大会2日目に開催されたFireside Chatでは、「学生へのメッセージ」をテーマに、国際的に活躍する若手エンジニアが原子力業界で培った経験やその魅力を語り合った。登壇したのは、北米原子力若手連絡会(NAYGN)アンバサダーのオサマ・ベイク氏と、東京科学大学准教授の中瀬正彦氏。オサマ氏はカナダ唯一の原子力工学専攻(オンタリオ工科大学)を卒業後、CANDU炉改修プロジェクトや廃止措置計画、ビジネス開発、戦略立案など、幅広い分野で実務経験を積んだ。さらにIAEA(国際原子力機関)での業務にも携わり、グローバルな視野とコミュニケーション能力を養ったという。また、自身が運営するYouTubeチャンネルを通じて、原子力施設を訪問した映像コンテンツを発信し、業界内外の教育・啓発活動に大きく貢献している。一方、中瀬准教授は学生時代からエネルギーやロボティクスに関心を持ち、化学工学や核燃料サイクル、さらには福島第一原子力発電所事故後の廃棄物処分など、多岐にわたる研究を経験。海外留学や国際的な研究活動を通じて、分野横断的な視点を身につけた。自身の経験から、「原子力は分野横断的で、多面的な研究や実務を経験できる魅力的な領域」と強調した。また両氏は、原子力業界の魅力と可能性について次のように述べた。オサマ氏は、原子力業界が多様な専門分野を融合した領域であり、技術的・科学的知識に加えてビジネス視点や戦略的な思考、コミュニケーション能力が求められることを指摘。若い世代が新たなテクノロジーやイノベーティブなビジネスモデルを持ち込み、業界全体を活性化させる可能性があることを強調した。中瀬准教授も、原子力分野の分野横断的な性質を挙げ、多様な専門分野が交差することで、新しい研究やプロジェクトが生まれる可能性が大きいことを紹介。特に、内向きになりがちな日本の原子力業界にあって、国際的な視野を持つことが新しいアイデアやイノベーションをもたらすカギになると述べ、若い世代がこの魅力を感じ取り、積極的に参画してほしいと呼びかけた。両氏は学生たちに、情報発信の重要性についても強調。オサマ氏は、これまで原子力業界が伝統的に保守的だったことから、原子力に関するわかりやすく親しみやすい情報が不足していたと指摘。自身の動画制作活動が業界内の教育や研修教材として幅広く活用されるようになったことで、一般社会への原子力理解が促進されている事例を紹介した。中瀬准教授は、研究者や専門家が自らの研究成果を社会に分かりやすく伝えることで、原子力に関する社会的理解を深めることができると語った。さらに、このような活動は研究者自身のモチベーションを向上させ、社会との繋がりを強化する効果もあると強調し、積極的なコミュニケーションの重要性を訴えた。最後に学生への具体的なアドバイスとして、オサマ氏は「この年次大会の場のように、学生時代に積極的に業界のプロフェッショナルたちと交流し、好奇心を持ち続け、自分の限界を超えて挑戦し続けてほしい」とエールを送った。中瀬准教授は、「なぜその研究や仕事を行うのか、その意義を常に意識するとともに、日本に閉じこもらず、国際的な視野をもって多様な経験を積んでほしい」と語りかけた。
09 Apr 2025
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第58回原産年次大会・セッション2「新規建設に向けて:海外事例に学ぶサプライチェーンの課題」では、既設炉の運転再開の遅れや長期に亘る新設の中断により、厳しい状況にある国内サプライチェーンの課題と対応について、海外の良好事例や教訓から、新設プロジェクトを円滑に進めるための方策を探った。モデレーターの伊原一郎氏(電気事業連合会)は冒頭で、日本のサプライチェーン確保と強化に向けた取組みを紹介。第7次エネルギー基本計画で原子力の最大限活用と次世代革新炉へのリプレースの必要性が示されたが、新規建設が長らく途絶え、震災後は定期点検やOJT機会の減少により、電気事業者、メーカー、サプライヤーは、プラントを実際に触りながら学ぶ機会を喪失。有能な技能者が45%減となるなど、技術力の継承・維持の面で影響が顕在化し、取替え部品の供給途絶や、サプライチェーンの劣化に直面していると指摘。一方で、建設には一定のリードタイムが必要であることを考慮すると、今すぐに新設に着手する必要があるため、海外の経験や良好事例を学び、日本の原子力産業界が活力を維持できるような、政策を考えていきたいと語った。続いて、米原子力エネルギー協会(NEI)のジョン・コーテック氏は、米国での原子力への関心の高まりの背景に、原子力が脱炭素電源であることに加え、電化だけでなく、AI関連の需要増により、2029年までの5年間の電力需要成長予測がこの2年で5倍増になったと紹介。この急激な需要増に原子力は対応可能であり、新設には連邦や州政府レベルでの税額控除や融資保証などの各種支援も原子力への追い風になっていると説明した。また、A.W.ボーグル原子力発電所(3、4号機、各AP1000)建設でのオーバーラン(工期遅れ、予算超過)の経験を踏まえ、設備・機器によっては、海外での調達も選択肢にあると述べた。フランス原子力産業協会(GIFEN)のアガット・マルティノティ氏は、同協会CEOのオリビエ・バード氏のビデオ・メッセージによるフランスの原子力開発の最新状況の報告に続けて、人材の訓練、採用、産業支援の取組みとして、フランスの原子力プログラムの復活に関連するニーズを定量化し、原子力プログラムのギャップ分析を行うため、約100社と協力してMATCHプログラムを開発したと紹介。今後10年間で必要となるフルタイムの労働力の定量化評価の結果、年25%の増強が必要であると判り、これを20の分野と約100の主要な専門職に細分化、原子力専門職大学で特に重視されているスキルが優先的に身につくように計画を立てる、と説明した。韓国原子力産業協会(KAIF)のノ・ベクシク氏は、韓国の最新の原子力開発状況や計画を紹介。なお、韓国では原子力発電が始まって以来、約1. 8年に1基のペースで継続的に建設・運転しており、現在、1,100を超える企業が原子力産業全体のサプライチェーンに参加していると言及。サプライチェーンの安定確保には、一貫性と予見可能性のあるエネルギー政策が重要であるとの見解を示した。有能な人材確保や投資環境の整備、許認可プロセスの合理化も不可欠であると同時に、サプライチェーンは一国だけの資産ではなく、原子力産業の促進のための世界共通の資産と捉えるべきであると強調した。日立製作所の稲田康徳氏は、日本電機工業会の原子力政策委員会の前委員長を務めた立場から、撤退・縮小を表明するサプライヤーが顕在化する状況を俯瞰するとともに、日立製作所の取組み事例を紹介。自社内での活動として、一般産業用工業品採用(CGD)、サプライヤーが撤退した製品の内製化、GE日立のSMR建設プロジェクトの機会を活用した国内製造の機会創出の取組みのほか、パートナーサプライヤーとコミュニケーション強化を図り、予備品や製造中止製品のデータの共有、経済産業省の支援事業の活用などを説明した。サプライチェーンの維持には、既設炉のメンテナンスやリプレースが必要であり、その事業予見性を高めるため、政府による支援事業の適用拡大に期待を寄せた。後半のパネル討論は、日本のサプライチェーンの立て直しのため、海外事例から具体的に学ぶ機会となった。打開策を問われたコーテック氏は、米国での多くの建設プロジェクトの機会を活用して、パートナーシップの構築、さらには投資に繋げていくことへの期待を示した。マルティノティ氏は、プロジェクトオーナーと早期段階から対話を開始し、作業量やリソースの計画をたて、リスク軽減と準備の度合いを高めることが重要であると述べた。ノ氏は、韓国の経験上、企業は投資リスクが低く、ビジネス機会を条件にサプライチェーンに参加するため、新規建設や運転再開の計画を明確に示すことが重要であると指摘した。また、韓国内では受注機会が少なく、海外市場を開発したことがサプライチェーンの強化に繋がっていると述べた。海外サプライヤーとの国際協力への対応については、コーテック氏は、米国では、非安全系で量産系の機器については北米だけでなく世界全体を対象にCGDを実施しており、今後それが加速するとの見通しを示した。マルティノティ氏は、フランスでは、サプライヤーの資格認定の標準化を図ろうとしており、専門家同士によるベストプラクティスの共有を提案。ノ氏は、韓国水力・原子力会社(KHNP)にサプライヤー登録制度があり、いったん登録されれば、国内外の原子力発電所に機器を納入でき、国際的に認められた規格基準に則り、海外市場にも参画しやすくなると説明した。