英国政府、原子炉の新設を支援するRABモデルの導入で法案立案
27 Oct 2021
英国政府が建設に向けて昨年12月に交渉を開始したEDFエナジー社のサイズウェルC原子力発電所完成予想図。©EDF Energy
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は10月26日、国内で大型原子力発電所の新規建設を支援する資金調達の枠組として、「規制資産ベース(RAB)モデル」の導入を目指した「原子力資金調達法案」を立案したと発表した。
この法案が成立すれば、原子力発電所の建設プロジェクトに民間投資が幅広く集まることになり、海外のデベロッパーの資金調達に依存せずに済むとBEISは指摘。また、建設に必要な資金の調達コスト(借入利子)も削減されることから、従来の資金調達方法と比較して、プロジェクトの全期間中に少なくとも300億ポンド(約4兆7,000億円)以上の節約につながると予想される。これにともない、消費者の電気代も削減されると強調している。
英国では現在、フランス資本のEDFエナジー社が南西部サマセット州でヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)を建設中だが、開発リスクに対する英国政府の保証として発電電力の売買に「差金決済取引(CfD)」を適用することが決まっている。しかし、CfDではデベロッパーが建設資金を全面的に賄わねばならず、発電所の運転開始後に初めて資金の回収を開始できるため、カンブリア州やウェールズにおける後続の新設計画はキャンセルされた。
BEISの説明によると、RABモデルはすでに、ロンドンの下水道改善プロジェクトやヒースロー空港の第5ターミナル建設といった国内の大型インフラ開発に適用されており、「十分実証され確実な資金調達モデル」だという。具体的には、事業者が当該インフラ設備を提供する代わりに、経済規制当局の許可を受けて消費者から規定の価格を利用料金から徴収。投資家は設備の建設と操業にともなう(コストの超過や計画の遅れなどの)リスクを消費者と分け合うことになるため、資金の調達コストも大幅に軽減される。
大型原子力発電所を新規に建設する場合は、ガス・電力市場局「Ofgem」が担当の経済規制当局となる。建設工事の初期段階から、多くても年間数ポンドを英国の典型的な世帯の電気代に上乗せするが、BEISの試算では、本格的な工事期間中の負担は月額平均で1ポンド(約157円)以下になる。BEISはこのような建設工事期間中の負担金は、この段階から確実な利益率を約束するとともに、資金の調達コストを抑えることにつながると説明。プロジェクトの確実性という点で民間部門の投資家に安心感を与え、最終的には消費者の電気代も削減されると述べた。
BEISのK.クワルテング大臣は今回、「天然ガス価格の世界的な上昇という状況のなかで、英国は信頼性が高くて価格も手頃な原子力で、今後の電力供給を確保しなければならない」と述べた。既存のCfD方式では、数多くの海外デベロッパーが撤退するなど、英国の開発計画は何年も後退した。「大型原子力発電所の建設に英国内の年金基金や民間部門の投資家を呼び戻すため、英国には新たな資金調達アプローチが緊急に必要だ」と強調した。
同大臣によれば、原子力は化石燃料発電への依存度を下げるだけでなく、天然ガス価格の乱高下にも対応するなど、英国の将来の電源ミックスにおいて重要な役割を担う。国連経済社会理事会の欧州経済委員会(UNECE)や国際エネルギー機関(IEA)が指摘したように、今後数10年間に倍増が予想される世界の電力需要を満たし、英国が「2050年までのCO2排出量の実質ゼロ化」を達成するには、再生可能エネルギーのさらなる開発と並行して、新規の原子力発電所の建設が重要になると述べた。
(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)