ルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカ(SNN)は12月19日、同社が運転するチェルナボーダ原子力発電所の1号機(CANDU、70.6万kWe)の30年間の運転期間延長に向けた改修工事に係る、エンジニアリング、建設、調達(EPC)契約を、カナダ、イタリア、韓国企業のコンソーシアムと締結した。契約額は19億ユーロ(約3,109億円)。SNNと、カナダのアトキンス・リアリス社、イタリアのアンサルド・ヌクレアーレ社、カナダ商業公団(CCC)、韓国水力・原子力(KHNP)の4社からなるコンソーシアムとの契約。EPC契約の主な内容は、具体的な設計・施工内容の策定、設備・資材の調達、改修工事の実施、および改修工事に必要なインフラの構築である。CANDU炉の技術管理者であるアトキンス・リアリス社が原子炉システムを担当し、アンサルド・ヌクレアーレ社がタービン発電機システムの設計と機器調達、KHNPは主要設備の交換や放射性廃棄物貯蔵施設などの主要インフラ施設の建設を担当する。1号機の運転期間は30年間延長した2061年までを想定。1号機の運転停止は2027年に予定されており、改修プロジェクトの完了は2030年の見込み。ルーマニアで唯一稼働するチェルナボーダ原子力発電所では、1996年と2007年にそれぞれ1、2号機(カナダ製CANDU-6炉、各70万kWe級)が運転を開始した。ルーマニアの総発電電力量に占める原子力シェアは約20%(2023年実績)。同発電所の3、4号機(CAUDU-6、各70万kWe級)は1984年~1985年にかけて着工したが、1989年のチャウシェスク政権崩壊によって建設工事は中断し、現在は保全状態におかれている。SNNは同3、4号機建設の再開に向けて、今年11月に米・加・伊の企業から構成される合弁事業会社とエンジニアリング・調達・建設・管理(EPCM)に係る契約を締結している。ルーマニアはCANDU炉のほか、同国南部ドゥンボビツア県のドイチェシュテイ(Doicesti)で13年前に閉鎖された旧・石炭火力発電所サイトに、米ニュースケール・パワー社製SMRである出力7.7万kWeの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた「VOYGR-6」(合計出力46.2万kWe)の建設を計画している。プロジェクトは、SNNと民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社のとの合弁企業であるロパワー・ニュークリア社を中心に進められており、米フルアー社、韓サムスンC&T社、米サージェント&ランディ社も参画している。
25 Dec 2024
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米国で先進炉開発を進めているオクロ社は12月18日、データセンター・キャンパスの設計、建設、運営会社であるスイッチ(Switch)社へ2044年まで電力を供給するため、計1,200万kWの先進炉を導入することで合意した。本合意は、AI(人工知能)により増大する電力需要をクリーンで持続可能な電力で満たす協力体制の枠組みを確立するもの。プロジェクトの進捗に応じて、個別に拘束力のある電力購入契約(PPA)を締結し、米国全土のスイッチ社のデータセンターにオクロ社の開発するマイクロ炉「オーロラ」発電所を建設・運転し、電力を供給する。オクロ社のJ. デウィット共同創設者兼CEOは、「今後20年間に、先進炉の導入規模の拡大に向けた財務およびインフラモデルを開発し、開発から展開、規模拡張まで、スイッチ社とともに取り組んでいく。スイッチ社との提携により、初期のオーロラ発電所の開発が加速されるだけでなく、今後数十年にわたる顧客需要が加速的に拡大していく」と指摘した。オクロ社は、生成AIを用いたテキスト生成サービスである「Chat GPT」を開発した、米オープンAI社のS. アルトマンCEOが会長を務め、取締役には米国のトランプ次期大統領にエネルギー省(DOE)長官に指名されたC. ライト氏が名を連ねる。オクロ社はオーロラ発電所による発電電力の供給取引について、既にエクイニクス社の他、米国内の複数のデータセンター関連企業と基本合意書(LOI)を締結している。オーロラはHALEU燃料を使用する液体金属高速炉のマイクロ炉で、出力は顧客のニーズに合わせて1.5万~5万kWeの範囲で調整が可能。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。米エネルギー省(DOE)は2019年12月、先進的原子力技術の商業化を支援するイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」の一環として、アイダホ国立研究所(INL)敷地内でオーロラ発電所の建設を許可。これを受けてオクロ社は翌2020年3月、原子力規制委員会(NRC)にオーロラ初号機の建設・運転一括認可(COL)を申請したが、NRCは、審査の主要トピックスに関する情報がオクロ社から十分に得られないとして、2022年1月に同社の申請を却下した。オクロ社は2025年にもCOLの再申請をする準備を進めている。
25 Dec 2024
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米国の原子力開発ベンチャー企業であるテラパワー社は12月18日、同社が開発する先進炉「Natrium」の主要機器の製造契約を締結したと発表した。製造されるコンポーネントと契約先は以下のとおり。原子炉ヘッド:スペイン・Equipos Nucleares(ENSA)炉心バレル、原子炉容器ガードベッセル、炉内構造物:韓国・斗山エナビリティ(旧斗山重工業)原子炉容器:韓国・HD現代重工業回転プラグ:カナダ・Marmenテラパワー社のC. レベスクCEOは、「Natriumはゲームチェンジャーな先進炉。初号機の建設に向けた適切なベンダーチームの結成により、この先進炉を商業化し、世界的なエネルギー需要の高まりに応えていきたい」と抱負を語った。Natriumは34.5万kWeのナトリウム冷却小型高速炉。熔融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを備え、負荷追従運転が可能。ピーク時には電気出力を50万kWまで上昇させ5.5時間以上稼働する。初号機は、電気事業者パシフィコープ社がワイオミング州南西部のケンメラーに所有する閉鎖予定の石炭火力発電所の近くに建設される。テラパワー社は、Natriumがクリーンエネルギーを生産するだけでなく、閉鎖する石炭火力発電所に代わり、エネルギー生産地域の経済を支え、建設やその後の運転期間における雇用を促進すると見込んでいる。同社は今年3月、米原子力規制委員会(NRC)に建設許可を申請、6月には起工式を挙行し、非原子力部の建設工事を開始した。Natriumは2020年10月、米エネルギー省(DOE)が支援する先進的原子炉実証プログラム(ARDP)の「5~7年以内に実証可能な炉」に選定されたプロジェクトの1つである(もう1つは、X–エナジー社の高温ガス炉「Xe-100」)。テラパワー社はARDPを通じて、Natriumの設計、建設、運転特性を検証する。原子力部の着工は早くて2026年、運転開始は2030年を予定している。なお、テラパワー社は、マイクロソフト社創業者のビル・ゲイツ氏が設立、会長を務めるベンチャー企業。
24 Dec 2024
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フランス電力(EDF)のフラマンビル3号機(欧州加圧水型炉=EPR、165万kWe)が12月21日、送電網に接続し、送電を開始した。同機は、今年9月3日に初臨界を達成。その後、一連の試験と検査を実施しながら、原子炉の出力を徐々に上げ、25%出力に達した時点で、送電網に接続された。EDFのL. レモント会長兼CEOは、「フラマンビル3号機の送電開始は、原子力業界全体にとって歴史的な瞬間である。このプロジェクトで直面した課題に粘り強く取り組み、安全性に妥協することなく取組んできたすべてのチームに敬意を表したい」と述べた。同機は2007年12月に着工。フランス国内で初のEPR建設だったこともあり、土木エンジニアリング作業の見直しのほか、福島第一原子力発電所事故にともなう包括的安全評価の実施、原子炉容器の鋼材組成の異常(炭素偏析)、2次系配管溶接部の品質上の欠陥等により、完成が当初予定の2012年から大幅に遅れた。建設コストも当初予定の4倍になるなど大幅超過した。同機は今後数か月間にわたり、100%の出力に達するまで、仏原子力安全規制当局(ASN)の監督の下、試験および送電網への接続・切断を繰り返す。EPRはフランス国外ではすでに営業運転を開始している。中国の台山発電所では1、2号機がそれぞれ2018年12月、2019年9月に運転を開始。続いて欧州では、フィンランドのオルキルオト発電所3号機が2023年5月に運転を開始した。英国ではヒンクリー・ポイントC発電所の1、2号機が建設中だ。2022年2月には、フランスのE. マクロン大統領が、同国のCO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するという目標の達成に向け、フランス国内で改良型の欧州加圧水型炉(EPR2)を新たに6基建設、さらに8基の建設に向けて調査を開始すると発表している。