人材育成について、コーテック氏は、原子力業界に入ればこの先何十年と良い生活が保障されているとアピールし、人材を惹きつけるNEIの取組みについて紹介した。加えて、大学を含め、徒弟制度のような教育制度を採用する機関に対して、原子力業界に入ってもらえるようなプログラム作りの支援の実施や、コミュニティでデジタルツールを駆使した求人募集活動を行い、実際、原子力業界に応募する人が増えたという実績を紹介した。マルティノティ氏は、現場での必要なトレーニングから逆算して、早い段階からプログラムを作り、適材適所なスキルを持った人材を適切なタイミングで確保することに尽きると強調。ノ氏は、韓国では運転保守は問題ないが、特に中小のメーカーがその採用段階から苦労している現状を踏まえ、政府による支援プログラムのほか、KAIFも中小企業対象向けに、経験者採用にあたって補助金を支給する支援プログラムや、トレーニングプログラムを独自で実施していると紹介した。プロジェクトマネジメントについてコーテック氏は、既設炉の運転コストを2012年比で30%以上下げたNEIの取組みを紹介。平均の定検期間は2000年代初めに44日であったが、現在は31日に短縮化されたという。米国では定検期間中、かなりの人数の応援部隊がサイトを巡回するが、教訓を共有する文化が重要だと語った。マルティノティ氏は、時間が経っても設計が安定していることが重要であり、プロジェクト管理も一貫性を持たせて効率アップを図るとともに、手戻りが生じないように品質管理を重視する必要性を訴えた。ノ氏は、KHNPが国内、海外プロジェクト向けに、プロジェクト管理組織を持ち、建設会社やメーカー、設計会社を含めて、総括的な管理・調整を実施し、うまく機能してきたと紹介した。最後にモデレーターの伊原氏は、日本の原子力産業界にとり非常に多くの有益な助言をいただいたと述べ、これを活かして次の世代に繋げる産業基盤を作っていかなくてはならない、とセッションを締め括った。
09 Apr 2025
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大会初日の午前中に開催されたFireside Chatでは、午後のセッション1、2で議論する原子力発電所の新設に向けた資金調達やサプライチェーン上の課題について、問題提起と欧州の事例に基づく課題共有が行われた。Fireside Chatとは、暖炉脇での会話を想起させるリラックスした雰囲気で行われる対話形式のトークイベント。原産年次大会では初めての試みであり、その後のセッションへの橋渡しとして実施された。初日の登壇者は、フラマトムジャパン株式会社のピエール・イヴ コルディエ代表取締役社長と日本原子力産業協会の増井秀企理事長。増井理事長は冒頭、日本の原子力産業の現状に触れ、2025年2月18日に策定された「第7次エネルギー基本計画」に関し、特に日本の原子力産業界が注目する重要な変化として、「原子力依存度の低減」から「原子力の最大限の活用」へと表現が改められ、既設炉の活用に加え、「新規建設」にも明確に言及されたことを挙げた。コルディエ氏は、欧州における原子力の現状について解説。欧州では130基以上の原子炉が稼働しており、世界全体の約3分の1に相当する規模を有している。近年では原子力への関心が再び高まり、新規導入や既存炉の運転期間延長が広く検討されていると述べ、欧州全体で原子力活用のモメンタムが拡大していると指摘した。コルディエ氏は、在英フランス大使館勤務時に関わった英国ヒンクリーポイントCやフィンランドのオルキルオト3号機のプロジェクトを例に挙げ、欧州の原子力プロジェクトがEUの政策動向に大きく左右される点を指摘した。特に環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準 である「EUタクソノミー基準」をめぐっては、原子力を推進する国々と、反対する国々の間で激しい議論があったが、最終的に原子力は2023年1月1日付でEUタクソノミーに含まれ、グリーンファイナンスの活用が可能となったことを紹介。休眠中のプロジェクト再活性化への期待を示した。日本における資金調達課題について増井理事長は、⽇本では原子力産業が民間事業であり、電力市場自由化が進んでいることから、新たな長期的投資回収が難しくなり、金融機関からの融資を受けることが困難である現状を説明。かつて存在した「レート・オブ・リターン(総括原価方式)」の仕組みがなくなったことで、原子力プロジェクトの資金調達環境が厳しくなっていると述べた。コルディエ氏は、欧州で採用されている多様な資金調達スキームの事例として、ヒンクリーポイントCで導入された「差金決済取引(CfD)」、英サイズウェルCに適用予定の「規制資産ベース(RAB)モデル」、フランスの改良型欧州加圧水型炉(EPR2)6基の建設プロジェクトにおける低利の政府融資とCfDの組み合わせを紹介した。また、欧州のプロジェクトで課題となった建設遅延やコスト超過についても触れ、その主要因としてサプライチェーンと人材の準備不足を指摘。こうした課題に対応するため、フランス電力(EDF)とフラマトムは2020年から2023年にかけて、プロジェクト管理やサプライチェーン標準化などを推進する「エクセル・プラン」を実施し、これにより改善が見られたと評価した。さらに、原子力産業が若年層に対して魅力あるキャリアとして欧州で再評価されていることを紹介。英国ヒンクリーポイントCでは、約8,000人の若者がスキル訓練を受け、地域の若年人口が大きく増加。また、フランスでは、高度な技能を持つ人材を育成するため、エクセル・プランの一環として、溶接訓練機関や原子力のための大学University for Nuclear Professionsが設立され、着実に成果を上げていると述べた。最後に増井理事長は、原子力の新設プロジェクト成功のカギとして「ファイナンス」「人材」「サプライチェーン」の3点を挙げ、欧州の経験から学ぶべき多くの教訓があると総括。コルディエ氏もこれに同意し、適切な制度設計と体制整備が整えば、日本においても”On Time, On Budget”での原子力新設が実現可能であると展望を語った。
09 Apr 2025
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第58回原産年次大会・セッション1「新規建設に向けて:資金調達と投資回収」では、新規原子力プロジェクトを推進するための資金調達・投資回収スキームに関する課題や方向性が議論された。モデレーターの樋野智也氏(有限責任監査法人トーマツ)は冒頭で、第7次エネルギー基本計画において原子力発電所の新規建設推進が明記されたことを受け、その実現のためには事業リスクを官民で明確に分担し、事業環境の予見性を高める必要性があると強調した。また、長期脱炭素電源オークション制度の課題として、建設期間中の想定外コスト(設計変更、部品調達問題)や廃炉費用の不確実性、資本コストの上昇リスク、市場収益の約9割をカウントするルールに伴うリスク、建設期限(17年)超過による追加コストなどを具体的に指摘した。ファイナンス面では、東日本大震災以降の電力会社の信用力低下やGX投資負担増大が、資金調達リスクを高めていることを説明し、債務保証や低利融資などの官民連携による資金調達多様化や、建設期間中の資金回収を可能とする仕組みの整備が必要と提言した。続いて、ハントン・アンドリュース・カースのジョージ・ボロバス氏は、米国の事例を中心に、原子力プロジェクトの資金調達方法を紹介。特にA.W.ボーグル原子力発電所の建設費が320億ドルに達した例を挙げ、プロジェクトマネジメント能力の重要性を強調。民間企業が電力購入契約(PPA)を活用し、政府が積極的な支援策を提供することが重要だとした。また、米国政府による政権を超えた原子力支援策や、小型モジュール炉(SMR)に対するGoogle社やAmazon社など大手IT企業からの投資が活発化している現状を紹介し、民間企業の参加がプロジェクトの成功に大きく寄与すると指摘した。英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省のマーク・ヘイスティ-オールドランド氏は、英国の原子力政策について説明。英国政府は2050年までに原子力発電容量を2,400万kWに拡大する目標を掲げ、「Great British Nuclear(GBN)」を通じてSMRプロジェクトを競争的に推進していることを示し、特に「規制資産ベース(RAB)」モデルを採用することで、建設期間中から投資回収を可能にする制度的メリットを強調した。