度の効果が見込まれるか――との観点から審査。高校生の部で2連覇を果たした岐阜高校は今回、送電ロスの課題に着目。フレキシブルな着脱が可能なペロブスカイト型太陽電池、マイクロ水力発電の活用などにより、年間約9.35億kWhの送電ロスを軽減する試算を示した。中学生の部で準優勝を獲得した中央大学附属中学校(東京都)は、「CARBON 30+30」(カーボンサーティサーティ)と題する政策を提案。カーボンニュートラルの実現につき「2030年から30年かけて実行する」ことを目指し、2030年以降の原子力発電所の再稼働推進、火力発電の依存度低減、再生可能エネルギーの技術向上などを展望している。実行委員長の江間氏は、「実によくリサーチをして政策を提案してくれた」と高く評価。将来の革新炉開発に関しても、高温ガス炉を利用した政策提案などもあったことから、今大会を出発点に「中学生や高校生の皆様のエネルギー問題への関心がさらに広がっていくことを期待する」とのメッセージを送った。
06 Mar 2025
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内閣府(科学技術政策)は3月18日まで、核融合エネルギーの安全規制の検討に向け、その前提となる指針「フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方(素案)」についてパブリックコメントを募集している。政府の統合イノベーション戦略推進会議による「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」に基づき、2024年3月、内閣府の呼びかけにより核融合エネルギーの産業化を目指す「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会」(J-Fusion)が設立された。ITER(国際熱核融合実験炉)計画の進展を踏まえ、核融合による将来の発電実証が行われるよう、民間企業の積極的参画を見据えたものだ。これを受け、同年5月からは、「フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方検討タスクフォース」が立ち上がり、検討が進められてきた。今回、取りまとめられた基本的な考え方では、まず、核融合装置の法令上の位置付けを整理。燃料としてトリチウムを使用し放射線を発生することが想定されることから、「放射性同位元素等の規制に関する法律」(RI法)の規制対象となるとしている。実際、量子科学技術研究開発機構の「JT-60SA」、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置「LHD」などが、「プラズマ発生装置」として該当している。その上で、世界各国での多様な方式による核融合エネルギー実現に向けた取組の進展、今後数年間でパイロットプラントや原型炉の建設が行われる可能性を見据え、「予見性を高め、民間企業の参画やイノベーションを促進する観点から、安全確保の枠組みの整備が急速に求められる」と、問題意識を強調。今後検討すべき課題を、法的枠組み、安全確保の枠組みを検討する体制、知見の蓄積、セキュリティと不拡散に整理し、「規制当局と安全確保のあり方について対話するなど、早期の検討が不可欠」と述べている。2月26日の原子力規制委員会定例会合では、本件について取り上げられ、開発の現状や今後の見通しについて、事業者を招き公開の場でヒアリングを実施する方針が了承された。
05 Mar 2025
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は2月28日、記者会見を行い、同18日に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」に対する考え方について説明した。「第7次エネルギー基本計画」の閣議決定を受け、原産協会は2月21日に、 (1)原子力を最大限活用する (2)既設炉最大限活用する (3)次世代炉の開発・設置に取り組む (4)原子力発電の持続的な活用への環境整備――につき、方針が示されたとして、「高く評価する」との理事長メッセージを発表している。今回のエネルギー基本計画決定に際し、記者より「まず何から始めるのか」と問われたのに対し、増井理事長は、産業界として、原子力人材やサプライチェーン維持・強化を見据えた新規建設プロジェクトの必要性に言及。今回エネルギー基本計画を裏付ける電力需給見通しを踏まえ、「2040年までは猶予はあまりない」と述べ、政府による支援についても、早急な支援が図られる必要性を示唆した。また、原子力発電の再稼働をめぐって、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機がBWRとして新たに加わり計14基となった。折しも前日、柏崎刈羽原子力発電所のテロ対策に備えた「特定重大事故等対処施設」の整備延期が発表されたことに関し、増井理事長は、審査期間、地理的要件、設計の問題、工事の量・人手の4点を指摘。原産協会が毎年公表する「産業動向調査」にも触れながら、2040年の電力需給見通しに向け「地元合意を経て再稼働すれば十分達成できる」との見方を示した。