23 Dec 2024
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米国貿易開発庁(USTDA)は12月13日、ブルガリアの2件の原子力プロジェクトに対する助成支援について、ブルガリアの関係機関との合意書に調印した。1件目は、ブルガリアの原子力発電所から発生する使用済み燃料の地下処分に向けた、米ディープ・アイソレーション社との実行可能性調査(FS)の実施。2件目は、小型モジュール炉(SMR)の導入に係る、ブルガリア国営のブルガリア・エナジー会社(BEH)への技術支援を対象にしている。USTDAは、インフラプロジェクトに対する技術支援やFS、実証実験の支援等を活用し、新興国等の経済開発と米国製品・サービスの輸出の促進を通じて米国外交政策の推進を支援する米国の政府機関。ディープ・アイソレーション社は、USTDAの助成支援を得て、既存および将来の原子力発電所からの発生する使用済み燃料を地下1 km以上の深地層に処分するためのFSの実施に協力する。USTDAのE. エボン長官とブルガリアの国家放射性廃棄物取扱企業(DPRAO)のS. ツォチェフ理事長が合意書に調印した。エボン長官は、「米国の最先端技術を利用して、使用済み燃料の安全な長期処分オプションを作ることで、さらなる発電所建設への扉を開くことにもなる」と述べた。ツォチェフ理事長は、「ディープ・アイソレーション社との提携は、最先端技術を活用し、放射性廃棄物の安全な管理のために革新的で持続可能なアプローチを探求するという我々の長期的なビジョンの一歩となる」と今回の支援合意を評価した。もう一方の技術支援では、ブルガリアが計画する1基以上のSMRの原子力発電所の導入に対し、米国製のSMRの詳細な技術的分析をBEHに提供する。これに加え、BEHが計画しているSMR発電所の建設候補地の調査や、資金調達方法など実施までのロードマップの策定も行うという。BEHは米ウェスチンングハウス社のAP1000×2基の新規建設が計画されているコズロドイ原子力発電所も含め、ブルガリアの主要な発電所を所有している。ブルガリアのV. マリーノフ・エネルギー相は、「今回の助成支援の合意は、国民の繁栄とブルガリア経済の競争力を確保するために、予測可能で安価なエネルギーを供給するという我が国の政策を成功へ導き、最先端技術の導入を可能にするもの」と、USTDAとの合意の意義を強調した。USTDAはこれら支援を、2024年2月に締結されブルガリアの民間原子力発電プログラム開発における協力関係を定めた「米-ブルガリア政府間協定」を推進させるものと位置付けている。
23 Dec 2024
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ポーランド産業省のW. ヴロースナ次官兼戦略エネルギー・インフラ担当全権代表は12月11日、ワルシャワで記者会見を行い、ポーランドの第1原子力発電所の運転開始について、当初の予定より3年遅れ、初号機が2036年の営業運転開始を想定していることを明らかにした。同会見には、同省のP. ガイダ原子力局長も同席。2023年12月の政権交代を機に、これまで気候・環境省の所掌にあった原子力政策・開発分野が産業省に移管された。会見でヴロースナ次官は、2020年に閣議決定された原子力発電プログラム(PPEJ)の更新作業が最終段階にあり、更新版では、ポーランド初の原子力発電所の初号機の運転開始は2036年、2号機、3号機の運転開始はそれぞれ2037年、2038年を想定していると述べた。また、第2原子力発電所の建設計画は継続しており、競争入札によってパートナーを選定すると強調した。また、数週間以内に、欧州委員会(EC)による第1原子力発電所への国家補助の承認手続きが開始されるだろうと指摘。ポーランドは今年9月、ECに対し、第1原子力発電所の建設プロジェクトにおいて、建設および運転の実施主体となる国有特別目的会社(SPV)のPEJを支援する計画を通知していた。これに対してECは12月18日、ポーランドの計画がEUの国家補助規制に沿っているかどうかを評価するための詳細な調査の開始を明らかにした。EUでは、加盟国による特定の企業に対する国家補助は域内競争を不当に歪める可能性があるとして原則禁止されており、一定の条件を満たす場合にのみ、ECによる承認を受けた上で例外的に認められている。ガイダ原子力局長は、第2原子力発電所の計画について、現在、旧石炭火力発電所の4サイトを建設候補地として検討していることを明らかにした。システム要件に合致し、閉鎖後の投資も呼び込みやすいため、だという。同原子力局長はまた、今年11月に産業省の委託により実施された原子力に対する国民の世論調査の結果について、回答者の92.5%がポーランドでの原子力発電所の建設を支持し、回答者の79.6%が原子力発電所が自分の居住地の近くに建設されることに同意していると言及。これは、2012年より毎年実施されている世論調査の中でも最高の数値を記録したという。現行のPPEJでは、総発電設備容量600万~900万kWeの、2サイトでの原子力発電所の建設を想定している。前政権は、第1原子力発電所のパートナーとして米国のウェスチングハウス(WE)社とベクテル社によるコンソーシアムを入札を経ずに指名した。第1原子力発電所(WE社製AP1000×3基、合計出力375万kWe)は、同国北部ポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ–コパリノ地区に建設が計画されている。第1原子力発電所の建設プロジェクトの総投資額は約450億ユーロ(1,920億ズロチ、約7.3兆円)と見積もられている。ポーランド政府はプロジェクト費用の30%をカバーする約140億ユーロ(600億ズロチ、約2.3兆円)をPEJに出資。この他、投資プロジェクトの資金調達のためにPEJが負った債務の100%をカバーする国家保証や、60年間の発電所の運転期間にわたり収益の安定性を確保する差金決済契約(CfD)により、プロジェクトを支援するとしている。PEJによると今年12月に入ってから、第1原子力発電所のプロジェクト支援に向けて、カナダ輸出開発公社から最大14.5億米ドル(約60億ズロチ、約2,294億円)の融資可能性の意向書を受け取り、フランスの輸出信用機関のBpifranceや公共開発銀行であるSfilからも37.5億米ドル(約150億ズロチ、約5,736億円)もの融資への関心が示されたという。今年11月には、40億ズロチ(約1,530億円)規模の融資支援を検討する米国国際開発金融公社(DFC)と基本合意書(LOI)に調印。米輸出入銀行(US EXIM)も約700億ズロチ(約2.7兆円)相当の融資支援を実施することになっており、これまでにPEJが海外の融資機関から資金拠出の意向表明を受けた総額はおよそ950億ズロチ(約3.6兆円)になる。PEJは、機器供給国を中心とする、輸出ファシリテーターである各国の輸出信用機関と緊密な協力関係を築き、資金調達の構造における輸出信用機関のシェアを最大限に高めたい考えだ。
20 Dec 2024
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米ウェスチングハウス(WE)社とBWXTカナダ社は12月12日、カナダ国内外における原子力発電の新規建設プロジェクトを支援する覚書(MOU)を締結したことを明らかにした。WE社は、新規建設プロジェクト遂行のため、カナダにおけるサプライチェーンの構築を進めている。今回のMOUは、BWXTカナダ社による、WE社製AP1000と小型モジュール炉(SMR)であるAP300の原子炉容器、蒸気発生器、熱交換器などの主要コンポーネントの製造を想定している。加オンタリオ州ケンブリッジに拠点を置くBWXTカナダ社は、PWR向け蒸気発生器、核燃料および燃料関連機器、重要プラント機器・部品など、原子力発電設備の設計、製造、試運転、関連サービスにおいて60年以上の経験とノウハウを有している。本社は米国にあるBWXテクノロジーズ社で、米国、カナダ、英国に事業所を置く。WE社は、カナダには西側諸国で最強の一つとされる原子力サプライチェーンがあり、米国のサプライチェーンと組合わせることで、新規建設を迅速に行う強力なプラットフォームになると考えている。WE社はカナダのオンタリオ州において、AP1000を4基建設するプロジェクトを計画しており、早ければ2035年までに完成するとしている。経済効果は建設段階で287億加ドル(約3.1兆円)、運転中に年間81億加ドル(約8,717億円)のGDP増となると試算している。なお、カナダ国外での建設ではカナダのサプライチェーンを通じて、1基あたり約10億加ドル(約1,076億円)のGDP増を見込んでいる。また、カナダ国内に12,000人の高賃金のフルタイム雇用が創出されるという。