また、核燃料サイクルの安全保障確立や、ロシア・中国依存を低減する取り組みが英国の原子力政策の重要な柱であると述べた。日本経済団体連合会の小野透氏は、産業界の視点から原子力の重要性を指摘。特に地域間の電気料金差(北海道と九州の差が月間10億円規模)が、企業の国内投資判断に大きく影響していると具体的な数字を示した。また、経団連が行ったアンケート結果(再稼働支持率9割、新増設支持率7割)を紹介し、第7次エネルギー基本計画により支持がさらに拡大する可能性を示唆した。さらに、原子力損害賠償における無限責任制度の見直しも提案した。みずほ銀行の田村多恵氏は、銀行や社債市場を通じた電力会社の資金調達の困難さを具体的に指摘し、金融機関が事業の安定性、政策変更リスク、地域との関係性、キャッシュフローの安定性を重視していることを説明した。また、継続的に原子力建設プロジェクトを実施することが、コストの上振れリスクの軽減につながると述べ、金融機関が安心して投資を行える環境整備の重要性を主張した。最後に経済産業省資源エネルギー庁の吉瀬周作氏は、国内の電力需要が今後も増加傾向にあり、脱炭素電源(原子力含む)の増強が不可欠だと具体的な数値を示して説明した。そして、2040年における原子力シェアを約2割に引き上げる方針を再確認し、海外の成功事例を参考に、日本の投資回収予見性を高める制度整備が必要だと強調した。後半のパネル討論では、こうした課題を踏まえた具体的な解決策や政策的対応が議論された。樋野氏はまず、米国における原子力プロジェクトの将来展望や、自由化市場における原子力発電の資金調達リスクについてボロバス氏に質問。ボロバス氏は、自由化市場で原子力プロジェクトを成功させるためには、長期的な収益予測可能性を高めることが重要であり、特にPPAがその解決策となると強調した。一方、英国のRABモデルの詳細についてオールドランド氏は、英国では運転終了後の廃炉費用をあらかじめ計画に組み込み、投資回収を安全かつ透明に行う仕組みを導入していると指摘。これが金融機関や投資家の懸念を和らげ、安定的な資金調達を可能にしていると述べた。日本の制度設計に関連し、原子力産業におけるサプライチェーン維持の重要性と国のリーダーシップの必要性について問われた小野氏は、明確な原子力政策の提示がサプライチェーンの維持・強化に不可欠であり、特に最終処分場の選定などバックエンド問題に関し、国の積極的な関与を求めた。田村氏は、金融機関が原子力事業に資金提供する際の最大の懸念材料について問われ、金融機関にとっては事業の安定性、政策変更リスク、キャッシュフローの安定性が特に重要な評価基準であり、政府による持続的な支援や公的信用補完が不可欠だと答えた。リスク分担や投資回収の予見性をどのように制度設計に反映させるか問われた吉瀬氏は、リスクを官民で明確に分担しつつ、モラルハザードを防ぎ、インセンティブを適切に設計する必要があると述べ、これらのバランスを慎重に検討していることを明らかにした。セッション1では質疑応答を通じ、海外の先進事例を参照しつつも、日本固有の事情を踏まえた制度設計が求められることが明確となった。また、原子力への国民理解促進に向けた情報発信の重要性についても意見が交わされ、「情報を取りに来る層への情報発信は充実しているが、情報を取りに来ない層に対する発信が課題」とし、産業界、政府、金融機関の連携が強調された。最後にモデレーターの樋野氏は、原子力発電が安定供給とエネルギー安全保障、脱炭素社会の実現に不可欠であることを再確認した上で、制度設計の遅れは産業界に大きな損失をもたらすため、迅速な対応が必要だと指摘した。また、米英の先進事例を日本の実状に適切に修正・適用しつつ、単発のプロジェクトに終わるのではなく、継続性をもった長期的な取り組みの重要性を強調した。さらに、国民理解を促進するためには丁寧なコミュニケーションが必要であり、産業界、政府、金融機関が一体となって、リスクを適切に分担しながら取り組みを進めていくことが求められると結論付けた。
08 Apr 2025
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「第58回原産年次大会」が4月8日、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開幕した。国内外より約740名が参集し(オンライン参加を含む)、9日までの2日間、「原子力利用のさらなる加速 -新規建設の実現に向けて-」を基調テーマに議論する。開会セッションの冒頭、挨拶に立った日本原子力産業協会の三村明夫会長はまず、前回年次大会以降の1年間を振り返り、「世界では原子力活用のモメンタムがますます拡大している」と、原子力利用に向けた世界的趨勢を強調。海外の動きとしては、ブリュッセルにおける史上初の「原子力に特化した首脳会議」(2024年3月)の開催や、COP28で発表された「原子力三倍化宣言」(2023年12月)の署名国が、2024年11月のCOP29で新たに6か国が加わり、計31か国に上ったことなどをあげた。さらに、世界有数の金融機関によるファイナンス支援表明、大手IT企業による同宣言を支持する動きにも言及。今回大会の議論に先鞭をつけた。国内の動きとして、三村会長はまず、国内初の使用済み燃料中間貯蔵施設となる「リサイクル燃料備蓄センター」の事業開始(2024年11月)をあげ、「原子力発電事業に柔軟性をもたらすものであり、大きな意義を持つもの」と、原子力利用におけるバックエンド対策の重要性を示唆。再稼働に関しては、東北電力の女川2号機(2024年11月)、中国電力の島根2号機(2024年12月)の発電再開により、「再稼働したプラントは合計14基となり、待望のBWR2基の再稼働が実現したことは、大きな前進」と強調した。エネルギー政策の関連では、2月18日の「第7次エネルギー基本計画」閣議決定をあげ、「これまでの『原子力依存度低減』に代わり、『原子力の最大限活用』が謳われたことは、私たち原子力産業界にとって極めて重要な前進」と、その意義を認識。また、今回のエネルギー基本計画での特筆事項として、「次世代革新炉の開発・設置に取り組むとして、新規建設の方針も示された。資金調達・投資回収の予見性を高める事業環境の整備や、サプライチェーンや人材の維持・強化を進めることも明記されている」ことについて、「産業界にとって大変意義深いこと」と強調した。その上で、今大会の開催について、「新規建設の早期実現に向けた実効性ある事業環境の整備を念頭に、国内外産業界の取り組みと課題解決の方向性について議論を進める」と宣言。「新たなエネルギー基本計画のもと、原子力を持続的に最大限活用していく鍵は『新規建設』だ」と、議論に先鞭をつけた。続く来賓挨拶では、あべ俊子文部科学大臣と竹内真二経済産業大臣政務官が登壇。それぞれ原子力分野における人づくり・教育、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえたエネルギー政策の推進について、各行政庁としての姿勢を述べた。竹内政務官は、「特に若者に対する情報発信は不可欠だ」と強調。先に原子力産業協会と共催したサプライチェーンシンポジウムへの来場も振り返り、「サプライチェーンの課題解決に向けた取組をさらに進めていく必要がある」として、あらためて参集した原子力産業界に対し理解を求めた。基調講演では、十倉雅和・日本経済団体連合会会長が「国民生活・経済成長を支えるエネルギー政策」と題し発表。同氏は、資本主義の弊害として「格差の拡大、固定化、再生産」、「生態系の崩壊」をあげたほか、地球の歴史から、過去10万年の気温変動を振り返り、わずか1万年の「完新世」で人類が繁栄を築きあげてきたことを説いた。同氏は、こうした科学的見地から、「地球が悲鳴を上げている。GXは最重要課題」との姿勢を示し、経団連としての提言発信など、諸活動について述べ、議論に先鞭をつけた。この後、「バトン・スピーチ」として、グレース・スタンケ氏(コンステレーション社燃料設計エンジニア・クリーンエネルギー推進担当)、アーチー・マノハラン氏(マイクロソフト社原子力技術部長)が発表を行った。
08 Apr 2025