04 Mar 2025
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東京電力は2月27日、柏崎刈羽原子力発電所6・7号機のテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)について、それぞれの工事完了時期を、2026年9月から2031年9月に、2025年3月から2029年9月へと変更する工事工程の見直しを発表した。柏崎刈羽原子力発電所の稲垣武之所長は同日の記者会見で、既に燃料装荷が終了した7号機の特重施設に関し、「これまでに実施したことのない工事であり、かつ非常に大規模な工事であるため、工期について見通すことが難しい状況」と説明。工事物量や人手不足の課題にも言及した上で、「引き続き安全最優先で一つ一つ着実に進めていく」と述べた。新規制基準で要求される特重施設は、「意図的な航空機衝突等による大規模な損壊」で広範囲に設備が使えない事態を想定した原子炉格納容器の破損を防止するバックアップ施設。本体施設の設備工事計画認可(設工認)から5年間の整備猶予期間が設けられており、6・7号機それぞれ2025年10月、2029年9月が設置期限となっている。特重施設の整備に係る詳細は、セキュリティ上、明らかにされていない。7号機は既に燃料装荷が完了している。稲垣所長は、同機に関し「新規制基準を踏まえた重大事故等対処施設を整え、規制庁の審査に合格していることから、技術的には稼働できる状態」と説明。今後の試運転における機能検査など、安全対策に万全を期すことの重要性を述べた上で、「日本の電力需給は年間を通じて予断を許さない状況が続いており、原子力の稼働が進んでいない東日本エリアは特に夏場の需要期に一層厳しくなる」と、電力安定供給を担う使命を強調。再稼働に関して「地域の皆様の理解があってのことと考えており、引き続き地域の皆様から理解をいただけるよう説明を尽くしていく」と述べた。現在、立地地域の新潟県では、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に向けた知事の判断が焦点となっている。県の技術委員会は福島第一原子力発電所事故の防災対策に係る検証も踏まえ、確認した22項目のうちの大半について「特に問題となる点はない」とする報告書を知事に提出。3月中には県議会による関係行政機関からのヒアリングが見込まれている。
28 Feb 2025
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福島県漁業の現状を広く知ってもらうための試食・展示イベントが2月22日、東京都中央区の築地市場「築地魚河岸」ビル内で行われた。福島県漁業協同組合連合会(福島県漁連)の主催。海産物を業者相手に卸売する市場機能は既に豊洲市場(東京都江東区)に移転しているが、現在も築地界隈は、新鮮な魚介類、水産加工品の他、寿司屋のまな板やお品書きなど、業務用品を扱う専門店があり、休日も多くの人々で賑わっている。「築地魚河岸」もその一つで、道路を挟み2棟に食品を取り扱う数十店舗が入っている。今回の試食・展示イベントでは、メヒカリのにぎり、サバの塩焼き、アンコウの唐揚げの3品を盛り合わせ、およそ1,000食を無料提供。メヒカリは頭からまるごと食べる唐揚げが定番のようだが、にぎりでも歯ごたえが実によく酢飯との相性も他の寿司ネタと遜色ない。時節柄、鍋もので美味しいアンコウは唐揚げでもホクホク感がよし。サバの塩焼きは、その場で調理し出来立てを提供。来場者からは「脂がのってるねぇ」との声も聞かれ好評だった。試食コーナーは、朝8時の開場後、近隣の物販店も営業を開始した9時半頃からは、折しも連休中とあり、列ができるほどの盛況となり、外国人観光客の姿も見られた。親潮と黒潮が出会う福島県沖の海で水揚げされた魚介類は、築地市場では「常磐もの」と呼ばれ、「身が締まって味が良い」とされる。会場では、その旬の時期や味を紹介するパンフレットも配布(和英)。試食後、アンケートに回答すると、レアなグルメとされるカナガシラアヒージョの缶詰が土産として手渡された。