19 Dec 2024
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米ワシントン州の電気事業者であるエナジー・ノースウェスト社は12月12日、同社の小型モジュール(SMR)導入プロジェクトの実施に向けて、加のアトキンス・リアリス(AtkinsRéalis)社をオーナーズ・エンジニアに選定したことを明らかにした。エナジー・ノースウェスト社は、太平洋岸北西部で唯一稼働する原子力発電施設のコロンビア発電所(BWR、121.1万kWe)を所有・運転するほか、水力発電、風力発電、太陽光発電、蓄電池の事業を行っている。同社は今年10月、大手IT企業のAmazon社ならびに先進炉開発企業のX-エナジー社と、X-エナジー社製SMR「Xe-100」(ぺブルベッド型高温ガス炉、8万kWe)を4基(最大12基)建設するプロジェクトへの出資契約を締結した。エナジー・ノースウェスト社はAmazon社と複数年にわたる実行可能性調査の実施で合意したばかりであり、調査では環境、安全、許認可、リスク面に焦点を当てつつ総合的な分析を行う。プロジェクトが承認されれば、建設許可申請を行う計画だ。アトキンス・リアリス社(旧SNC-ラバリン=SNC-Lavalin)はCANDU 炉の技術管理者であり、原子力産業において70年以上の経験を有するエンジニアリングサービス企業。今回のオーナーズ・エンジニアリング契約に基づき、SMRプロジェクトの設計、許認可手続き、建設、試運転を支援する。作業は、ワシントン州リッチランドに最近開設されたおよそ3,000㎡のアトキンス社の最先端のエンジニアリング・技術センターで実施される。エナジー・ノースウェスト社は、アトキンス・リアリス社との協業により、AI(人工知能)革命をサポートするSMRの開発支援だけでなく、雇用創出、経済成長、クリーンで安定した電力供給によって、地域に長期的な利益をもたらしたいとしている。
19 Dec 2024
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米エネルギー省(DOE)の原子力エネルギー(NE)局は12月10日、「米国への投資(Investing in America)」アジェンダの一環として、米国における新たなウラン生産能力の拡大にインセンティブを与えるため、低濃縮ウラン (LEU) の調達契約を締結する6社を選定した。燃料分野において、ロシアの影響を受けない強靭なサプライチェーンを構築しつつ、全米の消費者が安価で信頼できる電力と高賃金のクリーンエネルギー関連の雇用を保証する、米政権の肝入りの施策である。DOE原子力局のM. ゴフ首席次官補代理は、「今回の調達契約は、米国におけるウラン濃縮能力の安全かつ責任ある構築を促進するもの。米国のエネルギー安全保障を強靭にするため、米国内における濃縮ウランの生産能力を向上させなければならない」として、今回の契約締結の意義を強調した。DOEが調達契約を締結したのは以下の6社。LEU供給で競争原理を生み出し、強力な投資の促進をねらう。American Centrifuge Operating, LLC(セントラス・エナジー傘下)General Matter, IncGlobal Laser Enrichment, LLCルイジアナ・エナジー・サービシーズ社(ウレンコ傘下)Laser Isotope Separation Technologies, IncOrano Federal Services, LLCDOEはLEUの新たな国内生産能力を掘り起こし、米国の既存の原子力発電所のほか、将来の先進炉の国内外での展開に必要な燃料供給を確保したい考えだ。DOEはこれらの契約を通じ、濃縮施設の新設、または既存の濃縮施設の拡張により生産されるLEUを購入する。契約は最長10年間、基本報酬として各社に最低200万ドル(約3.0億円)を支払う。DOEは今年6月、米国内産のLEU購入に関する提案依頼書(RFP)を発行。「米国への投資」アジェンダから27億ドル(約4,148億円)を支援することとしている。米国において、原子力は総発電電力量のほぼ2割を供給しており、急速に増加する電力需要を満たし、CO2削減が困難な産業プロセスと運輸部門の脱炭素化に貢献する最大のクリーンエネルギー源。米国のクリーンエネルギーへの移行において重要な役割を果たすと考えられている。米国は2023年にアラブ首長国連邦(UAE)で開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)において、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍にするという公約を共同で主導した。この公約の達成には、米国は追加の原子力発電容量を配備する必要があるが、これには大型炉のほか、小型モジュール炉(SMR)、マイクロ炉など、あらゆる規模の新しい原子炉が含まれる。さらに既設炉の運転期間延長、出力向上や、閉鎖炉の運転再開を想定。これら設備容量拡大には、安定した燃料供給源が必要となる。ロシアは現在、世界のウラン濃縮能力の約44%シェアを保有。米国が輸入する燃料の約35%をロシア産が占める。J. バイデン大統領は今年5月、ロシアからのLEU輸入禁止法案に署名し、8月に発効した。一方で、米国の既存の原子力発電所が運転を中断することのないようDOEは、DOE長官が国務長官および商務長官と協議の上、特定の状況下で特定量のロシア産LEUに免除を与えるプロセスを発表。この規定に基づく免除は、2028年1月1日までに終了する。ロシアは11月、対抗措置として、ロシア産濃縮ウランの米国への一時的な輸出制限を決議した。脱炭素化やロシア産原子燃料への依存の回避、エネルギーセキュリティの強化を要因とする、世界的な原子力発電への評価の高まりを受け、世界的に濃縮役務の需要が増加している。英国に本拠地を置く、グローバルな濃縮事業者であるウレンコ社は、米国における濃縮ウランの需要増に応えるため、同社(ウレンコUSA)がニューメキシコ州ユーニスで操業する、米国で唯一の商業用濃縮プラントを拡張し、生産能力の拡大を目指している。同プラントは現在、米国の電力会社の濃縮ウラン需要の約1/3をカバーしている。なお、米原子力規制委員会(NRC)は12月11日、ウレンコUSAに対し、ウラン濃縮レベルを最大10%に引き上げるライセンス修正を承認した。NRCの承認により、既存の原子力発電所の燃料交換期間の短縮や、一部の先進炉への燃料供給が可能となる。
18 Dec 2024
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米国のエンジニアリング企業であるアメンタム社(Amentum)とノルウェーのコンサルティング企業であるマルチコンサルト・ノルゲ社(Multiconsult Norge AS)は12月11日、ハルデン・シャーナクラフト社(Halden Kjernekraft AS)から、小型モジュール炉(SMR)建設の実行可能性調査を受注した。建設候補サイトは、かつて研究炉が運転していたノルウェー南部ハルデン市。具体的には、SMRを建設する際のノルウェー国内外の機器・サービスに関するサプライヤーの候補企業を調査するほか、採用炉型、環境影響なども評価する予定。ハルデン社は、ハルデン市とノルウェーの新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社、およびエストフォル・エネルギー(Østfold Energi)社の3者が、同市でのSMR建設の実現可能性を探るため、昨年11月に共同で設立した企業。アメンタム社のA.ホワイト上席副社長は「マルチコンサルト社と協力し、SMRとサプライチェーンに関する豊富な知識を活用して、客観的で事実に基づいた評価を提供し、原子力が将来のエネルギー問題の解決に貢献できるか、ハルデン市が十分な情報に基づいた決定を下せるよう支援したい」と意気込みを示した。ハルデン社を設立した3者によると、ノルウェーでは、オスロ特別市やハルデン市など18の自治体を含むエストフォル県で既に160億kWhの電力不足が発生しており、電力の需給ギャップが問題となっている。ノルウェー国内では、ハルデン市のみならず、さまざまな自治体でSMRの導入検討や建設可能性の調査が行われている。なお、ハルデン市では、エネルギー技術研究所(IFE)のハルデン研究炉(BWR、2.5万kWt)が1950年代から運転されていたが、2018年6月に閉鎖されている。