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は4月4日、記者会見を行い、「世界の原子力発電開発の動向2025年版」の刊行を発表。世界で発電可能な原子力発電所の合計設備容量が、約4億1,600万kWと、過去最高を更新したことを明らかにした。同書は、原産協会が毎年発行している出版物だが、今回より、見せ方の工夫として、インフォグラフィックを採用し、情報・データをビジュアル化している。増井理事長は、このインフォグラフィックをもとに説明。現在、世界の原子力発電所は、32か国で436基・4億1,698万kWが運転中、17か国で75基が建設中だ。今回の調査結果として、「エネルギー安全保障と脱炭素化、電力需要増を背景に、原子力への期待が高まっている」と概括した。世界の原子力発電利用国の設備容量は、上位順に、米国、フランス、中国、日本、ロシアで、基数の観点では中国が世界第2位だ。また、総発電電力量に占める原子力の割合が高い国はフランスがトップで64.8%となっている。増井理事長は、2024年の動きとして、営業運転を開始したプラントの総発電設備容量が706万kW、閉鎖になったプラントは同306万kWで、差し引きすると400万kW程度増えていると説明。さらに、新たに原子力発電所を着工した国・基数について、中国、ロシア、エジプト、トルコをあげる一方、「過去5年間に着工した42基は、全て中国とロシア製のプラント。西側諸国と体制の異なる2か国が原子力の新規建設を席巻している状態」と、中国とロシアの躍進ぶりを示した。この他、SMR(小型モジュール炉)については、カナダのダーリントン・サイトにおけるGE日立ニュクリアエナジー(GEH)社製「BWRX-300」の開発状況にも言及。産油国であるUAEによる原子力開発について記者から質問があったのに対し、増井理事長は「昨今の脱炭素化に向けた動きも要因では」などと応えた。また、国際エネルギー機関(IEA)がまとめたデータセンター・AIなどに伴う世界の電力需要推移から、高予測と低予測のいずれについても将来的に「増加する」との見通しを示し、海外のIT企業が原子力に注目する背景を説いた。「世界の原子力発電開発の動向2025」は、4月25日に刊行予定。〈ご購入は こちら〉この他、増井理事長は、来る4月8、9日に開催される「第58回原産年次大会」について紹介。今回は「新規建設の実現に向けて」をテーマとし、新規建設に向けた資金調達・投資回収等を議論することになっている。*「世界の原子力発電開発の動向2025年版」のWebコンテンツは、 こちら よりご覧ください。
07 Apr 2025
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東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)は4月7日、韓国のアサンメディカルセンターから重粒子線治療装置を受注した。韓国国内の重粒子線治療装置は、すべて東芝ESSが供給することとなり、韓国市場でのシェア100%を達成した。今回受注した治療装置は、固定ポート式の治療室が1室と回転ガントリー式の治療室が2室で構成される。先進的な高速スキャニング照射技術と超伝導電磁石を採用した小型の回転ガントリーが備わっており、治療開始は2031年頃の予定だ。重粒子線治療は、炭素イオンを光速の約70%まで加速して「重粒子線」とし、がん細胞に対して高精度で照射する先進的な放射線治療法。重粒子線は体内で広がりにくく、がん細胞にピンポイントで集中させることが出来る。正常組織への影響を最小限に抑えつつ、効率的にがん細胞を破壊することが可能で、治療回数の削減にも寄与する。東芝ESSでは、量子科学技術研究開発機構(QST)とともに重粒子線治療装置を開発し、2016年にはQST放射線医学研究所(千葉市)の新治療棟に、世界で初めて超伝導電磁石を採用することで小型化・軽量化に成功した重粒子線回転ガントリーを納入した。東芝ESSはこれまでに韓国で、延世大学医療院(2018年受注) とソウル大学病院(2020年受注) に重粒子線治療装置を供給しており、今回のアサンメディカルセンターからの受注は3例目となる。アサンメディカルセンターは、アサン財団が1989年にソウルに設立。総床数2432床を有する韓国最大級の医療機関で、国内外から年間約2万人の患者を受け入れている。 東芝ESSは今後、重粒子線治療装置の普及を目指して、国内外での積極的な受注活動を展開し、質の高いがん治療の実現に貢献していくとしている。
07 Apr 2025
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日本原子力発電は3月31日、敦賀発電所2号機(PWR、116万kWe)の新規制基準に係る適合性審査の再申請に向けた追加調査計画について、調査内容に万全を期すため、さらに検討を継続することとし、「まとまり次第、地域、関係者に知らせる」と発表した。当初、2025年3月末を目途に取りまとめる予定となっていた。 同日、原電が発表した2025年度「経営の基本計画」においても、「既設発電所の最大限の活用」との項目の中で、敦賀2号機について「設置変更許可の再申請、稼働に向けた対応を進めていく」ことが明記されている。 同機の審査に関しては、2024年11月13日に、原子力規制委員会が「適合するものであるとは認められない」とする審査結果を決定。これを受け、同社では、審査の再申請に向け、必要な追加調査の内容について、社外の専門家の意見も踏まえながら具体化していくとしていた。 原電は2015年11月に敦賀2号機の新規制基準に係る適合性審査を規制委に申請。地震・津波関連の審査で、同機敷地内の「D-1破砕帯」(原子炉建屋直下を通る)の延長近くに存在する「K断層」について、「後期更新世(約12~13万年前)以降の活動が否定できない」、「2号機原子炉建屋直下を通過する破砕帯との連続性が否定できない」ことが確認され、結論に至った。審査期間は1年2か月の中断を挟み9年間に及んだ。 敦賀2号機は2011年5月以来、停止中。一部報道によると、追加調査の期間は2年以上を要するほか、再申請を行う時期も未定となっており、再稼働まで、今後の審査期間を考慮すると停止期間は十数年に及ぶこととなりそうだ。 原電では、審査途上の2013~14年、旧原子力安全・保安院より引き継がれた敦賀発電所における敷地内破砕帯調査に関し、リスクマネジメントや地質学の専門家からなる2つの国際チームによるピアレビューも実施し、同社の調査について「正当な科学的基盤」があることを主張してきた。同時期、地球物理学分野で権威のある「米国地球物理学連合」も、専門家チームによる論文掲載を通じ、科学的知見に基づき、規制側と事業者側が十分に議論する必要性を指摘している。
03 Apr 2025
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原子力規制委員会は3月26日の定例会合で、関西電力高浜発電所と東北電力女川原子力発電所の使用済み燃料乾式貯蔵施設の設置に関し、原子炉等規制法で規定する許可の基準に「適合が認められる」とする審査書案を了承した。今後、原子力委員会および経済産業相への意見照会とともに、パブリックコメントを経て、正式決定となる運び。 使用済み燃料の乾式貯蔵施設については、東日本大震災発生時、福島第一原子力発電所において、その頑健性が維持されていたことから、規制委員会でも原子力発電所への設置を推奨している。 関西電力では2024年2月、美浜発電所、高浜発電所、大飯発電所の各々構内における使用済み燃料乾式貯蔵施設の設置計画について、地元の福井県、美浜町、高浜町、おおい町に対し、安全協定に基づく事前了解願を提出。その中で、高浜発電所に関しては、同年3月15日、第1期工事分(2025~27年頃)について規制委員会に申請した。1~4号機共用で、輸送・貯蔵兼用キャスク最大22基(使用済み燃料約240トン分)を貯蔵するもの。これに続き、同年7月には、美浜発電所、大飯発電所についても、使用済み燃料乾式貯蔵施設の設置計画に係る申請を同委に対し行っている。 一方、東北電力では2024年2月、2号機における使用済み燃料乾式貯蔵施設設置に係る原子炉設置変更について規制委員会に申請。1棟目、2棟目に分かれており、それぞれ貯蔵容器は最大で8基、12基、工事着工は2026年5月、2030年8月、運用開始は2028年3月、2032年6月が見込まれている。 両発電所とも、型式証明を受けた特定兼用キャスクとして、初めてのケースとなることから、各委員とも、審査書案の正式決定に向けて、パブリックコメントを行うことで一致した。
02 Apr 2025
840