同イベントは、16回目の開催となったが、開会に際し挨拶に立った福島県漁連の野﨑哲会長は、「回を重ねるごとに福島の漁業者への力強い支えとなってきた」と絶賛。福島県産の魚介類は、モニタリング検査により安全性が確認されており、現在、出荷制限が指示されている魚種はない。一方で、漁獲高はまだ震災前の水準には達していない状況だ。引き続き「様々な困難はあるが漁業に励んでいきたい」と強調。家族連れも増えてきた開始1時間後ほど、取材に応じた野﨑会長は、夏が旬のカツオの水揚げ見通しにも触れたほか、日本の水産業を背負う後継者の課題に関しては「その道のプロであるという自信があれば何とかなるものだ」などと、前向きな見方を示した。大手スーパーのイオンでは、福島県漁連の協力を得て首都圏を中心とする大型店で「福島鮮魚便 復活!常盤もの!」と銘打つセールを随時行っている。
26 Feb 2025
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OECD/NEA(原子力機関)のマグウッド事務局長がこのほど来日し、東京都市大学で講演した。講演会は同大とNEAが人材交流を目的にMOUを締結したのにあわせて開催された。マグウッド事務局長は、「次代を担う原子力:新たなチャンスと取り組むべき課題」と題し、次世代炉や小型モジュール炉(SMR)導入の展望に加え、原子力利用の加速に向けた資金調達や、規制の在り方、政策支援、市場環境、インフラ整備における課題と対策について、1時間ほど講演した。事務局長は、「2050年のカーボンニュートラル、世界の原子力発電設備容量を現在の3倍にするために、既存炉の長期運転、SMRの建設拡大、原子力の非電化用途の拡充など、同時並行で実施する必要がある。そのためには大きく4つの課題(サプライチェーン、法規制、政策と市場、インフラ整備)をクリアしなければならない」と述べた。特に今日の電力市場は、「長期的な環境対策とエネルギー安全保障が十分に考慮されておらず、出力調整可能なエネルギーに大きな価値がある」と指摘した。また、「各国政府がFOAK(初号機)リスクに対処するための政策の立案、新規原子力建設の資金調達を支援するための政府保証が重要であり、世界銀行のような国際金融機関が大きな役割を果たさねばならない」と語った。そして、「NEAでは、学生を対象としたさまざまなワークショップを各国で開催し、関係省庁や機関、そして産業界の専門家と科学技術について議論する機会を提供している。この講演に参加されている東京都市大学の学生の中にも、良いアイデアをお持ちの方がいるかもしれない」と述べ、学生の参画を促した。事務局長は、「長年にわたり原子力の仕事をしてきたが、原子力の評価は時代とともに変化してきた。私がこの世界に踏み入れた頃は、原子力は経済的に成り立たず廃れていく産業だと考える人が多くいたが、のちに原子力ルネサンスと呼ばれる時代が訪れた。しかし、福島第一原子力発電所の事故のような、業界内に大きな影響を与える出来事があり、そこから多くの教訓を学び、今に至っている。近年では多くの国が、原子力をエネルギーミックスの一部として取り入れるようになっており、今こそ原子力が本領を発揮する好機だ」と強く訴えた。
26 Feb 2025
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2025年2月23日、静岡大学の主催で「STEAM教育手法を活用し、エネルギー・環境問題を基盤とした理系教員養成原子力人材育成」令和7年度総合討論会が開催された。本プログラムは、文部科学省の国際原子力イニシアティブ事業の一環として実施され、日本全国の教育系大学が連携し、エネルギー・環境問題のリテラシーの高い教員養成を目指している。本プログラムは5年計画で、今回が3回目。静岡での開催は初めてで、学生たちは前日、浜岡原子力発電所を見学している。これまでも島根や鹿児島など、原子力発電所が立地する地域で開催されてきたが、今回は都市部・静岡での開催となり、新たな層へのアプローチが期待される。なおSTEAM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、リベラルアーツ(Liberal Arts)、数学(Mathematics)の統合的なアプローチを重視するものであり、特に日本の教育現場においては、文系理系の垣根を取り払った、分野横断的な学びを強化する手法として注目されている。前半に行われたポスターセッションでは、教育学部系の学生たちがSTEAM教育を活用したエネルギー教育の指導案を発表した。指導対象は小学校高学年から高等学校まで幅広く、テーマも多岐にわたる。