18 Dec 2024
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英国の原子力規制庁(ONR)、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)は12月12日、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)が、包括的設計審査(GDA)のステップ2に進んだことを明らかにした。GDAとは英国で初めて建設される炉型に対して行われる設計認証審査で、原子力規制庁(ONR)が設計の安全性とセキュリティの観点から、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)が環境影響の観点から、英国の基準を満たしているかを、規制プロセスの早い段階から、立地サイト特定後の建設申請とは別に評価する。ステップ1において各機関は、GDAのステップ2(実質的な技術評価段階)を開始するために必要な取決め、プロセス、提出書類を確認し、BWRX-300の技術評価の範囲とスケジュールで合意に達した。ステップ2では、BWRX-300の基本的な設計の妥当性を評価し、英国で安全、安心かつ環境を保護しながら建設、運転、廃止措置が可能かどうかを確認する。ステップ2は、2025年12月に完了する予定だ。ONRのR. エクセレイ・BWRX-300担当の規制責任者は、「ONRは、米原子力規制委員会(NRC)と加原子力安全委員会(CNSC)双方との協力関係の構築に努めており、国ごとの設計変更を最小限に抑えて標準的な原子炉設計を維持するというGEH社の姿勢を全面的に支持する」「英国の規制当局は基本的に同じ設計を並行して審査する。GEH社が可能な限り共通の設計を維持できるよう、より効率的な規制の共有に尽力していく」とコメントした。今回のGDAの実施にあたり、GEH社はBWRX-300に関するGDAのウェブサイトを新たに立上げ、設計に関する詳細情報とパブリックコメントのプロセスを公開している。パブリックコメントのプロセスでは、誰でも同炉型に関するコメントや質問を提出して回答を得ることができる。規制当局はこれらの質問と回答を確認し、必要に応じて、残りのGDAプロセスにおいて評価に役立てることとしている。GEH社は2022年12月、現在のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)の前身であるビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に、BWRX-300を対象とした2ステップのGDA申請書を提出した。BEIS/DESNZは規制当局の審査に先立ち、GEH社が提出したGDA申請書を事前に精査し、BWRX-300がGDA開始前の評価基準をクリアしていることを確認。これを受け、2024年1月、ONR、EA、NRWがGDAのステップ1を開始した。同月、GEH社はDESNZの「未来の原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund:FNEF)」からBWRX-300の設計開発を支援する補助金を獲得。補助金はGDA申請やSMRの商業展開にむけた準備活動に充てられる。これとは別にGEH社は、原子力発電所の新設計画を牽引する新しい政府機関「大英原子力(Great British Nuclear:GBN)」が実施するSMR支援対象選定コンペに参加しており、最終選考に残った4社のうちの1社である。
17 Dec 2024
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スウェーデンで小型モジュール炉(SMR)の建設を計画するシャーンフル・ネキスト(KNXT)社は、12月5日に韓国・ソウルで開催されたスウェーデン・韓国戦略産業サミットにおいて、韓国の建設大手のサムスンC&T社(サムスン物産)と協力覚書(MOU)を締結した。KNXT社はこのパートナーシップを、脱炭素エネルギー源の拡大を目的に、スウェーデン南部で実施する小型モジュール炉(SMR)開発を加速・強化する「Re:Firm South SMR」プログラムの一環に位置づけている。韓国のサムスンC&T社は、アラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原子力発電所の建設プロジェクトに参画。また、2023年6月にルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカ(SNN)と同国南部ドゥンボビツァ県のドイチェシュテイ(Doicesti)におけるSMR建設を目指して、建設プロジェクトの基本設計(Front-End Engineering Design:FEED)に共同参画している。KNXT社は、サムスンC&T社の最新の建設工法や設計、ライセンス、資金調達に関するノウハウを自社プロジェクトへ活用させたい考えだ。KNXT社は、スウェーデン南東部のバルデマーシュビークとニュヒェーピングの両自治体を建設候補地として予備的な実行可能性調査(FS)を実施している。両社は、今回のMOU締結により、炉型選定、環境影響評価など、SMR発電所建設へ向けた作業に直ちに着手する予定だ。スウェーデンは脱原子力政策を撤回し、大規模な原子力発電開発に向けて大きく舵を切っている。2022年の総選挙によって誕生した中道右派連合の現政権は、40年ぶりに原子力を全面的に推進しており、2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップを発表。同ロードマップには、2035年までに少なくとも大型炉2基分、さらに2045年までに大型炉10基分を新設することなどが盛り込まれている。最近では、米国のMicrosoft社やAmazon社などの大手IT企業がスウェーデンにデータセンターを増設するという計画を発表。スウェーデン政府はSMRをはじめとする原子力発電所を建設し、データセンターに必要な電力供給を計画している。KNXT社とサムスンC&T社はこの機を捉え、2032年までにSMR発電所を建設、電力購入契約(PPA)を通じて、信頼性の高いクリーンな電力をデータセンターなどのエネルギー集約型施設に直接供給する事業モデルを検討している。今後も多数の発電所を建設し、同時にデータセンターの持続的な誘致を構想する。サムスンC&T社は今回のスウェーデン市場での協業を通じて、欧州市場でのSMR事業の一層の拡大をねらっている。
17 Dec 2024
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スイスの電力会社であるAxpo社は12月5日、同社が所有・運転するベツナウ原子力発電所1、2号機(PWR、各38万kWe)をそれぞれ2033年、2032年まで運転する方針を明らかにした。運転期間は60年を超えるが、それ以降の運転延長はせずに閉鎖する予定。ベツナウ発電所はスイス最古の原子力発電所。1号機は1969年、2号機は1972年にそれぞれ営業運転を開始した。年間60億kWhを発電し、地域暖房向けの熱供給も行っている。Axpo社はこれまで、ベツナウ発電所の運転開始以降、バックフィットに25億スイスフラン(約4,315億円)以上を投資してきたが、今後の運転継続のために3.5億スイスフラン(約604億円)を投じる計画だ。Axpo社は本決定をするにあたり、当初の予定を上回る60年間の運転が可能かどうか、主要コンポーネント(原子炉圧力容器など)の健全性や、人材、サプライヤー、燃料の確保など、包括的な調査を実施。外部の専門家やサプライヤーにも相談し、スイス連邦原子力安全検査局(ENSI)とも協議した。なお、スイスの原子力発電所には運転期間の制限はなく、安全性が保証されることを条件に運転者は発電所の運転期間について自由に決定できるが、規制活動の枠組みの中で常に検討されている。ENSIが全体的な安全性評価のために定期安全レビュー(PSR)を10年ごとに実施。40年間の運転後には長期運転のための安全評価も実施する。次のPSRは、2027年末までにベツナウ発電所がENSIに提出する必要がある。スイスでは、ベツナウ発電所の2基のほか、2サイト(ゲスゲン、ライプシュタット)と合わせて、計4基が運転中。1基(ミューレベルク)が廃止措置を実施している。スイスの総発電電力量の約3割を原子力発電が、約6割を水力発電が占める。
16 Dec 2024
567