日本原子力文化財団はこのほど、2024年の10月に実施した「原子力に関する世論調査」の調査結果を発表した。18回目となるこの調査は、原子力に関する世論の動向や情報の受け手の意識を正確に把握することを目的として実施している。なお、同財団のウェブサイトでは、2010年度以降の報告書データを全て公開している。今回の調査で、「原子力発電を増やしていくべきだ」または「東日本大震災以前の原子力発電の状況を維持していくべきだ」と回答した割合は合わせて18.3%となった。一方、「しばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」との回答が39.8%となり、両者を合わせると原子力の利用に肯定的な意見は過半数(58.1%)を超えた。このことから、現状においては、原子力発電が利用すべき発電方法と認識されていることが確認できる。一方、「わからない」と回答した割合が過去最大の33.1%に達し、10年前から12.5ポイントも増加していることが明らかになった。「わからない」と回答した理由を問うたところ、「どの情報を信じてよいかわからない」が33.5%、「情報が多すぎるので決められない」が27.0%、「情報が足りないので決められない」が25.9%、「考えるのが難しい、面倒くさい、考えたくない」が20.9%となっている。この「わからない」と回答した割合はすべての年代で増加しているが、特に若年世代(24歳以下)の間で増加傾向が高かった。また、同調査は、「原子力やエネルギー、放射線に関する情報源」についても分析を行っている。その結果、若年世代(24歳以下)は、「小・中・高等学校の教員」(27.2%)を主な情報源として挙げており、また、SNSを通じて情報を得る割合が、他の年代と比較して高いことがわかった。原文財団では、若年世代には、学校での情報提供とともに、SNS・インターネット経由で情報を得るための情報体系の整備が重要だと分析している。また、テレビニュースは年代を問わず、日頃の情報源として定着しているが、高齢世代(65歳以上)においても、ここ数年でインターネット関連の回答が増加している。「原子力という言葉を聞いたときに、どのようなイメージを思い浮かべるか」との問いには、「必要」(26.8%)、「役に立つ」(24.8%)との回答が2018年度から安定的に推移している。「今後利用すべきエネルギー」については、2011年以降、再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱)が上位を占めているものの、原子力発電利用の意見は高水準だった2022年の割合を今も維持していることがわかった。再稼働については、「電力の安定供給」「地球温暖化対策」「日本経済への影響」「新規制基準への適合」などの観点から、肯定的な意見が優勢だった。しかし、再稼働推進への国民理解という観点では否定的な意見が多く、再稼働を進めるためには理解促進に向けた取り組みが必要であることが浮き彫りとなった。また、高レベル放射性廃棄物の処分についての認知は全体的に低く、「どの項目も聞いたことがない」と回答した割合が51.9%に上った。4年前と比較しても、多くの項目で認知が低下傾向にあり、原文財団では、国民全体でこの問題を考えていくためにも、同情報をいかに全国へ届けるかが重要だと分析している。
28 Mar 2025
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日本原子力研究開発機構と筑波大学は3月21日、液体が大量の液滴に分裂する現象を3次元で可視化する手法を開発したと発表した。原子炉の事故時に燃料デブリが形成される過程の理解を深め、福島第一原子力発電所の廃炉への貢献や原子炉の安全性向上につながるもの。〈原子力機構他発表資料は こちら〉今回の研究では、原子炉の過酷事故時、炉内の燃料が溶けて下部の冷却材プールに落下した際、大量の細かな液滴に分裂して広がるという現象に着目。溶融燃料や液滴が冷え固まると燃料デブリとなるのだが、特に、プールが浅い場合、溶融燃料がプール床に衝突しながら液滴に分裂するため、非常に複雑な状況で燃料デブリが形成される。つまり、燃料デブリ形成過程の解明は非常に困難となる。原子力機構と筑波大の研究グループは、溶融燃料が液滴へ分裂する現象を研究対象とし、実験や詳細数値シミュレーション手法の開発を推進。溶融燃料と冷却材を模擬した2つの液体を使用し、大量の微小液滴が発生する現象を実験室レベルで再現することに成功した。しかしながら、液滴の量や一つ一つの大きさを計測することまでは実現できていなかった。今回、研究グループでは、レーザー光の制御が可能な「ガルバノスキャナー」と呼ばれる反射鏡を用いた3次元可視化手法「3D-LIF法」を開発。溶融燃料を模擬した液体の3次元形状データを取得し、コンピューター処理することで、液滴一つ一つの大きさや広がる速さを高精度に計測することが可能となった。「3D-LIF法」をプールに適用し実験を行ったところ、液滴は目視では理解できないほど複雑な広がりを見せたが、他の手法も併用することで、異なる2つの液体の速度差や遠心力による「サーフィンパターン」と、重力による「液膜破断パターン」で発生することが明らかとなった。研究グループでは、「3D-LIF法」が微粒子の動き解明につながることから、内燃機関や製薬など、幅広い分野で適用されるよう期待している。
25 Mar 2025
772
経済同友会の新浪剛史代表幹事らは3月22日、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を訪問し、中央制御室、7号機オペレーティングフロア、防潮堤などの安全設備を視察した。〈東京電力発表資料は こちら〉視察後、新浪代表幹事は、「福島第一原子力発電所で発生した問題を、いかにすべて起こらないようにするかの対応がしっかり打たれている。想定される問題について、あらゆる対応がなされていることに、驚きとともに敬意を表したい」と強調。さらに、現場で働く人の意識に関して、「『ワンチームであろう』という努力も相当なものと感じた。そういった意味で、安全面で大変努力し、非常に高いレベルであると感じた」と述べた。経済同友会は2023年12月、「『活・原子力』-私たちの未来のために、原子力活用のあり方を提起する-」を公表。既存炉の再稼働にとどまらず、「中長期的なリプレース・新増設については、安全性の高い革新炉の導入を前提として、既成概念にとらわれずに、新たな規制の整備や立地の選定を行うことが望ましい」との考え方を示している。同会は東日本大震災後、「縮・原発」を提唱。「活・原発」では、2050年カーボンニュートラル実現やエネルギー安全保障の重要性などから、原子力を「活用していく」表現として、見直したものとなっている。新浪代表幹事は、2024年7月の記者会見で、柏崎刈羽原子力発電所により首都圏が受ける電力供給の恩恵に言及。経済団体として、「きちんと『ありがたい』と思う首都圏にしていかなくてはならない」と述べている。原子力規制委員会による審査をクリアした柏崎刈羽6・7号機の再稼働に関しては現在、地元判断が焦点となっている。
25 Mar 2025
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原子力サプライチェーンの維持・強化策について議論する「原子力サプライチェーンシンポジウム」(第3回)が3月10日、都内ホールで開催された。経済産業省資源エネルギー庁が主催し、日本原子力産業協会が共催した。武藤容治経産相の開会挨拶(ビデオメッセージ)、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官の基調講演などに続き、「サプライチェーン強化に向けた取組」と題しパネルセッション(ファシリテータ=近藤寛子氏〈マトリクスK代表〉)が行われた。パネルセッションの前半では、三菱重工業、東芝エネルギーシステムズが、革新型軽水炉として、それぞれ取り組む「SRZ-1200」、「iBR」の開発状況を紹介。サプライチェーンとしては、岡野バルブ製造が自社の取組について発表。同社は、高温高圧バルブを90年以上製造している実績を活かし、2023年より次世代革新炉向けのバルブ開発に取り組んでいるという。パネルセッションの後半では、三菱総合研究所と日本製鋼所M&E、日立GEと四国電力がペアとなって発表し議論。それぞれ、次世代炉建設に必要な人材維持に向けた「技能者育成講座」、原子力発電所におけるAI活用の取組について紹介した。これを受け、原産協会の増井秀企理事長は、ものづくりにおける人材確保の重要性をあらためて強調。