エネルギー資源の活用、カーボンニュートラル、SDGs、途上国向け原子力CM制作、企業による原子力発電の活用、VR技術を用いた施設訪問、理想とする2050年の電源構成比、地層処分問題の解決へ向けた取り組みなど、将来の教員がどのように生徒たちにエネルギーや原子力を伝えるかがわかる充実した内容だった。各種エネルギー技術に関する深掘りというよりは、教育の視点からいかに生徒たちに伝えるかが重視されており、「教員がどのように生徒に興味を持たせ、考えさせるか」という点に焦点を当てた点は非常にユニークだ。なお、生徒に事前学習のような形で学ばせる際に、どのようなWEBサイトを参照させるのかと尋ねたところ、多くの学生が「資源エネルギー庁や電力会社のWEBサイト」「メリットだけでなくデメリットもきちんと説明しているWEBサイト」と回答した。「原子力産業新聞」「日本原子力産業協会」という回答はゼロであった。STEAM教育で築くエネルギーリテラシーポスターセッションの後、白鷗大学教育学部の上野耕史教授による講演が行われ、STEAM教育についての詳細な説明がなされた。教育委員会や文部科学省で、学習指導要領に長年携わってきた上野教授は、STEAM教育の基本概念から、その意義、そして学校現場でどのように取り入れるべきかについて幅広く語った。教授は、STEAM教育の目的を「知識の詰め込みではなく、問題解決型の思考を養うこと」とし、その上で、「技術と社会の相互関係を理解し、持続可能な発展を見据えた人材の育成が求められる」と述べた。さらに「リベラルアーツ(A)の要素を取り入れることで、創造力や柔軟な思考が促される」と強調した。また、エネルギー教育の観点からは、STEAM教育が「理科や社会科にとどまらず、技術、経済、環境学とも密接に結びつく学びを提供する」と説明。生徒が主体的に考え、討論を重ねることで、社会課題の解決に向き合う力を育むとし、実験やシミュレーションを活用した実践的な学習の重要性を説いた。さらに、「STEAM教育は原子力リテラシー向上にも貢献できる」と指摘し、教育現場での具体的な実践例を紹介。特に、エネルギー利用や政策に関するシミュレーションを通じて、生徒が現実的な課題に向き合う機会を提供することの意義を強調した。プログラムはその後、講評に移り閉会を迎えたが、挨拶に立った文部科学省研究開発局原子力課長の有林浩二氏は、「若い世代の約半数が『原子力についてよくわからない』と答えている現状」に警鐘を鳴らし、「原子力リテラシーを高めるためには、賛成・反対の立場を問わず、正しい知識を持ち、冷静な議論ができる社会を目指すことが不可欠」と強調した。そして「STEAM教育を通じて、『わからない』を『知っている』へ、さらには『考えられる』へと導くこと」が求められているとし、教育現場における教師の役割が極めて重要との認識を示した。主催者を代表して挨拶した静岡大学理事の塩尻信義教授は、策定されたばかりの第7次エネルギー基本計画を引き合いに出し、日本のエネルギー政策が転換期を迎える中で、教育が果たす役割の大きさを強調した。「学校教育は、エネルギー問題を自分ごととして考えられる人材を育成する場である」とし、STEAM教育の導入がその一助となると示唆した。事務局を務めた同大理学部の大矢恭久准教授は、STEAM教育は単なる知識の伝達ではなく、生徒が自ら考え、議論する力を育むことであると強調。「知識の定着」と「批判的思考の育成」が重要であり、特に探究的学習の導入が、教育現場での原子力教育に新たな可能性をもたらすと述べた。プログラムディレクターを務めている名古屋大学大学院の山本章夫教授は、「技術は(社会からの要請で)変えられるもの」という視点が重要であると指摘。「技術と社会の相互作用」を理解することがSTEAM教育のカギであると強調するとともに、発電技術や原子力利用の未来を設計する視点を持つことで、生徒たちがより現実的なエネルギー政策について考える機会が生まれると強調した。STEAM教育が開く新たな可能性本プログラムを通じて、STEAM教育が原子力リテラシー向上に果たす役割の大きさが明確になりつつある。特に、教育系大学が連携していることで、近い将来に教員として各地に赴任した学生たちが、STEAM教育を活用し、生徒たちにエネルギー問題や原子力について考えさせるという仕組みは、実にユニークであり、まさにこのプログラムの強みである。有林課長が指摘した「わからない」と回答する次世代層の存在は、原子力教育の最大の課題である。しかし、本プログラムに従い、STEAM教育を活用し、生徒たちの批判的思考を養うことで、「わからない」を「知っている」に変え、さらには「考えられる」に導いていけるような仕組みになれば、原子力をめぐる社会的な議論の成熟にもつながるだろう。STEAM教育は、単なる理系教育の枠を超え、技術と社会の関係を理解するための手段となり得る。今回のポスターセッションで示された学生たちの取り組みは、その礎を築くものとなるだろう。