原子力発電所の廃止措置や環境復旧サービスを手掛ける米国のエナジー・ソリューションズ社は12月4日、カナダのテレストリアル・エナジー社と協力覚書(MOU)を締結。テレストリアル社が開発する小型モジュール炉(SMR)の一体型熔融塩炉(IMSR)を、エナジー・ソリューションズ社サイトに建設することを目指す。今回のMOUにより、両社はIMSRの早期配備に向けて、エナジー・ソリューションズ社が廃炉プロセスで取得した旧原子力発電所サイトを共同で評価し、最適なサイトを選択する。エナジー・ソリューションズ社が電力事業者のドミニオン・エナジー社から取得し、廃炉作業を実施中のキウォーニ1号機(PWR、59万kWe、2013年閉鎖)などのサイトを、将来の新たな原子力発電所の建設候補地として、活用できないか検討する。エナジー・ソリューションズ社のK. ロバックCEOは、「生成AI(人工知能)の運用を支えるデータセンターや、戦略的目標の達成のために分散型クリーンエネルギーソリューションを求める産業などの成長により、クリーンで安定した電力需要が急速に増加している。テレストリアル社のIMSRプラントは、先進炉であり、高まる電力需要に応える高性能な供給ソリューションとして注目を集めている」との認識を示した。テレストリアル社のS. アイリッシュCEOは、「エナジー・ソリューションズ社にはIMSRの立地選定と展開に必要となる規制手続きを支援する豊富な経験とノウハウがある。エナジー・ソリューションズ社の他、100万kW規模のクリーンで安定した電力と熱供給の長期契約に関心のある他プロジェクト関係者、および州や連邦政府とのパートナーシップを築いていきたい」とし、協力の進展への期待を述べた。テレストリアル社のIMSRは、熱出力40万kW、電気出力19.5万kWの熔融塩炉。低コストでクリーンかつ信頼性の高い電力と産業用熱を生産する。他の先進炉設計の多くがHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を装荷するのに対し、IMSRは濃縮度5%以下の標準タイプの低濃縮ウランを使用する。化学、石油およびガス、石油化学、データセンター、およびその他のエネルギー集約型の産業を支える分散型エネルギー源として期待されている。またIMSRは、米原子力規制委員会(NRC)と加原子力安全委員会(CNSC)による、非軽水炉型原子炉の初の共同技術審査対象炉でもあり、2030年代初めの運転開始を目指している。
16 Dec 2024
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セルビア共和国の議会は11月27日、エネルギー安全保障の確保に向けて、エネルギー法改正法案を採択した。これにより、旧ユーゴスラビア時代の1989年、チョルノービリ事故から3年後に施行された原子力発電所建設のモラトリアムが、35年ぶりに解除された。原子力利用については、今年3月にベルギー・ブリュッセルで開催された原子力エネルギー・サミットを契機にセルビア国内で議論が高まった。同サミットには、セルビアのA. ブチッチ大統領が出席。同大統領はサミット到着時に、「セルビアが過去に下した決定がどれほど誤っていたか、将来にどれほどの電力不足に直面するのかは明らか。原子力なしでは、セルビアは科学技術の進歩や電気自動車の普及に遅れをとることになる」「セルビアは、脱炭素化、エネルギー安全保障の確保、経済発展の促進に貢献する原子力の役割を認識し、これらの課題に体系的に取組む用意のある信頼できるパートナーだ」と記者団に語った。各国首脳による演説時には、小型モジュール炉(SMR)×4基、出力計120万kWeの導入への関心を表明し、「セルビアには原子力利用に関するノウハウもなく、プロジェクトを実施する資金力も不足している」として、他国からの支援を期待した。今年7月にはセルビアの5つの省庁と20の科学・学術機関や研究所との間で、原子力発電の開発に関する覚書が調印された。調印式に出席したM. ブチェビッチ首相は「これは、1980年代に国家が、原子力発電を禁止した過ちを正すもの。電力分野への投資は戦略的なものであり、国の主権に係ることに疑いの余地はない」と指摘した。D. ハンダノヴィッチ鉱業・エネルギー相は、今回の改正法案の採択後、自身のソーシャルメディアで「原子力発電所の建設のモラトリアムが35年ぶりに解除された。今日、新たな歴史が作られた」と発信。併せて、エネルギーセキュリティの確保とエネルギー部門および国家経済全体の脱炭素化の促進を目的とする、2050年までの予測を含む2040年までのセルビアのエネルギー開発戦略の採択を発表した。セルビアの総発電電力量の約60%は石炭・褐炭火力に依存し、大気汚染による環境・健康問題が深刻化している。同戦略では、石炭・褐炭火力を代替する再生可能エネルギーの発電能力を強化、あらゆる分野でエネルギー効率の向上をはかるとともに、送配電ネットワークのさらなる開発と改善、石油とガス供給の多様化、水素利用の拡大等への大規模な投資を構想。2040年以降に原子力を導入できないか検討している。
13 Dec 2024
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英EDFエナジー社は12月4日、同社が所有する4サイトで運転中の、8基の改良型ガス冷却炉(AGR)すべてを運転期間延長させることを明らかにした。原子力がクリーンエネルギーかつ極めて重要な安定した電源であり、エネルギー安全保障の強化と、ガス輸入への依存度ならびに温室効果ガスの低減に不可欠との考えによる。延長期間はそれぞれ、ヘイシャムB-1、-2号機(各68万kWe、1989年営業運転開始)と、トーネス1、2号機(各68.2万kWe、1989年営業運転開始)が2030年3月までの2年間、ヘイシャムA-1、-2号機(各62.5万kWe、1986年営業運転開始)とハートルプール1、2号機(各65.5万kWe、1986年営業運転開始)は2027年3月までの1年間。当初、ヘイシャムBとトーネスの各発電所は、2021年のレビューに基づき、2028年3月に、ヘイシャムAとハートルプールの各発電所は、2023年のレビューに基づき、2026年3月にそれぞれ閉鎖される予定だった。今回の運転期間延長は、前日12月3日に開催されたEDFエナジー社の役員会、取締役会、株主総会における決定によるもの。ただし、運転期間は予測であり、最終的には、原子力規制庁(ONR)が判断する。AGRは、マグノックス炉と呼ばれる旧式なガス冷却炉(GCR)の改良型。EDFエナジー社は2009年、GCR以外の英国内すべての原子力発電所をブリティッシュ・エナジー社から取得。AGRはいずれも2023年初頭までに閉鎖する予定だった。EDFエナジー社は今後、上述のAGR4サイトにサイズウェルB(PWR×1基、125万kWe、1995年営業運転開始)を加えた5サイトを対象に、13億ポンド(約2,600億円)を投資するという。なお、運転期間延長は、各発電所における3,000人以上の雇用維持の他、サプライチェーンに属する数百の企業を支援するものとなる。さらに、既存の原子力発電所をより長く稼働させることは、英国が原子力部門の人材の再構築を目指す中、重要となる貴重なスキルの維持に繋がる。また、今回の運転期間延長による総発電電力量は450億kWhで、これは輸入されるガス約93億㎥に相当し、英国の2023年のLNG輸入量の20%以上にあたる。なお、今回の運転期間延長の決定は、英国の独立系エネルギーシステム運営者であるNESOがエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)の委託により、今年11月上旬に発表した分析「Clean Power 2030」を受けたもの。分析では、英政府の2030年までのクリーンエネルギー目標を達成する上でAGRの運転期間延長が重要であると概説している。2030年以降まで仮に、現在建設中のヒンクリー・ポイントC(PWR=EPR-1750×2基、各172万kWe)が稼働を開始していなくとも、小型モジュール炉(SMR)のような新世代炉が稼働を開始し、廃止される原子力発電所の容量を補い、経済の電化に伴う需要の増加に対応すると見込んでいる。
12 Dec 2024