原産協会が行う就活イベント「原子力産業セミナー」など、学生・次世代層への働きかけを通じ、「多様な人材確保につながれば」と期待した上で、「情報に触れて自分の頭で考える機会を与える」ことの意義も述べた。また、「サプライチェーンの課題を解決するためには、産官学の緊密な連携が必要」とも指摘。引き続き広報・情報発信に努めていく姿勢を示した。増井理事長は、プレゼンの中でリクルートワークス社による労働需給シミュレーションを紹介し、「2040年に1,100万人の働き手不足が生じる」と危惧し、将来的に「人口減・仕事増の矛盾解消策、総合的な対策が必要」と指摘。同シミュレーションによると、2040年の労働人口不足率は、地域別に、東京都はマイナス8.8%と供給過剰の見通しだが、原子力発電所の立地道府県では、新潟県が34.4%と全国的に最も厳しく、女性の就業率が高いとされる島根県では0.9%と、地域間のギャップが顕著となっている。同シンポジウムの初開催(2023年3月)に合わせ設立された「原子力サプライチェーンプラットフォーム」(NSCP)の会員企業は現在、約200社に上っている。パネルセッションの前半と後半の合間に、NSCP参画企業約20社によるポスターセッションが行われた。パネルセッションの締めくくりに際し、行政の立場から、文部科学省原子力課長の有林浩二氏がコメント。業種の枠を越え交流が図られたポスターセッションについては「いかに企業が若い人材を確保することが大変か」との見方を示した上、北海道大学で制作・公開が始まっている誰もが利用可能なオンライン型「オープン教材」の企業内教育における活用などを提案。また、資源エネルギー庁原子力政策課長の吉瀬周作氏は、国際展開の見通しにも言及し「若者に未来を示すことが出発点」、「しっかりと次世代にバトンをつないでいくことが必要」、「新たなチャレンジを」と所感を述べ、産官学のさらなる連携強化の必要性を示唆した。なお、電気業連合会の林欣吾会長は、3月14日の定例記者会見で、今回のシンポジウムに関し、先に決定されたエネルギー基本計画にも鑑み「サプライチェーンの維持には、事業予見性の向上はもとより、技術・人材を維持する観点から、国が具体的な開発・建設目標量を掲げることが重要だと考えている」とコメント。さらに、「将来にわたり持続的に原子力を活用していくには、いずれ新増設も必要になると考えている」とも述べている。
24 Mar 2025
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所教授)が3月24日、第7次エネルギー基本計画の閣議決定(2月18日)後、初めて開かれた。〈配布資料は こちら〉冒頭、資源エネルギー庁の久米孝・電力・ガス事業部長が挨拶。前回、2024年11月の小委員会以降の国内原子力発電をめぐる動きとして、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機の再稼働をあげた。これに続き、原子力政策課が最近の原子力に関する動向を説明。新たなエネルギー基本計画の概要についてもあらためて整理した。今回は、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(GX脱炭素電源法)に基づく原子力発電の運転期間(電気事業法)に関し議論。同法では、「運転期間は最長で60年に制限する」という従前の枠組みは維持した上で、事業者が予見し難い事由による停止期間に限り、運転期間のカウントから除外する、いわゆる「時計を止める」ことが規定されている。同規定は6月6日に施行となるが、認可要件に係る審査基準の考え方が、資源エネルギー庁より示され、「事業者自らの行為の結果として停止期間が生じたことが客観的に明らかな場合」については、カウント除外の対象には含めないとされた。事例として、柏崎刈羽原子力発電所での核燃料物質移動禁止命令、敦賀発電所2号機の審査における地質調査疑義に伴う停止期間をあげている。委員からは、杉本達治委員(福井県知事)が、立地地域の立場から、原子力政策の明確化を引き続き要望。六ヶ所再処理工場の竣工時期変更に鑑み、核燃料サイクル事業に関し国が責任を持って取り組むよう、具体的枠組みを早急に検討すべきとした。運転期間延長認可について、遠藤典子委員(早稲田大学研究院教授)は、「現在の最大60年という規定は科学的根拠が乏しい」と述べ、主要国における長期運転の動向も見据え、中長期的視点からの制度整備検討を要望。長期運転に関し、同小委員会の革新炉ワーキンググループ座長を務める斉藤拓巳委員(東京大学大学院工学系研究科教授)は、プラントの劣化管理におけるリスク情報の活用などを、小林容子委員(Win-Japan理事)は、規制の観点から、国内では原子炉圧力容器の中性子脆化を調査する監視試験片の数が十分でないことを指摘し、原子力規制委員会の国際アドバイザーの活用を提案。原子力技術に詳しい竹下健二委員長代理(東京科学大学名誉教授)は、学協会の活用、国際組織によるレビューに言及した。新たなエネルギー基本計画に関する意見では、次世代革新炉の開発・設置に取り組む方針が明記されたことに対する評価は概ね良好。一方で、長期的見通しの深掘りなど、不十分な部分を指摘する発言もあった。専門委員として出席した日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、サプライチェーン・技術継承・人材確保の重要性を強調したほか、次世代革新炉の開発に関する事業環境整備の必要性を指摘した。〈発言内容は こちら〉運転期間延長認可の要件に係る審査基準については、今後パブリックコメントに付せられ、成案決定となる運び。
24 Mar 2025
821
関西電力は3月14日、大飯発電所1・2号機から発生したクリアランス金属を加工し製作したリサイクルベンチを美浜町の公共施設、発電所のPR施設に設置したと発表した。同社の原子力発電所で発生したクリアランス金属の再利用製品が一般供用の施設に設置されるのは初めてのこと。〈関西電力発表資料は こちら〉大飯1・2号機は、いずれも1979年に運開した100万kW級のPWRだが、新規制基準への適合が困難なことなどから、2017年12月に廃炉が決定。現在、廃止措置が進められている。このほど、リサイクルベンチが設置されたのは、美浜町の公共施設「道の駅若狭美浜」と大飯発電所のPR施設「エルガイアおおい」だ。リサイクルベンチの素材はステンレス製で、寸法は幅約150cm、高さ約40cm、奥行き約45cmで、総重量約230kg中、約188kgのクリアランス金属が使用されている。ベンチの座面は木材で、クリアランス金属の使用箇所はベンチの部分となる。関西電力では、原子力発電所の運転・保守や解体に伴って発生する放射性廃棄物の低減に向けて取り組むとともに、クリアランス制度を活用し循環型社会の形成に貢献していくとしている。
19 Mar 2025
868
量子科学技術研究開発機構(QST)と日本電信電話(NTT)は3月17日、核融合エネルギーの実用化に向けて重要なプラズマ閉じ込めに適用するAI予測手法の確立を発表した。QSTとNTTは2020年に連携協力協定を締結。核融合エネルギー開発に関して、QSTは国際プロジェクトとなるITER計画を始め、それを補完する日欧協力「幅広いアプローチ」活動の一つとして、トカマク型実験装置「JT-60SA」(QST那珂研究所)の開発を進めてきた。NTTも総合資源エネルギー調査会に参画し、通信ネットワーク産業の立場から、革新的原子力技術の重要性を訴えてきた。核融合エネルギーの実用化に向けて、プラズマ閉じ込めが重要な技術課題の一つとなっている。今回の発表においても、両者は「計算量の大きな複雑な方程式を解く操作を段階的に行わなくてはならない」と、制御が困難なプラズマ閉じ込めに係る背景として、演算手法を確立することの重要性を強調。こうした背景から「混合専門家モデル」と呼ばれる複雑な状態を評価する新たな手法を開発した。同手法を「JT-60SA」に適用し、プラズマ閉じ込め磁場を評価した結果、従来手法では不可能だった「プラズマの不安定性を回避するために重要となるプラズマ内部の電流や圧力の分布まで、複数の制御量をリアルタイムに制御できる見通し」が得られたという。核融合エネルギーの実現に向けては、ITER計画に続き、発電実証を目指す原型炉開発の検討が文部科学省のワーキンググループで進められているほか、内閣府でも核融合の安全確保の考え方に関しパブリックコメントが行われた。ベンチャー企業を含む産業界の関心も高まりつつある。QSTは、NTTの通信ネットワーク構想「IOWN」を始めとし、先進技術を核融合研究開発に適用しながら、早期実用化に向け取り組んでいくとしている。
