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英国が新たな「CO2実質ゼロ化戦略」を策定

20 Oct 2021

©BEIS

英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は10月19日、英国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すにあたり、どのように方策を進めていくか包括的な計画をまとめた「ネットゼロ戦略」を公表した。原子力はこの中で重要な役割を担っており、小型モジュール炉(SMR)などを今後建設していくための投資として1億2,000万ポンド(約190億円)を含めている。

この戦略で英国政府は、クリーンエネルギーを主力とする持続可能な将来社会に向けて、2030年までに最大900億ポンド(約14.2兆円)の民間投資を活用する計画。消費者や企業がクリーンエネルギー社会に移行するのを後押しするとともに、関連産業で高サラリーが見込める雇用約44万人分の創出を支援する。また、輸入化石燃料に対する英国の依存度を下げる一方、持続可能なクリーンエネルギーの開発を促進して、世界的なエネルギー価格の急上昇から英国民を防護するとしている。

この戦略は、来週から英国グラスゴーで開催される第26回・国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP)に先立ち準備されたもので、同国のB.ジョンソン首相はこの席で、他の経済大国にも同様の計画を独自に策定することを求める方針。同戦略はまた、パリ協定に基づく英国の2つ目の長期的なCO2排出削減戦略として、「気候変動に関する国連枠組条約(UNFCCC)」にも提出される予定である。

BEISによると、今回の戦略は昨年11月にジョンソン首相が発表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」に基づき作成された。英国政府は今月7日、発電部門の全面的な脱炭素化を達成する目標スケジュールを15年前倒しし、2035年とするプランを発表。この目標スケジュールは、今回の戦略でも発電部門の主要政策として明記されており、BEISはこれを達成するため、2030年までに4,000万kWの洋上風力発電設備の建設を、陸上風力や太陽光の設備増設とともに進めるとした。

原子力に関しては「現政権の在任期間中に、少なくとも大型原子力発電所を1つの建設計画について確実に最終投資判断を下す」と明言した。実際にBEISは昨年12月、英国南東部のサフォーク州でサイズウェルC原子力発電所を建設する計画について、事業者のEDFエナジー社と正式に交渉を開始。最終投資判断の早急な確定に向けて、建設工事の資金調達費用を抑制可能になるよう規制資産ベース(RAB)の資金調達モデルを確立するとしている。

同戦略はまた、「将来の原子炉建設を可能にする基金」として、新たに1億2,000万ポンド(約190億円)を投入する方針を明記した。CO2排出量の実質ゼロ化に向けて、次の政権が後続の原子炉を建設していくための措置を講じたもの。ウェールズ北部のウィルファ・サイトや複数の有望な建設候補地を念頭に、将来的にSMRや先進的モジュール炉(AMR)など、最新技術の原子炉を建設する選択肢を維持することになる。同基金の運営方法など詳細については、費用対効果を考慮した建設ロードマップの詳細とともに、BEISが2022年に公表する計画である。

同戦略ではさらに、「先進的原子力基金」の3億8,500万ポンド(約610億円)の中から、SMR設計の開発を支援する。2030年代初頭にAMR実証炉を建設する計画も進行中だが、大型炉や小型炉のいずれにしても、英国内には利用可能なサイトが数多くあるとBEISは強調している。

(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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