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米国のエネルギーコンサルタント会社であるラディアント・エナジー・グループ社は12月4日、「ドイツの原子炉運転再開:実現可能性とスケジュール」と題するレポートを発表。ドイツで閉鎖済みの原子炉のうち、2028年までに3基、2032年までに9基が、技術的にも経済的にも運転再開が可能と結論。その上で、国民の3分の2がそれを望んでおり、必要なのは政治的な意志だけだ、とし、緊急性の高い2つの措置として、最近閉鎖した原子炉の廃炉作業を直ちに停止すること、ならびに運転再開を可能にする原子力法の改正を提言した。同社は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻直後からレポートの作成に着手。海外での閉鎖炉の運転再開の動きを踏まえ、ドイツの閉鎖炉の状況を再評価した。評価にあたっては、海外の原子炉の改修や建設工事の状況と比較しながら、運転再開にかかるコストと時間を分析している。ドイツでは、最後まで稼働した3基が2023年4月15日に閉鎖され、現在31基すべてで廃炉作業が実施されている。従来、ドイツは電力の純輸出国であったが、全原子炉が閉鎖された2023年には90億kWhの電力輸入を行い、2024年11月末の時点では、年間の電力輸入量がおよそ3倍の250億kWhまで増加。輸入電力の約半分は、皮肉なことに原子力が電力供給の相当部分を占めるフランス、スイス、ベルギーから供給されている。ドイツの電力ミックスは変動が激しい上に、依然としてCO2排出量が多く、産業界やIT企業が新たに求める低排出量のベースロード電力とは真逆の状況だ。また、ドイツのGDPは、2023年、2024年と連続で落ち込み、エネルギー消費量や太陽光や風力による発電電力量も減少している。ドイツの商工会議所が2024年に実施した約3,300社を対象とした調査では、37%の企業が生産削減またはドイツ国外への移転を検討している。エネルギー集約型企業ではその数値はさらに高く、45%が生産削減または事業移転を検討しており、産業の空洞化によるドイツ経済のさらなる悪化が懸念されている。即時に廃炉作業を停止し、スタッフを集めることができれば、ブロックドルフ(PWR、148万kWe、2021年閉鎖)を早ければ2025年末に、迅速な立法措置と適切な計画により、エムスラント(PWR、140.6万kWe、2023年閉鎖)とグローンデ(PWR、143万kWe、2021年閉鎖)を2028年末までに運転再開させ、さらに6基の原子炉を2032年末までにすべて運転再開させる可能性があると強調。法的なハードルは存在するが、対処は可能としている。なお、原子力発電所の運転再開を促す背景やメリットとして、ラディアント社は、以下を指摘している。クリーンなベースロード電源の必要性、生成AI(人工知能)や輸送の電化、エネルギー集約産業による電力需要の増大。特に、AI部門の電力需要は2022年から2026年の間に倍増を予想。米国の大手電力会社コンステレーション社は2019年に閉鎖したスリーマイル・アイランド1号機(TMI-1)を2028年をメドに運転再開させ、Microsoft社のデータセンターに電力を供給する、20年間の売電契約(110〜115ドル(約16,700円~17,460円)/MWh、約160億ドル(約2.4兆円))を締結した。脱炭素化と経済性を考慮し、廃炉作業が進行していても技術的障壁のない閉鎖炉を運転再開させるという政策と気運の高まり。ドイツ国民の3分の2が原子力発電の継続利用を支持していること。ラディアント社の「クリーンエネルギーに対する多国間世論調査」調査によると、ドイツ国民の67%が国内での原子力発電の利用を支持し、そのうち、42%が原子力発電所の新規建設を支持。新設への支持率は、原子炉の運転期間延長や新規建設が進められている英国やカナダなどと同程度。一方、原子力発電の段階的廃止と全面的禁止を支持しているのはわずか23%にすぎない。ドイツの閉鎖炉を運転再開させ、20年間運転することで1,000億ユーロ(約16兆円)の税収増を想定。生成AIとハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)の成長に伴う大規模なデータセンター稼働による電力需要を、100ユーロ(約1.6万円)/MWhの電力価格で迅速に充足。ドイツの閉鎖炉の運転再開による、ドイツや近隣諸国のエネルギー生産に伴うCO2排出量の削減。発電所が立地する農村地域における約5,000人の高レベル雇用の維持。原子力導入・拡大国の増加により、かつて最先端だったドイツの原子力技術産業が活性化する。本レポートでは、ドイツの閉鎖炉の現状を運転再開までの推定時間と費用に基づき4つのカテゴリーに分類。クラス1(重要な廃炉作業は未実施。発電所にはメンテナンス、小規模な修理または交換、スタッフの再雇用、核燃料購入が必要)の閉鎖炉は早ければ2028年までに運転再開が可能。そのコストは10億ユーロ(約1,600億円)を下回ると予想する。クラス2(重要な廃炉作業を実施。タービンと原子力蒸気供給システムの一部が解体。原子炉圧力容器、蒸気発生器、燃料取扱システムなどの主要コンポーネントの多くは無傷、損失部品は交換要)の閉鎖炉の運転再開には各10億~30億ユーロ(約1,600~4,800億円)が必要で、2032年までにすべて運転再開が可能としている。クラス3は、既存の部品やインフラ回収により、新規建設に比べてコストと時間を節約でき、クラス4は、新規建設を支援するインフラがまだ残存する状況と定義する。歴史的に、ドイツの原子力発電コストは16.9~17.9ユーロ(約2,700~2,860円)/MWhの範囲。インフレ、燃料、サービスのコスト上昇により、コストは22~30ユーロ(約3,520~4,800円)/MWhの範囲になると試算されるが、大手IT企業のような大企業が長期電力購入契約を厭わない状況を考えると、ドイツの原子炉をできるだけ早く運転再開させることは経済的に理に適うと結論している。またラディアント社は、熟練労働者の再雇用と訓練は、運転再開にあたり、政治的障壁に次いで2番目に大きな課題であると指摘。原子力発電の段階的廃止により、ドイツの原子力産業の労働力は時間の経過とともに減少。運転再開の実現には、スタッフの再雇用や新規雇用、再訓練によって必要人員を完全に回復させるとともに、閉鎖炉の改修と復旧作業にも追加の技術者が必要となる。一方で、原子力産業の仕事は高給で安定、地元に根ざしている他、原子力発電に対する国民の支持の高まりにつれてドイツの雇用市場では魅力的なものになるとの見方を示した。同社は、ドイツ国内の原子力サプライチェーンは大幅に縮小しているが、完全に消滅したわけではないと認識。中核的な知識と製造能力を維持し、世界中の原子力発電所に不可欠な部品を製造し続けており、サプライチェーンの再構築も可能との考えだ。原子炉の代替部品が国内で入手できない場合は、国際市場で調達可能だとしている。また、燃料は標準的な燃料発注スケジュールに従っても、燃料の入手可能性が運転再開の準備を制限する懸念もないという。なお、閉鎖炉の運転再開に向けて改修作業を進めるにあたり、連邦議会による法改正が必要となる。それまでの間、ドイツ政府は速やかに原子力発電所の廃炉作業を停止させ、各原子炉はどの部品が再利用可能か、修理が必要か、あるいは完全に交換必要があるかなどを、慎重に評価するべきだとしている。原子力発電所の新規建設には多額の費用と完成までの時間もかかる。一方、閉鎖炉の運転再開は送電網を含む既存インフラを利用し、信頼性が高く、クリーンエネルギーへの高まる需要に迅速な対応が可能だ。ラディアント社は運転再開は費用対効果が高く、経済的に競争力を持つとの視点に立ち、ドイツの閉鎖炉に乗り越えられない障害はなく、実行可能かつ現実的であると訴えている。
11 Dec 2024
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英国の先進炉開発企業であるニュークレオ社は12月2日、同社が開発した電気出力20万kWの鉛冷却高速炉(LFR)である「LFR-AS-200」について、英国の包括的設計審査(GDA)を申請したことを明らかにした。GDAのプロセスが正式に開始されるには、英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)がニュークレオ社のGDA申請書を事前に精査し、LFR-AS-200の評価基準適合を確認後、GDAへの参加を正式に承認する必要がある。その後、原子力規制庁(ONR)が同炉の安全性とセキュリティ面について、環境庁(EA)が環境影響面について、英国の基準を満たしているかを2段階で評価する。なお、建設サイト特定後の建設許可申請とは別の評価となる。ニュークレオ社は、GDAの完了を2027年春頃と見込んでいる。今年10月には、ニュークレオ社の「European LFR AS Project」が、欧州委員会(EC)が2月に立ち上げた「欧州SMR産業アライアンス(European Industrial Alliance on SMRs)」の初回支援対象のSMRプロジェクトの一つとして選ばれている。ニュークレオ社は2021年の設立。これまでに、投資家から計5億3,700万ユーロ(約857億円)を調達しており既に仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)とLFR開発に関する提携契約を今年4月に締結している。2030年までに電気出力3万kWの実証炉「LFR-AS-30」をフランスで建設し、2033年までに英国で商業規模に拡大したLFR-AS-200の建設をめざしている。
10 Dec 2024