18 Mar 2025
894
日本原子力研究開発機構(JAEA)は3月13日、資源の有効利用や脱炭素化への貢献が期待される「ウラン蓄電池」を開発したことを明らかにした。〈JAEA発表資料は こちら〉軽水炉(通常の原子力発電所)の燃料となるウランは、核分裂を起こしやすいウラン235が約0.7%、核分裂を起こしにくいウラン238が約99.3%含まれており、燃料集合体に加工して原子炉に装荷する際、核分裂の連鎖反応を持続させるため、ウラン235の割合を3~5%まで濃縮する必要がある。今回の研究開発では、濃縮の工程で発生するウラン235含有率が天然ウランより低い「劣化ウラン」に着目。「劣化ウラン」は、軽水炉の燃料には使用できないため、「燃えないウラン」とも呼ばれる。今回、JAEAは、ウランの化学的特性を利用し資源化を図ることで、再生可能エネルギーの変動調整にも活用できる「ウラン蓄電池」を開発した。原子力化学の技術で資源・エネルギー利用における相乗効果の発揮を目指す考えだ。「劣化ウラン」保管量は日本国内で約16,000トン、世界全体では約160万トンにも上っており、JAEA原子力科学研究所「NXR開発センター」は、資源利用としての潜在的な可能性を展望し、研究開発に本格着手。電池はイオン化傾向の異なる物質が電子をやり取りする酸化還元反応を利用し、電気エネルギーを取り出すのが原理。その電子数(酸化数)が3価から6価までと、幅広く変化する化学的特性を持つウランについては、充電・放電を可能とする物質として有望視され、2000年代初頭「ウラン蓄電池」の概念が提唱されてはいたものの、性能を実証する報告例はなかった。同研究で開発した「ウラン蓄電池」では、負極にウランを、正極に鉄を、いずれも酸化数の変化によって充電・放電を可能とする「活物質」として採用。つまり、蓄電池の充電・放電には、ウランイオンと鉄イオン、それぞれの酸化数の変化を利用するのが特徴。今回、試作した「ウラン蓄電池」の起電力は1.3ボルトで、一般的なアルカリ乾電池1本(1.5ボルト)とそん色なく、実際に、充電後の蓄電池をLEDにつなぐと点灯を確認。電池の分極は電圧降下を来す化学現象だが、試作した蓄電池では、充電・放電を10回繰り返しても性能はほとんど変化しなかったほか、両極とも電解液中に析出物が見られず、安定して充電・放電を繰り返せる可能性が示された。原子力発電に必要なウラン燃料製造に伴い発生したこれまで利用できなかった物質が、別のエネルギー源の効率化につながる「副産物」として活かせる可能性が示されたこととなる。「NXR開発センター」は、「新たな価値を創造し社会に提供する」ことを標榜し、2024年4月に開設された新組織。同センターは3月13日、オリジナルサイトを開設し、研究成果の発信に努めている。
17 Mar 2025
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政府の原子力災害対策本部は3月7日、飯舘村・葛尾村に設定された帰還困難区域の一部を、3月31日午前9時に解除することを決定した。原子力災害に伴う避難指示の解除は、富岡町の一部地域における2023年11月以来のこと。帰還困難区域について、線量の低下状況も踏まえ避難指示を解除し居住を可能とする「特定復興再生拠点区域」が6町村に設定されていた。 「特定復興再生拠点区域」の避難指示解除が完了したのに続き、今回の飯舘村・葛尾村における解除は、原子力災害対策本部が2020年12月に決定した「特定復興再生拠点区域外の土地活用に向けた避難指示解除」に基づくもの。帰還・居住に向けた避難指示解除とは異なり、住民が日常生活を営むことが想定されない事業用の土地活用が主目的。飯舘村については堆肥製造施設用地および周辺農地(イイタテバイオテック社)、葛尾村については葛尾風力・阿武隈風力発電事業用地(葛尾風力社・福島復興風力社)の用地がそれぞれ対象。飯舘村の施設では、脱水汚泥や畜糞などを乾燥させ堆肥原料を製造。乾燥のための燃料として、重油に加え、資源作物とされるソルガムを栽培し活用する。葛尾風力発電所では村内に3,200kWの発電機を5基、阿武隈風力発電所では4自治体を跨いで同規模の発電機を46基設置。風力発電機は、良好な風を受ける阿武隈山地の稜線に設置し、観光拠点として展望エリアも整備する計画だ。
13 Mar 2025
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日本原子力研究開発機構はこのほど、福島第一原子力発電所の廃炉作業の加速化に資するアルファ線検出器を開発した〈原子力機構発表資料は こちら〉同機構福島廃炉安全工学研究所によるもの。福島第一原子力発電所の廃炉作業では、アルファ核種を含むダスト(アルファダスト)による内部被ばく評価が重要とされるが、従来の測定器では、全体の放射能量しか測れず迅速な評価が困難だった。同研究所の環境モニタリンググループは、ガラス研磨剤などに用いられるセリウムを用いた従来の約8倍の精度を有する「YAP Ce(セリウム)シンチレータ」を開発し、国内では困難なアルファダストの実試料を用いた性能確認試験を、米国エネルギー省(DOE)のサバンナリバ―国立研究所(SRNL)の協力で実施。現地でエネルギーレベルの異なる2種類のアルファ線核種として、プルトニウム238、ネプツニウム237を含む酸化物粒子のサンプルを用いた試験を実施した結果、いずれも現場でリアルタイムに識別測定できることが実証された。研究グループでは、新たな検出器が迅速にアルファ線をイメージングできることから、医療分野での応用にも期待を寄せている。
13 Mar 2025
748
経済産業省資源エネルギー庁と日本原子力産業協会は3月10日、国内原子力関連企業による海外展開や事業承継、人材育成支援など、原子力サプライチェーンの維持・強化策について議論する「原子力サプライチェーンシンポジウム」を都内ホールで開催した。会場・オンライン合わせて約600名の参加があった。 開会に際し、ビデオメッセージを寄せた武藤容治経産相は、先月閣議決定された第7次エネルギー基本計画に言及し、既設炉の再稼働と運転期間延長を最重要課題にあげたほか、将来の次世代革新炉の開発に向けて、「サプライチェーンと人材確保は必須の課題」と述べ、同シンポジウムの開催意義を強調した。 毎年3月に開催されている同シンポジウムは今回で3回目となる。2023年に経産省より「原子力サプライチェーンプラットフォーム」(NSCP)の設立発表に合わせ開催され、2024年の開催時には、来日中だったR.M.グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長も出席するなど、海外からも注目を集めている。NSCP設立以降、経産省では、国内サプライヤーからなる視察団の海外派遣、セミナー・意見交換会・座談会の開催、原子力関連企業約400社を対象としたヒアリングなど、原子力人材育成支援も含めた支援策を積極的に展開している。 「原子力産業の現在と未来」と題するセッションでは、総合資源エネルギー調査会革新炉WGの座長を務める斉藤拓巳氏(東京大学教授)、電気事業連合会副会長の佐々木敏春氏がそれぞれの立場から事業の予見性確保の重要性を強調した。 パネルセッションは、近藤寛子氏(マトリクスK代表)がファシリテーターを務め、大手メーカーの他、中小サプライチェーン企業からもパネリストが登壇し、次世代革新炉の開発・建設に向けた取組、供給途絶対策、国際連携、人材確保・育成について議論。同じく登壇した経産省と文科省の担当課長は、省庁が連携した取組の重要性を強調した。 今回もポスターセッションが行われ、革新炉開発に取り組む大手メーカーの他、プラントの健全性を支えるバルブ・配管等を製造する中小企業も参加。海外展開も見据えて、それぞれの強みをアピールしていた。
11 Mar 2025