25 Feb 2025
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「第7次エネルギー基本計画」が2月18日、閣議決定された。これに先立ち、原子力委員会は2月12日、同計画案への見解を発表している。同委による見解は、2023年2月に取りまとめた「原子力利用に関する基本的考え方」をベースとしている。総論として、「福島の復興・再生と原子力政策」、「脱炭素電源としての原子力発電の位置付け」を標榜。原子力関係者に対し、「原子力災害の反省と教訓を決して形骸化せずに、放射線リスクへの懸念を含む不信・不安に対して真摯に向き合い、その払拭に向けた取組を一層進め、社会の信頼回復が引き続き重要」と、訴えかけている。さらに、原子力エネルギー利用について、「再エネか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、ともに最大限活用していくことが極めて重要である」と明記されたことを評価。その上で、「2040年に向けた政策対応」として、 (1)原子力政策の出発点-福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえた不断の安全性追求 (2)立地地域との共生・国民各層とのコミュニケーション (3)核燃料サイクルの推進 (4)円滑かつ着実な廃炉の推進 (5)高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組の抜本強化 (6)既設炉の最大限活用 (7)次世代革新炉の開発・設置 (8)持続的な活用への環境整備、サプライチェーン・人材の維持・強化 (9)国際的な共通課題の解決への貢献――の各論について、記述内容を評価し見解を述べている。既設炉の再稼働も進み、50年超運転プラントも出てきた。これに関し、「トラブル低減に向けた技術的な取組を強化し、既設炉における設備利用率を向上させるべき」と期待。次世代革新炉の開発に向けて、原子力委員会では最近の公開会合で大手メーカー3社より、ヒアリングを行っているが、実用化に向けた長期間のリードタイムを考慮し「国は具体的なプロセスを明確にすべき」と要望。さらに、サプライチェーン・人材の維持・強化に関し、「原子力サプライチェーンプラットフォーム」を通じた事業継承支援、部品・素材の供給途絶対策などの重要性を強調。OECD/NEAなどの国際機関が取り組む原子力分野における女性活躍支援にも触れ、「日本の原子力産業においても、多様な人材が活躍できるよう、ジェンダーバランスの改善に向けた取組を含め、各世代、性別、分野の能力が発揮できる環境を整備すること」との期待を述べている。
21 Feb 2025
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鹿児島県立霧島高等学校は、霧島温泉駅から徒歩8分の、霧島連山のふもとにある機械科と総合学科を併設した、小規模ながら特色ある学校だ。1学年は約40名、現在の全校生徒は104名。機械科の生徒は学年によって9〜18名と変動するが、毎年約10名が入学し、ものづくりの技術を学んでいる。同校校長の横山謙二先生は、「規模は小さいかもしれないが、自慢の先生や生徒が揃っている」と誇らしげに語る。霧島高校の機械科では、福井南高等学校からの声がけをきっかけに、クリアランス金属の活用をテーマにした教育活動をスタートさせた。新たに独自の取り組みを始めた霧島高校の姿を追った。地元で考える資源活用:「クリアランス金属」をどう活かすか霧島高校では、クリアランス金属の可能性を探る実践的な学習を進めている。 その一環として、地元の製造業との連携も視野に入れながら、金属の加工や再利用について学ぶ機会を設けた。「金属を溶かして加工するには、どんな技術が必要か?」「鹿児島にはどのような鋳造・金属加工の企業があるか?」 生徒たちは、こうした疑問を持ち、地域産業と結びつけながら学びを深めている。しかし、クリアランス金属の利用には社会的な理解が不可欠である。再利用には安全基準が設けられているものの、「放射性物質由来」というイメージが社会に与える影響は小さくない。「データでは安全と示されているが、人々の感情はどうか?」「私たちが地域にこの金属を使った製品を設置しようとしたら、受け入れられるのか?」こうした問いを持ち、霧島高校の生徒たちは、「科学的根拠」と「社会的合意」の両面から課題に取り組んでいる。