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フィンランドの放射線・原子力安全庁(STUK)は12月4日、放射性廃棄物管理会社ポシバ社による世界初の使用済み燃料の深地層処分場の操業許可申請の審査完了が1年遅れると発表した。STUKは遅延の原因を、ポシバ社の提出資料に不足があるためだとしており、雇用経済省はSTUKによる意見書の提出期限を2025年12月末まで延長した。操業許可の最終的な判断は政府が下すが、事前にSTUKが処分場の長期的な安全性評価を実施し、雇用経済相に見解を提示しなければならない。ポシバ社は2021年12月、オルキルオト原子力発電所近隣のユーラヨキに現在建設中の使用済み燃料封入プラントと使用済み燃料最終処分場を2024年3月から2070年末まで操業するための許可を雇用経済省に申請、STUKは2022年5月に評価作業を開始した。雇用経済省はSTUKに対し、2023年末までに見解を提出するよう求めていたが、2024年1月、STUKは意見書の期限を2024年末まで延長するよう要請していた。なお、ポシバ社は2024年8月末より、数か月の予定で最終処分場の安全性確認のための試験操業を開始している。
09 Dec 2024
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スウェーデン放射線安全機関(SSM)は11月29日、低中レベル廃棄物処分場(SFR)の拡張工事を認可した。スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)が申請していたもので、同処分場はフォルスマルクに立地している。SKBは、スウェーデンの原子力発電所を所有・運転する電力会社が共同出資して設立した会社。SFRはSKBの最終処分システムの一部であり、既存の貯蔵施設にはスウェーデンの原子力発電所から発生する短寿命の低中レベル廃棄物のほか、医療、産業、研究分野から発生する放射性廃棄物が処分されている。将来的には、原子力発電所の廃炉に伴う廃棄物を処分するため、SKBは2014年末にSFRの拡張申請を提出。2021年12月に政府によって承認されていた。SKBは2022年12月には、国土環境裁判所から拡張工事の環境認可を受け、地上での作業を開始。今回の許可は、2023年3月のSSMへの、予備的安全評価、システム説明、廃止措置計画を含む、拡張したSFRの建設・操業に関する申請書の提出を受けたもの。早ければこの12月中旬に掘削作業を開始する。なお、SFRの拡張部分の操業開始にあたっては、新たに安全分析報告書をSSMに提出し、承認を得なければならない。1988年に稼働を開始した既存の処分施設は、フォルスマルク原子力発電所の沖合3km、水深約5mの海底から約60mの岩盤内に設置され、処分容量は6.3万㎥。毎年、10~20㎥の廃棄物を受入れている。拡張施設は、海底から120〜160mの深さに設置。ドーム状の6エリアから構成され、処分容量は11.7万㎥。SFRの処分容量は既存と拡張施設を合わせて18万㎥となる。拡張工事は、掘削に3年、設置に3年の合計約6年を見込む。SKBは長寿命の低中レベル放射性廃棄物の最終処分場SFLの建設も計画しているが、他のプロジェクトほど進んでいないという。
09 Dec 2024
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カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は11月28日、同国の使用済み燃料を処分する深地層処分場の建設地をオンタリオ州北西部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)–イグナス地域に決定したと発表した。カナダでは、原子力発電所の使用済み燃料を再処理せずに深地層処分する方針であり、2002年に設立された NWMOが、カナダの中・高レベル放射性廃棄物の安全かつ長期的管理を任務とし、2010年から使用済み燃料の深地層処分場のサイト選定プロセスを開始した。当初、22自治体が処分場の受入れに関心を表明し、NWMOは集中的な技術研究を重ね、これら自治体の他、候補地がその領土内に位置する先住民族との関与を深め、徐々に候補地を絞っていった。2020年までに、オンタリオ州北西部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)–イグナス地域と、同州南西部のソーギン・オジブウェイ・ネーション(SON)–サウスブルース地域の2地点が候補地に残った。NWMOは今年11月中旬、先住民族であるWLONがイグナス地域の西およそ48kmのレヴェル湖エリアに処分場の誘致意思を示したと発表。イグナスの議会は今年7月、住民投票の結果、処分場の誘致に前向きであることを決定していた。一方、サウスブルース自治体は今年10月、住民投票の結果、僅差で処分場誘致を支持したが、SONは2025年まで決定を下さないとしていた。サイト決定を発表したNWMOのL. スワミCEOは、「本プロジェクトはカナダの環境問題を解決し、気候目標を支援するもの。カナダ人と先住民が主導し、同意に基づく立地プロセスで推進された。これが歴史を作るということだ」とその意義を強調した。カナダのJ. ウィルキンソン・エネルギー・天然資源相は、「WLON–イグナスの各コミュニティとサイト選定プロセスに関わった、多くのコミュニティのリーダーシップと積極的な関与に深く感謝し、NWMOの長年にわたる努力を称賛する」と述べた。オンタリオ州のS. レッチェ・エネルギー・電化相は、「オンタリオ州は、原子力のライフサイクルのあらゆる分野で世界のリーダーとしての地位を固めつつある。NWMOによるこの成果は、その最新の例だ」とサイト決定を称えた。サイト決定を受け、今後は規制評価段階に入る。処分場の建設には、カナダ原子力安全委員会(CNSC)による建設許可とカナダ環境影響評価庁(IAAC)による環境影響評価が必要。CNSCはNWMOに規制上のガイダンスを提供するとともに、地層処分場のコンセプトに関するプロジェクト前の設計レビューを実施したという。NWMOはまた、先住民も参加した規制の評価と承認プロセスにも同意しており、このプロセスはWLONによって開発・実施される。NWMOは処分場の建設許可が2033年までに発給されると見込む。その後の建設期間を経て、2040~2045年に操業を開始したい考えだ。サイトとなるレヴェル湖エリアの結晶質岩層の特性にもよるが、処分場は地下約500m、面積約6㎢に建設される予定であるという。
06 Dec 2024
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「Facebook」を運営し、「Instagram」や「WhatsApp」などを傘下に収める米IT大手のメタ・プラットフォームズ社(Meta)は12月3日、2030年代前半に原子力発電から電力調達することを目指し、来年2月7日まで事業提案を募る、提案依頼書(Request for Proposals:RFP)を発行すると発表した。生成AI(人工知能)によるデータセンターの電力需要急増に対応するとともに、脱炭素化を達成することを目指している。メタ社は2030年代前半に、合計出力100万~400万kWeの小型モジュール炉(SMR)、または大型炉の稼働開始を検討している。複数基の展開により大幅なコスト削減を実現し、地域社会への関与、開発、設計、エンジニアリング、許認可、資金調達、建設、運転に関する知見や能力を有する事業者からの提案を歓迎するとしている。メタ社は同発表に際し、「原子力発電は、データセンターとその周辺コミュニティの両方に電力を供給する安定したベースロード電源。クリーンで、信頼性が高く、エネルギー移行の中で極めて重要な役割を果たすと確信している」との認識を示した。同社は、原子力プロジェクトは資本集約的であり、開発には長期間を要すること、多くの規制要件の対象となり、長い運転期間が見込まれるため、原子力プロジェクトの開発ライフサイクルのより早い段階で関与する必要性を指摘。同型プラントのシリーズ建設こそが、コストを迅速に削減する最大の要因と捉え、選定されたパートナーと戦略的に取り組むとの考えを示している。近年、IT企業大手の間では、原子力発電を活用する動きが急速に拡大している。その背景には、より複雑かつ推測力の高い処理を必要とする大規模言語モデルを基盤技術とする、生成AIの進化がある。これに伴い、データセンター利用の増加ならびに電力需要の指数関数的な増加が予想されている。IT企業各社は、環境への取組みとしてカーボンニュートラル(CN)の達成を目標に掲げ、投資を続ける太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーの最大限活用をアピールするが、いずれも自然環境の影響を受けやすく、AIの台頭によってCNの目標達成は難しくなっているのが現状だ。そのため、安価で安定した電力供給が可能な、原子力発電への期待が高まっている。なおこれまでに、米国のMicrosoft社、Amazon社、Google社が、原子力発電からの電力調達計画を明らかにしている。・Microsoft社2024年9月、大手電力会社のコンステレーション・エナジー社と閉鎖済みのスリーマイル・アイランド(TMI)1号機(PWR、89万kWe)を2028年をメドに再稼働させ、Microsoft社のデータセンターに電力を供給する、20年間の売電契約の締結を発表。・Amazon社2024年3月、傘下のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)社が、ペンシルベニア州にあるサスケハナ原子力発電所(BWR、133.0万kW×2基)に隣接するデータセンターを買収。同年10月には、先進炉開発企業X-エナジー社に、同社製SMRを2039年までに合計500万kWe以上稼働させるべく、約5億ドル(約750億円)の出資を発表。・Google社2024年10月、米原子力新興企業のケイロス・パワー社と同社が開発する先進炉を複数基、合計最大50万kWeを2035年までに導入し、Google社のデータセンターに電力を供給する、電力購入契約(PPA)を締結。