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資源エネルギー庁はこのほど、中高生を対象として、「エネルギー政策~エネルギー安定供給と脱炭素社会の実現の両立~」とのテーマで、政策提案型パブリック・ディベート全国大会(実行委員会委員長=江間史明・山形大学大学院教育実践研究科教授)をオンラインで開催。3月1日に日本科学未来館(東京都江東区)において、優勝チームらの表彰式が行われた。〈エネ庁発表資料は こちら〉本大会は、ディベート形式を通じた直接討論を通じて、地域を越えた交流を図り、次世代層に対し日本のエネルギーの未来について考えさせるのがねらい。2回目となる今回、折しも第7次エネルギー基本計画の検討時期となったが、「エネルギーの未来をつくるのは君だ!」と標榜し、提案を募集。中学生16校37チーム、高校生24校47チームから応募があり、それぞれ16チームがリーグ戦討論に参加。高校生の部では岐阜県立岐阜高校、中学生の部では慶進中学校(山口県)が優勝した。ディベートでは、 (1)社会の課題を解決するための従来にない着眼点があるか (2)政策を支える大事な理念や価値観を示すとともに実現可能な実施方法が考えられているか (3)提案された政策の実行によりどの程度の効果が見込まれるか――との観点から審査。高校生の部で2連覇を果たした岐阜高校は今回、送電ロスの課題に着目。フレキシブルな着脱が可能なペロブスカイト型太陽電池、マイクロ水力発電の活用などにより、年間約9.35億kWhの送電ロスを軽減する試算を示した。中学生の部で準優勝を獲得した中央大学附属中学校(東京都)は、「CARBON 30+30」(カーボンサーティサーティ)と題する政策を提案。カーボンニュートラルの実現につき「2030年から30年かけて実行する」ことを目指し、2030年以降の原子力発電所の再稼働推進、火力発電の依存度低減、再生可能エネルギーの技術向上などを展望している。実行委員長の江間氏は、「実によくリサーチをして政策を提案してくれた」と高く評価。将来の革新炉開発に関しても、高温ガス炉を利用した政策提案などもあったことから、今大会を出発点に「中学生や高校生の皆様のエネルギー問題への関心がさらに広がっていくことを期待する」とのメッセージを送った。
06 Mar 2025
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内閣府(科学技術政策)は3月18日まで、核融合エネルギーの安全規制の検討に向け、その前提となる指針「フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方(素案)」についてパブリックコメントを募集している。政府の統合イノベーション戦略推進会議による「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」に基づき、2024年3月、内閣府の呼びかけにより核融合エネルギーの産業化を目指す「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会」(J-Fusion)が設立された。ITER(国際熱核融合実験炉)計画の進展を踏まえ、核融合による将来の発電実証が行われるよう、民間企業の積極的参画を見据えたものだ。これを受け、同年5月からは、「フュージョンエネルギーの実現に向けた安全確保の基本的な考え方検討タスクフォース」が立ち上がり、検討が進められてきた。今回、取りまとめられた基本的な考え方では、まず、核融合装置の法令上の位置付けを整理。燃料としてトリチウムを使用し放射線を発生することが想定されることから、「放射性同位元素等の規制に関する法律」(RI法)の規制対象となるとしている。実際、量子科学技術研究開発機構の「JT-60SA」、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置「LHD」などが、「プラズマ発生装置」として該当している。その上で、世界各国での多様な方式による核融合エネルギー実現に向けた取組の進展、今後数年間でパイロットプラントや原型炉の建設が行われる可能性を見据え、「予見性を高め、民間企業の参画やイノベーションを促進する観点から、安全確保の枠組みの整備が急速に求められる」と、問題意識を強調。今後検討すべき課題を、法的枠組み、安全確保の枠組みを検討する体制、知見の蓄積、セキュリティと不拡散に整理し、「規制当局と安全確保のあり方について対話するなど、早期の検討が不可欠」と述べている。2月26日の原子力規制委員会定例会合では、本件について取り上げられ、開発の現状や今後の見通しについて、事業者を招き公開の場でヒアリングを実施する方針が了承された。
05 Mar 2025
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は2月28日、記者会見を行い、同18日に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」に対する考え方について説明した。「第7次エネルギー基本計画」の閣議決定を受け、原産協会は2月21日に、 (1)原子力を最大限活用する (2)既設炉最大限活用する (3)次世代炉の開発・設置に取り組む (4)原子力発電の持続的な活用への環境整備――につき、方針が示されたとして、「高く評価する」との理事長メッセージを発表している。今回のエネルギー基本計画決定に際し、記者より「まず何から始めるのか」と問われたのに対し、増井理事長は、産業界として、原子力人材やサプライチェーン維持・強化を見据えた新規建設プロジェクトの必要性に言及。今回エネルギー基本計画を裏付ける電力需給見通しを踏まえ、「2040年までは猶予はあまりない」と述べ、政府による支援についても、早急な支援が図られる必要性を示唆した。また、原子力発電の再稼働をめぐって、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機がBWRとして新たに加わり計14基となった。折しも前日、柏崎刈羽原子力発電所のテロ対策に備えた「特定重大事故等対処施設」の整備延期が発表されたことに関し、増井理事長は、審査期間、地理的要件、設計の問題、工事の量・人手の4点を指摘。原産協会が毎年公表する「産業動向調査」にも触れながら、2040年の電力需給見通しに向け「地元合意を経て再稼働すれば十分達成できる」との見方を示した。
04 Mar 2025
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東京電力は2月27日、柏崎刈羽原子力発電所6・7号機のテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)について、それぞれの工事完了時期を、2026年9月から2031年9月に、2025年3月から2029年9月へと変更する工事工程の見直しを発表した。柏崎刈羽原子力発電所の稲垣武之所長は同日の記者会見で、既に燃料装荷が終了した7号機の特重施設に関し、「これまでに実施したことのない工事であり、かつ非常に大規模な工事であるため、工期について見通すことが難しい状況」と説明。工事物量や人手不足の課題にも言及した上で、「引き続き安全最優先で一つ一つ着実に進めていく」と述べた。新規制基準で要求される特重施設は、「意図的な航空機衝突等による大規模な損壊」で広範囲に設備が使えない事態を想定した原子炉格納容器の破損を防止するバックアップ施設。本体施設の設備工事計画認可(設工認)から5年間の整備猶予期間が設けられており、6・7号機それぞれ2025年10月、2029年9月が設置期限となっている。特重施設の整備に係る詳細は、セキュリティ上、明らかにされていない。7号機は既に燃料装荷が完了している。稲垣所長は、同機に関し「新規制基準を踏まえた重大事故等対処施設を整え、規制庁の審査に合格していることから、技術的には稼働できる状態」と説明。今後の試運転における機能検査など、安全対策に万全を期すことの重要性を述べた上で、「日本の電力需給は年間を通じて予断を許さない状況が続いており、原子力の稼働が進んでいない東日本エリアは特に夏場の需要期に一層厳しくなる」と、電力安定供給を担う使命を強調。再稼働に関して「地域の皆様の理解があってのことと考えており、引き続き地域の皆様から理解をいただけるよう説明を尽くしていく」と述べた。現在、立地地域の新潟県では、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に向けた知事の判断が焦点となっている。県の技術委員会は福島第一原子力発電所事故の防災対策に係る検証も踏まえ、確認した22項目のうちの大半について「特に問題となる点はない」とする報告書を知事に提出。3月中には県議会による関係行政機関からのヒアリングが見込まれている。
28 Feb 2025
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