今回の取り組みの代表格は、霧島高校3年生の東條誠くん。「最初は単に『原発由来の金属』というイメージだけだったんです。でも、実際に触れてみると、単なる“危ないもの"ではなく、どう活用するかが大事なんだと気づきました。 放射線とは何か? クリアランスレベルとは? そうしたことを知るうちに、単なる賛成・反対では語れない問題だと分かりました。」 (東條くん)東條くんは、今春から海上自衛隊に入隊する予定だ。「海自に入っても、今回の経験をみんなに伝えたいし、もっと原子力発電所を見学してみたいと思っています。」(同)技術の習得だけでなく、考え方にも変化が生まれた。「このプロジェクトを通じて、“原発は危ない"という単純な考え方から、“じゃあその後の処理はどうするのか"という視点に変わりました。つまり、原発の是非だけでなく、“出たものをどうするか"という考え方が大事だと実感しました。」 (同)社会的合意形成への挑戦:「地層処分」問題をどう考えるか霧島高校では、今回のクリアランス金属の活用以前から、放射性廃棄物の地層処分問題などエネルギー教育にも力を入れている。この授業の中心にいるのが、冨ヶ原健介先生だ。冨ヶ原先生の指導のもと、生徒たちは科学的視点だけでなく、倫理や政策決定の側面にも目を向け、総合的な判断力を養っている。「社会の中で合意形成がどのように行われるのかを、生徒たちに体験してもらいたい」と、冨ヶ原先生は、「誰がなぜゲーム」と呼ばれるシミュレーションを授業に取り入れた。このゲームでは、「国民」「地域住民」「政策決定者」などの役割を生徒が演じ、それぞれの立場から地層処分問題に向き合う。「どうして廃棄物の処分のことをきちんと考えずに、原発を使い始めたのか?」ある生徒の言葉に、冨ヶ原先生は「なるほど、鋭い指摘だ」と頷いた。そして語りかける。「でも実際に周りを見てごらん。何か新しいことを始めると、必ずその後から問題が出てくるものなんだ。私たちはコロナ騒動でそれを経験したばかりだよ」技術の発展は、常に未知の課題を伴う。冨ヶ原先生は授業の中で、「意思決定のプロセスを理解することが重要」だと強調している。単なる賛否ではなく、どのように社会的な合意を形成し、持続可能な解決策を見出していくかを生徒たちは学んでいる。生徒が伝える技術:「浮かぶボール」の工作指導霧島高校の生徒たちは、学んだ技術を次世代へとつなぐ活動にも取り組んでいる。小学生に科学の面白さをどう伝えるか? その試みの一つが、小中学生を対象にした「浮かぶボール」工作指導だ。これは、アルミ空き缶とペットボトル、ストローを使い、息を吹きかけることで正二十面体のアルミのボールが浮き上がるというシンプルな実験だが、空気の流れや物理の原理を体感できる教材となる。指導を通して生徒たちは、自分が理解していることを“相手に伝える”難しさを実感するのだという。冨ヶ原先生は、「技術を学ぶことはもちろん重要だが、それ以上に、それを社会とどうつなげるかが大事だ」と語る。この経験を通じて、生徒たちは「科学の面白さを伝えるスキル」「相手の理解度を考えながら説明する力」といったコミュニケーション力を育んでいく。先ほどの東條くんも「浮かぶボール」の工作指導を経験し、「教えることの難しさ」を実感したという。「最初は、ただ説明すればいいと思っていました。でも、小学生の理解度は一人ひとり違う。ある子には伝わるけど、別の子には全然伝わらない。 どう説明すれば分かりやすいか、相手に合わせた伝え方を考えることが大事だと学びました」(東條くん)そして指導を通じて、自分自身の成長も感じたという。「小学生って本当に純粋で、『これは何?』『なんでこうなるの?』と、食い気味に質問してくるんです。 それに答えていくうちに、自分もより深く理解できるようになった気がします」(東條くん)霧島高校の挑戦が示す 教育の可能性今回の取り組みを通じて、霧島高校の生徒たちは、「科学技術を学ぶだけでなく、それを社会にどう活かすか」「賛否が分かれる問題について、どのように合意形成を進めるか」━━を実践的に学んでいる。単なる知識の習得ではなく、「地域の課題に対して、自分たちがどう関われるか?」を考える姿勢が養われているのが、霧島高校の教育の大きな特徴だ。今後、この学びの成果がどのように社会へ広がっていくのか、注目していきたい。
21 Feb 2025