05 Dec 2024
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SMRなどの革新的な原子炉の導入に向け、各国が協力体制を構築している。このほど米国はリトアニアと政府間協定を、英国はフィンランドと協力覚書を締結した。米エネルギー省(DOE)のJ. グランホルム長官とリトアニアのD. クレイビス・エネルギー相は11月26日、米国のワシントンで、リトアニアの民生用原子力発電プログラムの開発に協力する政府間協定を締結した。同協定は、特に第4世代小型モジュール炉(SMR)のリトアニアへの導入に焦点を当てた、米国初となる政府間枠組み。米国は、リトアニアと次世代炉開発における知見を共有するとともに、第4世代のSMRのビジネスモデル分析と開発可能性評価を実施し、リトアニアが掲げる2050年までのネットゼロ達成目標を支援する。リトアニアは、2025年2月に同国を含むバルト三国がロシアの電力網から完全に切り離され、欧州の電力網に接続する予定で、欧州域内でエネルギー輸出国としてシェアを拡げたい考えだ。協定ではSMR導入に係る協力に加えて、リトアニアにおける最高水準の安全とセキュリティの促進や民生用原子力施設の核物質防護・セキュリティの強化のほか、廃止措置、燃料管理、人材育成に係るベストプラクティスなどを協議する専門家交流も想定している。グランホルム長官は「安全、クリーンで信頼性の高い原子力エネルギーは、リトアニアのエネルギー政策上のカナメとなる」と強調。クレイビス・エネルギー相は、「リトアニアの増大するエネルギー需要を満たし、ネットゼロ目標の達成のため、米国の次世代炉開発の知見に期待している」と述べるとともに、リトアニアの地政学的な安全保障、長期的な経済成長、技術力向上にも資する、本協定の意義を強調した。リトアニアでは、イグナリナ原子力発電所(軽水冷却黒鉛減速炉:RBMK-1500×2基、各150万kWe)が1980年代から稼働していたが、欧州連合(EU)は、チョルノービリと同型であるRBMK炉の安全性への懸念から閉鎖を要求、リトアニアはEU加盟と引き換えに同発電所を2009年までに閉鎖した。イグナリナ原子力発電所近傍のヴィサギナスに日立製作所が主導する新規原子力発電所プロジェクトも浮上したが、福島第一原子力発電所の事故により、原子力発電に対する国民の支持は低下。2012年の同プロジェクトへの支持を問う国民投票では、新規建設に対する否定的な意見が優勢となり、計画は2016年に凍結された。リトアニアの総発電電力量は約57億kWh(2023年実績)で、その内、約73%を再生可能エネルギー(風力、太陽光、水力)、約11%を火力発電(天然ガス)が占める。現在の電力消費量は約120億kWh。エネルギー部門の脱炭素化と電化には大量の追加電源が必要であり、2050年代には約6倍の740億kWhへの増大を予想する。そのため、エネルギーシステム全体の均衡を保ち、再生可能エネルギーへより多く投資することを可能にするSMRの導入を推進したいとし、2028年にはSMR建設の決定を目指している。 英国はフィンランドと一方、英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)とフィンランド経済雇用省は11月18日、民生用原子力エネルギー分野における協力覚書(MOU)を締結した。協力の対象分野は、SMRや先進モジュール炉(AMR)のような革新技術の導入、既存・新設炉を対象とした燃料供給の多様化、SMRやAMRの効率的な導入に係わる規制組織間の意見交換、資金調達、使用済み燃料最終処分を含む放射性廃棄物管理と廃炉、原子力安全とセキュリティ、人材育成など。これらの分野で知見やベストプラクティスを共有し、両国の産官学の政策・技術・学術関係者の交流や、民間企業間の緊密な協力によるビジネスの機会の促進を図る。両政府は、SMRやAMRなどの新原子力技術が、エネルギーセキュリティと気候変動の双方に革新的な解決策となる可能性を認識。発電だけでなく、熱生産および水素製造、その他の非電力用途の原子力技術の研究開発でさらに協力する機会を模索したいとしている。今回のMOUにより、英国の輸出信用機関である英国輸出信用保証局(UKEF)は、英国の商品やサービスを購入するフィンランドを拠点とするプロジェクトに対し、最大40億ポンド(約7,600億円)の融資支援が可能となる。UKEFは、英国製SMRのフィンランドへの導入を念頭に置いている。フィンランドの輸出信用機関であるフィンベラ(Finnvera)も、フィンランドの商品やサービスを購入する英国を拠点とするプロジェクトに対して同様に資金提供が可能になるという。
04 Dec 2024
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英国の原子力廃止措置機関(NDA)は11月25日、イングランド北西端のカンブリア州にあるセラフィールド原子力施設の近隣に、専門のサイバーセンターを開設した。原子力事業者とサプライチェーン間の連携を加速することを目的に、AI(人工知能)やロボティクス(ロボット工学)などの革新的な技術を採用し、サイバーテロなどの脅威からの防御能力を強化する。NDAは、英国内の原子力施設の廃止措置ならびにサイトのクリーンアップ、使用済み燃料や放射性廃棄物の安全管理などを担当する政府外公共機関(NDPB)。セラフィールド社を筆頭に、廃止措置、廃棄物管理、核物質輸送などの分野に特化した傘下の4社がある。英政府は現在、サイバー脅威レベルの増大に対応して、国家インフラのサイバーセキュリティの態勢を整えている。サイバーセキュリティへの攻撃は、民生用原子力部門を含むすべての組織に共通する大規模な脅威であるとの共通認識の下、NDAはサイバーセキュリティセンター「Group Cyberspace Collaboration Centre(GCCC)」を開設。GCCCでは、サイバー、デジタル、エンジニアリング分野の専門家が集まり、進化するサイバーセキュリティの脅威から防御する最善策について知見を共有する。NDAグループの廃炉ミッションを支援するとともに、セキュリティ運用、サイバー演習、訓練を促進する新技術を検討するための多機能スペースだ。GCCCの開所にあたり、NDAのD. ピアッティCEOは、「GCCCは、サイバー空間における安全、セキュリティ、回復力、持続可能性の確保のために共同で能力強化を図り、サイバーセキュリティの脅威を一丸となって排除し、顧客を含めた集団安全保障に貢献する。セキュリティに関して決して満足することはなく、さらなる能力強化のために、NDAグループ全体のサイバー防衛へ継続的に投資していく」と語り、GCCCの活用により、NDAの廃炉ミッションを安全かつ確実に、コストを抑えて遂行したい考えを示した。開所式に参加した、英原子力規制庁(ONR)のW. カイン監督検査官は、「すべての原子力施設は、サイバー脅威から重要な情報と資産を保護するために、強力なサイバーセキュリティシステムを整備する必要がある。サイバーセキュリティは、ONRにとって重要な規制上の優先事項であり、GCCCによるサイバー防衛強化の取組みを歓迎する」と述べた。なお、セラフィールド社は、2019年~2023年の4年間のサイバーセキュリティー上の不備をONRに指摘され、今年10月に罰金を科されている。同社のITシステムが不正アクセスやデータ損失に対して脆弱であり、セキュリティ規則違反と認定されたもの。同社は、カンブリア州で広大な原子力施設を運営しており、旧原子力施設から発生した放射性廃棄物などの回収、プルトニウムやウランを含む特殊核物質の貯蔵、使用済み燃料の管理、サイト内の施設の解体処理などを実施している。
03 Dec 2024
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