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原子力規制委員会は2月19日の定例会合で、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に係る審査及び検査の改善策について了承した。〈資料は こちら〉これまでの審査の実績や実施計画の現状を踏まえて、他施設での実績を踏まえ審査に係るガイドを策定するなど、効率的・効果的な安全規制を実施するのがねらい。 これに先立ち、福島第一原子力発電所の廃炉に係るリスク低減などについて審議する同委の「特定原子力施設監視・評価検討会」で、2月17日、原子力規制庁は、東京電力へのヒアリングも実施し、改善要望事項を聞いた上、リスク情報を活用した合理的な手法の導入などを含む改善策を整理し説明。 それによると、審査に係るガイドには、これまでの技術会合等で議論されてきた認可基準適合性を確認する方法の具体例や、審査の実績を踏まえた実施計画の記載事項、「運転上の制限(LCO)」の名称及び設定すべき項目の選定の考え方を盛り込むとされた。 検査関係の改善については、溶接検査を使用前検査の一部として実施、また過去に実績のある設備でリスクが低いものは使用前検査を不要とするなど合理化を図ることが改善方針のポイント。 その中で、19日の定例会合では、他施設での原子力規制検査の定着を踏まえた「短期的な改善策」について規制庁より諮られ、了承された。安全にフォーカスし改善活動を事業者と規制側の双方で行う原子力規制検査の実績等を踏まえ、有効な評価手法の導入をさらに進め、監視領域を設けて効果的かつ効率的な監視を行うことや、検査指摘事項の評価に重要度評価を導入するなど、合理的な検査の手法に改善していくもの。一方で、福島第一原子力発電所の廃炉を担務する伴信彦委員は、これまでも震度計の取扱いで「不備を知っていて対応しなかった」ことなどに対し厳しい指摘をしてきた。今回了承された検査指摘事項の重要度評価では、当面のすべての指摘事項に対する「重要度評価・規制措置会合(SERP 会合)」や、意図的な不正行為等に対する深刻度評価も導入することとなっている。規制庁は今後、審査ガイド及び検査の枠組みに係る規則等の改正に関する検討を進め、2025年度内に順次、改正案等を規制委に付議する方針だ。 2月17日に行われた検討会に有識者委員として出席した大熊町商工会会長の蜂須賀禮子氏は、これまでも議論されてきた福島第一原子力発電所におけるリスク低減マップなどを踏まえ、今後の原子力規制検査に関し、通常の原子力施設とは異なる特性に言及した上で、「不思議に思ったことがあればまずは立ち戻るべき」と述べ、工程ありきではなく総合的に安全が確保されることを、地域の立場から要望している。
20 Feb 2025
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東京で2月13~16日、高校生を対象とした科学リテラシー向上へ向けたユニークな活動が紹介された。京都大学複合原子力科学研究所の中村秀仁助教が主導する「Nプロジェクト」が、TIB(Tokyo Innovation Base、東京・千代田区)で開かれたイベントに出展したもの。「Nプロジェクト」は、中村助教の発案で2023年春から始動した取り組みで、大阪高等学校の約2,000人の生徒を対象に、文系・理系を問わず科学リテラシーの向上を目指している。スマホアプリを活用した参加型授業など、生徒たちが主体的に取り組めるよう、さまざまな工夫が凝らされている。同プロジェクト最大の特徴は、生徒一人ひとりが学んだことをスケッチブックにまとめ、市民に向けて発表する機会を多く設けているという点にある。アウトプットを繰り返すことで、知識の定着を図るためのものであるが、発表の場では、熱心に説明する子供たちの姿に関心を持ち、足を止める女性が多く見られたという。この取り組みは、次世代層だけでなく、女性層における先端科学の理解促進にもつながっていると、中村助教は指摘する。このイベントは、8月14~19日に大阪・関西万博会場で開催される「わたしとみらい、つながるサイエンス展((産官学連携研究プロジェクトの成果や活動を国内外に広く発信するイベント。8月14~19日の6日間、大阪・関西万博の会場で開催予定。))」(主催:文部科学省)の展示を、一足先に体験できる場として企画されたもの。生徒たちは、「身の回りの放射線」や、「医療分野で活用されている放射線」など、さまざまなテーマについてまとめたスケッチブックを手に持ち、来場者に向けて発表した。14日には、阿部俊子文部科学大臣もブースを訪問。中村助教より参加型授業を模した2択クイズ形式でプロジェクトの紹介を受け、興味深そうに耳を傾けていた。大阪高校2年生の坂部偉吹さんは、Nプロジェクトを通して、「電球はどのような仕組みで光るのか」など、日常の中で疑問を見つけ、それを調べる習慣がついたと話す。また、そうして学んだことを人に伝えることの楽しさを実感し、積極的に発表の場に参加するようにしているという。同校1年生の山守若葉さんは、今回のイベントでの発表を通じて、来場者からたくさん褒めてもらうことができ、「嬉しい、楽しい、といったプラスな気持ちでいっぱい」と笑顔で感想を話した。中村助教は、同サイエンス展への参加を通じ、「生徒たちには、多くの方と対話し、社会とのつながりを感じると共に、自分たちの取り組みが社会に通用する素晴らしいものであることを実感してほしい」と期待を寄せた。
20 Feb 2025
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電気事業連合会の林欣吾会長は2月18日、同日閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」、「GX2040ビジョン」、「地球温暖化対策計画」について、「わが国のエネルギー政策の強い決意が示されており、大変意義のあるもの」とするコメントを発表した。エネルギー基本計画の改定は、2021年10月以来となるが、「エネルギー安全保障と安定供給を第一に据えた上で、脱炭素に向けた野心的なビジョンの完遂と様々な不確実性がある中で経済成長を目指すため、使える技術はすべて活用するという現実的な方針が提示された」ものと、高く評価している。原子力については、2040年以降の設備容量減少を見据え、「いずれは新増設が必要」と標榜。サプライチェーンや技術・人材を維持確保するため、開発目標の設定や、廃炉を決定した発電所を有する事業者のサイト内での建て替えに限定しない開発・設置の必要性を訴えている。
19 Feb 2025
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「第7次エネルギー基本計画」が2月18日、閣議決定された。エネルギー基本計画の改定は、2021年10月以来のこと。現行計画の策定以降、徹底した省エネ、安全性の確保を大前提とした原子力発電所の再稼働に向けての取組が進展。海外では、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化など、エネルギー安全保障に係る地政学的リスクも高まってきた。こうしたエネルギーをめぐる国内外の情勢変化を踏まえ、総合資源エネルギー調査会では、2024年5月よりエネルギー基本計画の改定に向け検討に着手。経済団体や消費者団体などからのヒアリング、電源別のコスト評価などを踏まえ、同年12月に原案を提示。その後、1か月間のパブリックコメントに付せられた。新たなエネルギー基本計画では、「福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じ取り組む」ことをあらためて原点に据えた上で、「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)を基本的視点として掲げている。原子力に関しては、「優れた安定供給性、技術自給率を有し、他電源とそん色ないコスト水準で変動も少なく、一定の出力で安定的に発電可能」とのメリットを強調。立地地域との共生、国民各層とのコミュニケーションの深化・充実、バックエンドプロセスの加速化、再稼働の加速に官民挙げて取り組むとしている。東日本大震災以降策定の基本計画で記載されてきた「原発依存度の可能な限りの低減」との文言は削除。新増設・リプレースについては、「廃炉を決定した原子力を有する事業者の原子力発電所サイト内での、次世代革新炉への建て替えを対象」に具体化していくとされた。また、今回のエネルギー基本計画の裏付けとして、2040年のエネルギー需給見通しが「関連資料」として示されており、発電電力量は1.1~1.2兆kWh程度、電源構成は、再生可能エネルギーが4~5割程度、原子力が2割程度、火力が3~4割程度などとなっている。武藤容治経済産業相は2月18日の閣議後記者会見で、パブリックコメントで原子力の推進に慎重な意見も多かったのではとの問いに対し、原案に「安全性やバックエンドの進捗に関する懸念の声があることを真摯に受け止める必要がある」との追記を行ったなどと説明。加えて、合計で4万件を超える意見が寄せられたことについて、「国民の強い関心の現れ」と受け止め、引き続き国民生活や経済活動の基盤となるエネルギー政策を着実に進めていく考えを強調した。同日、新たなエネルギー基本計画とともに、地球温暖化対策計画も含めた2040年頃の日本の産業構造を標榜する国家戦略パッケージ「GX2040ビジョン」も閣議決定されている。
18 Feb 2025
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